「びえぇぇぇえ!!!」
「泣くな!! せっかく寝てんのに起きんだろうが!」
うるさ、何何?
やかましいというか頭に響くというか、まるで赤ちゃんみたいに叫ぶような泣き声に叩き起こされて上体を起こす。
首から顔にかけてある気怠さに違和感を感じながらも眠い目を擦って見回してみれば、横座りで人差し指をピンと伸ばしながら叱る闇レイナと、なんとも露出の多い服、というかほぼ下着の上にジャケットを羽織っただけのような姿にお団子ヘアーの泣いている女性。
「......どうしたの?」
「悪い、起こした。
いや、コイツがな━━」
「ぶぇえええん! 助けてぇ!」
泣き叫びながら飛び込んできた彼女を抱きとめ、ベッドの上に下ろす。
結構危なかった、後一歩で腰をいわすところだった。
そんな俺に気兼ねすることなく布団でぐしゃぐしゃな顔を拭きながら目の前で泣いたままの彼女、闇マキナは語る。
「あのね!? 昨日セイレーンの中からSV-303を色々いじってたの! そしたら闇雲から呼び出しが来て、行ってみたら闇カナや闇フレと一緒に怒られて!
「ハア?! 大体お前が━━」
「闇レイもこんなふうにいじめてくるし!」
俺を間に挟み、見慣れた髪色2人の見なれない口論が始まる。
......多分これ俺、王様の耳はロバの耳に出てくる穴みたいな使い方されてるな。
ぎゃあぎゃあと両サイドで言い合いをしているのはいいが、俺寝起きなんだ。
思わず目を閉じて天を見上げるが、どこにも助けはない。
でも、なんていうか......
「闇雲も根拠のない説教するわけ無いはずだろ?!」
「アーアーアー聞こえませーん!!」
闇マキナは我を通す力が強いらしい。
しかしそれは人の話を聞いた上でのものではなく、あくまで自分本位で身勝手なもの。
いわゆる不和を起こす存在であり、まあ...グループのメンバーとして考えると、毒だ。
まあ毒の塊みたいなグループではあるし、彼女のような人が1人いたとして、まじめな皮をかぶっていたグダッとする人とか、凄く嗜虐的な人かと思えば中身はすごい優しい人もいるので、たった1人が水面に立てた波紋程度で崩れるようなYami_Q_rayでは無いだろうが。
...闇雲、大変だろうな。
さて、そろそろ俺を盾にするのはやめてもらうことにする。
闇マキナの腰を両サイドからがっしりと掴み、まるで猫でも持つかのように地面に置く。
正味眠たいし、手早く済ませてしまおう。
「論争はそこまでにして、適当に遊びでもしようか。」
「へ? ...うん、いい、けど。」
「おい、まだ私の話は......」
言いかけていた言葉をアイコンタクトで止め、闇レイへ微笑みかけた。
瞳から思考がばれるっていうのも、こういう時には結構便利なもんだね。
さあ気を取り直して、今回やるのは食い気味クイズ。
ルールは簡単、相手の出した問題を言い終わる前に答えるだけだ。
ラグナの子供達がやっているのをみた時は、みんな結構楽しそうにやっていた。
しかし今回はただ遊ぶだけでない目的があるのも確かである。
「じゃあ俺から問題を出そう。
『赤くて酸っぱいらしい野━━』」
「トマト!」
正解。
まあこんな感じで言い切る前に答えればいいだけの、大したことないゲーム。
その後も闇マキは苦戦することなく、リンゴ、ウィンダミア、ヴォルドールと正解し、次は彼女が出題者。
「やるなあ、凄い。」
「えへ、えへへ。」
というか初対面が泣いてて、その後すぐに闇レイと口論だったから気づかなかったが、結構闇マキは人見知りな面があるようだ。
目を合わせようとしたら逃げるし、勢いに任せなければ初対面の人と話すことすら難しいのでは?
