『━━惑星リスタニア周辺でフォールドゲートの反応があった。
記録衛星から確認したが、どうやらヘイムダルのSVと戦闘を行なっている機体があるらしい。
恐らくだが友軍の可能性が高い、Δ小隊はバード1と共にその戦闘宙域は迎え。』
「了解。
......じゃあ行ってくる、絶対戻るから。」
「ん......頑張るんよ、ハヤテ。」
アラド隊長からの指示を受け、時間を惜しみながらも医務室を出た。
去り際、ベッドで横になっているフレイアへ手を振ることも忘れない。
......先の戦闘で俺たちが失ったものは、あまりにも大きい。
アラド隊長は身体中を怪我してVFに乗れるような状態になく、フレイアは...俺を助けるために歌い、その身を結晶に包ませた。
強すぎるルンの輝きは命を削る。
その言葉通りにフレイアの体はボロボロになり、カナメさんが言うには、歌った際に体内から発されるフォールド波の放出に耐えられるかどうかもわからない、と。
━━どうすれば良かった?
Δ小隊が、俺がもっと強くて、SV-303を薙ぎ倒せるような力を持っていたらああはならなかったのか?
もしくは青騎士が席を外していなければ、レインがここにいてフルメンバーならフレイアは今も健在だったのか?
堂々巡り、いたちごっこ、そんな事を考えたって進めないのはわかっているが、どうにも足が止まる。
その足を半ば無理矢理背中を押して動かしたのは、常に目元へ皺を寄せている青騎士、クレイル・アズール。
その瞳はもう戻れない程に前を見据え、もはや未来すら思考のうちに入っているのではないかと思ってしまうほどの眼力。
「......ハヤテ君。」
2人しかいない廊下に、優しげに語りかけるような声が飛んだ。
声の主を見たが、その目線はあくまで前。
「君は、
重たい。
あまりに重たい問いに、思わず口をつぐむ。
俺はフレイアに生きてほしい。
生きて生きて、俺と一緒にリンゴ畑を作っていってほしい。
しかしフレイア自身はどうか?
あんな体でも『歌いたい』と言った時、俺はそれにYESと答えられるのか。
迷いはどんどん首輪へと繋がれていき、今にも俺の心を砕かんとその重みを押し付けてくる。
「......俺には正解がわからない。
レインみたいに割り切れるわけでもねえし...」
「選択と言うものは、それを選んだ段階では正しい正しくないなんてわからないものさ。
未来は不確定なのだから。
もし彼女が歌う選択をしたとしたら、君がその未来を不正解から正解に変えろ。
それができるのは、彼女と恋仲にある君だけだ。」
それは、ゼルヘスに住む人たちの未来を不正解に変えてしまった男からの、重たい言葉。
その言葉は弾丸のように刺さり、俺の背筋を半強制的に伸ばさせた。
「さあ行こう、今日こそヘイムダルにぎゃふんと言わせる時だ。」
「あんた......結構優しいのな。」
「いいや人並みだよ。
褒められると照れる態度にはね。」
「バード1、Δ小隊共に目標宙域へ到着。」
背後にマクロス・ギガシオン、4人のワルキューレを背負いながら、暗闇へ警戒を強める。
......さて、この任務が終わったなら考えなければならないだろう。
託されたものの使い方、その方法を。
俺がヘイムダルが目をつけていない小惑星へ向かっていたのにはちゃんとした理由がある。
ゼルヘス人から託された強大な力に対するカウンター。
『
幸いにして7年前に隠した時から増減なく手元へ揃い、今はギガシオン内で保管させてもらっている。
本来なら
しかし状況が状況、このままレインが帰ってこないようであれば、ラインの黄金をΔ小隊の各機に分けて取り付けることもあり得る。
きっと、きっと、銀河におけるこの未曾有な危機に関しては、クラウド氏も『仕方がない』と納得してくれるだろう。
この世界が秩序なき暗黒に染められてしまうか、決まりを破ってでも青空が待つ未来を守るかなら俺は迷わず後者を選ぶ。
どうせ後先短い命だ、代償に持っていかれても構わない。
視認できる距離にまで戦闘している場へと近づき、こちらを意に介さず撃ち合うドッグファイターの姿。
3対1の戦場に見えるが、周りに浮かぶ残骸から見るに既に2機撃ち抜かれ叩き壊されている。
孤軍奮闘する黒い機体は相当の手練れだろう。
しかし、この飛び方はまるで......
『...
『ええ? Δ2、俺にはすげえドッグファイトにしか見えないぞ?』
『......確かに、ルンに感じた風も気持ちが悪い。
明確な殺意をぶつけ合っているのに、楽しんでいるかのような...』
『それにあの飛び方...... ミラージュ、オープン回線で聞いてもらってもいいか?』
ミラージュ嬢の言う様に、俺にもあれが単純な殺し合いには見えない。
Yami_Q_rayなんて言っていたバーチャロイド達もこちらには目もくれず、薄ら笑いを浮かべながら黒いVFと遊んでいるみたいだ。
怪訝に思いながらミラージュ嬢の通信を聞いた。
『こちら、ケイオスリスタニア支部所属マクロス・ギガシオン並びにΔ小隊。
支援に来ました、余裕があれば所属と隊名を......』
『━━ミラージュ!?』
聞き覚えのある、しかし成長したこの声。
思わずスロットルレバーを握る力が強まった。
『この声、まさか!?』
『レイン・クロニア、どうにか帰って来たよ!』
少し涙が目を塞ぐ。
バイザーを上げてパイロットスーツでそれを拭き取り、指示が出るよりも先に動き始めたΔ小隊に追従する。
再開を喜ぶのは後、今はYami_Q_rayを退けなければ。
『Δ小隊各機、フォーメーション・エレボス!』
それぞれ散開。
ちょうどよくこちらは6機、あちらは3機。
数的有利が取れるのは日を見るより明らかであり、俺はチャック少尉と、レインはハヤテ君と共にSVへと迫る。
だが、そう簡単にはいかない。
今俺たちが追っているのはいわゆる
本来Yami_Q_rayは思考を分散させ、歌によるブースト込みで強力なゴーストとしての進化を発揮する。
その分散した思考がただ一つの機体に集まり、さらにはそこへもう一つの思考が加われば?
