ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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ヨクボウ、ヤミはヤミのまま

 

 「う〜ん......」

 

 顎に手を当てて、壁に寄りかかりながら唸る。

 一晩寝て考えてみたが、やっぱり闇レイナの内側、その思考がわからない。

 優しさを見せたかと思えば暴力が飛んできて、かと思えばその叩いた頬を冷やす為に氷嚢を持ってくる。

 

 一つ仮説としてあるのが、『可愛くて壊したくなる』と言った彼女の言葉。

 それをそのまま解釈するならば、その感情はキュートアグレッション、またはプレイフルアグレッションと呼ばれる可愛いものを虐めたいという衝動。

 大概の人間が持つキュートアグレッションは、例えば頬をつねりたいだとか強く抱きしめたいとかを()()()()

 行動に移すことは少なく歯を食いしばったり拳を握り込むだけにとどまるのだが、どうやら彼女は手が出るらしい。

 

 まあ、あの平手打ちはそれで説明がつく。

 痛かったな、大体昔にウィンダミアで殴られた時ぐらいの痛みだった。

 

 「何か考え事?」

 

 「ね〜え〜、もっと遊んでよ〜!」

 

 頬をさすりながら痛みを思い出していると、来て早々にベッドを占拠した侵略者2人がこちらに意識を向けた。

 片方は座りながら暇を潰すようにヘイムダルの機密ファイルを除いているし、片方は闇カナに膝枕されながら駄々っ子のように手足をバタつかせ、時折眉間にトン、と指を刺されている。

 とは言ってもなあ、こちらにもやりたいことがあるわけだし。

 できればそのベッドに寝転がりながら考えたいのだが......

 

 「貴方、一応捕虜でしょう?

 言うことを聞いておかないと何があるかわからないわよ、特にこの子は気まぐれだから。」

 

 「そーだそーだ! オセロやろうよ!」

 

 「......わかりました。 じゃあ準備してもらってもいい?」

 

 何があるかわからない、なんて脅しをされたらなぁ。

 こうして言う事を聞いて遊ぶしかないわけだ。

 

 

 

 

 「私の勝ち〜!」

 

 そして普通に負ける。

 さらに勝者にはご褒美という制度がもう浸透してきているようで、例に漏れず闇フレイアもウキウキで要求してきた。

 

 しかしその要求は彼女から受ける印象とは全く違う、『愛や恋を教えて』というもの。

 一時の興味かと思えば、その表情はひどく真っ直ぐに俺に対してその答えを待っている。

 しかし......

 

 「━━フレイアとハヤテの関係とか、愛なんじゃないのかな?」

 

 「その2人を見て気になったから、レインに聞いてるの!」

 

 俺自身、よく分かっていないのが現状だ。

 だってそうだろう、俺は恋をしたことがないし、無償の愛を託すような相手がいるわけじゃあない。

 こればっかりは聞く相手を間違えたとしか言えないものだ。

 

 ぷんすかと頬を膨らませる彼女に少しの申し訳なさを感じながら、とある事を思いついた。

 地べたから氷嚢の中身を抜いたやつを拾い上げ、闇フレイアに手渡す。

 

 「その、一回これにビンタをしてもらってもいい?

 思いっきり。」

 

 「ん? いいよ!!」

 

 ストレス発散の的としてはちょうど良かったらしく、快諾した彼女は受け取ったそれをすぐに宙へと放り投げる。

 ちょうど闇フレの目の前にきたその時。

 

 「えい!」

 

 叩いた音と同時に壁に激突した音、蓋であった何かが砕け散り地に落ちる音が一斉に耳を襲った。

 無惨にも氷嚢の袋は破れ、プラスチックの部品は5つに分裂して弾け飛んでいる。

 

 ......これは、あくまで彼女たちYami_Q_rayの全力を測ろうとした故の出来事。

 もし闇レイナが手加減をしていたら? という仮説を立てるための実験だったのだが。

 あんなの当たったら...... 死にはしないけど、確実に2日は引きずる痛みが残るだろう。

 戦々恐々、あれが俺の頬に叩き込まれていた可能性に震える。

 

