ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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キョウキ、それでもこの愛は

  

 ここまで、Yami_Q_rayと深く関わってきた。

 遊びに興じたり、思考の奥を覗いたり、いろいろな事を話し合ったり。

 その中でずうっと、喉に引っかかった魚の小骨のように持っていたのが、闇フレイアの言った『擬似人格という牢屋』という言葉。

 

 俺がYami_Q_rayを見てきた中で、その牢屋に閉じ込められた子は少なかったどころか、自由になっている者の方が多い。

 これと、闇レイナの言った個人としての自分を持たない1人である闇フレイアという存在。

 それから考えると、彼女は自身からセイレーンシステムという首輪を着け、上っ面の狂気に身をやつした者ではないか、と。

 擬似人格というものは牢屋のように彼女たちを閉じ込めるものではなく、あくまでYami_Q_rayという個人を芽吹かせるための土壌。

 その中で芽を出すことができなかった種こそが、闇フレイアなんだ。

 

 「芽を出す、とか、そんなのあるわけない。

 私たちはこの姿のままただ命令されるままに歌って、銀河へその歌を響かせるだけ。

 変化なんて無い。」

 

 本当にそうか?

 変化が無いというのなら、闇マキナの心境の変化は?

 闇カナメが上っ面の真面目を剥がして気ままに生きるようになった事は?

 それこそ闇フレが勝利の報酬として要求してきた、『愛とは何か』も学習して変化するための一要素。

 彼女は自身を機械と評したが、機械は成長しないだろう。

 

 そも、子機は親機に逆らわない。

 対してYami_Q_rayは親機である闇雲に余裕で逆らうし、なんなら泣かせた。

 果たしてその行為をおこなったのは命令されるままの擬似人格か。

 それとも、擬似人格の中に生まれた人間と遜色ない、一個人としての心か?

 

 「知らない......」

 

 知らないなら知ればいい。

 君たちがやった『ワルキューレの学習』となんら変わりない事だ。

 そりゃあ最初はYami_Q_rayをワルキューレのコピーとして見ていた事は間違いないし、なんなら一個人としても見ていなかった。

 だがここまで関わってきた以上、Yami_Q_rayをただのコピーとしてみる事はできないのだ。

 しかして彼女たちの本質にはどこかワルキューレと同一の面、もしくはそれが反転したものを持っている。

 

 闇レイナがレイナの優しさに似たものを持ち、闇カナメがカナメさんの真面目さの対極にいるように、闇フレイアはフレイアが持つ元気さの反転、言ってしまえば弱々しく後ろ向きな本質を持っているのではないか?

 時折見せるアンニュイな表情はまさにそれ。

 

 「......うるさい...」

 

 彼女の持つルンもそれを表している。

 あくまでそのルンは飾りなのかと思っていたが、もし常に後ろ向きでマイナスであれば、説明がつく。

 ルンは悲しい、辛いと心が動くと暗く黒くなるからだ。

 

 さて、話を戻す。

 言ってしまえば他のYami_Q_rayが二歩先を行く中、彼女はその後ろをついていく事しか出来ていない。

 何故か?

 

 それを知ったのは闇レイナの思考を覗いた時。

 セイレーンシステムのデバイスの中で、闇フレイアの様子が写っていた。

 そこにいたのは目の前にいる狂気を纏う少女とは違い、小さく丸くなって静かにしている、寂しそうな女の子の姿。

 ......思えば、闇フレイアは俺の前ではアグレッシブだ。

 それをYami_Q_rayの前でもやっていたのなら、闇雲の文句の中に彼女の話が出ていたはず。

 つまりは、彼女はYami_Q_rayの皆といる時はその差から進んで行くこともできず、いの一番に俺のところにきたことからも、ある程度俺の前ならストレスを発散しやすかったのだろう。

 

 幸いだったのは、闇カナメが話しかけてくれるタイプの人だったことか。

 

 「うるさい......!」

 

 そして彼女は、最もYami_Q_rayの中で人に対する憧れを持っている。

 フレイアから生まれ、しかし個人になれるような心の強さはなく、自由になることもできない。

 そんな彼女だからこそ人に憧れ、そうはなれなかった自分を嫌うかのように俺の『人みたい』という言葉を否定した。

 

 つまりは━━

 

 

 「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!!」

 

 激情のままに彼女は俺を押し倒し、腹の上へ馬乗りになった。

 その表情に余裕はなく、それに連なった機械のような冷たさは無く、ただ貼り付けたような狂気は心の奥底にあった怒りへと姿を変えていた。

 瞳から炎のようなエフェクトを出しながら、振り上げた拳が俺の頬を叩く。

 言うまでもなく、激痛が走った。

 

 「私は、私は自由にはなれない!!

 記録映像にあったワルキューレのように楽しそうにも歌えないし、Δ小隊(あなたたち)のようにもなれない!

 どうすればよかったの?! コピーした時のフレイアが不安定で、不完全なコピーになったと思えば個人である事を剥奪されて!

 私は私を保つ為に『歌は狂気』って言って!!

