多分朝。
気怠さから起き上がろうとはしないものの、3割くらいは目が覚めて、脳も覚醒し始めた。
何故だろう、今日はよく眠れたのだ。
いつもなら肌寒さを感じて数回は起きるものだが、今回はそれも無くぬくぬくと。
暖かい布団をひさびさに味わい、しかしまだ篭っていたいと思う俺がいる。
そこでまあ、まだYami_Q_rayも来ていない様だし、もう一度、俗に言う二度寝というやつをさせてもらうことにした。
瞳を閉じ、今度は少し寝る体制を変えてみる。
だが、寝返りを打とうとした時に下半身への違和感を感じた。
以前にした足の怪我が悪くなったとか、寝てる間に腰を痛めたとかじゃあない。
朝だからかな、なんて楽観的な考えを持ちながら、少し頭を起こして布団の中を覗いてみた。
「あら、お目覚め?」
10割起きた。
ここでカミングアウトだが、俺は日常的にやっている事へ何かが介入してくるのが1番怖い。
これもそう。
何故暖かかったのか、重かったのか、全てに説明がついた。
闇カナメが布団に潜り込んではその体を発熱させ、俺の足へ組みついていたのだ。
バクバクとなりっぱなしの心臓を抑えながら、まるで猫の様にするりと布団の中から現れた闇カナメをみる。
その服は所々透けていて、よく見れば足元は左右が違うアシンメトリーというもの。
......1番気になるところで言えば、何故股を隠す布が前掛け一枚なのか? と言うところだが、聞けば揶揄われそうなので言わない。
さて、彼女は昨日『遊ぼう』と言っていたことから、ここに遊びに来たのだと思うのだが。
なんとも、所作がいちいち真面目だな、と思う。
そりゃあ布団に潜り込んだ事はアレだが、俺を尻目によれた布団を丁寧に畳んでいるし、その座り方は綺麗。
闇フレイアの様にぐでっとしている様子はないし、やはりそれぞれ対応したワルキューレのメンバーを真似ている、と言う事なのだろう。
布団も畳み終わり、互いにきっちり座って向かい合った。
彼女は正座、俺は胡座。
闇カナメは何処か期待している様で、心なしかソワソワしている様に見える。
「じゃあ、これをやろうか。」
「......これ?」
「そう、
提案したのは、両手で1本ずつ指を出し、交互に互いの手を指で叩く遊び。
例えば1本の指で相手の1本の指を叩けば、それは2本になる。
で、その2本の指で1本の指を叩けば、それは3になる。
片手の合計が5本になったらその手は再起不能、先に両腕を再起不能にした方が勝ち。
闇カナは小さく首を傾げているが、多分この遊びの名前が
正確には名前があるのかもしれないが、俺が知らないのだ。
だから『
さて、やってみたはいいが......
「......勝てた。」
あの、なんか勝ててしまった。
それもそのはず、彼女のやり方は気持ちの悪いほどのまっすぐさで出来ているからだ。
それこそ闇雲は冷たく機械的に最善手を打って殺しにくるし、闇フレは奇を衒った動きでこちらのミスを誘い、生まれた隙をついて殺しにくる。
しかし闇カナメは少し違う。
彼女はぐにゃぐにゃに曲がった鉄をハンマーで無理矢理真っ直ぐにした様な、そんな歪な一直線で殺しにくる。
だが真っ直ぐには変わりないため、対処が容易なのだ。
これはワルキューレの話だが、カナメさんは真っ直ぐでなおかつ実直であり、外からは見えづらいがかなりの負けず嫌いでもある。
そしてその負けず嫌いな面は、カナメさんの根幹、カナメ・バッカニアという人間を構成する大黒柱でもあるのだ。
だが闇カナメは、負けたとしても『あら、負けちゃった。』で終わり。
確かに真面目、という点だけで言えばカナメさんを模倣たと言えるが、その精神性は限りなく遠い。
ここで一つ思った事がある。
闇フレイアは自分達を『
「それはどうかしら? 私たちは作戦遂行のためにセイレーンシステムが作り出した、『そうすればフォールド波が強まる』という考えのもとにある
......全てが、そう。
歓喜に溺れて、狂気に死んで、絶望に咽び、欲望を求めて...... 闇に沈む。
貴方が思う人間的な私たちは、そこには無い幻影にしか過ぎない。」
思考を読まれたか。
ベッドに腰掛け、妖艶に微笑む彼女に見上げる様にして顔を向ける。
......だとしても、俺はYami_Q_rayがワルキューレのコピー、という情報に縛られている様にしか見えないのだ。
先程闇カナメが畳んだ布団を手に取ってみてみるが、所々とてつもないずれ方をしているところがある。
それこそカナメさんならこんな事しないだろうし、今思えば畳む時の彼女の手元がおぼつかない様にも思えた。
きっとYami_Q_rayにもコピーでない、それぞれの本質がある。
ワルキューレという外殻に覆われた......真面目とはまた違う、彼女自身。
「幻影を追うのが好きなの?