厄介になるのは言うまでも無い。
「Δ3、下がってサポートに回ってくれ!
合図と共に一斉射を頼む!」
『
こうなれば仕方がないと踏ん切りをつけ、チャック少尉を下がらせる。
残り少ないルンの光、その一欠片を燃やして勝利を掴む!
要所に取り付けられたフォールドクォーツがワルキューレの歌に反応し、さらに機体性能をブーストさせる。
危機を察知したか、敵機が踵を翻して逃げようとも絶対に逃さない。
この機体はふざけたチューンをしてあるのだ、たとえゴーストの全力、その回避機動でも俺は振り切れない。
『へえ、レインのお父さん、やるものね。』
『問題は無いわ、ここで落とされたとしても私達に損傷は無い。』
嘲笑って見下す奴が俺は1番嫌いなんだ。
だから、今ここで! 俺はお前たちを落とさなきゃあ気が済まない!
敵機の回避機動を遮る様に、既にパージしてトラップの様に置いておいたミサイルポッドを左右の片側だけ起動させた。
それと同じ瞬間、ミサイルへの回避起動を咎めるように遠くからレーザーが来襲。
SV-303の翼を焼き、時が止まる。
レーザーを撃ったのが誰か?
そんなものは見なくともわかるというものよ。
ルンに感じる暴風に向けて親指を立てながらバトロイドへ変形し、SV-303にミサイルポッドを投げつけて全砲塔を向けた。
渾身の力でトリガーが引かれる。
「今だ、チャック少尉!!」
『━━うおぉぉぉお!!!』
一斉射を浴びた敵機は爆炎の中でその身を焼き、残ったものは鉄屑一片。
俺は勝利を掴んだのだ。
片方は蒼く、もう片方は赤色。
幾重にも交差して螺旋の様な軌道を描くその2機は、だった一つの機体を追う。
機銃でエンジンを狙うが、容易くローリングで躱されて残像の残る様な速度で背後へ着き、1発1発遊びのない銃撃が俺たちを襲う。
しかし避ける事は難しくない。
ガウォークへと変形して準備万端のレインの背中を踏み台にして、カップルが使う二又のストローの様に両サイドから回避と同時に攻め立てる。
だが、Yami_Q_rayは容易くない。
バトロイドに変形してバリアを盾に銃撃を受け止め、カウンター気味に俺たち2人を撃ち抜かんとする。
ならばとこちらもバトロイドに変形、シールドで受け止めるが、傷はこちらの方が大きいか。
2機並んでYami_Q_rayと向かい合い、挑発的に足をぶらぶらと遊ばせる奴らを見上げた。
「くそ、捉えきれねえ!」
『━━私はレインと遊びたいの。
オリジナルの彼氏は呼んでない!』
「はあ?!」
俺はお呼びでないと。
ふざけているのかと思ったが、Yami_Q_rayのその瞳は何処をどう斜に見ても本気。
『レインと
「どうする、レイン。」
『......今から、闇フレイアを追い続けるレーザーを撃つ。
レーザーの持続時間は5から10秒、それが彼女の動きを制限している間に仕留めるしかない。
撹乱は頼めるかな?』
「任せとけよ、親友!」
『ありがと!』
2人息を合わせ、レーザーの発射と共にファイターへと変形してYami_Q_ray...... レインが言うに、闇フレイアを追う。
1、2本レーザーが明後日の方向へ向かっていったが、気にしている暇は何処にも無い
今は火器を全て使って闇フレイアの行く手を制限し、10秒の間に決定的なチャンスを作るしか道はなく、少々の焦りが頬を伝う。
しかし10秒もかからず、レーザーはその姿を消した。
SV-303がデブリ帯に突入し、それを盾にレーザーを受け止めた為だ。
得意げにガウォークへと変形してその銃口をこちらに向けるが、これこそが俺の狙っていたチャンス。
放たれた一撃をデブリを踏み台にして避け、奴の視点を360度回転させる様に変則的な軌道を取る。
思惑通り闇フレイアはデブリ帯での戦闘には慣れていない。
加えて俺の動きにも。
ならばその不確定要素から生まれた隙を突くのは、親友の仕事だ。
『はあぁぁぁあ!!』
闇フレイアが背負ったデブリの影からバトロイドになったレインの機体が上から現れる。
咄嗟に放たれた一撃をフォールドクォーツに受けながらも、バリアの展開されたミニガンポッドは小さな手槍の様にSV-303の脳天から機体中部までを貫いた。
さぞ悔しがるかと思えば、闇フレイアは何処か満足そうな顔をして立ち上がり、レインに微笑みかける。
『......負けちゃった。
これで2勝1敗だね?』
『ああ。
ここからもう一回勝って、ゼロに戻してやるさ。』
『期待してる。
━━ありがとう、レイン。
大好き!』
爆炎がレインの機体を包んだ。
黒煙を纏う様にしてその炎の中から現れたそのVFは、頭部についた口の様な排熱、冷却機構を開いて
急速冷却による音だと分かっているが、俺たちにとってそれは勝利の雄叫び。
この日この時、初めて
『......ただいま、ハヤテ。』
「おっせえよ。
......おかえり。」