「ふんふんふふふ〜ん♪」
「......ねえ、そろそろ離れてほしいなって...」
「ヤダ!!」
我が儘にして自由、飽き性にして気まま。
仰向けにして俺の膝の上に寝転がる彼女、闇フレイアはまるで独善的な女王の様にしてキャッキャと天井に映した映画を見ながら笑っている。
その一方で、寝転がられている俺の方は気が気でない。
あの、一応目の前にいる彼女は女性である。
『お前何言ってんの?』と、当たり前のことを一応と念を押していう俺に疑問を抱く人もいるかも知れないが、そもそもAIに性別はない。
だからまあもしかしたら闇フレイアも無性の可能性があると思っていたのだが、彼女本人が......
『
男と女が部屋に2人、ソウイウコトをするってこの映画で行ってたんだけど......』
『そういうのはやめようね』
そう、言うものだから。
しかし気になる事がないわけではない。
それこそさっき感じたフレイアの歌、あのルンを光らせた歌はなんだったのか?
「......闇フレイア。」
「んー、
口に出す前に顔に出ていたらしい。
彼女は起き上がり、蛇の様に俺の腕に、俺の首にその手を回しながら耳元で話を始める。
少しくすぐったい。
話せる範囲で教えてくれたのは、Δ小隊の拠点を攻めた事とフレイアの結晶化が進み、倒れた事。
前者は多分生き残っているだろうから後回しにするとして、口を抑えて驚愕したのは後者のフレイアの件。
ついに、という感じだ。
いくら独立戦争後に手の甲まで回復したとして、言うなればマックス10のうち9まで進んでいたのが、7まで戻った様なもの。
戦場における歌は、彼女の命を否応なく削るのだ。
これで1番辛いのはハヤテやワルキューレ、そして当の本人だろう。
歌う事は彼女の人生。
結晶化が進むという事はその人生がこれから歩めなくなる、ということ。
やりたいことと現実の間で首を絞められる様な彼女の状況は、察するにあまりある。
「......」
闇フレを支えていない方の手を顎に置いて考えごとをしていると、その支えている彼女の人差し指が首に突き刺さった。
爪であればそう痛いとか思わないのだが、彼女の人差し指にはすごく長い付け爪が取り付けられている。
ちゃんっと痛い。
思わぬ一撃に奇声をあげそうになりながら本人の方を見ると、頬を膨らませ不機嫌そうな瞳でこちらを見つめている。
「
ここにいるのはわたし、レインの言う闇フレイアなんだよ?!」
「そうは言っても......
イテッ痛て、突っつかないで。」
そうは言っても、敵同士。
本来こんなふうに敵に絡みついて首に爪を刺したりはしない。
何というか緊張感がないし、そもそも出会って数時間の相手にそんな心を許せるものではない。
はぁ、と気怠げに息を吐いたその時、音もなく流れる様に両腕を抑えられ、押し倒された。
手錠がある都合上たった一本の腕で両方とも封じ込められて、余った右手がすっと優しく頬を撫でた。
しかし四つん這いでこちらに迫る闇フレは膝を俺の股に密着させながら、殺意にも似た笑顔を見せてこちらへと迫る。
心臓が鼓動を早めた。
「━━それともこうすれば、
......何故、彼女はそこまで俺に執着するのか。
彼女は俺を知っているだろうが、俺は彼女を知らないからこそ、こうして繋がりを表す糸が絡まって行くのだ。
「そうだなぁ...... 私たちはあくまでセイレーンデルタシステムの子機。
親機である闇雲からのフィードバックを受けて存在してるの。
それでね、その闇雲が感じたアリガトウを、私たちは元にして行動してるわけ!」
それをどう解釈してレインに接するかはそれぞれだけどねー、とどうでも良さげに吐いた彼女が、俺の腹に座る。
柔らかさはない、何故ならば彼女の体はあくまでアンドロイド。
基礎的なアンドロイドのボディにYami_Q_rayとしてのアバターを映し出しているのだ。
だから胸を触ったところで柔らかさはないし、少し重い。
「そう言えば、考えてる事はその右目から筒抜けだから。
私たちの思考ユニットと同じ構造だからカンタンに読み取れるよ!」
......なら、今考えていることもわかるのだろうか。
オリジナルとかコピーとか、あまり関係無い。
結局彼女を見るか見ないかは闇フレイア自身が俺から見て魅力的か否かであるし、事実俺にとってフレイアは夢を追う姿がとても好きだから想うのだ。
だから今、闇フレに対しては好きでも嫌いでもないから性欲も抱かないし、むしろ『オセロしたいな』と思う気持ちの方が上だ。
「......むー、じゃあオセロしよ!」
そう言って彼女は手錠から手を離し、地面にホログラムでオセロを作り出した。
助かった、という事でいいだろう。
どうせ肉体関係を持つんなら恋愛して愛を持ってその人と持ちたいという変なこだわりがある。
まあよかった、と思いながら彼女の向かいに座り、気合いを入れてオセロをする。
めっちゃ勝ってやろう。
「嘘でしょ......」
めっちゃ負けた。
えっ、嘘、初戦は勝てたとかじゃあなく、初戦からずっと通しで負けた。
両手を地について落ち込む俺に対して、闇フレは空でも飛んでしまうんじゃないかというほどに手足をジタバタとさせながら、子供の様に喜んでいる。
「レイン弱ーい!」
くっ、傷つく。
......しかし、こう見るとかなり、というかほぼ
カタコトで何処か機械音声の様に感じられた闇雲のことを考えると、人に成ったという表現が似合う。
そんなことを考えていると、はしゃいでいた先ほどから一転し、冷たく理性的、むしろ機械的と言った方が正しい闇フレイアの瞳が心臓を貫いた。
「━━私は、ヒトじゃない。
ヒトはゼロから生まれて、個人となり、自分のしたいまま心を動かす。
でも私は
ヒトじゃない、オリジナルでもない、ただの機械。」
そう言った彼女の瞳には悲しさ、苦しみ、つらみが進行形で渦巻いており、それに俺は何も言えない。
言えないが、それでも手を伸ばそうとしたその時、背後から細く白い手が俺の腕を強く掴んだ。
「へえ゛っ?!」
変な声が出る。
「だーめ、今日はもう終わり。
フレイア、メインデバイスにもう戻りなさい。」
「......はーい。」
気怠げに返事をして帰って行く闇フレを尻目に、俺より身長の高い女性を見る。
黄色のメッシュに、茶色気味の髪。
「闇、カナメ......?」
「あら、やっぱりわかるのね。
もっと話をしたいところだけどまた明日、私ともゲームをしましょうねぇ?」
離された腕を見れば、あざになるかもしれない肌の跡。
明日は彼女が来るのだろうか?
期待か、不安か、どちらとも取れない思考を抱えながら、今日も眠りにつく。
......どうやってこのバトル級から脱出するか、朧げに考えながら。