 「......やり過ぎよ、闇フレ。」

 

 「でも思いっきりって言ったのはレインだよ?」

 

 

 

 

 「━━さあ、リベンジ!」

 

 少し時間が経って、闇レイナが来た。

 あの後闇フレと闇カナは闇雲に呼び出されたらしく、互いにぼやきながら帰っていった。

 できれば氷嚢も持っていってほしかったが、まあ致し方なし。

 

 どうやら彼女は自信満々な俺がおかしく見えるらしく、怪訝な顔でこちらを覗き込んでくる。

 だが別にまたビンタをもらいたくなったからとかでは無い。

 ......本当に違う、一度きりだが勝てるであろう方法を見つけたから、ここまで自信満々に自分の山札をシャッフルしているのだ。

 遊びは変わらず、スピード。

 

 「......何企んでるかは知らないけど、また私が勝ったら、分かってるよな?」

 

 「うん、好きなだけ叩けばいいさ。

 ()()()()()()!」

 

 「なんかバカっぽいなお前。」

 

 ど直球の悪口を言われたとて、今の俺には届かない。

 黙々と山札から場へ4枚のカードを捲り、互いに準備は完了。

 

 掛け声を合わせて、多分最も()()であろう勝負が幕を開けた。

 

 「せーの、」

 

 「「スピード!」」

 

 

 

 時が進んで勝負も中盤、互いの山札が半分を切った。

 言うなればこの遊びというのは、トランプで代理的に真正面から殴り合いをするような物。

 こちらがカードを出せば、相手の出せるカードが増える。

 その逆も然りであり、だからこそこの遊びは先を見る力や先んじてカードを出せる瞬発力、それに対応できる筋力が必要なわけだ。

 

 基本的にこれは俺が不利な勝負である。

 瞬発力や思考力はVF乗りである以上、一般の人よりかは上な自信があるし、なんなら後先考えずフル稼働している今なら闇レイナの影を追う事だってできるだろう。

 しかしそれらを詰まらせる、所謂ボトルネックとなっているのが筋肉という存在だ。

  

 人間の筋肉というのは疲労する。

 それはいにしえから伝わる当たり前のことで、だから人は寝たり休んだりして筋肉を回復させ、翌日の仕事に備える。

 

 しかしてYami_Q_ray、アンドロイドの身体にホログラムを投影した彼女たちは消耗を知らない。

 下手をすれば疲れたという感覚すら分からないのだろう。

 グラフで表すのなら、右肩下りの俺に対して常に並行なままの彼女たち、ということになる。

 

 だからこそ決めるならばこの辺り。

 疲れが出るか出ないかの瀬戸際であるこの中盤に、もう一個ギアを上げて追い詰めるしかない。

 

 「てっめぇ......!」

 

 口では悪態をつくものの、口角の上がった彼女の顔を見てこちらもつい微笑んだ。

 遅れてギアを上げてきたところを見るに、彼女の戦い方も分かってきたぞ。

 

 おそらく彼女は、激情のままに相手を叩き潰して殺すタイプ。

 だったらその激情が迫ってくる前に逃走するだけだ。

 

 終盤に入り、俺の手から山札が消えた。

 少し遅れて闇レイナの手からも消え、互いに4枚の手札が残った。

 先手を切ったのは俺。

 ひとつ遅れて闇レイもカードを出して、俺は最後の一枚、彼女はラスト2枚になる。

 

 そう、ここ。

 この瞬間を待っていた。

 

 ここまでしていなかった、闇レイナの瞳を黒くなった右目で見通した。

 それと同時に流れてきたのはYami_Q_ray誕生の瞬間、彼女たちがアイデンティティを『ワルキューレのコピー』というペンキで塗りつぶした悲しみ。

 そして戦場で見たのだろう、フレイアの━━

 

 「ぐっ?!」

 

 刹那、瞳に激痛が走って倒れ込む。

 闇レイは一瞬あっけに取られた表情をみせて、俺の上半身を抱き抱えて心配そうな声をかける。

 

 「ねえ、大丈夫かよ、ねえ!!」

 

 右目を押さえながら、ここに辿り着くまでの作戦を思い返してみる。

 

