VF、正式名称ヴァリアブルファイターにはどうしようもない点がある。
それは空気抵抗。
遥かな空からSDF-1 初代マクロスが落ちてくるその前に空の主戦力であった戦闘機も、同様の難点を持っていた。
VFはマッハのスピードに耐えながらエンジンなどを積まなければいけない都合上、極限まで空気抵抗の対策をしたとしてソレをゼロにはできない。
しかし、今俺の前を飛びながら回避機動をとるVFはどうだ。
そのフレームに纏う流動金属は電気信号を受けて形を変え、極限まで空気抵抗を減らしている。
数値で表すのなら小数点以下、奴のコクピットに乗って飛んでいる感覚はきっと宇宙と同じだろう。
後ろ姿に風穴を開けようと機体下部に取り付けられたガンポッドを放つが、カウンター気味に敵機の機体背部から謎の棘がガンポッドの銃口に突き刺さる。
多少の被弾は覚悟の上、翼を狙った射撃はこの距離であれば外れることはない。
「━━何だよその回避方法......!」
しかし、当たるはずだった翼は
いや、収納されたと言う言い方が正しい。
焼け焦げるはずだった流動金属は翼から液体に変わり、被弾する一瞬奴は片翼になって無理矢理被弾を免れたのだ。
驚愕して歯を食いしばっていると、先程被弾したガンポッド部分からアラートが鳴り響き勝手にコンテナユニットがパージ、空中で爆発した。
おそらくはあの棘。
あの棘は流動金属に電気信号を通して硬化させたものであり、突き刺さると同時にその電気信号がガンポッド内の回路に作用して爆発、クリームヒルトのOSがパージしたと考えるのが妥当か。
必殺武装を失ったことは痛いが、まだ翼が折れたわけじゃあない。
見覚えのある飛び方に冷静さを欠きながら、互いにシザース機動に突入した。
一度二度と交差しながら、互いの攻撃を避けては反撃を繰り出す。
2つの機体が向かい合って機銃を放とうかと輝いたその時、一筋の光がその戦いをぶった斬った。
敵機どころか俺にも当たりかねないその狙撃をすんでのところで避けながら、掠ってしまったクリームヒルトを構成するユニットのデルタ翼をパージしてバトロイドに変形、方向転換しながらファイターに戻して体制を立て直す。
「━━サニー!! 手を出すな!!」
誰がやったか見たわけではないが、誰だかわかった。
怒りに任せてその名を叫び、確実に落ちてしまった機動力でどうにか追い縋る。
こちらは追加エンジンをパージしてしまったただのジークフリード、相手はおそらく最新鋭のゴースト。
ワルキューレが歌ってくれているが、果たしてやれるかどうか...
「...この歌、闇フレイア?」
一瞬の迷いが頭を横切った時、遠くから、しかし確かな歌声が俺の背中を押す。
振り向けば誰よりも前に出て歌う闇フレイアの姿。
その歌はワルキューレを押し退け、ただ俺の羽を羽ばたかせるためだけのようにも感じれた。
ニヤリ、笑みを返し。
オーバーブースト状態のまま敵機の背後についた。
ヴァルちゃんが倒れている。
血塗れで、今にも消えてしまいそうな吐息をようやっと吐いて。
ワルキューレが歌っているが、空を飛んでいるレインはアレに追いつけない。
......美雲が言っていた、『何故、何の為に歌うのか、命を賭ける覚悟はあるか』という問い。
今の状況に全く関係ない事ではあるが、まるで走馬灯のようにそのシーンがフラッシュバックする。
私は。
『これ、あげる。
使い古しのチョーカーだけどさ、もしかしたら君を守ってくれるかもしれないから......
え、何でってそりゃあ、愛してるから、かなあ?』
私は!
『一緒に行こう!
ワルキューレのコピーじゃない、たった1人として!』
ワルキューレよりも前に出て、叫ぶ。
私は彼と生きるのだ、こんなところで彼が人ですらないあんな銀色に負けるなんて許さない。
許さないから、彼が勝てるように!
「━━美雲!
