ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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アメ、昇華させて

 

 「......あー、こっち!」

 

 携帯に入っているマップに従い、振り返る事なく走る。

 鳴り響いている警報はヒトという皮を被った無機質な殺戮者を目覚めさせ、頭部がガンバレルのようになったアンドロイド達は駆動音をかき鳴らして、俺の焦りを増やしていく。

 

 幸いだったのは、アンドロイド達が俺に気付くのに遅れた事。

 これも闇フレイアが正規の手順で牢を開けてくれたからだろう。

 感謝してもしきれない。

 

 迷路のような道を抜け、携帯内に入れられていたハッキングアプリをエレベーターに近づけ、強制的に起動させた。

 ここから少し上に上がれば格納庫。

 警備はより厳しくなるだろうが......止まってはいられない。

 到着音と同時に走り出し、最短ルートで走る。

 

 「...ついに見つかったか!」

 

 曲がり角を抜けた瞬間、アンドロイドの目と目が合う。

 多分この一瞬で俺の位置は全ての奴らに周知され、全員ここに向けてからのだろうが、それはそれで好都合。

 頭部から放たれるエネルギー弾の直撃を避けるように左右に揺れながら、足を止めずに格納庫へと辿り着いた。

 

 誰もいない事を確認してから立ち止まり、後ろから迫る殺戮者にニヤリと不敵な笑みを見せる。

 それと同時に携帯を操作してピッピッと鳴り続けてずっとうるさいなと感じていた手錠を外し、床を滑らすように奴らの足元へ蹴り飛ばした。

 

 「最後の決め手をくれてありがとな!」

 

 捨て台詞を吐いて一瞬の閃光と共に爆炎が上がり、通路は炎と瓦礫のマリアージュで見る影もなく、機械の叫び声が聞こえるのみ。

 それを見ればもう脱出は眼と鼻の先であるが、俺の腹からはそれを許さないようにポタポタと血が滴り落ちていた。

 本当に油断というのはするものじゃあない。

 爆発の際、それに巻き込まれたアンドロイドと腕にある剣が吹き飛び、俺の腹に突き刺さったのだ。

 幸いに貫通はしていないし、この程度で倒れ、諦めたりするような心を俺は持っていない。

 

 格納庫の中、自身の機体を探す。

 探す、と言ってもほぼ分かりきっていた。

 

 これを言ったら、『お前は何を言っているんだ?』とか言われそうなのでハヤテ達には言っていないが、機械にだって意思はある。

 Yami_Q_rayの様に意思疎通まではいかないが、こう、目でわかるんだ。

 多分俺の機体にはフォールドクォーツを載せてあるから、尚更に。

 

 「......随分変わっちゃったな。」

 

 見えるままに歩き、俺のVF-31を見つけたが、その見た目は全く違うものへと変化していた。

 デルタ翼は前進翼へ姿を戻し、機体はグレーと黒の2色に加えて赤と青のラインが不気味に輝いている。

 翼に取り付けられたエンジンポッドは資料で見たYF-29の物に驚くほど似ているが、それは似て非なる物で、おそらく回転機構は無くただの推力強化。

 コンテナユニットに搭載された武装は変更されている様だが、見た目だけでは中身までわからない。

 

 自分の意図とは違いだんだんと速く走り始める鼓動に息を切らしながらキャノピーを上げ、変わらない中身にホッとしながらもコクピット内を探る。

 

 「あった。」

 

 探していたのは隠しておいたチョーカー。

 解体しないと取れない様な場所に隠しておいたこともあり、闇マキナが壊したと言った時は生きた心地がしなかったものよ。

 首につけ、パネルを触りエンジンを動かす。

 幸いにも動かし方は変わらない。

 

 ガウォークに変形しながら後ろ向きにビームガンポッドが2本搭載されたコンテナユニットを展開し、格納庫の壁を吹き飛ばした。

 バックで脱出する際に腕部ガンポッドで横にあったSV-303を壊し追手の足止めをしながら、3度目のウィンダミアの空へ飛び立った。

 それと同時に携帯へメールが入り、全天周囲モニターとなったコクピット内へ映し出される。

 

 『この時間はちょうどSVを偵察に向かわせる時間で、後10秒でフォールドゲートが開く。

 それに入って惑星リスタニアの周辺に出たら、もうその瞬間から私たちはお前を殺す。

 ......闇フレイアに感謝しろよ、お前を助けたいって言ったのはアイツだからな。

 ちゃんと責任取ってやれよ。

 Yami_Q_rayより』

 

 「━━はは、変に律儀でやんの。

 ......ありがとう。」

 

 たった一つの感謝を返信して、クリームヒルトとは比べ物にならない速度に顔を顰めながら目標地点へ向かう。

 背後から飛んでくる対空砲火を竜鳥のごとく避けながら機体を反転させ、村々を見た。

 そこにいたのは生き残っていた空中騎士団、テオ、ザオ、カシムにヘルマン。

 それにレーブングラスのグスタフ村長と、空に手を振るエーリカの息子。

 

