「ほらよ。」
「......」
......今日は布団の中に誰かが潜り込む事なく、健康的な時間に目を覚ました、わけだが。
大して考え事をする暇があるわけでもなく、Yami_Q_rayは現れた。
だが今回は少し毛色が違って、
ここまで闇フレイア、闇雲、闇カナメと遊んではきたが、全員に当てはまるのが『まず俺がやる遊びを決めた』という点。
そりゃあ相手は学習を始めたばかりのバーチャロイドなのだから知らないことを俺が提案するのは当たり前なのだが、なんと今回は粗雑でありながらも、あちら側からの提案。
それを受けない理由はないので、先程ほらよ、と俺の座るペッドの上に投げ捨てられたトランプを拾い集める。
ジョーカー無しで52枚、カードのデザインを見る限り普通に銀河で流通している、ワンコインの安いやつだ。
「さっき通りがかりのオペレーターが『ヘイムダルの勝ちは見えたな!』なんて言いながら遊んでたからよ、奪ってきてやった!
滑稽だったァ、獲られた時のあの顔!」
そう言ってドカッとベッドに座り、腹を抱えてケタケタと笑う彼女はかなりコピー元だというレイナからはかけ離れた性格。
緑の頭髪に額両側から生えたツノ。
腰に携えたマントの如き黒い布をたなびかせる加虐的な性格の彼女がYami_Q_rayの一人、闇レイナだ。
粗暴な言葉使いではあるが、これまでと違ってわかりやすく『闇』って感じの彼女。
闇マキナとはまだ出会っていないが、ワルキューレの2人と同じように友情を超えた絆で繋がっているのだろうか?
そんな事に思いを馳せながら、ちゃんとトランプをシャッフルして目の前に置いた。
さて、何をするのだろう。
「スピード、ってやつやるぞ、知ってんだろ?」
「......知らないです...」
「ハァ!!?」
「なんで知らねえんだよ?!」と独房の中で怒号が響く。
そう言われても仕方がないじゃあないか、知らないものは知らないし、そもトランプを使った遊びなんてババ抜きしかやった事ないんだから。
とは言え知らないものを無理矢理やるという事は無いらしく、クソだとか仕方ないなとか悪態を突きながらも説明してくれるらしい。
まず赤と黒のカードに分けてプレイヤーがそれぞれ分けられた26枚を手に持ち、目の前に4枚上からめくったカードを並べる。
そして同時のタイミングで山札から1枚カードを中央に置いて、ゲームスタート。
中央に置かれたカードの番号の前後、3なら2、4を並べたカード群から中央に置いて、流れの中で山札と場のカードを全て消費した方が勝ち。
まあ反射神経と一瞬の判断が重要なゲーム。
「分かったか?」
「あぁ...うん...分かった...」
「分かってないよな、絶対!」
いや、分かってるんだけど......いかんせん、こういうフィジカルと思考の融合的な遊びで彼女達に勝てる気がしないのだ。
ここまで闇カナ以外には負けており、その闇カナも無理矢理真面目にやっていたからああだっただけで、おそらく彼女が思うままにやられていたらボコボコに負けてた。
実質全敗なのだ。
そんなのが続けばだんだんモチベーションも下がってくるわけで、今やる気が最底辺。
どうにも身に入らない。
はあ、とひとつため息をついた闇レイナが頭を抱えて左右に振り、手元のカードを並べながら俺の額を軽く、ノックする様に叩く。
「仕方ねえな...... ほら、勝敗関係なしに一回やってみなよ。
私も人とおんなじ思考速度でやってやるからさ。」
「うん、じゃあやってみるよ......」
ポスポスと手元の山札をめくってはベッドの上に並べ、言われるがままに準備を進める。
呼吸を合わせ、模擬戦の様に両者の1枚目が中央へと叩きつけられた。
「......で、どうよ?」
「楽しい!」
結果だけで言えば相当に楽しかった。
緊張感と回り続ける思考が絡み合い、なんとも言えぬ高揚感がゲームを盛り上げる。
それに加えて同格レベルの相手だったから、お互い譲らない接戦で先が見えないからこその必死さがいい感じ。
終わる頃にはモチベーション上昇中!
「じゃ、本番やるか。」
「やる!」
......上昇中、なのはいいが。
こう、こうやって捕まって独房に入れられて、分かった事が一つだけある。
人ってある程度の条件で頭が良くなったり、もしくは悪くなったりするわけだが。
俺の場合は周りの人がたくさんいるときは頭が良くなって、1人2人程度まで減るととんでもなく頭が悪くなる。
頭が悪いというか、思考を放棄する事が多くなるのだ。
思えばゼルヘスにいた時からそうだったな。
他2人の友達と走り回っては、2人を巻き込んで後先考えずに川にダイブしたものだと懐かしむ。
まあそんなわけで思考を放棄し、スピードの本番へ挑む。
もちろん先程とは違って闇レイも機械的な思考をもって叩き潰しにくることは想像に難くない。
しかしそんな事この時の俺は考えていなかったし、『この勢いに乗れば勝てる!』とまで思い込んでいたわけだが。
「ま、まけた......」
はい。
まあ筋肉の疲労がないアンドロイドの身体を持つ闇レイナと、筋肉の疲労と目の疲労と思考の放棄をしているレイン・クロニア。
どちらが勝つのかと言われたらそりゃあ闇レイナなわけで。
まあ見えていた負けではあるが、それでも悔しいものは悔しい。
悔しいッ......!
完膚なきまでに叩きのめされ項垂れている俺の頭が両サイドから掴まれ、持ち上げられる。
得意げな闇レイの表情が眼前いっぱいに広がる。
「『勝負には勝者に対する褒美がある』って言ったの、お前だよな?」
いやぁ、あれはあの時だけっていうか勢いに任せて言って見たら闇カナさんが普通に答えてくれただけで、別にそんなどうっていうものでも......
「言 っ た よ な ?」
「言いました......」
観念した。
この圧の強さは確かに模倣元がレイナというだけある、裸喰娘娘で飯の奢りを強請ってくる彼女にそっくりだし、そんな圧をかけられたら抵抗できない。
黒く笑っている彼女が何をするかに怯えながら、「目、閉じろ。」と言われるままに瞳を閉じる。
殺されんのかな......
そんな事を考えながら運命の時を待っていたその時、弾けた様な音と閃光が同時に俺を襲った。
ベッドから転げ落ち、遅れてきた痛みが走る頬を押さえて彼女の瞳を見た。
「は!? え?!」
「━━アッハハハハ!!
いいね、本当にケッサク!」
きっと相当間の抜けた顔をしているのだろう、彼女の爆笑が牢屋の鉄格子にまで響いて、しかし俺はその顔のまま頭の上にハテナを浮かべていた。
「アホみたいで、可愛くて!
━━壊したくなる!」
じんじんと残り続ける痛みはある意味で、愛なのだろうか。
それとも優しい一面を見せたのちに残虐な姿を見せる事で、自分の欲を満たそうというのだろうか?
見えてこない彼女の中身にやきもきしながら、氷嚢を頬に当てて寝転がる。
ちなみにこの氷嚢はあの後すぐに闇レイが持ってきた。
天を見上げて、少しばかり昨日を思い出してみる。
......そう言えば闇カナメが言っていた、『Yami_Q_rayが俺の思考を瞳から読めるように、貴方も私たちの思考が見える』ということ。
結局試すのを忘れていたな。
取り敢えず今日は冷やしながら寝よう、試すのはまた明日。
闇レイナの歪な優しさである氷嚢になんとも言えない疑問を抱きながら、猫のように包まって意識を投げ捨てる。
今日は疲れた。