「くっ!」
美雲さんを庇う様にして、燃え盛る大地を走る。
あのマクロス級は見境なくミサイルで村を焼き尽くし、果てには見たことのないVFまで発艦してくるときた。
通信を聞くに他のワルキューレやΔ小隊は無事らしく、それが唯一安心したポイントだ。
しかし、この歌。
無垢ながらも邪悪、全て闇に葬らんと響くこの歌声は未だ頭を揺らし続けている。
だが足を止めるわけにはいかない。
「やってくれる...!」とアンノウンに負けないように歌いはじめた美雲さんの声で足に力が入った。
だがその瞬間、誰かに深淵まで覗かれた様な感覚で心臓が高鳴った。
その瞳の主はマクロス級の中にいる歌い手だろう。
証拠はないが、確かな確信がある。
「レイン、クリームヒルトに乗れ!」
「了解!」
美雲さんをワルキューレに預け、ちょうど目の前に着陸したクリームヒルトの腕を駆け上がりキャノピーを開ける。
空を見上げれば敵機に苦戦する空中騎士団とボーグの姿があり、流石の赤騎士でも苦戦する様な敵の機動に思わず身震いした。
しかしやる事は変わらない。
手始めに空中騎士団を援護し、空を守るのだ。
「赤騎士、敵機7時方向!」
『言われ、なくとも!!』
たった1機のVFに最高戦力を2つも投入せざるを得ないという事実に歯を食いしばりながら、連携で敵VFを誘導する。
すでに布石であるドローンを3機投げつけた、回避方向はただの一つに絞られたはず。
こんな絶好のチャンス、ボーグが外すわけがない事は幾度となくやり合ってきたからこそ理解している。
まずは1機!
「━━はあ!? 嘘だろ!」
『何ぃ!?』
しかし、確実に当たるはずだったガンポッドの一撃はただ風を裂くのみ。
敵機は依然健在、擦りもしなかった。
まさに目にも止まらぬスピード、精密機械の如き絶妙な回避行動。
人類にあんな動きができるわけがない、そうなれば奴らは
それもケイオスや新統合軍なんかが使用しているリミッター付きの物なんかではなく、まるで数十年の昔地球のマクロスシティで暴れ回った、ゴーストX9の様なシロモノ。
追っても追っても追いつけないその速さは名の通り、ゴーストバードを思わせる。
当たったと思ってもすり抜けた様に視界から消える、まさに幽霊の鳥!
『シグル・バレンスの主砲を使う!
友軍機は直ちに射線上から退避せよ!』
気づけばシグル・バレンスが浮上し、その主砲をマクロス級へと向けているではないか。
敵としては恐ろしいというただ一言で表せるプロトカルチャーの遺産であるが、味方になればこれほどに嬉しいものもない。
遠く離れていても熱量を感じさせるビームが、爆煙をあげて敵艦へ直撃した。
これはひとたまりもないだろう。
しかし、煙が晴れてみれば、そこには未だ健在の敵艦。
傷がつくどころかいかにも余裕そうにその姿を人に変え、お返しと主砲にエネルギーが充填され始めた。
『━━皆の者、陛下をお守りしろ! 主砲を撃たせるなぁ!!』
ボーグの悲痛な叫びに呼応して敵艦へと攻勢をかけるが、それはまさに敵の思う壺。
アリジゴクに迷い込んだ虫たちの様に、ドラケンもジークフリードも黒いVFに絡め取られていく。
ザオのドラケンが落ちる姿が見えた。
強固な壁を突破することすらままならず、主砲はシグル・バレンスに負けず劣らずの熱量を持って発射される。
しかし、ウィンダミアに残されたプロトカルチャーの遺産はその程度で落ちる事はない。
風の歌と共に展開されたバリアが強烈な熱線をすんでのところで防いだのだ。
ハインツが助かったことに安堵するが、風の歌を歌うという事は彼がその命を削っているということ。
ならば俺たちもその覚悟と共に進まねばならない。
とどめを刺しにきたVFたちを、ハヤテ達と共に迎え撃つ。
しかし奴らの装備したトドメの刃は、俺を驚かせるに十分なもので。
「反応弾!? そんなものを大気圏内で使うつもりか!?」
奴ら、人道がないのか?