 ぐっ、と彼らに向けて親指を立てる。

 絶対にこの星を取り戻すという決意と固い覚悟を持ち、操縦桿を握り直してもう一段スピードを上げた。

 

 時折嫌がらせの様に背後へガンポッドの一撃を放ちながら、ついに開いたフォールドゲートへと突入した。

 流れ続ける光の奔流に包まれながら、天を見上げて胸に手を当てる。

 ああ、本当によかった。

 俺の翼が戻ってきたのだ。

 もがれた片翼は生え変わり、さらに強靭な翼となって。

 ......しかしそれは真っ黒の闇となってだが、別に忌避感や葛藤はなく受け入れられる。

 闇も光もこの背中に宿してやろうじゃあないか。

 

 フォールドゲートを抜けると同時に5機のSV-303 ヴィヴァスヴァットが周りに展開し、行く手を遮る。

 バトロイドに変形した各機の肩に乗るようにして、Yami_Q_rayが挑発的に歌い始めた。

 これは確か、『Diva in Abyss』だ。

 

 ふう、と息を整え、自身を鼓舞する様に暗黒の宇宙へ雄叫びを上げる。

 

 「━━来い、Yami_Q_ray!!

 俺を闇に葬ってみろ!!」

 

 既にフォールドゲートは閉じた。

 ならば、奴らの援軍は来ないし俺にだって逃げ切れる可能性はある。

 ここからは俺が強いか彼女達の歌が強いかの単純明快な勝負。

 バトロイドからファイターへ変形し、5対1の完全不利なドッグファイトへと望むことは無謀ではない。

 これは、覚悟だ!

 

 歌による効果かどうかは定かではないが、広がった視界と鋭敏になった聴覚に困惑しながらも、ペダルを踏み込んでエンジンをふかす。

 武装とモードの詳細はフォールドゲートの中で確認した。

 全力でいかせてもらうと、翼を根本から上に、脚部を斜め下へ伸ばした高機動モードで攻め立てる。

 最初に狙うのは勿論闇マキナだ。

 

 『きゃあっ?!』

 

 『はっ、本当の本気(マジ マジ)に容赦なしかよ!』

 

 もちろんだ。

 俺とてただあの独房の中で遊んでいたわけじゃあない。

 遊び、ゲームにおける盤面の進め方というのは、各々プレイヤーの性格が出る。

 それは戦闘においても同じ事であり、俺はただの暇つぶしではなく相手の情報収集も同時にこなしていたというわけだ。

 

 だからこそ、ウィンダミアに侵攻してきた時には手も足も出ず、Yami_Q_rayとして覚醒した彼女達にも今は同等以上の力を持って立ち向かえる。

 無人機(ゴースト)に対する対策は傾向を見つけ、そこを重点的に、かつ修正されても構わないように努力する事。

 父さんからの、青騎士からのありがたい教え、というやつだ。

 

 しかしながら、単純なスピードの高速化には手も追いつかない。

 SV-303も高機動モードに変形し、全天周囲モニターのおかげで見逃すことこそないが、予測して置いておいた狙撃ですら追い越され、空を切る。

 ならばとスロットルを動かし、バトロイドに変形すると同時に脚部のユニットを展開、発射する。

 発射された幾重にも束ねられた糸のような光は、まるで花火のように広がった。

 それは高速の回避機動へ動きを変えた敵機を執念く追い詰め、致命打にならずとも確かに着弾し一瞬動きを止める。

 

 止まったのならばそこを詰めない理由はない。

 即座に上を取り、コンテナユニットから分離したビームガンポッドでバリアを張る暇なく心臓部を貫いた。

 手始めに一機。

 

 そのヴィヴァスヴァットを操っていた闇マキナはその機体から飛び退き、ふわりと闇レイナの膝上に座ってその背中にレイナの手が添えられる。

 

 『やってくれるわね。

 闇マキナ、少し弄りすぎよ。』

 

 『うう、ごめんなさ〜い......』

 

 闇マキナが操るSV-303を落とす決め手となった先程の武装は、モニターに映る名称を見るにビフォーズ製の試作品『自動誘導式曲射レーザー』、つまりはホーミングレーザーというもの。

 残弾を気にしなくていいミサイルと言えばいいか。

 これを連発できれば戦況は大きく俺の方へ傾くだろうが......

 

 「......くそ、エネルギー使いすぎだ。」

 

 試作品の名は伊達でなく、かなりエネルギー消費が激しい。

 もう暫くは再使用もできないだろうが、問題は無い。

 バトロイドの頭部、人でいう口に当たるところが開いて排熱し、ツインアイ型のカメラが彼女を、闇フレイアを捉える。

 

 少しの間見つめ合い、互いに少し微笑んでから叫んだ。

 

 『━━もっともっと、遊んでよ!!』

 

 「━━好きなだけ遊んでやる、闇フレ!!」

 

 放たれたガンポッドの弾をピンポイントバリアパンチで弾き、肉薄する。

 この空間は、この空間だけは。

 ただ誰のことも考えず、口角を上げて飛ぶ。

 殺し合いを遊びへと昇華させるように。

 

 

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