 彼女達Yami_Q_rayはおそらく星の歌い手の細胞を使い作られた人たち。 

 言ってしまえばプロトカルチャーの遺産なのだ。

 であれば、闇カナメが言うように彼女達の思考を見てしまえば少なくとも結晶化に似た激痛が走るはず。

 ここで重要な要因(ファクター)になるのが、闇レイナの優しさだ。

 彼女はキュートアグレッションによる暴力的、攻撃的な一面こそ持っているが、それはおそらくワルキューレのコピーとして自分のアイデンティティを失った際に芽生えたもの。

 あくまで新芽だ。

 

 俺が狙ったのはその奥、彼女がワルキューレのコピーだと自認していない時に生まれた本質。

 限りない優しさを持った、そう、まるでチャックの妹であるマリアンヌさんのような、厳しくも優しい彼女の源。

 

 そこをついて彼女を手札から遠ざけたのはいい、が。

 

 「━━ああ、ぐうぅぅっ......!」

 

 この痛みと結晶化の大きさは予想外だった。

 全身を流れるマグマのような血液が全てを焼き、バキバキと異常なほどに早い結晶化の進行は顔の右側に侵入してきてしまうほど。

 

 彼女が心配してくれる声が、アンドロイドの手から放たれる鉄の冷たさが、唯一の楽になれる要素でもあった。

 

 「少し待ってろ、また氷嚢を奪い取って━━」

 

 「......はあ、あ。 俺の、勝ち。」

 

 慌ただしく視線を泳がせる彼女をよそに、最後の一枚だった手札、スペードのエースを中央へと置いた。

 この瞬間、何がどうあれ俺は勝ったのだ。

 キョトンとする彼女に向けて、無理をしていると捉えられても仕方がない笑顔を見せながら勝利を宣言する。

 

 「...こんな遊びのために、命削ってんじゃねえよ......」

 

 「心配ありがとう。

 ━━さて、勝者の権利を行使させてもらおうかな。」

 

 「ん。」と一言だけいって、闇レイナは左の頬を差し出した。

 きっと俺が昨日のお返しに平手打ちをすると思っているのだろうが、そんな事はしない。

 その頬を両側から平手で挟み、左右に小さく揺らすぐらいだ。

 

 「......闇フレイア、闇カナメ、そして闇レイナ。

 3人と遊んでみて分かったのは、君たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと。」

 

 「はぁ? 私たちはYami_Q_rayだぞ?」

 

 「それなんだ。

 だったらワルキューレのコピーなんて枕詞は捨てて、Yami_Q_rayとして生きてほしいと俺は思う。

 だってみんな1人1人、個人として凄いカッコいいじゃん。」

 

 そう、先ほど見えたYami_Q_ray誕生の瞬間。

 歌う彼女達は何というか、すごくカッコよかった。

 だから枕詞は無しにしてただのYami_Q_rayを見たいのだ。

 わがままに聞こえるかもしれないが、俺は勝者なので。

 

 はああ、と大きくため息をつきながら、彼女はその手で頭を抱え、瞳を閉じる。

 心なしかその顔は口角が上がり、嬉しそうに見えた。

 

 「......しょうがない、勝ったやつからの願いだからな!

 私は私らしく、()()()()()()生きてやるよ。」

 

 「うん、それがいい。」

 

 疲労困憊ではあるが、満足だ。

 昨日とは違って、今日は大の字、心晴れやかに眠れそうな気がする。

 

 

 

 

 「━━そういやぁ、お前の『闇ナントカ』みたいなネーミング、闇雲が喜んでたぞ。」

 

 「え、ホント?」

 

 「ああ、私たちからしてみても『ねえ』とか『貴方』とかで読んでたのが固有名詞になったんで、楽でいい。」

 

 「嬉しいな......」

 

 「あとよ、正直言って1人以外はYami_Q_rayの個人として自分を持ってる。

 お前が会ったことのない闇マキナも、闇雲もな。」

 

 「じゃあ、後1人はやっぱり......」

 

 「そう、闇フレイアのやつ。

 あいつは...... 一番、苦しんでるよ。」

 

 

 





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