ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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友情 フレンドシップ

 

 一転して静かなアル・シャハル。

 遠くで医師が呼びかけを続ける中、瓦礫の上に座り項垂れたままの彼の首へ冷たい缶ジュースを押し付ける。

 飛び上がり俯いた顔が空へ向くその反応は、予想できたとしても実際に目の前でされれば愉快なものだ。

 

 「どうしたの、神妙な顔して。」

 

 「......いや、終わってから考えてみれば無茶なことをやったな、なんて思ってただけだ。」

 

 「そう言えば飛んでたね。」

 

 「レインはスゲェな、あの黒い奴らを追いかけ回して......」

 

 「凄くは無いさ。」

 

 一息にジュースを飲み干し、アルミ缶をぐしゃりと握りつぶした。

 驚いた顔でこちらを見る彼と目を合わせながら、後悔とも何とも取り留めのない話をする。

 

 「もうちょっと落ち着いてれば落とせてたかもしれない。

 もっと周りを見てれば、もっと勉強しておけば。

 どこまで行っても何をやっても、あの時何をしておけばって考えちゃう堂々巡り。

 そんな事ばかり考えても前に進まないのにね。」

 

 「でもあの行動力は凄えだろ。」

 

 「凄くないって。」

 

 「凄えって!」

 「凄くないって!」

 

 問答と呼ぶのも馬鹿らしい言い合い。

 互いに互いの顔を見て睨み合い、その光景に2人同時に馬鹿らしくなって笑みが溢れた。

 ひとしきり笑い合った後、いくらかスッキリした顔で彼が立ち上がり、手を差し出した。

 

 遠慮なくその手を掴み、こちらも立ち上がる。

 

 「━━俺はハヤテ・インメルマン。

 ハヤテで良い。」

 

 「どうしたのさ、急に改まって。」

 

 「生き残ったからな、友達になるんだろ?」

 

 聞こえていたのか。

 ......こうして改まって『友達になる』なんて儀式を行うのは小っ恥ずかしいところではあるが、言い出しっぺは自分だ。

 一度目を伏し、視線をしっかり彼━━

 ハヤテに合わせて、強く手を握りしめた。

 

 「よろしく、ハヤテ。」

 

 「こちらこそ。

 ━━ところでその目、どうしたんだよ?」

 

 「えっ?」

 

 ハヤテが俺の右目を指し、心配そうな顔をして言った。

 思わず右目を押さえるが血だとかなんだとかは出ていない。

 それどころか大変調子が良く、向こうにいるバルキリーの下で話す軍人らしき人の読む書類も見える程だ。

 『ヴァールのウンタラカンタラ〜』と、読むのは差し控えるが。

 

 であれば、と鏡を探すが、見渡せど見渡せど瓦礫の山。

 あったとしても砕けているだろう。

 

 「そこの民間人2人!」

 

 すると、バルキリーの方向からパイロットスーツを着た女性、ミラージュさんが歩いてきた。

 

 えんじ色のバルキリーのパイロットであった彼女の無事に心の中で安心しながら、女性ならば鏡の一つや二つ持っているだろうとハヤテと共に小走りで彼女に近づいた。

 その顔に鬼が宿っていることに気づかないまま。

 

 「ミラージュさん!

 無事で良かった!」

 

 「ああ、さっきは助かっ━━」

 

 ハヤテが礼を言い終わる前に、彼女渾身のワン・ツーが俺たちの顔面を撃ち抜いた。

 体重の乗ったその拳は重く、右をモロに受けてその場へ倒れ込む。

 

 ハヤテの方は車を背に、ミラージュさんへ疑問を投げていた。

 

 「何だよいきなり!?」

 

 「軍用機を無断で乗り回すなんて!

 そんなことをすれば戦闘に混乱が生じ、被害が拡大していたかもしれない!」

 

 ヒートアップした彼女はハヤテの胸ぐらを掴み、車へ叩きつけた。

 痛みに耐えながら立ち上がり、彼女の手をはらってその間に入る。

 

 「仕方なかったことでしょう?!

 そのまま待って踏み潰されるのを待つなら、たとえ軍用機でも乗らなきゃならない時があるはずだ!」

 

 「━━あなた!

 あなたの方がタチが悪い!

 機体を乗り回すだけでなく、アンノウンとの戦闘に乱入するだなんて!

 それこそ混乱を招く行為です!

 戦場を舐めないでください......!」

 

 「へっ、よく言うぜ!

 あんたもミスってたろ。」

 

 「はあ!?」

 

 ハヤテからの思わぬ反撃に、ミラージュさんは思わず狼狽えた。

 それを悟られない様にするためか、すぐさま詰め寄る。

 

 「あんた、あのリル・ドラケン(ちっこいやつ)に気を取られてやられそうになってたとこをレインに助けられたろ。」

 

 「それは! あなたの乗った機体を抱えていたから......」

 

 「それに飛び上がる時、1人だけ明らかに遅れてた。

 そうだろ、レイン?」

 

 たしかに、1人だけ明らかにタイミングがズレていた。

 他の観客は何の疑問にも思っていなかった様だが、それはおそらく『演出の一部と思っている』だけ。

 それが単純なミスだと知れば、市民からも疑問が出ていただろう。

 

 「......うん、素人が見ても明らかに。」

 

 「なっ!」

 

 悔しさと怒りをまぜこぜにした表情で、ミラージュさんがこちらを睨む。

 少しの時間向かい合ったのち、上司らしき人が彼女を呼び戻した。

 形式通りの型にはまった敬礼を見せ、彼女は帰っていく。

 

 「苦情は広報にまでご連絡ください!

