早まる鼓動、追いつけず離れていく赤と青の閃光。
私は
先に進んでいく2人の影に集るSVを見ながら、自身の力不足を━━
「......見える。」
いや、力不足などはどうでも良かった。
私の飛び方はここにあったのだから!
機体を止めて通信を開き、Δ小隊へ凛とした声で指示を出す。
「デルタ6、5は急速降下。
デルタ3、7は距離を離してその後ろを!」
『はぁ? そこに敵は......』
「隊長命令! 良いから行くよ!!」
だがそれは
未来となれば話は別。
予想通り空を駆けていく2人のエースを追う様に現れたSV303が彼らの後ろにつき、意識の外である私たちの前へ。
側から見れば棚から牡丹餅、しかし最初から狙いはこれだ!
『奴らの背後を、取れた!』
背後を取ってしまえばあとは定石通り。
三機一斉に追加武装である腕部ガトリングを放ち、避ける暇なくSVを排する。
『流石隊長!』
『才能あるじゃん、ミラージュ!』
『風を読むとは!』
「━━これが私の、空...!」
エースじゃなくて良い。
私は隊長、皆を、仲間を導くのが私の空なのだから。
「......才能、か。」
「━━アルファ小隊はBポイントへ!
3時方向に警戒を強めろ!」
横では既に私の指示を待つ事なく、まるで艦長の様に戦況を把握するアラドの姿。
......新しい時代か。
立ち上がり、制帽をアラドへ投げ渡して扉へ向かう。
豆鉄砲を食らったような顔の彼へ、1つ言葉を残した。
「この先には君の方がふさわしい。
任せたぞ、アラド
『......マックス。』
エキセドルに呼び止められ、彼の方を一瞥する。
『長年連れ添ってきましたが...... 今回の判断は、その中で最も優れた判断でしょう。』
「フッ......」
右手で飛行機の形を作り、『勿論だ』と無言で返す。
━━私は、生まれながらのパイロットなのだから。
YF-29を
防衛線を押し上げながら、1人奮起するクレイルの元へと合流する。
心底安心したような声で彼は大きく息を吐き、向こう側から来る無人機を撃ち抜いた。
『はアァ〜...... 死ぬかと思いました。』
「互いに死ぬわけにはいかないだろう。
━━ついて来れるな?」
限界状態で少し口の悪い彼から、元気そうな了承が返ってくる。
『ええ、勿論。
Yami_Q_rayとやらへ学習させてやりましょう、天才と努力のマリアージュ。』
「では行くぞ!」
青の閃光がまた一つ、戦場に嵐を起こす。
触れた物全てを打ち抜き、切り裂き、壊し抜ける。
超高速の速さで前線へ到達し、腕を上げたインメルマンとそのスピード制御に天賦の才を見せるクロニアの元へ。
2人を取り囲むように現れたゴーストを4機まとめてなで斬りにし、その背中を押した。
「行け、インメルマン、クロニア!」
『マックス司令、青騎士!』
司令、というのはふさわしくない。
それは青騎士も同様。
「━━いや、今はただの......」
『
「
『!!』
Yami_Q_rayが一瞬揺れたのを見逃さず、敵の防衛網へぽっかりと大きな穴を作り出す。
デルタ小隊と共に、歌と共に。
彼らを送り出した。
『......行け、レイン。
風はお前達を押してくれているぞ。』
「━━ハイパーマクロスキャノン、出力低下!」
「セイレーンデルタシステムからのフィードバック、安定していません!」
「ぬう...」
「すぐに修正を。」
━━
......
「━━ごっ!?」
「貴様......イプシロンを...裏切━━」
5発、弾丸がシドニー・ハントの頭に命中。
オイルを流して動かなくなる。
「ふん......」
━━
「......総員退艦命令!
ヘイムダルの革命は貴君らが明日へ繋げよ!!」
歌という希望の鐘が鳴り響く中、ギガシオンへ1発ミサイルが直撃した。
重力制御システムが損傷し、ワルキューレが無重力の中でフワリと浮かぶ。
『フレイア!』
「ハヤテ、前を見ろ!!
この程度で歌えなくなるほど彼女達はやわじゃない!」
前方から現れたゴースト達に囲まれ、ハヤテは腕部ガトリング、俺はスーパーパックのミサイルを全弾使い切った。
しかし、まだパージはしない。
引きつけて引きつけて、ミサイルが放たれた瞬間に囮として蹴り飛ばす。
見事にデッドウェイトとなった武装と増加装甲をパージしていき、空に尾を引く黄金の風は途切れやしない。
悪あがきのように射出された小型ゴーストも蹴り飛ばし、とある動きの真似で宇宙に踊る。
そう、インメルマンダンス。
俺たちはワルキューレのバックダンサーの様に、踊るようにして針の穴を通していく。
『クッソ、弾切れに出力不足かよ!』
『デルタ5、
「━━俺のガンポッドを使え!
これで終わらせるぞ!」
『ありがとよ!
