ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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カウント5 : 何故歌うのか

 

 「1、2、3、4…… 闇マキ、遅れてるわよ!」

 

 壁に鏡が貼られ、自身の姿が見えるダンススタジオの中。

 靴底のゴムがキュッキュと耳を刺激し、リズムを取ってステップを踏む私たちの動きに彩りを与えた。

 

 細かな息遣いと靴の音、見守るカナメの声が響く中、足のもつれた闇マキが豪快に回転してその身体を地に叩きつける。

 とてつもない音に驚き、私や闇レイが彼女にすぐさま寄り添った。

 闇雲と闇カナはそれを遠巻きから見つめている。

 

 「お゛ぅぶぇぇえ......」

 

 大変にグロッキー。

 口の横側から流れるよだれをタオルで拭き取り、額から滴る汗も続けて拭いてから水を手渡した。

 

 「ありがとぉぉぉ...」

 

 「大丈夫?

 落ち着いて飲んでね。」

 

 「ったく、飯食いすぎだ。

 ゼルヘス行く前も行った後も大して運動して無かったろ?」

 

 「ひぃん...」

 

 こくこくと喉を鳴らして水を飲む彼女は確かに、ちょっと肉付きが良い。

 ご飯はよく食べるし運動もそこまでしないのであれば、踊ることも少し大変かもしれないなぁ、とスポーツウェアから見える太腿を、腕を......

 デッカいリンゴの様な胸を鋭く見た。

 

 「ぴゃん!? 闇フレ?!」

 

 「......」

 

 パァンと汗の染み込んだウェアが弾ける音がした。

 羨ましいとかじゃない、叩き心地が良さそうだったから......

 はぁ、と大きくため息を吐いたカナメの声に合わせ、視線がそちらへ向く。

 

 「疲れも溜まってきたし、そろそろ休憩にしましょうか!」

 

 助かった。

 多分このまま続けていたら、次に倒れていたのは私だっただろう。

 お言葉に甘えて座り込む。

 

 鏡の対面、映る自分を見て、軽く水分を喉に通した。

 別にこうして戦術音楽ユニットのひとつとして練習することも嫌悪感など欠片も無くやれている。

 やはり私を私として見てくれる人がいるというのは大きなモチベーションのひとつであり、自身が歌に踊りにと四苦八苦しても挫けない理由でもある。

 

 首に付けた彼からもらったチョーカーに触れて微笑む顔が、鏡の中心に映っている。

 そんな鏡の中の私に寄り添う様、四つの影が周りを囲む。

 桃、緑、桃、緑......

 交互に並んだ4人は私の頬をつつきながら、『ラブコメの予感』とでも言いたげに誘導してくる。

 

 「闇フレフレ、どうしたの〜?

 そんな好きな人を想うような顔してー!」

 

 「闇フレ、恋の顔......」

 

 ワルキューレの方のマキナとレイナによる詰めがすごい。

 逃げられそうにもないと意識を移すために闇レイ、マキの方を見るが、それどころではないようだ。

 熱いからと言って上を脱ごうとする闇マキを闇レイが必死に止めているところを見ると、観念するしかないと思って覚悟を決めた、

 

 「...どこまで話せば許してくれる?」

 

 「最初から。」

 

 「最後まで!」

 

 「ええ〜......」

 

 そう言われては仕方ない。

 包み隠さず、全てを話した。

 闇雲という1つしかなかった頃の出会い、Yami_Q_rayとなってからのゲーム、そして愛を知ったあの日。

 少し恥ずかしい。

 赤面しているのは、きっと目の前にある鏡を見なくとも分かるだろう。

 

 ......感嘆の息を漏らす2人も、流石に私がレインの事をボコボコに殴ったことには引いているようだが。

 

 「やっぱりクロクロは大胆なんだ〜、独立戦争の時もくもくもを()()()()()()してたもんね!」

 

 「いいなー......」

 

 そんな話をしながら汗もひいてきた頃、シームレスに察する暇もなく空気が冷たくなる。

 さながらウィンダミアの冬の様に冷たいその空気は、向こうに見える闇雲と美雲の間から発されていた。

 

 何事か、とため息を吐きながら戻って来た闇カナに聞いてみると、どうやら意見の相違があった様だ。

 睨み合う2人の間には今にも稲妻が走りそうなほど暗雲が立ち込め、無言の中にはまるでミサイルが舞うよう。

 

 「━━聞こえなかったのかしら、あなたたちの歌には命がこもっていないの。

 正確には戦場で歌うことの何たるかを理解していない。

 肉体を得たとしても、心の底にセイレーンシステムとして『被弾して死ぬわけではない』という慢心があるうちは、その歌が響くことはないわ。」

 

 「命...ね。

 じゃあ貴女がその、『命』というものを聞かせてくれるのかしら?

