未だ痛む頬を
結局あの後は寝れなかったし、早々に飯を食べてベッドと毛布の隙間に潜り込むことしかできなかった。
あの時あえて話しかけてこなかった父さんと、心配してデザートのリンゴを一片くれたフリッグちゃんには感謝している。
さて、話は変わるが、今日はミーティングを城の一室で行うらしい。
なんとも意外。
てっきりボーグあたりが大反対するかと思っていたが、そこは年数が経って柔らかくなったということだろうか。
思えばボーグも折り返し、もう17歳。
嫁さんとかいるのかな、プライベートの事とかお互いに詮索しなかったがアレだが。
うん、やっぱり前を向いてモノを考えている時が一番イイ。
これならみんなに気を遣わせることなく接することができるだろう。
口角に人差し指を当てて歩き、曲がり角を曲がると同時にその指が離れ、曲線を描いていた口が地平線を思わせる直線へと姿を変える。
「━━なあ頼むよ!
君の方からレインが空に出ないよう言ってくれないか?!
ほら、あいつの教官を本人に撃たせるわけにはいかないだろう? だから俺はあいつに降りてほしくて、俺がそれを守るからさ!」
「やめて、わたしはレインに空を飛んで欲しくて歌ってるの!
絶対ヤダ!」
「こんなに頼んでるじゃないか!」
何をしてるんだよ。
闇フレイアに縋り付いて俺をバルキリーから下ろすよう頼み込むサニーと、それを2年前を思い出させる表情で嫌がる闇フレ。
思わず駆け寄り、双方を引き剥がした。
闇フレイアは俺の後ろに隠れ、サニーは少々の狂気を思わせる濁った瞳でこちらを見る。
見た事のない表情であった。
彼は申し訳なさと少しの呆れを声に込めて口を開いた。
「いや、その、だってさ!
お前死ぬほど凹んでただろ、メッサー? とかいう人を撃った時!
これからあいつらが攻めてきたとしてまたメッサーって人が来ないとは限らないし、だったらお前は休んで、俺とデルタ小隊でどうにかしてやろうって━━」
「アレはメッサーさんじゃない。」
冷たく言い放つ。
「アレはメッサーさんの
飛び方が似通っていても風が違う、心がない。
だからこれから先、アレを撃っても心に影を落とすことはない。」
「......でもよぉ!」
「━━俺から空を奪わないでくれ。
お願いだから...... 空で歌を聞いて飛んでいる時が1番、俺がこの世に居ていいと思える時間なんだ、それが戦場でもなんでも。
だから。」
こちらに手を伸ばしたサニーを尻目に、闇フレイアの肩を抱いて会議室へ向かう。
もうぐちゃぐちゃだ、何もかもが。
「来ました......って、あれ。」
会議室へ2人で着き、まず目に入ったのは先日クリームヒルトを凝視していた男性。
入ってきたこちらを見るや否やニヤリと笑い、既にいたハヤテや艦長たちの間を縫って歩き出す。
ハインツの横にたどり着いたかと思えばおもむろにその指を鳴らし、そこにいるすべての人間の視線がそちらは向いた。
まるでそこにいる事をたった今、認知したかのように。
「誰だ貴様━━ がっ!?」
異変に気づいて切り掛かったボーグの横腹に、人の範疇では考えられない速度の回し蹴りが叩き込まれる。
ウィンダミア人であっても反応できないほどの速度で放たれたその攻撃により吹き飛ばされた彼は壁に叩きつけられ、剣を杖に立ち上がるが足元はおぼつかない。
それを見て「野蛮は嫌いだよ」と嘲る男は袖から流動金属を流し、パチリと電気信号をスパークさせてナイフを生成、その刃元をハインツの首筋に当てる。
一気に緊張が走った。
「どうも皆様、1人を除いて初めまして......
