ちらほらと雪の見える空、6つの翼が空を舞う。
今回の演習はあくまでYami_Q_rayの歌、その効力の確認と、サニーやヴァルターとの連携を確認するためのもの。
個人的な目標として2年半のブランクを取り戻すことも入っているが、主目的は前述のそれらである。
2つのチームに分かれ、俺とヴァルターとチャック、ハヤテとミラージュ、それにサニーがペイント弾を使用した空戦を繰り広げる。
何故サニーが敵側にいるのかと言えば、彼たっての要望だからだ。
『俺とレインは昔からの信頼である程度は合わせられます。
どちらかと言えばデルタ小隊との合わせを練習したい。』
とは彼の弁。
俺もその理由には頷いたし、誰1人反対する者もいない。
しかし。
しかしだ。
今俺はサニーの機体、メサイアの代わりにカスタムしたカイロスに追われているわけだが、その飛び方には明確な殺意がある。
殺意がある、とは言ったが、別に確証があるわけじゃあない、ただ彼の風が恐ろしいほど鋭いのだ。
思うに、サニーは過保護なところがある。
昔はそこまでじゃなかったが、再開してからはずっとそう。
2年前の事で守ろうとする気持ちが暴走していると言えばそれまでだが、俺にはもう少し違うようにも感じる。
それこそ、2人にそれぞれ向けるはずだった庇護の心がまるで俺1人にだけ向かっているような、そんな感じ。
さて、これはコンビネーションの訓練だ。
意識を操縦桿に戻して後ろを振り向けば、ミラージュはチャックを足止めしながら広い視野でこちらの動きを見極め、その情報を受けてハヤテとサニーが俺を追う。
ヴァルターはヘイトを稼がないよう消極的に2人を追わせ、細かな牽制程度にその行動を制限した。
「ふう。」
息を吐いた。
側から見れば追い詰められた状況、敵3人にはワルキューレの歌、普通ならガンガン詰めてくるサニーとそれをアシストするハヤテの攻撃にやられるだろうが。
もう一度、
ただ走る奴と、それを追いかける奴の2人では勝てない。
「ヴァルター。」
『了解!』
小さく彼女の名前を呼び、急ブレーキと共にペイント弾を避けて180度方向転換。
もちろんそれを咎めようとサニー達も追ってくるだろうが、そこで存在感を消していたヴァルターの出番。
彼女は強い、それこそサニーの独りよがりな飛び方では突破する事は不可能だろう。
バトロイドに変形したドラケンのガンポッドがその道を遮り、ほんの一瞬であれ確かに2機を足止めする。
一瞬は空において永遠だ。
たった一つの一瞬は完璧な牙城を崩壊させるに十分な時間であることは誰よりも俺がよくわかっている。
エンジンフル稼働、ちょうどバトロイドに変形してチャックの上を取ったミラージュ機を蹴り飛ばし、地面へ落下して行くその機体へ敗北の証のようにペイント弾を打ち出す。
「よし。」
『ぎりぎりだぜ、デルタ6!』
悪かった、とバトロイドの指でハンドサインを送り、指揮官を失った残りの2機へ数的有利を作り出しながら迫る。
ひいひいとすんでのところで躱し続けるヴァルターの支援に入りながら、ファイター形態の2機が背中合わせに交差する。
チャックの乱射に対して回避行動をとった敵機の背中はガラ空きであり、ヴァルターと同タイミングに放った狙撃は見事にハヤテ機のキャノピーをピンクに染めた。
「ナイスコンビネーション、お疲れヴァルター、チャック。」
『イェー!』
『よっしゃあ!』
これで勝ち、だ。
クリームヒルトを甲板に駐機させ、手渡されたリンゴジュースを飲む。
フライトデータを確認しながらその香りに心を落ち着かせていると、トコトコと遠くからYami_Q_rayが近づいてくる。
彼女らも肉体を手に入れてから初めてこういう場で歌ったのだ、疲れているだろうに俺のところまで来たのは褒美の要求だろう。
