闇フレイアと2人並んで談話室に向かう道すがら、色々と拙い頭で考える。
再開を喜ぶこともなくデルタ小隊のみんなと話したが、何というか......少々ドライ過ぎやしないだろうか。
いや、ゼルヘスの人達に親身になれよ、と言っているわけではない。
それとは別のもう一つ、『マクロス・エリシオンがまるで俺たちを忘却してしまったかのように、謎の船としてアイテールの着艦を拒否した』と言うことだ。
これ、実はかなり大変なこと。
タイミングがちょうど良すぎることから考えても多分、マクロス・クォーターを操る敵の仕業、攻撃であることは間違いない。
銀河ネットワークにおけるワルキューレが出演予定だった番組も全てワルキューレのクレジットタイトルが消えていたのだ。
おそらくその攻撃はラグナに留まらず、他の惑星にも及んでいるだろう。
......問題はここにある。
ラグナが攻撃されていれば必然的にチャックのきょうだい達は危険にさらされる。
少なくとも焦りや冷や汗のひとつくらいかいても不思議ではない。
しかし、彼は俺たちと共に焦ることなく艦長の言葉を聞いていた。
独立戦争の時もヘイムダル決起の時も変わらず家族のことを思っていた彼が、だ。
心境の変化と言われればそこまでかもしれない。
だが、この言い表しようのない不安が途切れることはなく、常に足元へ絡みついてくる感覚に気持ち悪さを覚えた。
少しして、ついにウィンダミアへ到着する。
もうここに来るのも半年ぶり、変わらない風と白銀の景色は俺たちを歓迎してくれるかのよう。
ふと、ウィンダミアからゼルヘスに向かうまでのことを思い出した。
父さんが病気になったと知って一時的にデルタ小隊を辞めてウィンダミアに来て、ハインツの計らいで父さんの代わりに教官になって。
たった1年の中で教え子たちと交友を深められた。
生活にも慣れてきたころ、先代の王が隠していたゼルヘスへの航路が見つかって。
俺は別に行かなくてよかったけど、父さんが行けと強く勧めてきたからボーグに送ってもらってゼルヘスに。
そう言えば、村長さんはあの時ボーグと軽く会話を交わしていた。
あいつを介してケイオスに有事の際は助けてもらうよう依頼していたのかもしれない。
「フン、陛下の心遣いに感謝するんだな。」
「ええ、勿論です、赤騎士殿。」
アイテールが格納庫へと収納され、降りた俺たちを待ち受けていたのは前とあまり変わっていない赤騎士、ボーグ。
前とは違って受け入れた側と受け入れてもらえた側。
艦長が深々と頭を下げ、ウィンダミアからの心遣いに感謝を示した。
それとは別に、俺は俺で周りを見渡しホッとひと息。
何しでかすかわからない教え子が居ないことに安心━━
「お久しぶりです師匠!!!!!」
「いっっったぁ!!」
くそ、油断した!