私はレインのために歌う! この星団に生きる不特定多数なんて知らない、私は彼が気持ちよく飛んで生きる為に命を賭けて歌う!」
「......そう、それが貴女の歌う理由なら、やって見せなさい!」
美雲の発破を背中に受け、瞼を下ろして視界を闇に包んでから息を吸う。
チョーカーのフォールドクォーツから伝わってくる彼の苦戦に合わせ、『頑張れ』とソロで歌を届けるのだ。
『Glow in the dark』
こちらに笑いかけた彼の顔にYami_Q_rayを模したYのサインを右手で返し、黄金に輝いた彼の機体の翼を見届ける。
見違えるような動きで上を取り、苦し紛れに放たれた流動金属の棘がレインを襲う、が。
即座にバトロイドへ変形し、ジークフリード特有の細い身体を利用してアクロバティックにその隙間を縫った。
その流れのままにピンポイントバリアパンチで砕こうとするが、そこはゴーストの反応速度、ガウォークでブレーキをかけながら分離したガンポッドの連射で牽制し、互いにバトロイドでの白兵戦へと突入した。
一進一退の攻防、歌にも熱が入る。
歌は風となって騎士の背中を押す。
ゴーストによるナイフの一太刀を宙返りで避け、その首を胴体と切り離し、首の根本から下半身までバルムンクを突き立て、この戦闘は終わりを告げる。
緊張の糸が切れ、疲れ切ってふらついた私を闇雲が抱える。
両手に剣を携え、甲板に降り立ったのは鮮血のような赤で彩られた、竜殺しの騎士。
良かったぁ、本当に......
戦闘が終わり、今日は休めと艦長に言われて家に帰る。
幸いにもヴァルターは一命を取り留めたが、未だ意識は戻らず。
この調子ではゼルヘスに向かう際彼女は同行できないだろうが、まず考えるのはそこではない。
どうしても、
あの時もっと早く休憩させていたら、狙われることもなかったか?
どうにかして防げなかったのか?
振り返ったって何が起こるわけじゃあないのに。
ずっとそのことばっか考えて、心は常に落ち込んだままだ。
それに、ゴーストのあの飛び方と、上から見た時にキャノピーに映ったあの顔。
「何で......」
メッサーさんがいた。
コピーだろうが、本物だろうが変わらない、俺は師匠を、
ハヤテやミラージュは気にするなと気を回してくれたが、正直心をやってしまいそうだ。
過去は過去だと、今には現れないからこそ過去なのに。
過去が未来に来るなんて、あってはならないのに。
「ん?」
俯いたまま家の前に着くと、父さんに詰め寄っている男が見えた。
何事だろう、そういうトラブルを起こすような人ではなかったはずだが。
とりあえず駆け足でその現場へ近づき、ものすごい剣幕で父さんに掴みかかる男性を引き剥がした。
「やめましょう、何があったんです━━
......エーリカ?」
「━━貴様!」
拳が俺の頬を叩き、地に叩きつけられる。
そこにいたのはエーリカ、ヴァルターの父親であるスラヴ・エーリカだった。
彼は怒りのままに地に伏した俺を引き上げ、またも殴り掛からんといった勢いで問い詰め始める。
止めようとする父さんに「止めなくて、いい」とだけ伝え、後ろで怯えているフリッグちゃんと共に家に入らせた。
「お前は教官だろう! 何故お前がいてヴァルターのやつが......何故お前でなくてヴァルターが傷つかなければならない?!
だから反対だったのだ、他所者が教官をして、ましてや自分の娘がその男の元につくなど!!」
ただ無言でその拳を受ける。
飛び散った血が少しだけ残った雪を赤く染めた。
「すま、な、い......」
「謝るのならばここで死ね!
ヴァルターの代わりに死んで、あの子をここに戻せ!!
貴様らはそうだ、9年前もカーライルに大穴を開け、2年前は多くの同胞を殺し、ましてや我らの娘も奪うのか!
返せ、かえせ!!!」
何分経っただろうか。
何度殴られただろうか。
結局スラヴは泣きながら帰って行った、娘が傷ついているのだ、彼も彼で辛かったのだろう。
村の人達からの視線から逃げるように立ち上がり、背中についた雪を落とす。
ゼルヘスでは基本、一度星の外に出た者は忌避される。
しかし地球人によく似た見た目をしているので、ウィンダミアにいる特定の人間からはあんな感じの扱いを受ける。
ルンの花が咲いても、どうにもならない事はある。
恩人の形をしたものを殺して。
弟子を守れず。
居場所も父さんのいる家しかない。
「ンフフッ、フフ、フフフフ......」
思わず自嘲の笑いが溢れた。
俺は何で生きてるのだろう?
そんな考えが走っては、自身の手でかき消す。
風呂に入って寝よう。