 挙句あなたは私の事を『人みたい』とか!

 ......()()()()()()()()()!!」

 

 慟哭が響いている。

 鈍い殴打音も、鼻をすする音も。

 

 「憧れは憧れのままでよかったの!

 私たちは、電脳としか生きられないのに... 人になれるかもって希望は要らなかった!!」

 

 「...だから、愛、を......」

 

 「人は愛を持つってあなたが見た映画で言ってた。

 だから聞いた...けど、答えは返って来なかった!

 ねえ、直してよ! こんな思考じゃもう......歌なんて、歌えない......!」

 

 力無く振り下ろされた最後の拳を受け止め、彼女の上体を抱き寄せた。

 パキリと結晶化が進行する音と痛みに耐えながら、血の漏れる口で囁く。

 

 「俺は、どんな愛が正しいかなんてわからないけれど。

 いまこうやって、君を抱きしめて『ごめんね』って言う事は、俺から君への、闇フレイアという君自身への()だ。

 ......あの時は、どれが正しいかなんてわからなかったから。」

 

 「...う、うぁ...」

 

 彼女の奥底を見た。

 嵐のように逆巻いていたのは、孤独という寂しさや追いつけない悲しみ。

 そして、愛への飢え。

 

 愛なんて、想いがあればなんでもいいんだ。

 それこそ俺が言った『ありがとう』だって、見方を変えれば愛になる。

 彼女の孤独や悲しみは俺1人じゃあどうにもできないけれど、いつかはYami_Q_rayが溶かしてくれるはずだ。

 誰のコピーでもない心をもつ、彼女達が。

 

 ━━つまり彼女は、誰のコピーでもない『()()()()()』として、生きたかったんだ。

 

 泣き叫ぶ声を子守唄のようにしながら、痛みの中で瞼を閉じる。

 最後に見えたのは、閉ざされた牢の天井だった。

 

 

 

 「セイレーンデルタシステムは覚醒、レディMは射程圏内。

 レイン・クロニアの学習は未だ途中ですが......いかが致しましょう?」

 

 「殺しても問題は無いだろう。

 明日、排除する。」

 

 「了解いたしました、クロムウェル様。」

 

 

 

 

 「......ん...」

 

 痛みと物音で目を覚ます。

 未だ痛む上体を起こして物音の方を見れば、後ろ手に手を組んだ闇フレイアがどこか申し訳なさそうに、しかし落ち着いた笑顔を見せてこちらに近づいてくる。

 少し気になるのは、牢の扉を閉めないところだ。

 

 「......ごめんなさい、あんなに殴っちゃって。」

 

 「いや、いいんだよ。

 こう見えて丈夫なんだ俺は。」

 

 互いに笑い合い、怒りはない。

 それどころか清々しい気持ちが、愛がその間にはあった。

 すると、闇フレイアから何かを手渡された。

 よく見てみれば、それは俺の携帯。

 

 「なんでこれを......」

 

 当然の疑問だった。

 俺と彼女は敵だ、それは何があっても変わらない。

 しかし彼女は笑みを浮かべたままベッドに座り、脚をパタパタと振りながら軽く語るのだ。

 

 「そもそもね、私たちが貴方に接触するのは『レイン・クロニアのコピーを戦力とする』って言う名目があったの。

 でも、もういらないんだって。」

 

 「つまり俺は殺される、と。」

 

 「うん。

 でもわたしはヤダ。 だからその携帯の中にレインの付けた手錠を外せるプログラムと、バトル・アストレアの地図を入れた。

 ちなみに手錠は外して少ししたら爆発するから。」

 

 彼女は斜め上を見上げ、こう言うのだ。

 殺されてほしくないから逃げろ、と。

 昨日までの俺であれば、『ありがとう、逃げる』とすぐにでもこの牢を出ていっただろうが、今は彼女が心配だ。

 

 「......大丈夫、別に私たちの中からレインとの記憶を消すわけじゃないから。

 でもアストレアの中から出たら......Δ小隊のΔ6として、狙いに行くからね。」

 

 それは覚悟のこもった声。

 一瞬俯くが、すぐに顔を上げて携帯を腕につける。

 

 「......闇フレイア。」

 

 「うん、こちらこそ。」

 

 「「()()()()()。」」

 

 

 互いに手を振って、それからすぐに背を向けて走り出す。

 彼女達は遊びを知った。

 俺は愛を知った。

 

 学んだ事を胸に、今は格納庫へと一筋に向かっていく。

 

 

 

 

 「......『アリガトウ』、か。」

 

 ベッドに寝転び、天を見た。

 あの時ソレじゃない言葉を言っていたら、彼は驚いてくれたかな?

 でももう過ぎた事だから、思いは心に、彼が光をくれた心に秘めて先へ進もう。

 ボソリと呟いて、アンドロイドから意識をセイレーンシステムの中へと戻した。

 

 「......『アイシテル』、なーんて。」

 

 ガチャリと崩れ落ちる鉄の音。

 それから先、そこにはにぎやかさの戻る事はない。

 

 ただ、過去に光があっただけの独房だ。

 

 

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