紆余曲折あり、今俺たちはジークフリードの改修機、VF-31AX カイロスプラスに搭乗してこれから起こるであろう襲撃に備えている。
紆余曲折と一言で表したが、その中身は幾重にも重なったミルフィーユのように厚く、そして重い。
Δ小隊に赤騎士、ボーグが中尉待遇で合流したり、スーパーゴーストを使用した訓練の最中にマックス艦長が乱入、その操縦技術に蹂躙されたり。
俺としては、フレイアのばあちゃんが植えたリンゴの最後の一つを手渡したはいいが、彼女に言ってはいけなかったことを言ってしまった。
『たとえ数十年かかっても』
これはウィンダミア人にとって、言うべきではない言葉。
彼らにとっての10年は寿命の三分の一、果たして今のフレイアにその時間があるかどうかもわからない。
だからこそカナメさんに一度相談して、この戦いの後に2人で話し合ってみようと思うのだ。
その為にはまず、この戦場と化す拠点防衛を生き抜かなくては。
ヘイムダルはギガシオンに潜入し、レディMの居場所を逆探知した。
この争いは早くも最終局面に向かっているという事なのだろう。
「歌が来た!」
『Δ
Δ3は後方ですり抜けてきた相手の処理を!』
『
『
歌と共に開かれたフォールドゲート、そこから現れたSV-303を視認すると同時に、Δ小隊各機、
スーパーパックの機動性もありすぐさま接敵するが、やはり相手は速い。
たったの3機だというのに翻弄され、スーパーゴーストの速度など比べ物にはならない。
しかしこちらにもプライドというものがある。
ミラージュとの連携で敵機を動かし、目標地点への到達と同時にボーグが狙撃。
致命傷を与える事は出来なかったものの、その翼を撃ち抜く事に成功する。
これは確かにゴースト対策が役立ったといえる所だろう。
無人機はAIの都合上最善手を絶対に打つ。
ならばその最善手を咎めればいいのだ。
「━━♪」
ワルキューレの歌によるブーストもあり、このままなら撃退もいける。
そう思った矢先、轟音にも似たフォールド波が脳を叩いた。
眩い光が目を眩まし、しかしその中には確かな闇が存在する。
ヴィヴァスヴァット、SV-303の名を太陽神から取ったとするなら、これはまるで暗き闇の太陽。
『
レイン・クロニアとの会話データ、及びワルキューレの外見を元にホログラムアバターを再構築。』
その眩い闇の中から、5人の見覚えがある歌姫達が颯爽と飛び出した。
『歌は歓喜!』
『歌は絶望...』
『歌は欲望!』
『歌は狂気!!』
『歌は闇! 逝かせてあげる、堕天使の歌で!』
『超・ダークエンジェル、
「ヤミキューレ!?」
超・ダークエンジェル、Yami_Q_ray。
彼女達の誕生と共にヴィヴァスヴァットのボディに入ったラインの光が強まり、一段ギアを上げたかのように他小隊を殲滅していく。
ワルキューレの歌も押され気味であり、このままでは基地ごと宇宙の藻屑に消えてしまう。
止めなければ、止めなければならないのだが。
「くっそ! 追いつけねえ......!」
追っても追っても追いつけない。
まるで太陽に手を伸ばし続ける子供のように、この手が届かない事に対しての苛立ちが募る。
苦し紛れに放ったミサイルも変態のような機動で避けられ、ついには基地の外壁が破られた。
デストロイド隊が対応するが、赤子の手をひねるように彼らも潰されていく。
しかし助けようにも、こちらに残ったヴィヴァスヴァットが行方を塞いで向かう事が出来ない。
腹を決めて突撃しようとしたその時、青い光が目の前にいたヴィヴァスヴァットを掴み、暗黒の宇宙へと連れていった。
それは『取りに行くものがある』と言ってしばらく別の惑星に向かっていた青騎士その人。
『━━行くんだ! Δ小隊はワルキューレを守るのが仕事なのだろう!?』
「青騎士...... すまない!」
遠くに消えて行く青騎士を尻目に、ワルキューレに迫るその銃口の前に立ちはだかった。
たとえ死んでも、フレイアを傷つける事はさせない。
「ぐうっ!」
「ハヤテ!!」
スーパーパックに被弾したが、まだ終わりじゃあない。
フレイアは歌い、俺は飛ぶ。
彼女の歌を背に受けて、どんな危機でも飛んでみせる。
飛べば、飛べる!