反応弾というのは、言うなれば次元兵器が出来るまでは戦術兵器として最強を誇っていたモノ。
その爆発は島一個吹き飛ばすことも可能であり、それが4発。
正気の沙汰ではない。
「クッソ!」
『こいつら、速え!!』
『追いつけない......!』
コンビネーションも動きも、敵の方が上。
逆転の一手になりうるワルキューレの歌によるブーストは敵艦から聞こえる歌に乱され、本領を発揮することができていない。
バルムンクを投げつけ、ガンポッドを1発2発当てたとて、奴らはファイター形態だというのにピンポイントバリアを展開して防御、強引に突破してくる。
抜かれるのは時間の問題であり、空中騎士団の精鋭たちもことごとく落とされていく。
カシムが、ヘルマンが。
まるで赤子を叩くかの様に。
ゴーストに恐怖はない。
だからこそ今行われてしまった様に、シグル・バレンスのバリアに特攻する様にして反応弾の起爆ができるのだ。
......Δ小隊の母艦であるアイテールに、マクロス・エリシオンに通信は繋がらず、ウィンダミア最後の砦でもあるシグル・バレンスは地に落ちた。
「ぐあっ!」
『がっ!』
となれば次なるターゲットはΔ小隊だろう。
右翼が撃ち抜かれ、爆炎をあげる。
ポタリと汗が膝に落ちて、無力を実感した。
流れ落ちるほどに全力でクリームヒルトを動かしている、動かしているのに、奴らに追いつくどころか決定打も与えられていない。
まだ、まだ、まだまだまだまだ、俺は弱い。
友達に飛んだ凶弾から庇うことすらできなかった。
歯を食いしばり、足掻く様に回避機動に集中していると空へまた大きなフォールドゲートが開いた。
『新手!?』
「━━いや、あれは......」
現れたのはエリシオンの同型艦、識別名マクロス・ギガシオン。
戦艦でありながら可変翼を搭載したその要塞はまるで糸を穴に通す様に山々をくぐり抜け、戦場を切り裂いた。
『マクロス・ギガシオンより各機へ。
我々は惑星ウィンダミアより離脱する、損傷の大きい者から着艦せよ。』
言うなれば、崖しかない背後にいきなり現れたVFの様に、颯爽と助け舟が現れたのだ。
ワルキューレもシャトルに収納され、ギガシオンの甲板へと向かう。
九死に一生、まずはボーグとチャックから着艦を━━
「危ない!!!」
『━━レイン!!』
刹那、遠距離からの光線がハヤテのジークフリードを襲った。
咄嗟にバトロイドへ変形して庇ったはいいが、ピンポイントバリアも貼れず、落下の最中に更なる追撃を受けてエンジンが破壊される。
落下する機体の中、変な焦りはなかった。
今この瞬間だけ、俺はこの戦場で無力ではなかったのだ。
守れたんならまあ良し。
落下の衝撃で頭を強打し、薄れゆく意識の中で空へ手を伸ばす。
伸ばした先には白基調に青が入ったVF-25のカスタム機。
彼がいるならば、みんな無事に脱出できるだろう。
『━━! ━━!』
何言ってるかわからない通信に、薄れゆく意識の中でたった一言だけを微笑んで返した。
「━━みんなを、お願い......」
「レイン! レイン!?」
何度呼びかけても、友からの返事は返ってくる事はない。
2度も庇われ、その助けがなければ死んでいたであろう自分に苛立ちながらも、頭だけは冷静に。
ラグナで、ウィンダミアで。
3度に渡り助けられた命を一時の熱に任せて投げ出すことなく、冷静に冷静に、周りを見る。
正面に2機のVFという絶望に加えてミラージュは被弾したシャトルを抱え、すでに着艦した。
ならばここを、隊長と俺の2人で乗り越えなくてはならない。
「━━くっそぉぉぉぉお!!!」
歌が止まって生まれた隙に2人で突っ込み、ようやく1機仕留めたが、もう1機は無常にもこちらへその無機質な銃口を向けた。
まるで嘲笑う一つ目の様な頭部を憎たらしく感じながら、瞳を閉じて運命に殉じようとした、その時。
見知らぬVFがその銃口を蹴り飛ばし、あろうことかドッグファイトを始めた。
誰がどう見ても無茶である。
結果的に俺と隊長を助けたソレは、言ってしまえば旧型のVF-25 メサイア。
翼を前進翼にしたり、機体上部に旋回式連装ビーム砲を装備していたりと細かな変更点は見られるものの、追いつけるはずが━━
『......少々派手さに欠けるが、人でないなら容赦せずやらせてもらおう。』
「なっ!」
あり得ない、と目を見開いてしまうほどの動き。
確かデータベースで見たメサイアの最高速度は
追い縋るので精一杯どころか敵機の上をとって、ピンポイントバリア対策に取り出したナイフを突き刺す。
その動きは、さっきレーブングラス村に向かう際横目に見た小川の流れの様に流麗。
『こちら
貴殿らは早いところ着艦を。』
かつ、凍る様に冷静な声色。
着艦と同時にバラバラになった機体の中で、焦燥と決意に揺れ動く。
「......レイン。」
取り戻さなくては、愛した人の故郷を。
取り戻さなくては、自分を助けてくれた友の姿を。
無力に打ちひしがれようと、心は未だ輝きを消してはいないのだから。
「さて、どういたしましょうか、イアン・クロムウェル様?」
「......レイン・クロニアを回収させて
奴を学習させれば戦力になる。」
「承知いたしました、不肖シドニー・ハント、お得意様の指示に従うとしましょう。」
雨は、闇へと包まれて。