カウント0 : 嵐は起こる
『ワガママかな? 意地悪かな? 失いたくないよ━━♪』
「時間は少しづつ、無くなってる... か。」
薄紅色の空の下。
1人誰もいない草原にて寝転がり、ラグナを出る際にもらった音楽プレーヤーの停止ボタンを押す。
ルンに花咲く恋もある。
最後まで生き抜いて、今も風としてみんなと一緒にいるかもしれない
その歌詞を噛み締めるように呟いて、首筋から胸部、みぞおちまでに伸びる結晶化の帯に触れ、その手をグレープフルーツみたいな色の空へ突き上げた。
ウィンダミアはあっちだろうか?
父さんは迷惑をかけていないだろうか?
俺の教え子たちは、ボーグの下でもうまくやれてるだろうか?
ハヤテはちゃんと子育てできてるのかな。
もう離れて半年になる大好きな星々と、大好きな人達へ想いを馳せる。
物思いに耽っていると、遠くからエコバッグのような布袋を持って来る大切な人たち。
「おーい!!!!」と渾身の大声でこちらを呼ぶが、そんなに声を張らなくてもいいんだけどな、と苦笑いして立ち上がる。
視線の先には守りの樹木、星の人たちは敬意を込めて
小走りで彼女達の元へ向かい、闇フレイアの手から袋をもらって手にさげた。
彼女は「いいのに...」と申し訳無さそうにしているが、買い出しを頼んだのは俺だ。
むしろこれぐらいはやらなきゃダメだろう。
「なにか言われなかった?」
「ううん、『頑張ってるね〜!』っておじさんがサービスしてくれた!」
満面の笑みでこちらに返答をする闇フレに、俺も思わず微笑んだ。
村の一角にある普通の家へ、足取りは軽く。
闇レイナは闇マキナの携帯を一緒になって見ていて、闇雲はおそらく買い出しの時に余ったお金で買ったのであろうカフェラテを闇カナメとシェアしている。
今日はハンバーグにでもしようかな?
薄紅色の空を裂くように天へ突き上げるのは守りの樹木。
ここはゼルヘス、
俺の故郷で、これから起きる嵐の渦中になる惑星。
空に光る星の光は、不吉な様相を呈している。
あるほしに、3人のこどもたちがいました。
たがいのたちばをしらず、しかしてたしかな絆をもつ3人はあるちかいをむすびます。
1人、元気な女の子はこういいました。
『私は、なにがあってもなにをしてでも、みんなを守りたいなぁ。』
1人、初心な男の子はいいました。
『おれはここにいる2人だけを守る力が欲しい!』
最後に1人、星の瞳を持つ男の子はいいました。
『僕は...... 大好きな人とずっと一緒にいたいな。
どちらかが死んじゃっても、すぐにその後を追えるようならもっと良い。』
......これは誓いとはかんけいありませんね。
『みんなと一緒にいればなんでも良いかなぁ。
あ、そうだ! ずーっと前へ進み続けたい!』
これは、女の子がしばらくあえなくなるからこそ結ばれたちかい。
いつか数年後に会うまで、この誓いを守り続けようと。
しかし、そのいつかは来ないものとなってしまったのです。
女の子はウィンダミアと新統合軍の小競り合いを好機と見て行われたクーデターに巻き込まれ。
星の瞳を持つ男の子は全てを失いウィンダミアへ。
1人取り残された初心な男の子は、親の反対を押し切って密航船へ搭乗、力を求めて星団外へと向かいました。
9年という歳月はあまりに長く、彼らを変えてしまいます。
そしてその3人が再びゼルヘスに集うその時━━
嵐は、巻き起こるのです。
私はエレファ・オレーフの根。
ただ見守るだけしか出来ぬ、クイーンだったもの。
それではまた。
朝だ。
毎度のように俺の布団へ侵入してきて絡みついて来る闇フレを剥がし、起きないように布団を被せる。
ちゃんとベッドが用意してあるのだからそっちを使ってほしいものだが、割とあったかいので寝心地が悪くなく文句を言えないのが実情。
...前に『やめてね』と言ったら半泣きで凹んでたのもあって、強く言えないということもあるのだが。
さあ朝ご飯を作ろう。
昨日は肉を食べたし、今日はパンとジャムと、野菜スープでいいかな。
いつもなら当番制でやっているが、今日は俺が1番早く起きたので俺が作ることにする。
闇雲とか朝早いんだけどね、昨日夜中まで遊んでたみたいだから仕方ない。
ジャムを用意してパンを6人分切り、鍋に水と野菜を入れて火にかけようとしたその時。
ドアが2回ノックされた。
イグニッションスイッチを押そうとした手を寸前で止めて、こんな朝早くから誰だ? と怪訝な顔で扉を開ける。
「よっ、起きてた?」
「ああ、
...その袋は?」
現れたのはサニー、サニー・ガーランド。
俺が9年前にゼルヘスにいた頃、嫌われていた純粋種と知りながらも仲良くしてくれた友達の1人。
密航船に乗って星を出ていたが、俺が帰って来る数ヶ月前にこの星へ帰ってきていた。
