「やるしか...!」
メサイアへ乗り込み、各部の確認をスキップして浮上させる。
こんなでも俺はS.M.Sの一隊員。
僚機を同伴させてきたならともかく、たったの一隻で現れたデッケェ戦艦に苦戦するような男じゃない。
そうだ、9年前とは違う。
俺にはVFという力と、それを操れる支部の中で最も操縦が上手いって実績アリ。
しらねえ空から現れたアンノウンに怯えてるのは、ちっちゃな子供だけで十分だ。
ベクタードノズルから火を噴き出させ、半分の怒りと半分の余裕を持って都へと近づいていく。
目標はマクロス・クォーター、その艦橋。
何回もシミュレーターで落とされた対空を避けながら、ガウォーク、ファイター、バトロイドの3形態を駆使して戦艦へ容易く肉薄した。
このメサイアにはガンポッドは無いし、ましてや空対空ミサイルなんてもってのほか。
だからするならば超接近戦、ナイフにバリアを纏わせての一点刺突。
強行型の左舷カタパルトの上をバトロイドの状態で走りながら、シールドに内蔵されたアサルトナイフを取り出して次なる目標を定める。
ガウォーク特有の機動でローリングし、対空を回避してようやくクォーターの艦橋へとたどり着いた。
艦橋に見える人影は一つのみ、しかも逃げ惑うことなくこちらを見つめている。
オペレーターらしき人間がゼロの、言葉に表せない恐怖を与えてくるそれに一瞬怯みながらもナイフを切りつける手は止めない。
ここで終わらせてしまえば恐怖は消える、レインも守れる。
ならば疑問より何より、終わらせることが先決だ!
「━━何?!」
ナイフの切っ先がガラスを突き破らんと触れる。
次の瞬間、宙に舞っていたのはガラスの破片ではなく、バリアを纏わせていたはずのナイフとその刀身。
見れば艦橋を守るかのように、意志を持った流体金属がガラスをコーティングしているでは無いか。
あまりに一瞬、刹那の出来事に狼狽えた俺を見逃さないように、何処からか放たれた狙撃が腕を撃ち抜いた。
右腕部が吹き飛び、硬化した流体金属の槍が襲いかかってくることもあって思わず飛び退く。
狙撃された方を見れば、そこにいたのは異形のVF。
バトロイドらしきその姿は
それゆえにコクピットも丸裸だが、そこに人がいないと言うことは新手のゴーストだ。
「くそ、なんなんだよコイツら!」
悪態を吐くと同時に目の前のVFが流体金属を纏い、徐々に形を成し始めた。
おそらく、ファイター時には空気抵抗を限界まで受けない形状に変形したり、バトロイド時は防御に適した形状に変形するための機構なのだろう。
そして何より、その見た目からは想像もつかないほどステルス性が高い。
証拠に今俺の周りには、先程までいなかった3機がこちらへ銃口を向けている。
......こんな事があっていいのか。
ファイターへ変形して追撃を避けながら、クォーターより遠く離れる。
俺は力を手にしたんじゃなかったのか?
努力して努力して、貪欲に上手い人のアドバイスを求めて辿り着いたのに。
結局守れてない。
俺は、俺は、
「俺は何のために━━!」
叩きつけるように叫び、敵VFの銃口が光る。
爆発音と共に空へ閃光が走る。
しかしそれは、俺の命の輝きでは無い。
俺を追っていた4機のVFが遥か上空からの狙撃に打ち抜かれ、爆散した音だった。
薄紅色の空を見上げると同時に、
朝方の太陽を背に、救いの手は現れたのだ。
『
「ブルズ......って、お前まさか!」
ことを問いただす前に、その赤い機体は4発のエンジンをふかしてクォーターの迫る都へ向かっていく。
ブルズ2は、俺のコールサイン。
それを言いふらしたことはないが、唯一教えた相手がいる。
自分自身のアイデンティティを失いそうな中、すがるようにうつむき呟いて、避難場所へと向かう。
そこにはおそらくばあちゃんが呼んだのであろう『星の外からの助け』が、既に着陸していた。
「━━俺は、お前を守ろうと力を求めたのに......!」
「森へ! ここから少し行った先の森へ向かってください!」
この村にいる住民はそこまで多くないが、ここで困るのはパニックになった他村の住民。
泣いて守りの樹木に祈る人、転んで泣き叫ぶ子供、そして。
「おいお前!! 純粋種なんかが帰ってくるからあんな化け物が来たんだ!
わしたちの星から消えろ、平和を返せ!」
「......文句は後で聞きますから、さっさと逃げてください!
