ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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昂り エキサイトメント

 

 走る、走る、走る。

 迫り来るのは本来守るためにこの星に置かれた、ゼントラーディの兵器。

 ふっと横に目をやれば、逃げ惑う人や神に祈る人、はたまた全てを諦め鉄の足を受け入れる人。

 悲鳴の元から目を背けながら、ただ走る。

 

 統合軍も応戦こそしているが、押されているのは素人目にも明らかだ。

 するとバルキリーの脇を抜けて来たレーザーがすぐ近くへ着弾し、3人まとめて吹き飛ばされた。

 

 「ああっ!」

 

 「ぐっ......」

 

 どうやら全員怪我はない。

 安藤したのも束の間、降って来た大きめの瓦礫から体制を崩したままの2人を守る。

 痛みこそあれ、動けなくなるほどではない。

 

 「すまねぇ、あー......」

 

 「レイン!」

 

 「お、おう、ありがとな、レイン。」

 

 彼の礼をありがたく受け取り周りを見渡せば、至る所から炎が上がり、天を焼かんと空へと昇る。

 星が見えなくなるほどに厚く空を覆う黒煙に昔を思い出し、思わず気分が悪くなった。

 

 そんな雑念、負の感情。

 それらを押し流す様に、美しい歌が聞こえて来た。

 声の主を探して首を左右に振れば、砕けた街路を歩く女性。

 その後ろ姿はこの戦場には似つかわしくない程美しく、まるで女神を思わせる。

 

 「虹の、声......?」

 

 「虹の......」

 

 オレンジの彼女の言った『虹の声』という表現に心のどこかで納得していると、声の主は帽子を天に放り投げ、輝きと共に姿を変える。

 

 「歌は、神秘!」

 

 「あ......やっぱり、美雲さん!」

 

 彼女が美雲さん、という女性に視線を奪われていると、頭上から轟音と共に姿形の全く違うVFが現れた。

 洗練された動きで旋回をすると共に、ブーメランの様な複数の機械と4人の人間が吐き出され、先程の美雲という女性の様にその服装を変化させていく。

 

 「歌は、愛!」

 

 「歌は、希望!」

 

 「歌は、命!」

 

 「聞かせてあげる、女神の歌を!」

 

 「「「「超時空女神(ヴィーナス)、ワルキューレ!」」」」

 

 

 「これが......!?」

 

 名乗りと共に空へ浮かび上がったロゴマークに、先ほどまでとは打って変わって恐怖ではなく興奮を露わにする市民。

 一瞬のうちにワルキューレ一色に染め上げられた戦場に、頭が困惑を隠そうともしない。

 

 そんな俺を含めた市民を黙らせんと、リガードの砲塔がこちらを定める。

 だが、それは女神が許さない。

 さっきVFが射出したブーメラン状の機械が美雲さんの指揮でオーロラの様な壁となり、その砲撃を防いだ。

 

 「すっごーい! ごりごり〜!」

 

 「うわ、マジか......」

 

 1ファンとして真っ当な興奮を見せる彼女に対して、俺は信じられないものを見る目で(ソレ)を感じていた。

 普通歌手は、掴む場所があるとは言えバルキリーの上に乗って歌うものなのだろうか。

 戦場という誰も喜ばない環境で、市民がここまで興奮できるライブを決行するという、ある意味での混沌(カオス)を作る彼女達の力に少しづつ魅了されていっている様な、そんな感じがする。

 

 バルキリーを交え、ホログラム達と共に踊る姿はまさに女神と言っても過言ではない。

 興奮最高潮の彼女を間に挟み、青髪の彼と微笑みあう。

 どうにかなりそう、という安堵の微笑みである。

 

 バルキリー達がバトロイドからガウォークになり飛び立つ瞬間、えんじ色の機体が少々遅れた様に見えた。

 どうやら彼もそう感じた様だが、まあそれくらいの人間らしさがあった方が親近感が湧くというものだ。

 

 「うお!?」

 

 とは言え、未だヴァールの解けない者もいる。

 それを見つけるや否や、美雲さんはブーメラン状のドローンをグライダーにして突撃。

 条件反射の様な銃撃をグライダーを盾にして防いだと思えば、黒煙の中からさらに加速してヴァール発症者へ接触する。

 

 「マジかよ......」

 

 「うそだろ?!」

 

 それは歌手のやる動きではない。

 そんな驚きがありつつも、軒並みヴァールは鎮圧された様だ。

 一安心と胸を撫で下ろす。

 

 

 それを咎める様に、空へ黒い翼のVFが6機。

 すぐさまワルキューレを支援するVFが飛び立ち、戦闘を開始する。

 市民が逃げ惑う暇すら与えず、地にミサイルの爆発音が響き渡った。

 

 「っ! 危ない!」

 

 「━━レイン!!」

 

 爆炎、瓦礫の激突を避ける様に2人を突き飛ばし、危険を回避する。

 こちらを心配する声が瓦礫の向こうから聞こえるが、再び街を染め始めた戦闘の音にかき消され詳しくは聞こえない。

 

 仕方ないと踏ん切りをつけ、聞こえることを願って大きく息を吸い叫んだ。

 

 「こっちは大丈夫!!

 頑張って生き残って、また会ったら友達にでもなって!!」

 

 不安を視線にこめて、瓦礫の向こうに思いを馳せた。

 ヴァール感染者はまだ近くにいる。

 今は自身が生き残るために、がむしゃらに走り出した。

 

 

 

 走った先、まだ健在な建物が多い場所。

 ふと耳の端を女性の声が掠めた。

 近くにヴァール感染者がいないことを確認し、声の主の元へ向かった。

 

 「......嘘だろ、こんなこと。」

 

 その女性は瓦礫に下半身を潰され、その目は焼かれていて視力はもうない様だ。

 

 「誰か、居ますか......」

 

 「は、はい! いますよ、ここに!」

 

 掠れ、力尽きる寸前の声を聞く。

 

 「近くに、赤ちゃんがいるはずなんです。

 私の大切な、子供......

