ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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カウント6 : 逃避の日

 

 2つ、俺が今日起きてからの出来事がある。

 まず一つに、俺の腰は完治した。

 村長さんの軟膏が効いた様子で、夜中までジンジンとした痛みの残っていた腰から太腿にかけてが今朝にはもう本調子。

 危うく空を飛ぶ機会を逃すところだったので、ヴァルターには厳しく、追撃を加えた闇フレイアには軽く叱っておいた。

 ......多分、ヴァルターに関しては直ることもないだろうが。

 

 そしてもう一つは、今目の前にいるアラド艦長より通達されたこと。

 

 「━━今回の敵は、俺達の()()に攻撃を仕掛けて来ていた可能性がある。」

 

 ココ、と言って彼が指をトントンと叩くのは頭。

 聞くに、先日父さんが電話した後にハインツ達にも聞いたそうだ、俺の話したスノウの事。

 結果で言えば、ハインツ達は覚えていた。

 

 つまるところ、記憶に変化が起きてしまっていたのはゼルヘスに向かったデルタ小隊とワルキューレ、後はサニーのみ。

 そうなると何故ワルキューレの中で美雲さんだけが曖昧ながらも覚えているのか?

 そこが思考におけるネックだが、それはYami_Q_rayが覚えているというものと関連づけて考える。

 つまりは星の歌い手の細胞、プロトカルチャーの遺産。

 

 プロトカルチャーの関連者であるYami_Q_rayと美雲さん、ゼルヘスに行かなかった空中騎士団、そして本人である俺。

 ある程度攻撃された対象者と効かなかった人が分かれた。

 

 

 「プロトカルチャー関連の人には攻撃が効いていないと。」

 

 「ああ、そのようだ。

 ......そこでガーランド村長と話したんだが...」

 

 「うむ、恐らくじゃが敵はエレファ・オレーフを我が物としておる。

 忌々しい話よ、護国の象徴が侵略者に使われるとはのう......」

 

 エレファ・オレーフ。

 守りの樹木であるソレは、書物にある限りではただの一度しか起動したことがないという。

 数十年前に新統合軍の戦艦を撃退してそれっきり。

 その木は文献ごとに力の在処が変わり、やれ枝の先から鉄をも溶かす光線が出るだの、根を地中から伸ばして飛ぶ鳥を刺し貫くだの。

 

 今回は1番最近に出た本に書かれていた、『その種が芽吹く場所の心を操る』という力か。

 ......プロトカルチャーの遺したものは毎回毎回、今を生きる人に牙を向けてくるものだな。

 

 だが、それなら種があるということになるわけだが......

 

 「━━知らないうちに、アイテールの甲板の間に植え付けられていたよ。

 恐らくはフォールドの際、隙だらけの背中に撃ち込まれたんだろうな。」

 

 見せられた画像にはそこそこな大きさであるつぼみ。

 切除されているが、その根は鉄を貫いてがっしりとアイテールにしがみついている。

 攻撃された、ということはわかった。

 しかし、何故ゼルヘスに来たのか、それは未だ解らぬまま。

 

 今はとにかく、演習に集中するしかないだろう。

 

 

 

 

 

 「......マジかよ...」

 

 パイロットスーツに着替える中、自分を信じられないように頭を抱えたチャックの声が耳に届いた。

 それもそうだろう、心、記憶を操作されてきょうだい達への思いが薄くなっていたという事実を突きつけられたのだ。

 エレファ・オレーフの記憶改竄、心象操作というのは、言うなれば本に挟まれた栞のようなもの。

 そこにはなかったはずなのに、まるで最初からあったかのように錯覚する。 

 忘れてしまっていればそのままだろうが......こうしてそれを知った以上、チャックのきょうだいに対する罪悪感というのは溢れて止まらない。

 

 項垂れたその背中を叩き、微笑みかける。

 

 「思い出せたんだから良いじゃない?

 今までよりもこれからだ、これからきょうだい達に報いていけば良いだろ?

 さっ、演習頑張ろー」

 

 「......おう、そうだな、そうだよな!

 マリアンヌ、兄ちゃん頑張るぜ!」

 

 少しの申し訳なさを感じながら、格納庫へ歩く。

 この申し訳なさというのはチャックを逃げの口実に使ってしまったという事に対して。

 扉が閉じられると同時に振り向いて、ふうと一つ呼吸を置いて歩き出した。

 

 今にも俺を刺し殺しそうなサニーの視線から、逃げようとしたのだ。

 

 格納庫へ辿り着くと、クリームヒルトを見上げる茶髪でメガネをかけている男性。

 誰だろう、その格好は整備士のようではないし、この場所には似合わない高そうな服だ。

 不思議に思っていると彼がこちらに気づいたようで、互いに会釈を交わす。

 

 「どうも。」

 

 「ああどうも、この機体は貴方のものですか?

 良いですね、このフォルムにカラーリング、まるで森を焼き尽くす業火のようだ。

 いえね、私は感謝しているのですこの機体に。

 何故かと問われていませんが言いますけれど、この機体が結果的に私の首に繋がれた鎖を解いてくれた。

 そう、私の支配者を殺してくれたのです。

 ......おっと、そろそろ演習でしたね、失礼致しましょう。

 また会える時を心待ちにしておいてください。」

 

 突風が吹き抜けたような感覚だった。

 彼は言いたいことだけ言って足速にその場を離れ、残されたのはポカンとあっけに取られた俺だけ。

 

 ......というか、何で騎士でもないのに演習のことを知ってるんだ。

 というか空中騎士団の服でもなければウィンダミア要職の服装でもない、彼は誰だ?

 呼び止めようと振り返ったその時、あり得ないものを見た。

 

 そう、ゲロを吐きそうなほどの衝撃。

 あり得ないことの連鎖。

 早まる動悸に流れる冷や汗。

 

 誰1人気にせず曲がり角に消えていくその後ろ姿、横顔。

 

 

 「......なんで、メッサーさん、が。」

 

 

 メッサー・イーレフェルト。

 デルタ2、俺の師匠、そして故人。

 

 信じたくない事だ。

 これも記憶操作の一つ、ある種の攻撃として頭で処理する。

 しかし網膜に焼き付いた、尊敬する人の横顔は過去からの鎖。

 また逃げるようにしてコクピットに座り、誰より早く空へ出る。

 

 追いつかれないように、飲み込まれないように。

 

 

 

 震えは止まることがない。

 

 

 









 書きたいことを書いて行くので、少し駆け足になります。
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