死にたければ文句は言いませんけどね!」
純粋種をよく思っていない人たちだ。
彼らは自分たちの身に起こることを全て純粋種のせいだと思い込んでいる。
俺が星を出た時はそこまでじゃなかったが...... 村長さんが言うには、今の王がそう言い続けた結果、逃げ場の欲しい人たちがその思想に染まったのだと。
迷惑な話だ。
唾を吐き捨てて逃げていった老人を見送り、村の方から来たYami_Q_rayの姿に安堵する。
ちゃんと5人揃っていることがどれだけ嬉しいか。
「みんな避難させた?」
「ええ、もう村には人一人いないわ。
......頑張ったんだもの、お酒、飲んでもいいわよね?」
「うーんOK!」
闇カナの要求にこれはOKを出さざるを得ない。
彼女酒を飲み過ぎなのだ、結構高いので我慢してもらっていたが、ここまでの働きをしてくれたとあれば一本二本買っても構わない筈だ。
既に成長してバーチャロイドだった頃と変わらない姿になった彼女たちと避難場所へ向かおうとしたところ、とある女性が足元に縋り付いてくる。
どうしたのか、と話を聞けば避難所に向かわせた娘がおらず、その子の友達が言うにはまだ村の中にいると言うではないか。
思わず頭を抱え、考え込む。
出来ることなら今すぐにでも助けに行きたい。
しかし、俺には俺の命がある。
少なくとも......今助けに行ったとして、俺ごとその子も焼かれる可能性が極めて高い。
Yami_Q_rayとその母親の顔を見て、口に手を当てて考え込む。
するとその時、手首に巻いた携帯が鳴った。
こんな大変な時に誰だ? と発信元を確認せずに通話をする。
「もしもし、今大変で━━」
『レイン! 今そちらにクリームヒルトが行きます!
説明している暇は無しです、それに乗って!』
聞き返す暇もなく通話が切られ、それと同時に強い風と大きな影が俺を包んだ。
見上げれば懐かしい...... 赤色のVF。
垂直尾翼には大きくデルタ6と記されている。
━━そう言うことか。
伸ばされた手からコックピットへ登り、こちらを見上げるYami_Q_rayへたった一つの仕事を伝える。
大事な大事な一つのことだ。
「みんな避難所まで行って
何でもいい、これの中に入っているやつでも!」
音楽プレーヤーを投げ渡し、可能性に賭ける。
彼女たちがバーチャロイドの時のように歌えるって言う可能性。
察してくれたか、闇フレが中指薬指と親指を畳んで人差し指と小指を伸ばすYami_Q_rayサインで答える。
微笑みかけ、クリームヒルトへ乗り込んだ。
......最後に乗ったのはウィンダミアか?
懐かしいような感覚に襲われ、震える手を止めて操縦桿を強く握る。
ガウォークからファイターへと変形し、走る5人を尻目に村へと飛んだ。
10秒もしないうちに着陸し、1人泣いている少女の元に駆け寄る。
「大丈夫大丈夫、すぐにお母さんのところに連れていくからね......」
「おじさん......ありがとう...」
「まだ今年で18なんだけど?」
彼女が気持ち悪くならないようなスピードで避難所へ向かい、降ろしてすぐにマクロスクォーターへ向かう。
後ろには民間人を収容するアイテールの姿があり、誰が助けに来たかを一目瞭然にしていた。
マクロスクォーターで1人奮戦するサニーを追う中、横槍にすぐさま機体をローリングさせ、間一髪で被弾を免れる。
上を見上げればまるで変幻自在のスライムのように蠢く、気色の悪いVF。
どうやら俺を進ませる気はないらしい。
しかし今の俺は強いぞ。
なんといってもYami_Q_rayの歌が聞こえる。
これは...風は予告なく吹く、か。
「━━行くぞ!!」
思いっきりペダルを踏み込み、敵機とのチキンレースが始まった。
チキンレースと称したのは、追われている俺が今向かっているのは都にあるエレファ・オレーフの太い幹。
どっちが先に止まるか、止まれずに激突して死ぬかの単純勝負。
段々と近づいていき、鼻先2メートル。
バトロイドに変形して飛び退き、ミニガンポッドを構える。
狙うのはブレーキの瞬間、ガウォークで慣性がゼロになったところ。
コクピットと脚部エンジンに直撃し、流体金属を撒き散らしながらVFは爆散した。
チキンレースは俺の負け、勝負は俺の勝ちだ、文句無いだろう。
邪魔は無くなった、フルスピードでサニーの上を取り、彼を取り囲む4機を狙撃する。
1発外したのはブランクだろうが関係ない。
こちらに銃口を向けた隙にバルムンクを投げつけ、センサー部に刺さって怯んだところへバリアパンチ。
大きな風穴は、まるで中身をくり抜いたパンの様。
「ブルズ2! 森へ向かって収容の手伝いをして!」
見たところあのメサイアに武装はない。
ならばアイテールへの収容を手伝ってもらった方がいいだろう。
......これで2度目か、星から脱出するのは。
そんなことを思いながら、追撃に迫るVFを撃ち落とししんがりを務める。
浮上するアイテールに帰っていくデルタ小隊との再会に複雑な感情を抱きながら、大気圏を脱出。
フォールドゲートへと突入する。
果たしてあのマクロスクォーターはなんなのか。
あのVFは?
全てがわからない。
...今はただ、無事に生き残れたことに安堵するしかないだろう。
格納ハッチに機体を停め、一際大きくため息をついた。