ゼルヘスでも良くやっていた、頑張ったら何かしら褒美をあげたりする。
相応の行動には相応の何かが必要なのだから、これはちゃんとした俺とYami_Q_rayの間にある儀式みたいなものだ。
「━━良い歌だったよ。
すごく飛びやすかったし、いい感じ。
みんな今日は好きなもの食べようか。」
「お酒も?」
「うん。」
「お菓子もいっぱい食べていい?」
「太らない程度にね。」
やったー、と闇マキナの声が山びこになって帰ってくる。
どうだ、とドヤ顔で美雲さんに嬉しそうな顔を見せた闇雲の後ろ姿を見送りながら、ジュースの入っているコップを傾けた。
嘘も方便、そう人は言う。
正直言うとやはりワルキューレとYami_Q_rayでは経験と歌唱の差があって、今の戦闘でもその差は歴然だった。
フライトデータに載っているフォールドレセプター数値も、ワルキューレより一回り二回り小さい。
しかしそれを彼女たちに馬鹿正直に伝えてはやる気と歌への意欲を削ぐだけなので、今回は少々の嘘を吐かせてもらった。
いつのまにか隣にいたチャックに背中を叩かれ、軽く苦笑いを交わした。
「━━俺もきょうだいとの会話で経験あるからな、気持ちはわかるよ。」
「理解者がいるって言うのはいい事ですね。」
笑い合いながら、休憩も忘れて悠々と空を飛ぶヴァルターを2人見上げた。
自然と声色が低くなり、何の気なしにチャックへ問うた。
「━━メッサーさんって、本当に死んだんですよね。」
何を言っているのか?
そう言った顔をこちらを向いたチャックがしているのは、見ずともわかった。
思わずハッとして、殴られても仕方がないことを言ったと自戒する。
しかし彼は大人。
落ち着かせるように息を吐いて、温かな声で言う。
「......ああ、俺たちの手で送ったよ。
幽霊でも見たか? ラグナ式の怖くないおまじない、知ってるぞ。」
「今日、格納庫でメッサーさんを見たんです。
嘘だとか悪趣味な冗談とかじゃあなくて、きちんと2年前の彼の形で、足音も聞こえて。
......少し混乱してたのかもしれない。」
言い聞かせるように吐き捨てる。
俯いた頭を上げる瞬間、向こうで話し合っているサニー達が見えた。
ミラージュの真面目な顔を見るに、『先走り過ぎるな』とでも言われているのだろう。
サニー自身も神妙な出立ちでそれを聞いている。
『そろそろ休憩します!』
「あー、ああ。
ちゃんと着陸しなよ、君、雑だって文句が俺に飛ぶ事考えてないでしょ?」
『はい!』
「考えてないに対する返事か、ちゃんと着陸に対する返事かどっち?」
『前者です!』
「おい。」
まあいいか、ヴァルターもこの調子ならいいパイロットになるだろう。
彼女の父親のことは考えてないし、ただの教え子だし。
少しの痒みを感じ目頭を掻くと同時に少し離れた所へドラケンが着陸した。
その時。
「━━何だ!?」
空から光が落ちてきて、ドラケンの左舷エンジンを焼いた。
爆発を起こし、機体が火に包まれる。
『俺が行く!』とヴァルターの救助に向かったチャックを横目に、超高度にいるナニカを見上げた。
それは銀の悪魔。
VF-27に似た顔を持つソレは、樹木の根っこが星を渡った事を意味する。
即座にクリームヒルトへ乗り込み、緊急発進の指示を受ける前に空へと飛び出した。
その機体、ゴーストらしきVFは流動金属を変形させてファイターを型取り、まるで挑発するように豆鉄砲をこちらに放った。
ならば、とフルスピードでその後ろに着くが、すぐに機体を失速させる。
体調が悪いとかではない。
「━━その飛び方は、なんで、なんでその飛び方を知ってる!」
ただ、似過ぎていたのだ。
メッサー・イーレフェルトの、死神の飛び方に。
困惑を向かって行く意思に変換し、再度操縦桿に力を込めた。
これは聖者の行進、その