感覚拡張の中で敵機の機動、射出される小型ゴーストに対応しながら、一歩一歩追い詰める。
フレイアの歌と一緒ならば恐れるものはない。
被弾の直前に追加装甲をパージし、囮が爆発する事で生まれた煙幕の中から奇襲を仕掛ける。
伸ばし切った腕が敵機の胴体を貫き、爆炎と共に黒い太陽は機能を停止する。
「......風は予告なく ふ━━ 」
「フレイア!」
「フレイア? フレイア!」
基地を自爆させての脱出の中、フレイアの身体が地に伏した。
心配すれども駆け寄る事は許されず、フォールドゲートの中に消えて行く。
ヤミキューレからの視線を背に受けながら。
「......フレイア?」
歌が見えた。
命を削り、ルンを輝かせる歌が。
......むず痒い。
ハヤテを庇ってこうして捕まっている事自体は俺が望んだ事であるから、別にどう思うとかはない、が。
一緒に戦えない事、彼らの身に何が起こっているのか知れない事がとてもむず痒いのだ。
どうにもならない事であるとは分かっている。
しかし無力感というのは常に頭の端に付き纏って、こうしてベッドに座っていても、気分はまるで寝たきりの様に落ちて行く。
はぁ、とため息を吐いた。
「どうしたのー?」
「ヒュッ」
吐いた息が『久しぶり!』と肺に帰ってきて、むせ返った。
聞き覚えのある声だが、あまりに
それに加えてここにいる事があり得ない彼女の姿に、一瞬頭がショートしそうになった程。
見上げた彼女の姿は、レオタードというかハイレグというか、なんと評したらいいかわからないインナーの上に袖の余る上着と、短いスカートに身を包み。
綺麗なブロンドの中に鮮烈な赤のメッシュが入って、頭部にあるルンは黒く、ハートはひっくり返っている。
よく見れば左目の白目が、集中した時の俺の右目と同じ様に赤くなっていて痛々しい。
思わず『フレ......』と言いかけたが、
限りなく近く、限りなく遠い1つのナニカ。
「うおあっ!?」
手を後ろに覗き込む様な姿から一転、ガバッとまるでクワガタムシのように胴が抱きしめられるが、力が強すぎる!
......バーチャロイドじゃあ、無い?
体がすり抜けないという事は彼女はバーチャロイドじゃないという事。
ヒト、というにはこの、振り解けない、力は......!
「えへへー!」
「き、みは......?」
ミシミシと悲鳴を上げる右腕に顔をこわばらせながら、ぐりぐりと頭を押し付けてくる彼女が誰なのか、か細い声で問う。
すると彼女は腕を離し、少し考えるふりをした後にニコニコの、狂気を感じる笑顔で一言囁いた。
「......
この発音、この冷たさ。
なれば彼女は、ワルキューレを学習した━━ 闇雲。
「わたしはセイレーンシステムがワルキューレを元にして作った個体、Yami_Q_ray!!
ねぇねぇ、
歌は元気と、フレイアは言った。
元気は前を向いて生きる為に必要な事だが、もしもそれが行き過ぎれば?
元気は狂気へと変性し、前を向くはずだったその視線は斜め上を向いて、盲目の様に突き進んでいくだろう。
彼女は
その瞳は狂気を孕み、人を殺めても『ああ、殺してしまったな』で思考を止めてしまう。
Yami_Q_ray、と言ったか。
俺の心にはただ、恐怖があった。
「はは...... 闇フレイアで、いいかな......」
こんなのが後4人もいるという事実に。
果たして命が持つのだろうか。