時間にして3時間が経った。
球状星団内の残存兵力がマックス司令の元に集い、多種多様な戦艦が反抗作戦の舞台である惑星アルヴヘイムへと向かっている。
......これでアルヴヘイムへ向かうのは2度目だが、そのどちらもが敵対勢力に対する作戦として向かうというのは、なんとも因果を感じるものだ。
メッサーさんの故郷を戦場にしてしまうというのは、結構気が引けるところではあるが。
さて、パイロットスーツに着替えてジークフリードの前まで来たのはいいが、視界一面がオレンジで見えづらい格納庫の中でも絶えず輝く黄金があしらわれているではないか。
スーパーパックらしきものも取り付けられて豪勢だな、なんて思っていると、ギリギリまで整備をしてくれていた様子のマキナさんが小走りでこちらに近づいてくる。
どうにもその表情は、新しい何かを見た興奮が行きすぎて、かえって冷静になった様な印象を感じさせた。
「マキナさん、あのまっ金金な装飾って......」
「装飾じゃないよー。
アレはクレイルさんが持って来てくれた『ラインの黄金』。
砕けちゃったフォールドクォーツの代わりに取り付けたけど...... これ、隠しておいたのは正解かもしれない。」
ラインの黄金を使用しているという情報にギョッとしながらも、マキナさんの差し出した画面を見る。
そこにはマックス司令専用機であるYF-29に使われているフォールドクォーツ、賢者の石とのデバイスによるエネルギー総量の差がグラフで描かれている、が。
2倍以上の差をつけて、ラインの黄金が圧勝しているのだ。
何故プロトカルチャーがゼルヘス人にコレを託し、守らせたか。
その理由はコレを見るだけで明白というものだろう。
しかし、それならば小分けにしてΔ小隊全員に使わせたら良いのでは?
当然の疑問であるが、それに対してマキナさんは首を縦に振らない。
「私もそう思ってやってみたけど...ダメダメ。
デバイスが起動すらしないし、まるで不機嫌な女子みたいにうんともすんとも言わなくなっちゃって。
仕方がないからクロクロの機体に全部搭載したの。」
「......『選ばれし者のみ扱うことができる』か。」
選ばれた者しか扱えないのなら、俺はラインの黄金に選ばれたという事だろうか。
......曰く付きの物ではあるが、これはあの日まで皆と共に守ってきたプロトカルチャーからの遺産。
使ってやる。
仲間の誰も不幸にさせない。
ラインの黄金の悪しき伝承なんて振り払って、空に軌跡を描いてやろう。
「それと、マックス司令のデュランダルが使うスーパーパックの余りを翼に取り付けておいたからね!
推進剤の残量には気をつける様に!
......頑張ろうね!」
「はい! ありがとうございます!」
急いで控室に戻っていく彼女に向けて、大きく手を振った。
振り返り、ジークフリードへ視線を戻した。
「━━お前、本当に
果たしてラインの黄金が俺を選んだ基準は?
何故他の、例えばハヤテではダメなのか?