近場の森に子供たちの遊び場となっているワインレッドのVF-25 メサイアがあるが、それは里帰りの際に上司が持っていっていいと言ってくれたものらしい。
S.M.Sって太っ腹だな。
今回はどうやら街で捌ききれなかった野菜を持ってきてくれたようで、ありがたく頂戴する。
見ての通り6人いるし、なんなら俺は食わなくていいが闇マキがめっちゃ食うから食糧はありがたい。
せっかくだからチャック直伝のハンバーグ、そのあまりを食べてもらおうかと思ったが、どうやらまだ何か言いたげな様子。
「どうしたの?」
「いや...... 変わったよなって。
ウィンダミアにいたんだろ? 大丈夫だったのかよ、その... 自分の周りにいた人を殺した奴らと一緒にいて。」
「まあ大丈夫かそうじゃないかで言われれば、大丈夫じゃあなかったかな。
でも支えはあったから。
何より先に進まなきゃ、過去に縛られている暇はない。」
そうか、と彼は癖毛の目立つ頭を掻いた。
ちなみにその話は本題ではなかったらしく、村長さんが村の人を集めて少し話をしたいらしい。
ちなみに村長さんはサニーのおばあちゃんであり、俺が他所から帰ってきた純粋種であるにも関わらずこの村にいることを快く承諾してくれたとても良い人。
結晶化を見て「レイン君、よく頑張ったのう...」と労ってくれた唯一の人でもある。
余程なことでもあったのだろうか?
先に行っていて、とサニーを送り出し、準備途中のスープを見やる。
どうしたものかと考えていると、開けっぱなしの扉から聞き馴染みのある女の声が聞こえた。
「私がやっておこうか?」
驚いて振り返るが、その姿を見て安堵する。
彼女はスノウ・ハミルトン。
サニーと同い年の20歳で、ずっとゼルヘスにいたとのこと。
ちょいちょい唐突に現れては手伝いをしてくれるので、結構助かっている。
......言い表せない何かがある、と言うのはわかるが、それを彼女本人に聞くような度胸はない。
じゃあ、とスープ作りをスノウに頼み、適当な上着を着て外へ出た。
村長さんの家に着くと、そこには既に村人たちの多くが揃っている。
中には育児の手を離せないが為に子供を連れている母親も。
「おうレイン! 今度闇マキちゃんにメシ作らせてくれよ! 豪快に食うから作る方も気持ちいいんだよ!」
「にいちゃん、闇雲ねえちゃんと闇カナねえちゃん、つぎはいつあそんでくれるかな?」
「おお...... 闇レイに言っといてくれんか、テレビがまた映らなくなってしもうてのう......」
Yami_Q_rayは人気だな。
...闇フレイアは基本家にいて、こう言う話題の中には出てこないが。
はしの方にちょこんと座り、村長さんの話を聞く。
基本は『最近野菜の売れ行きがいいね、新しく家畜を買おうか』とか、『ゲラルドさんの家で子供が産まれたよ、いい機会だから祝おう』とかの世間話。
それらが終わると同時に、場の空気が変わった。
「......衛星軌道上に、何やら不吉な影が有ると王城から通達が来たのじゃ。」
額に汗を浮かべながら言ったその言葉に、集会所の全員がざわついた。
衛星軌道上に何かがいる、というのは異常事態である。
基本的にこのゼルヘス、何かが来ることはそうそう無い。
それこそ秘密裏に帰ってきた俺やサニーとかの事以外はあり得ないことだ。
だが村長さんの反応からして、これは嘘でも間違いでもないのだろう。
ざわつきを鎮めるように、村長の手にある杖が木の足場に打ち付けられた。
「しかし案ずるな、王城が大した働きをしないことは想像していたこと。
わしが既に星の外に助けを呼んでおる。
それにサニーもおるでな、余程の━━」
村長が話を終える直前。
轟音が壁を貫き、耳をつんざく。
何事かと扉を開けて空を見れば、強行型へと変形して街へと迫るマクロスらしき戦艦の姿。
「アレは......マクロス・クォーター!?」
サニーが言うに、あれはS.M.Sでも運用されている小型機動戦闘空母、マクロス・クォーター。
SDF-1 マクロスの4分の1程度の大きさであるが、それでも巨大。
さらに言えば街には警察組織はあってもVFは無い。
王城まで陥落するのは時間の問題だろう。
機体の方へ走り出したサニーとアイコンタクトをとり、逆方向へと走った。
ひとまず避難誘導をしながら、携帯で闇フレへ電話をかける。
『━━もしもし、どうしたの!?』
「わからない、
ご飯は食べた?」
『うん!』
「じゃあ周りの家に誰かいないか確認して、高台近くの方まで避難させて!」
エレファ・オレーフは動かない。
王がいる都へ、マクロス・クォーターは足を止めることなく進んで行く。
今この瞬間、おれは......無力だ。
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