正中線を正確に貫く
そうなんだよ、ウィンダミアに来ると
「ししょー? おーい、生きてます?」
憎たらしく純粋な瞳でこちらを覗き込む彼女は、一応俺の一番弟子になる。
名はヴァルター、ヴァルター・エーリカ。
2年前に俺に話しかけてくれたイメジ・エーリカの姉であり、空中騎士団でも上位の操縦技術を持つパイロット。
......しかし色々吹っ飛んでるというか、なんというか。
こんなふうに一応上の立場であろうともブン殴るし、同期の人間に身分の違いで馬鹿にされてもブン殴るし。
俺に向けられる暴力なんて可愛いもので、ひどい時は貴族の息子を渾身の力で殴り飛ばし、1ヶ月病院行きにした。
その上帰ってきたその貴族の息子を半ば強制的に模擬戦へと連れて行き、完膚なきまでに叩きのめしてしまうのだから手のつけようがない。
そんな彼女が慕ってくれているのは、一度彼女との模擬戦で撃ち落としてしまったからだろうか。
あの時からこちらを見る目が輝いていて......なんか命の危険を感じるんだよな。
背骨がズレたんじゃないかというほどの痛みに耐えて立ち上がり、彼女の頭に軽く拳を落とした。
「やめなさいって前に言っただろぉ...?」
「わーい、ありがとうございます!」
「もうやだ... なんで小突かれてるのに喜ぶのこの子......」
ちょっと嫌になり始めてきたが、まあ久々の再会。
彼女も色々思うところがあるだろうし、少しぐらいは構ってやろうかと思った矢先、腰に2度目の衝撃が走る。
「がっ...?!」
「ん〜......!」
不満げな闇フレイアをどうにかこうにか腰から外し、壁に寄りかかる。
俺も歳をとった、脂汗が浮き出て止まらない。
擬似的なギックリ腰体験に涙が出そうになりながら、項垂れる背中をサニーと村長さんがさする。
優しさが心に響いた。
「......お前が教官なんてやってたのも驚きだけどさ。
ほんとに支えがあったの? こんな奴と毎日接してたら心を病まない? マジで大丈夫?」
「婆の手作り軟膏、使いますかな?」
「助かります......!」
結局背中に乗せてもらい、父さんの待つ自宅へ向かう。
ひさびさに触れたサニーの大きな背中は、とても頼れるカッコいいものへと変化していた。
「師匠が取られないか心配してるんですか?」
「んぐ?!」
2人でリンゴを齧りながら、軽率な会話を弾ませる。
なんだかんだあの時は睨んでしまったけど仲良しではある。
たまにご飯を食べに行ったりもしたし、彼女がコチラの家に食べに来たりもした。
思い出してみれば懐かしい、レインが塩と砂糖を間違えて作り直しになったっけ。
......喉に詰まりそうになったリンゴを飲み込み、アワアワと顔を手で隠しながら彼女から目を逸らす。
いやその、ほら?
2年前から心通じ合ってるし、ずーっと一緒だし、なんならベッドの中でどっどどど、同衾してるし?
取られるとられないの心配なんて......
「じゃあ師匠はフリーなんですね!
「ダ、ダメー!
そうだよ、取られるかもって思っちゃったの!」
してました。
リンゴで口元を隠し、ポツポツと愚痴のように言葉を吐き出す。
ニコニコと、
「だってさ? 私も頑張って『好き』ってアプローチをしてるのに......『猫みたいだね。』って! 私の愛情表現は猫じゃないし!!」
「ちなみにどんな感じだったんすか?」
「...座ってる彼の腿に頭を乗せて密着したり、ご飯を作ってるところに後ろから抱きついたり......」
「猫っすね。
紛うことなき猫っすね。」
「にゃん!?」
そんな......ちゃんと愛を伝えたはずなのに。
彼にとっては全て猫のじゃれつきにしか思っていなかったということか。
項垂れながらリンゴを齧り、ルンもダランと垂れ下がる。
「そんな遠回しなことしなくてもいいんですよ!
男の人なんてキスするか SEX させれば落とせますから!
少女漫画にありました!」
「だめだよぉそんなの...」
そんなこと出来ない。
『歌は狂気!』なんて言っていたけど、それはもう2年前。
狂気を持って彼に想いを伝えるなんて、それこそあの時のように殴らなきゃダメな気が......
とは言え、ちゃんと面と向かって好きって言わなきゃいけないのもそう。
手を振ってヴァルちゃんと別れ、ワルキューレたちの元へ向かう。
愛はわかる。
━━恋って、どう伝えればいいのだろう?
「......わたしも好きなんですけどね、師匠。
でもなあ、おんなじ台所に立つあの2人は誰がどう見ても
あんなの見せられたら諦めるしかないよね。
でも師匠の一番弟子はわたし、それは変わらないからいっか! 闇フレちゃん頑張れー!」