その真実はきっと超常的だ、俺にはどう頭をひね繰り返したってわかりっこないだろう。
しかし、俺の中で強まり続けるのは、この機体が意志を持っているというあり得ない仮説だ。
作戦開始時刻が近い。
キャノピーを跳ね上げて、少し手が加えられたコクピットへ腰を落とす。
きっとこれが、Yami_Q_rayとのラストゲーム。
切り抜けるのではない、ブチ壊し抜ける気持ちで胸に手を当て、心を研ぎ澄ます。
アルヴヘイム。
Yami_Q_rayの覚醒と合わせて復活したプロトカルチャーのシステムへ、マクロス・ギガシオンを筆頭とした連合艦隊が行進する。
Δ小隊はフォールドゲートが開くまで待機。
1人欠けたワルキューレの歌声が響く中、センチメンタルな気分で夕焼けの空を見た。
『━━メッサーの代わりなんてそう務まるもんじゃないな。
俺は俺らしくでしか、飛べない。』
「ああ。 誰かの飛び方なんて真似するものじゃないな。
どうにも自分を見失いそうで......怖い。
ミラージュ
『言われなくとも。』
『白騎士様......』
『みんな同じなんだよ、赤騎士様。
守りたいものがあるってわけさ!』
一機、また一機と戦艦が落とされるが、誰1人として振り返る者はいない。
時は待ってはくれない、だからこそ、進み続けるしかないのだ。
自分を見失わず、真っ直ぐに。
Yami_Q_rayの歌が乗っていないSV-303では精鋭を容易く撃墜することはできず、遂にワルキューレの歌がフォールドゲートを開いた。
『━━今だ! 全艦、最大船速!!』
マックス司令の指示と共に、続々とフォールドゲートへ準マクロス級たちが突入して行く。
道を開いてくれたララサーバル大尉たち精鋭へ互いの無事を祈る様、敬礼を忘れずに。
フォールドゲートを抜けると同時に目の前へ現れたのは、強行型へと変形し、大量のSVを随伴させて立ちはだかるバトル・アストレア。
雄々しく広げられた両翼は機体色と合わさり、まるで堕天使を思わせる。
しかし恐れは無い。
『Δ小隊、発進!』
隊長となったミラージュの号令と共に、Δ小隊5機がカタパルトより射出された。
━━ここでひとつ、異常事態。
「ぐあっ?!」
『どうしたΔ5!』
射出直後、強烈な頭痛に頭を抱えると同時に機体がバトロイドへ変形し、動きを止めた。
操作はしていない。
まるで脳裏にレーザーを焼き付けるかの様に、この戦場における多くの情報が頭を埋め尽くす。
そう、まるで艦橋に置いてあったレーダーが、脳内に強制的に展開された様な感覚。
息を落ち着かせ、右の鼻穴から吹き出した鼻血を拭き取ってアラドさんへ無事を応える。
「だいっ...じょうぶです!
前線に戻って、作戦通り先行します!」
『気をつけろ、3時方向からゴーストが来ている!』
指示通り現れたSVにISCを利用したマニューバーで追いつき、ターンして距離を離そうとしたその翼を手刀で叩き折り返しの手でコクピット部を一刀両断。
爆発するよりも早くファイターに変形、全速力で離脱し、前線へと復帰する。
一旦通信を切り、一言悪態をついた。
「よくも勝手な真似しやがったな......!」
ここまでに起きた異常事態、恐らくは全てラインの黄金のせいだ。
ひとつわかったのは、意志を持っているのはあくまでジークフリードではなくラインの黄金。
コイツは俺の目にある生体フォールドクォーツと同調、思考にまで侵入して強制的な感覚拡張を実行したのだ。
許容量を超えた思考がなだれ込んだことにより興奮、血管が膨張して鼻血が出たと考えた方が自然でもある。
多分
怒りそうになった心を沈めながら、出来るだけマイルドに、気遣ってそれを口に出した。
......これがヤツに聞こえてなければ、相当のマヌケにしか見えないが。
「━━暴走しないで、俺が『やって』って言ったらやって!
何も言わなければ基本『やるな』だし、思考に入ってこれるなら必要か必要じゃあないかはわかると思うんだ!
たしかに俺を選んだのはそっちだろうけど、変に手ェ出さなくていいから!
とりあえず今はこのままでいいから、次から頑張ろうね!」
脳内に映る余計な表記が消える。
よし!
通信を復帰させ、無尽蔵のエネルギーから生まれる発射数の増えたレーザーがSVを襲った。
バトロイドに変形し、コンテナユニットから分離した2丁ビームガンポッドが別々の機体へその銃口を向けた。
寸分狂う事なく撃ち抜き、爆炎が後光となってジークフリードを照らす。
まるで太陽に映る黒点の様に、ひとつの黒として戦場に影を落とした。
その視線の先には、バトル・アストレアの翼に腰掛けるYami_Q_rayの姿。
ポツリ、未だ流れる鼻血を拭いて呟く。
「正真正銘、ラストゲームだ。」