どうやら1人いないようではあるが、まあ大して気にすることではないでしょう、彼は役者にはなれないでしょうし。」
奴の言うそれはきっとサニー。
正直奴が何を言っているのかまるで理解できないが、今こちらの生殺与奪はあちらに握られている以上『知らねえよ』と悪態をついて反抗することすら危険。
ただ怪訝な表情でその挑発的な指の動きを見届けるしかない。
それは周りのデルタ小隊も同様である。
「さて、ご静粛にしていただいたところで。
惑星ゼルヘス、
今回は先代の王の死去と共に元首に就任させていただきました事をウィンダミア王である、ハインツ陛下にご報告へと参りました。」
「何を言うている、現王は未だ死ぬような年齢ではない!
ホラ話を吐くのもいい加減にせい!」
村長の怒号が会議室に響いた。
たしかに、この目で直接見たことはないが今の王様は大体60くらい。
ゼルヘスの寿命が一般の地球人ほどのものと考えるならば、奴の言うことは━━
いや待てよ、まさか。
「そう、そのまさかですよっと。」
そうやって容易くハントマンが投げ捨てたのは、
そう、ゼルヘスから避難する際に俺に対して文句を言ってきたあの老人だ。
その老人の首が目の前に転がり落ち、思わず横にいた闇フレイアの目を塞いだ。
こんなものは見せるべきではない。
「証拠は見ていただけましたね。
皆様が聞きたいのはゼルヘスに来たマクロス・クォーターのこともあるでしょうが、まああれは私です。
これでも私、シドニー・ハントの息子でしてね。
親の遺産を使うだけ使って兵器を揃えてきた、と言うわけですよ。」
「じゃあ、あの気色悪いVFも?」
「ああもちろん! よく聞いていただけました。
アレはわたしが設計から作り上げた
よくできているでしょう? アレでなかなか、デュランダルの通常モードに追いつける程度の機動性はあるのですよ。
そして、そのゴーストをさらに盤石にするのがコレ!」
そう言って自身の作ったものに酔いしれる様に天を見上げたのち、奴はその手を地面に叩きつけて思い切り引き上げる。
引き上げた場所から人の形をした流動金属が現れ、見知った顔が作り出される。
俺とカナメさんは思わず絶句し、ハヤテやミラージュ、デルタ小隊の皆はその冒涜に怒りを向ける。
「想像通りの反応、どうもありがとう。
━━そう、コレが私の作り出した死者の現し身。
も、ち、ろ、ん、喋ることもできますよ。」
『ウタッテクレ、ウタッテクレ、カナメサン、ウタッテクレ......』
「━━嘘、なんでメッサーくんが......」
とてつもない怒りがこの身を
死者への冒涜、なんて生やさしいものではない。
同時に生者への挑発を行うそれを許すことはできない。
しかし奴の手の内に
俺は、後者を取りたい。
血が出るほどに強く歯を食いしばり、その場を堪えた。
「......そう、怒りきらないか。
━━そうそう、このケルビムを使えば貴方達の大切な仲間も...... ああ、なんだっけ名前、えー......
ああ思い出した、フレイア・ヴィオンも呼び出せ━━」
ダメだった。
手始めに足元に転がっていた老人の首を蹴り飛ばし、ハントマンの腕を吹っ飛ばした。
流れる様に腰に付けていた銃をこの手に持ち、生まれて初めてその引き金を引く。
下から上へと反動を利用して撃ち抜き、崩れ落ちた奴の首へ渾身の回し蹴りを放つ。
普通なら死ぬであろう。
しかし奴の体は金属、その中身はコンピューター。
アンドロイド、と言う奴だ。
首だけになってもその口は閉じない、先ほどまでと変わらず軽口が耳障りな響きを乗せて鼓膜を逆立てる。
「おお、痛い痛い......
貴方と私は何も変わらないでしょう、互いに自分の意思を通すことだけしか考えていない。
周りにいい顔をしておきながらその心の奥の奥、深い深い深淵ではドス黒いモノを渦巻かせているのに、
━━貴方の親友さんも、深淵で待っていますよ...」
「黙って死んでろ。」
とっくのとうに冷静な心などはない。
飛び散った黄色いオイルが頬を伝う感覚に不快感を覚えながらも後ろを振り向き、闇フレイアへどうにかこうにか笑顔を見せようとした。
その時の彼女の顔はどんなモノだっただろう。
きっと俺の顔を写す鏡みたいに、くしゃくしゃの顔だった様な気もしている。