 さっきから腕を組んでこちらを見るだけの貴女に、そんな事できるかはわからないけれど...」

 

 「ちょっと美雲! 闇雲も!」

 

 よくあの爆心地に突っ込んでいけるな。

 カナメに感心しながら、ふぅと息を吐いて立ち上がる。

 きっとこの後からの練習はすごく大変だろうなと闇レイナと苦笑いを交わし、未だ熱が溜まっている闇マキナを起こした。

 

 ここからはワルキューレも参戦、負けないように気張らなければ。

 

 

 

 

 「ふー、ふー...... あちゅっ!」

 

 風呂上がりのソファの上、入れてもらったホットミルクのリンゴジュース混ぜを啜る。

 慎重に冷まして舌の上に流し込むが、それでも少し熱く、思わず声を上げてしまう。

 お酒を飲んでいるカナメが私を見て軽く笑った。

 

 「ふふ。

 今日はお疲れ様、初めてなのにあそこまで踊れて歌えるの、すごいことなのよ?

 苦手な子だっているのに...」

 

 「あつぅ......

 ...ゼルヘスにいた頃は皆働いてたから。

 私はレインと農作業、マキナレイナは電子機器の修理とかしたり、闇雲と闇カナは忙しい親の助けで子供達と遊んでた。

 それに運動するようレインに言われたし。

 『人は運動しないと太るよ』って。」

 

 「レインが言いそう。

 あの子、物言いがストレートな時があるものね。」

 

 大人の魅力というのだろうか。

 おんなじお酒を飲む人なのに、カナメと闇カナではまるで違う。

 闇カナは飲んだ後、ぶっ倒れるから嫌だ。

 

 すると、不意に扉が開かれた。

 そこから現れたのは美雲で━━

 

 「あら、今日はお疲れ様。」

 

 ......何で素っ裸なのだろうか。

 口をつけていたコップから一つ二つの泡が立ち、ゴポポと奇怪な音と共に私の咳が部屋を満たす。

 むせた。

 

 一旦コップを机に置いて、ひと通り咳を吐き終える。

 次に見上げた時には、焦った様子もないカナメがせめて着る物としてバスローブを着せていた。

 美雲は何をむせることがあろうか? と言った顔でこちらを見るが、何故服を着ないのか? という顔でこちらも返したい。

 

 「ふぅ...... 闇雲はちゃんと服を着てたわよ?

 パンツと上着だけだけど...」

 

 「あの子はあの子、私は私。

 そこのところ、自由じゃない?」

 

 「5歳になったんだからしっかりしなさい。」

 

 「5歳なんだからワガママも言わないと損でしょ?」

 

 平行線だなあ。

 ある意味、仲良しの証明なのかもしれない。

 

 「......そう言えば美雲、どうして闇雲にあんな事を言ったの?

 反発されるのは分かっていた事なのに...」

 

 「単純な事。

 命を賭ける理由も覚悟もない者が歌ったところで誰にも響かない。

 だから覚悟を問うただけよ。

 ━━良い機会だから聞いておこうかしら。

 闇フレイア、貴女は何故、何の為に歌うの? その為に命を賭ける覚悟はある?」

 

 

 覚悟と理由。

 生きる為に必要な物であり、人が人である証明である。

 人はまず理由を探す。

 例えば『生きる為に食べる』、『お金が欲しい、だから働く』とか。

 

 その次は覚悟。

 それをこなすだけの気概があるのか、やり通す心があるのか。

 その両方が揃っているからこそ人は動ける。

 片方でも欠けたら、その時点でその行動は中途半端なものになる。

 

 彼女はそれが許せないのだろう。

 だから問われている。

 

 私は彼女たちワルキューレと同じ舞台に立てるほどの覚悟があるのか、その有無を。

 

 「......私は━━」

 

 緊張して乾いた喉をぬるくなったミルクで潤してから語り出そうとしたその時、携帯電話に着信が来た音が鳴り響く。

 どうやらカナメの物だったようで、立ち上がって部屋の隅で通話を始めた。 

 しばらく返事を返したのち、こちらを振り向いてカナメが不思議な顔で聞いてくる。

 

 

 「美雲、闇フレ、レインの言ってた3人目の友達のこと、知ってる?」

 

 3人目。

 いつだか、サニーの事を聞いた時についでに教えてもらった記憶がある。

 確か名前はスノウ・ハミルトンだった。

 

 「私は知ってるけど...」

 

 「......聞いたことはある気がするの。

 でも、名前とか性別までは思い出せないわ。

 何かモヤがかかったようで......」

 

 「え?」

 

 カナメは頭の上にハテナを浮かべながら、疑問符を口に出した。

 何かあったのだろうか。

 

 「━━その、ワルキューレは美雲以外その友達について知らず、Yami_Q_rayも闇フレイア以外は曖昧な様子です。

 ......はい、はい。

 失礼します。」

 

 「何かあったの?」

 

 「クレイルさんから艦長に電話があったみたいで、レインと中の良かった3人の友達の事を知っているか、聞いてって言われたらしくて。

 知ってたのが、クレイルさんとフリッグちゃん、Yami_Q_rayと美雲()()......」

 

 ......何か、おかしい気がする。

 根拠があるわけじゃない、ただ、美雲と私以外のYami_Q_rayが何故ぼんやりとしかその人のことを覚えていないのか。

 何故私とクレイル、フリッグしかその人のことを知らないのか。

 

 不安な種が心に植え付けられたような気がして、洗い流そうとミルクを飲み干す。

  

 違和感はずうっと拭えない。

 

 

 

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