まあそれも個性、俺の番なので彼女が言う問題を聞こう。
「じ、じゃあ、『ヘイムダルの主戦━━』」
「SV-303」
「せ、正解......」と狼狽える彼女に対し、にっこりと微笑みかけた。
少し考える彼女を待って、もう一度。
「『バジュラの体内━━』」
「フォールドクォーツ。」
「ううう...... 『ワルキューレが新たに━━』」
「未来はオンナのためにある。」
止まらない。
「『銀河━━』」
「ウィンダミアアップル、星の歌い手、シェリル・ノーム、カブト虫、紫陽花......」
ここに来て、新しく分かったことがある。
Yami_Q_rayの思考を読む際に身体の結晶化が進行するのはご存知の通りであるが、どうやらそれは奥底の記憶、思考を読んだ時にしか起きない事らしい。
証拠に、いま俺は上辺だけの思考を読んでいる。
だから彼女が言おうとしている問題の先を見て答えだけを口に出している、と言うわけだ。
まあ、側からみればこれはただの
しかしここで彼女の精神性について話したい。
性格は完全なマキナ・中島のコピーとはならないが、少なくともその根底はコピー元に結びつくものがある。
それはYami_Q_ray全員が同様で、神秘は闇と紙一重であり、命は歓喜のために生きて、元気は狂気に変性し。
愛は欲望のままに求められて、希望は絶望となるように、どこかへ同一性が生まれているのだ。
しかし闇マキナに関しては少し裏返り方が特殊。
......
セイレーンシステムが作り出した個人であり、生まれてからまもない彼女達ではあるが、闇レイナを筆頭に精神性は結構成熟している。
しかし彼女は、言ってしまえば子供の、成熟していない心を持つ。
ここが問題で、ここまで見てきた彼女の『話を聞く事なく自身の正しさを貫こうとする強引さ』と『極度の人見知り』、『すぐ泣く』と言う要素は限りなく子供のもので、何故彼女のわがままが罷り通っているか?
それはよくある話。
ただ、身内であるYami_Q_rayの中でだけ彼女は
基本子供というのは、親や共に住む身内からの注意というものを無視しがち。
それは目の前にいる闇マキナも例外ではなく、親のようなものであり統括者でもある闇雲の説教に反発したのもそういう事だと。
「ううう〜......」
「まあふざけるのはここまでにしよう。
どうだった、
そう、俺がここまでやってきたのは闇マキナと同じ、相手の話を聞かず自分のことを押し付ける行為。
身を持って教えない限りは彼女も改めようとはしないだろうと考えたからだ。
思惑通り闇マキは顔に影を落とし、ずうっと涙目で俯いたまま首を縦に振っている。
「そうだね、嫌だったね?
......闇雲も闇レイナもさ、別に虐めようと思って怒ってないと思う。
『怒られるのは嫌!』って反発するのも話を聞いてからでも遅くないよ。」
「......ぐすっ、ひぐぅ... うん......」
「後は人見知りを治さなきゃ。
きっと人の話を聞く事をちゃんとやれば、もっと成長できると思うから。」
泣く彼女に拭くものとして布団を渡し、落ち着かせようと頭を撫でる。
これで彼女は成長できただろうか? 前に進めただろうか?
進めたならいいのだ。
びしゃびしゃになった布団を顔に当たらないよう上にかけ、二度寝の態勢に入る。
横では闇マキナと闇レイナが、今度は静かに話し合いを始めていた。
安心して眠れると言うものよ。
「ごめんね、闇レイ......」
「おう、分かったならいい。
ちなみに闇雲がキレてたのは、
アレのせいでコクピットの無人化出来なくなったんだよ。」
「━━ちょっと待って!!!??」
ちょっと待って!!?
知らぬ間にクリームヒルトがぶっ壊されている事態に、思わず布団を蹴り飛ばしてベッドの上に正座する。
......おれ、どうやってバトル・アストレアからだっしゅつしようかなあ。
眠気が吹っ飛んだ朝。
絶望の道を切り開いたかと思えば、絶望に道を叩き壊された気分のまま携帯食糧を齧っている。