阿鼻叫喚、というのが正しいだろうか。
ジークフリードから降りてすぐに見たのは、簡易病床から滴り落ちる鮮血と、傷ついた数多のパイロット達。
その光景は自分が五体満足でここにいるのが偶然、たまたまであるということを骨身に染みさせる。
赤騎士、ボーグ・コンファールト含め、Δ小隊とワルキューレに怪我人はいなかった。
勝手分からぬ戦艦の中を一塊になって進みながら、辿り着いたのはギガシオンの艦橋、ブリッジ。
入ってすぐに目に入ったのは、やはりこの、驚くほどに大きいゼントラーディの参謀だろう。
「でっかルチャー!?」
フレイアがそう言って驚くのも無理ない、見える範囲からその身長を計算すれば、大体俺たちの5倍ほどの大きさ。
一息で吹き飛ばされてしまいそうな迫力である。
「久しぶりですね、ミラージュ。」
「......貴方がいるという事は、やはり。」
なんとも言えない様な顔で話すミラージュへ、「やはり右後方の警戒が甘いな、ミラージュ中尉」と威厳ある強かな声が突き刺さる。
全てを見渡す艦長席から立ち上がったその男は、こちらを振り向き挨拶代わりに敬礼を見せた。
「━━お爺さま。」
「お爺さまって、ミラージュの?」
「マクシミリアン・ジーナスだ。
よろしく頼む。」
マクシミリアン・ジーナス。
ゼントラーディと地球人との戦いではまさに一騎当千、獅子奮迅の活躍を見せ、さらにはミリア・ファリーナ現シティ7の市長と人類初の星間結婚。
その天才ぶりは宇宙に響き渡り、彼を知らないパイロットはそういるものではないだろう。
その様な引く手数多の天才が、何故ケイオスという民間企業で艦長を務めているのか?
ミラージュが問えば、帰ってきたのは「レディMにスカウトを受けた」という簡潔な返事。
天才の考えることはよくわからない。
ふと、後ろの扉が駆動音と合わせて開いた。
そこにいたのは細身でありながら筋肉質、整った顔ではあるが、眉間に皺を寄せているウィンダミア人。
「すまないマックス艦長、ウィンダミア人の怪我人に対する治療の仕方を教えていたら遅れてしまった。」
「いいや、構わないさ。
......彼はギガシオンのエースパイロットで、ウィンダミア人。」
「コールサイン、バード
クレイル・アズール大尉だ。
......Δ小隊の皆様には、青騎士と名乗った方が分かりやすいか。」
青騎士。
つまり━━
「レインの、父さん......」
申し訳なさが心を埋める。
ここに彼がいる、ということは、あの時レインが俺を庇わなかったら父と息子が再開できたということ。
苦虫を噛み潰した様な顔を俯かせる俺の肩に、優しく彼の手が乗った。
「息子は『皆をたのむ』と言った。
......そう気負わないでくれ、
それにあの程度で死ぬ様には育てていないつもりだ。
近々あのバトル級から脱出して、元気な姿を見せてくれると信じている。」
ああ、そうなのだな、と。
父親は子供を信じている。
彼と別れ、呼ばれるままに医務室に向かう道中で固く拳を作り上げた。
俺も信じる、
「ハヤテ、大丈夫?」
「ああ。
......フレイアの故郷も、レインの奴も、取り戻してみせるさ。」
「......」
気絶から起き、この独房に叩き込まれて何日が経ったのか。
今俺は、ウィンダミアを襲撃したヘイムダルという組織の旗艦、バトルアストレアの中にある牢へ閉じ込められている。
ご丁寧に手錠付きであり、無理矢理外そうとすれば爆発するとかいう説明もついてきた。
もちろんすぐに殺さずここまで連れてきたということは、勧誘の話もあったわけで。
敵の指導者であるイアン・クロムウェルとごくわずかではあるが話をした。
『━━ゼルヘスという星への侵攻、レディMがプロトカルチャーの技術を秘匿せずにしていれば、起こり得なかったことだ。
我らと共に、かの女豹から宇宙を解放しないか?』