 それと、その目! 医者に見せた方がよろしいかと!

 失礼します!」

 

 去っていく後ろ姿に拳を突き出し威嚇するハヤテを宥めながら、車のガラスを見た。

 そこに映る自身の目を見るために。

 

 そこに映ったのは━━

 

 「う、うわあぁぁ!?」

 

 澄んだ黄色の星は全てを飲み込む漆黒に染まり、白目は鮮血の様な赤に染まっている。

 綺麗だと自負していた目とは正反対の、禍々しい異形の目がそこにはあった。

 

 

 

 

 場所は変わり、ここは惑星ラグナのバレッタシティ。

 青く澄み切った空に負けないほどの美しい海と、多くの観光資源を持つ観光の星。

 名物のバレッタクラゲは絶品らしいとはオレンジ髪の女性、フレイアの談。

 

 「ぶえっくし!!」

 

 「いてててて!!

 あっ、そんな3匹同時に噛むなって!」

 

 ......まあ。

 ハヤテは猫アレルギー、俺はそもそも動物に嫌われている、と踏んだり蹴ったりな星であるが。

 

 「なんであんたたちまでラグナに?」

 

 「俺はやる事ないから、ここで仕事でも探そうかと。」

 

 「そりゃまあ、お前がオーディションに落ちるのを見にな。」

 

 「絶対落ちん!」

 

 鼻息荒く、フレイアは意志をさらに強くする。

 でも俺、鼻の穴を大きくしてその顔をするのはヤバいと思うんだけどなぁ。

 

 とは言え、彼女が目指す場所であるオーディション会場までは遠い。

 道草を食いながら目指す事になった。

 

 因みに、目は1時間もせずに治った。

 目があの様になる、と言うのにあまり良い思い出はない。

 何故と問われれば単純明快、あの目のまま親が死んだからだ。

 活気ある街とは対照に、心の中には冷たい冬の風が吹いている様で、少し胸が苦しい。

 形見のチョーカーに指を置きながら、冷たさを紛らわせて歩く。

 

 にしても、初めて見るラグナ人というのはなかなか衝撃的だ。

 腕にはヒレ、首にはエラ、そして極め付けに指に水掻き。

 『海の民』と呼ばれる事に何の異議もない、まさに水と生きる人種。

 まあ、でも━━

 

 「テレフォン便利、お買い得だよー!」

 

 「へえ、電話......

 わあ?! 取れんよ!?」

 

 『契約完了、振り込み手続き開始。』

 

 こういうところまで水が関係あるのだろうか。

 これ、商売根性たくましいとかいう話ではなく半分くらい罪に足突っ込んでると思うのだが。

 

 「逃げるぞ!」とフレイアの手を引いたハヤテを先に行かせ、今すぐにでも追わんとする子供3人組に立ちはだかった。

 

 同じ目線まで腰を下ろし、にこやかな笑顔でお話しを始める。

 

 「......君たち、は・ん・ざ・いって知ってるかな?」

 

 

 

 はあ、都会怖い、

 どうにかあの3人から逃げおおせ、電柱に背中を預けて音に惹かれ空を見上げた。

 そこにいたのは鳥のごとく空をかけるVFの姿。

 気持ちよく飛んでいくその姿に、思わず右手を飛行機に見立てて重ねる。

 

 こうやって空に手でかたどった飛行機を翳すのは、父さんがよくやっていた事だ。

 どうやら独立戦争が始まる前、勤務先の『師匠』と呼ぶ地球人の人を真似てやり始めたのがきっかけらしい。

 名前は何と言ったか、『ダイソン』という名だったのを覚えている。

 

 「ほら、見なよ。」

 

 そうハヤテが言うと同時に重ねていた飛行機が着艦したのは、雄々しく巨大な要塞の様な戦艦。

 

 「マクロス・エリシオン。

 ケイオス・ラグナ支部の基地だ。」

 

 と言うことはつまり、()()がオーディション会場という事になる。

 場所のあまりの巨大さ、夢が現実となる興奮に、フレイアは手をわきわきと動かしながら頭のルンを輝かせた。

 

 「ルンってその触覚みたいな?」

 

 「そうだと思う。

 ......女性のルンを見るのなんて何年ぶりだろ。」

 

 「あっ、2人ともジロジロ見ちゃいけん!

 エッチ!!」

 

 「ルン(それ)に情欲なんて抱いた事ないんだけど。」

 

 「それが普通だろ?

 んなもん何も感じねえっつの。」

 

 駄弁りながらも歩みを進め、段々と会場が近づいてくる。

 フレイアだけでなく、ハヤテと俺の運命が大きく変わることなど知らぬまま、3人は歩を進めていく。

 

 

 

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