......いくぜぇぇぇえ!!!』
ほぼ丸裸となったカイロスプラスに、スーパーゴーストとビームガンポッドが手渡される。
それは友であり...... 始まりの場所で。
アル・シャハルで出会ったミラージュと俺からの、ハヤテに対する贈り物。
ゴーストはカイロスプラスとドッキングし、ついに俺のジークフリードの機動性に肉薄した。
足並み揃えて、フルスピードで突貫するその姿は流星。
「『うあァァァァ!!!』」
バトロイドに変形し、放ったホーミングレーザーとミサイルで現れた次元バリアに突入を試みる。
大きな波紋が薄緑の半透明なバリアに現れた。
機体が壊れるほどの推力と、背中を押す仲間の風。
「ハヤテ!!」
『押せぇ!』
『行け!!』
『行って!』
『進め。』
『あと一歩!』
『未来へ!』
「うああ!!」
『くうう...!!』
歯を噛み締めて進もうとする中、歌が聞こえてきた。
フレイアの声。
━━たった一度だけ、父さんが歌っていたのを聞いたことがある。
ウィンダミアに伝わる伝説の歌。
目を通して伝わるその歌は祈り。
この戦場で生きる者たちの、たった一つの祈りを届けるように、ルンの花が咲いたのだ。
その花は、闇フレイアのルンにも、隔てなく。
「闇フレイア、やっぱり君は人になれる......!」
歌に、この風に境界線はない。
きっと俺の右目にも、花が咲いていることだろう。
『優しい、夢を響かせて━━』
俺は、俺は
『......レイン、私も一緒に生きていいのかな。
一緒に、歩いて行っても。』
「━━ああ!!
一緒に、一緒に行こう! Yami_Q_rayのみんなも一緒に、誰かのコピーじゃないたった1人として!!!」
『うん...... うん!!』
「気合い入れて行くぞライン!
開...けぇぇぇえ!!!!」
バトロイドの指先にラインの黄金、その全エネルギーを込めて、カーテンでも開けるかのように次元バリアを引き裂いた。
ハヤテと共に突入し、その艦橋へ2人同時にガンポッドの一撃を放つ。
大穴の空いたその内部へ入り込めば、優しい表情で歌い続ける闇フレイアと、セイレーンシステムの中枢部であるポッドが2つ。
手を伸ばすと同時にバトル・アストレアのハイパーマクロスキャノンが放たれた。
『全艦、射て!!』
それを阻止するように味方艦隊のマクロスキャノンが放たれ、バリアのないアストレアを容易く貫き、堕天使の船は爆炎と消えた。
2人のパイロットが帰って来ないまま。
「ハヤテ!!」
『ハヤテ、レイン!!』
メガロード01が呼び出されたフォールドゲートに最後の一撃が当たることはなく、ゲートは閉じ。
SV303 ヴィヴァスヴァットは操り手を失い機能を停止。
星団内のプロトカルチャーシステムはまたも姿を隠し、長いようで短かったこの闘いは幕を閉じる。
皆が歯を食いしばって2人の身を案じる中。
光が収まった黒煙を切り裂くように、半透明な黄色のバリアを展開したVFが、両手にポッドを抱えたVFを懸架して現れる。
『ハヤテ、レイン...!』
『お前ら、よく帰って...』
『......風は一つに、か...』
片方のポッドを受け取り、ハヤテの背を押した。
フレイアが待っている。
『フレイア......』
「心から、愛してる━━」
取り戻したウィンダミアの大地に、ギガシオンが浮かぶ。
その甲板の上、置かれたぎゅうぎゅうこポッドから5人の7歳くらいの子供達を引っ張り出す。
その体は、ワルキューレがライブの時に使っているバイオシルク製アンダースーツとフォールドプロジェクターを標準で搭載しているらしく、目の前で簡素な服に着替えて見せてくれた。
「レイン!」
「うん、うん。」
抱きついて来た闇フレイアを胸のところまで持ち上げ、その温もり、鼓動に涙が滲んだ。
彼女は生きている。
ハヤテの方を見れば、フレイアが目を覚ましたようだ。
Yami_Q_ray達と手を繋ぎ、彼女の元へと向かった。
ハヤテの腕の中には彼女が、歌が守った命が動いており、その髪からは小さく可愛いハートのルンが見え隠れする。
「あ......その子たち...」
「抱えてるのが闇フレイアで、こっちが闇雲、こっちが闇レイナ。
で、闇カナメと闇マキナ。
......ぶつかり合って互いを知り合った、俺の大切な人たちだ。」
寝転がったフレイアの手にYami_Q_ray全員の手が重なり、「ありがとう」と一言礼を言った。
あの祈りの歌があったからこそ、彼女たちはここにいる。
多分......Yami_Q_rayも、彼女の歌が守った命だ。
ハヤテがその腕にフレイアを抱え、その瞳にウィンダミアの街を抱く。
静かな朝焼けの中、誰もがその後ろ姿を見つめる。
「お前の歌、やっぱ良い感じだった。」
「ひひ...... ハヤテのインメルマンダンスも、ゴリゴリやった。」
「少しレインに真似されちまったけどな。」
フレイアの衣装が白くなり、まるでウェディングドレスの様に風になびく。
「歌......
ルンの、ルンの花が咲いとる。
......キレイ... まるでリンゴの花が咲いとるみたい。」
「ああ、すごくキレイだ。」
「花は白い。」
「リンゴは、赤い。」
「ふふ... 青いと酸っぱい。」
「ははっ、熟すと甘い。」
「ゴリ甘、ゴリうま!」
「ああ、ゴリ甘、ゴリうまだ!」
「海猫はゴリかわいい。」
「クラゲは光って空を飛ぶ。」
「ひとりぼっちは、さみしい。」
「みんなでいると......」
「楽しい。」
「あったかい。」
「「フフフッ...」」
「朝焼けの紫...」
「鳥たちのさえずり。」
「目覚めの匂い。」
「雪の大地。」
「...風が優しい。」
「歌は楽しい。」
「ハヤテ......」
「ん?」
「━━ハヤテが、好き。」
「━━フレイアが好きだ。」
「いひ、いひひひひ......
あっ...」
影が重なった。
風が吹いた。
「......愛...」
「ああ、闇フレ。
多分あれが、愛の一つなんだ。」
ここにはひとつの輝きがあった。
たった一度だけの、ルンに花咲く恋があった。
揺れる、心ひとつ。
命の風は何も言わず、吹き続けている。