『......復讐に興味はないし、貴方は俺の
ゼルヘスがどうとか言われても、そんな人の言葉が響くわけがない。』
まあ、もちろん勧誘は断った。
人の辛い思い出を知ったかぶって話す奴は嫌いなんだ。
それと同時に、クロムウェルの隣にいたシドニー・ハントとか言うおっさんにラインの黄金の所在を聞かれたが、答えるわけもなく。
チョーカーは誰も見ないであろうところに隠してきたし、彼らがソレを見つけることはおそらくないだろう。
さて、暇である。
ただこうして備え付けられたベッドに転がり、天を見上げて数日。
飯の不味い美味いで一喜一憂も出来ないため、死ぬほど暇だ。
とは言え遊び道具などない。
ならば仕方ないと、髪の毛を4本引っこ抜いた。
「痛って。」
滲む涙を支給された服で拭い、
そう、1人でマルバツゲームをしようと言うのだ。
別に脈絡なくそれをしようと言うわけではない。
ここ最近チャックの妹たちがハマっていて、よく誘われてやる、のだが。
彼らドン引きするほど強い。
大体スコアが1勝25敗。
このままでは、歳上の威厳なんてものは消え去って俺の心が砕かれてしまう。
それではいけない。
だからこうして、1番いい手を探そうと言うのだ。
「よし、まずは真ん中━━」
1時間くらいたっただろうか?
これ、なかなか面白い。
マルバツゲームを考えた人って天才だ、手軽で気軽で楽しいこんなゲーム、俺が一生かけたって頭に浮かんでこない。
さあ後攻がどうにか勝つ方法は考えついた、次は先攻を......
「......」
「うわぁ!!!!?」
いつのまにか背後にいた
頭の傷が治りきっていないのに衝撃を与えたものだから激痛が走り、思わずゴロゴロと床を転げ回る。
一体なんなのかと痛み走る頭を抱えながら起き上がれば、そこにいたのはマルバツゲームのフィールドを物珍しげに見つめる女性の姿。
まるで堕天使の羽にその身を包んだ様な姿は、妖艶さと言うよりは美しさを感じさせる。
しかし彼女は敵。
ウィンダミアに侵攻してきた際に聞こえてきた歌声の主。
マキナさんが言うには、『闇雲』だったか。
恐る恐るその顔を覗いてみるが、どうやら初めてみるそのフィールドに困惑にも興味にも似た感情を見せている様だ。
「えっ...と。 やって、みる?」
「......」
まるで赤ちゃんの様に無垢な瞳をこちらに向ける彼女に警戒を解き、向かいに座ってルールの説明を始める。
交互にマルとバツを書いて行って、縦横斜め誰かを揃えれば勝ち。
至極単純なルールだ。
「じゃあ始めようか。」
「......」
初戦、勝ち。
やはり赤ちゃんくらいのココロ、勝負事にはまだ早かったか?
でも久々に勝てたのは嬉しい、どうやら彼女もまだやる気の様なので、このまま勝っていこう。
「あれ?」
負け。
「いや、まだ......」
負け負け。
「......」
負け負け負け。
え、なにこれ、忖度されてた?
そう思ってしまうほどに、初戦以外勝てない。
もうやだ、寝る。
うっすい掛け布団に潜り込み、ふて寝する様に壁を向いた背中に彼女の手が触れて、
心臓が止まるほどの衝撃に振り返り、その身体へ手を伸ばせば、こちらの手も彼女の体をすり抜ける。
「バーチャロイド......?」
最近聴いた曲の中に、シャロン・アップルという名の歌手がいた。
ああ、いい曲だなと思って調べてみるが、情報はあまり出てこず。
隊長に聞いてみれば、シャロン・アップルは昔にマクロスシティを恐怖に陥れ、危うくマクロスを浮上させた
その体はホログラム、その思考は人工知能で構成されていた、と、
つまりはここにいる闇雲も、そのシャロン・アップルと同様の存在。
彼女はこちらから視線を切り、牢をすり抜けて帰っていく。
去り際にこちらへ振り向いたその表情は、何故か笑っていた。