 最後に抱かせてくれませんか......?」

 

 「わかりました!

 すぐに連れてくるの、で......」

 

 言葉が出なかった。

 赤ちゃんはすぐに見つかった、見つかったが。

 その胸は鉄の棒に貫かれ、口の前へ手をかざすがそこから息は出てこない。

 

 強く奥歯を噛み締めながら、赤ちゃんの胸に突き刺さった鉄棒を引き抜いて母親の手の上へ乗せる。

 母親は亡骸を抱くことすら出来ず、既に息絶えていた。

 

 空には元気に飛んでいる黒いVF。

 後ろを振り返れば、コクピットを正確に撃ち抜かれ目を開いたまま息絶えているパイロットと、五体満足のVF-171、ナイトメアプラス。

 

 ふう、と息を吐き、親の形見であるチョーカーを首から外してトン、と頭にくっつけた。

 冷えた菱形のフォールドクォーツが頭を冷やし、覚悟を固める。

 

 171のパイロットの目を使い、虹彩認証でロックを解除。

 彼には申し訳ないが降りてもらう。

 何故だろう、感情が昂っているのに、目は冴えている。

 今なら宇宙の先まで見据えられそうな、そんな感じだ。

 

 操作は父さんに教えてもらったものと変わらない。

 ならば、今、飛ぶ。

 

 「飛べえええええ!!!」

 

 ペダルを踏み込み、全速力で空へ舞う。

 割れている右側のキャノピー、そこから入る風が、とても心地いい。

 

 忘れていた、と武装を確認する。

 とは言っても見た目通り、ガンポッドはなく頭部と胸部のビーム砲のみ。

 だがこれだけで十分だ。

 

 まずはヴァール感染者へ狙いを定める。

 

 全速力そのままにバトロイドへ変形し、まずリガードの足へピンポイントバリアパンチを叩き込む。

 片足を破壊したのなら後は容易い、4門あるビーム砲をもう一本の足へ集中させるだけだ。

 

 背後から出てきたグラージの奇襲も、ガウォークへ変形して後ろへ急速離脱しながら手足を正確に撃ち抜いた。

 

 

 だが、この2機は本題ではない。

 

 「......あいつらだ、あの母親殺したの!」

 

 目指すのは悠々と飛び回るあの黒いVF。

 奴らへ一撃与えなければ、気が済まない。

 

 もう一度ファイターへ機体を変形させ、上空へと突き進む。

 

 目に映るのは3機。

 一機は緑の機体と、もう一機は黄色の機体とやり合っている。

 ならば俺が狙うべきは━━

 

 

 『9時方向より━━なんだ!? 速い!』

 

 『危ない、避けろボーグ!』

 

   

 何故かナイトメアプラスを抱えたえんじ色の機体にとどめを刺そうとスキだらけの。

 

 「お前だぁああああ!!!」

 

 「ぐおおっ!?」

 

 バトロイドへ変形し、渾身の蹴りを叩き込む。

 惜しむらくは蹴ることを念頭に置きすぎて、ピンポイントバリアを乗せることを忘れてたことだ。

 

 そのまま吹き飛ばしたVFを追いかけ回す。

 ジャミングでモニターにはモザイクの様にしか映らないが、それならば己の目で見るまで。

 可動しこちらを向いたガンポッドを、ガウォーク形態を挟みながら上下に移動して避ける。

 できる限り直線に、スピードを落とさない様に。

 

 「クソッ! なんだコイツは!?

 普通そんな操縦をすればミンチは免れないだろう!?」

 

 後一歩、あと一押し。

 それで俺は目の前のVFを落とせる。

 照準(スコープ)の中心に前の機体を入れ、トリガーを引こうとしたその時。

 

 「教え子はやらせん!」

 

 「マスターヘルマン!」

 

 背後から邪魔が入った。

 これには思わず舌打ちを打つ。

 

 2機相手では多勢に無勢。

 ガウォークとファイターを行き来しながら回避行動に徹するが、ついに翼へ被弾する。

 

 「このっ、クソ!!」

 

 それと同時にナイトメアプラスも限界を迎え、エンジンが停止した。

 悔しさに目を滲ませながら、落ちていく。

 空にいる間、最後に見えたのは、撤退する6機のVF達だった。

 

 

 

 

 「......まるでクレイルの風だった。」

 

 「どういう事です、マスターヘルマン?」

 

 ウィンダミアへの帰路。

 空中騎士団に所属するヘルマン・クロースは、自身の手で撃墜したVFに一つの疑問を持っていた。

 

 「ああ、気にするな、大した事じゃない。

 ......それと、いい加減マスター呼びはやめろ。」

 

 ノンストップかつ全速力で殺しに来たあのVF。

 おそらくではあるが、あのままだったらボーグは死んでいただろう。

 そして何より、あの軌道。

 あれは━━

 

 「何度も手合わせした、クレイルの飛び方そのものだ。」

 

 だがクレイルはすでにアル・シャハルを離れ、何処かへとフォールドしたはず。

 であればあそこにいたのは。

 

 『その子、どうしたんだ!?』

 

 『ああ...... 息子だ。

 名前は━━』

 

 

 「あの怯えていた、息子?

 ......まさかな。」

 

 ふっ、と鼻で笑い、自分の考えを吹き飛ばす。

 故郷の星は、すぐそこまで近づいていた。

 

 

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