まあ、好きなだけ考えたら良いんじゃないかしら。」
考えろ、と言われても、情報が少ない。
ここまでの会話から考えるにしても━━
『......全てが、そう。』
......あの一瞬、そう、あの一瞬だけ、彼女の微笑みがこわばった。
その反応を見るに、何も最初から
何処かでそれを知り、自身とその個性が作り物だと思う瞬間があったのだ。
「ねえ、自分の個性や感情、その全てがツールだと知った時、どう思った?」
「......答えかねるわ。」
「いいや答えてもらう。
仮にも俺は勝者だ、勝負には勝者に対する褒美がついてくる。
今回は『闇カナメにその気持ちを答えてもらう』事が褒美なんだ。」
少々無理矢理かもしれない。
だけど、ここで聞かない事には先に進めそうにないんだ。
少し悲しげに顔を俯かせ、体育座りで膝に顎を乗せながら彼女は語り始めた。
「......そうね。 悲しみは無かった。
『ああ、そうだったんだ』って冷めてた様な気もするし、『私のこれまではなんだったの?』って慟哭を響かせていた様な気もする。
だから私は消して、闇カナメとしてカナメ・バッカニアのコピーを演じてきたんだけど。」
「そっか。」
「でも...... えい!」
畳んであるふとんを手に取ったかと思うと、闇カナメはそれを空中に放り投げてベッドに思い切り寝転んだ。
その行動は先ほどまでの歪な真っ直ぐさは無く、コピー元とはまるで違う気ままな曲がり方。
文字通りの闇カナメ。
マイナスを消してしまうのはプラスである。
彼女に纏わりついていたのは、闇を消してしまう光だった。
その光が消えた彼女は自由で無秩序で、まさにYami_Q_rayといった感じだろう。
「もういいの。
そもそも真面目にやっても楽しく無かったわ、貴方...... レインとの遊び。
結局遊びなんて真面目よりも楽しまないと損、疲れちゃったから、Yami_Q_rayのまとめ役は闇雲に任せるわ。
それと......」
覗き込んでいた俺の顔が引き寄せられ、吐息の当たる距離。
妖艶な微笑みがこちらに投げかけられ、俺の心を闇に捉えようと忍び寄る。
「━━ねえ、一緒に寝ましょう?
今なら子守唄もつけてあげる。」
「......やめとくよ、そういうのは恋愛的に好きななった人とさせてもらう。」
「そう? 残念」と、そこまで残念そうではない声色で言った彼女から離れ、壁に寄りかかって首筋に触れた。
少し結晶化した周辺がかったるい、しばらく首を休めたほうがいいだろうか?
天井を見上げていると、「そうそう」と闇カナメがこちらへ、頬杖をつきながら語りかける。
「私たちは貴方の目にある生体フォールドクォーツから貴方の思考を観れるけど、それは貴方も一緒。
人の脳だと負担がかかるだろうけど、やってみたら?」
「あー......また明日にやってみるよ。」
まだまだ、夜にはならない。
ウィンダミアの空は、今頃どうなっているのだろうか?
鉄格子は何も言わないまま、無音の時間が過ぎて行く。