「━━サニー、回避機動!!」
朝日の出、リンゴの花。
美しく清々しく、心を豊かにさせてくれる時や出来事というのは長く続く事はない。
それは今、この空を飛んでいる比翼に対しても同じ事。
風をつんざいて銀の閃光が瞳に映り、回避機動に機体を捩らせる。
空から降り注ぐ光線は避けきれなかったサニーのカイロスを焼き、黒煙を上げながら片翼は地に落ちる。
生きていてくれと願う一方で、デルタ小隊に連絡を送りスクランブル、緊急発進を要請するものの甲板に立ち尽くす彼らが動く様子はない。
何故か?
至極簡単な事、動かないのではなく動けないのだ。
苦悶の表情を浮かべながら自身の体を動かそうとするハヤテの足元を見れば、そこには
流動金属の応用だろう。
これではデルタ小隊による援護は無理だ。
『全機散開、奴に騎士団の風を見せろ!』
『ダー!!』
しかし、ウィンダミアには空中騎士団がいる。
独立戦争の時は恐ろしい脅威であったが、こうして味方になれば百人力。
赤色のドラケンと並び、空高くからこちらを見下ろす無人機、セイントへ攻勢をかけようとした━━その時。
『あああっ!!』
『何!? 新手か!』
増援のうち1機が、死角からの金属棘で串刺しになり撃墜される。
その攻撃方向は背後。
何も無い背後に、擬態を解いたセイントが2機。
光学ステルス機能。
そう言えばあのゴーストもイプシロンからの物、ドラケンIIIと同様の機能を持っていてもおかしくは無い。
完全に、油断したと言って良いだろう。
その上、現れたゴーストのキャノピーに見えたのは意外な人物。
「━━ロイド、ロイド・ブレーム?!」
『何だとぉ!?』
ボーグと2人、回避に徹しながらも驚愕を隠せない。
たしかに、たしかにロイドは、かの白騎士とも渡り合ったことのある騎士ではある。
しかし自ら戦闘するような事は俺の知る限りなかったし、そも彼は技術者と言う扱いだったはずだ。
つまりこれは━━
「......ハントマン!!!」
挑発。
俺を怒らせる為の挑発。
驕りのように聞こえるだろうが、俺は一応デルタ小隊の中でも1番操縦が上手い自信がある。
次いでハヤテ、その次にサニーだろう。
おそらくこの挑発の目的は、ゼルヘス人である俺の目を潰す事。
純粋種は怒りなど負の感情による右目の変化に痛みを伴い、短時間に許容以上の負の感情が流れ込めば、両目とも失明する。
それによる俺の戦線離脱が奴の狙い。
『おい、ここは任せろ!
レイン・クロニアは上の無人機を叩け!』
「了解、赤騎士!」
しかして、冷静。
ある程度の怒り、そこにあるラインを超えてしまえば逆に冷静だ。
片腕は無し、相手は五体満足。
一対一。
キャノピーの向こう側に見えるのは、キース・エアロ・ウィンダミア。
独立戦争の時につけることのできなかった決着を、ここでつける。
シザース機動に突入、ドッグファイトが幕を開けた。
やはりと言うか何と言うか、その動きやクセ、感じる風も白騎士のもの。
よくもここまで精巧に真似てくれた物だ、反吐が出る。
Yami_Q_rayの歌があれども、その背を追うのがかなり苦しい。
事実、現在装備として機能しているのは右腕シールド内のナイフとミニガンポッド、それにバトロイド時の頭部機銃。
ウェポンコンテナはサニーとの決闘で爆散して無くなったし、ミサイルなんて使い果たしたよ。
本当に嫌なタイミングこの上ない時に来た。
エンジン周辺もミサイルの破片が入り込んだのか、所々で調子が悪い。
ベクタードノズルの動きもだ。
人は風邪をひいた状態で熊に勝てるか?
俺は無理だと思う。
しかし、やらなければならない。
誇りを持って風となり、護国の英雄として死んだ彼にこの星を破壊させてたまるものか。
ギアをもう一つ上げ、歯を食いしばってセイントの後ろにピッタリくっ付いた。
食らいついたなら離さない、ここからが作戦だ。
背後から豆鉄砲のように機銃を放ち、回避を誘発させる。
ガウォークへ変形して急ブレーキ、俺の背後を取ると言うのならそれには『NO』と拒否を突きつけた。
既に死んだ名パイロットの飛び方を真似るというのは、たしかに頭のいい方法だろう。
そのパイロットの域まで人を育てなくていいし、即戦力で使える。
しかし、それを生前の名パイロットと戦った俺にぶつけたのは悪手だ。
歌がサビに入ると同時にペダルを捩じ切れそうなほど踏み込み、錐揉み回転をしながら敵機の上を取る。
人ならば反応できず、このままバリアを張った拳で貫いて終わりだろう。
━━だが、奴は
ならばとそちらはバトロイドに変形し、残った一本の腕を撃ち抜いた。
爆発が機体を再び包み、セイントはそんな俺を尻目に去っていく。
「レイン!!!」
絶望に近い闇フレイアの叫びがこだました。
「大丈夫だ、歌って!!!」
しかし、しかしだ。
俺は
脅迫的なほどの使命感に突き動かされ、ほとんどデッドウェイトと化していた腕が無くなったことに微笑みを浮かべて黒煙から姿を現した。
最終手段として取り付けられていたリミッターを解除し、ISCも全開。
ピンポイントバリアの準備O.K.
「ぬぁああああ!!!」
雄叫びを上げ、全速力。
気づいたセイントがこちらに向けて数発の棘を放つが、そんなすっとろい攻撃が当たるわけがないと、ほぼ直角の軌道で回避する。
遂に目の前のゴーストは、恐怖を感じないはずのゴーストは逃走を始めた。
しかし追うのを止めるわけがない。
まるで地獄の鬼ごっこ。
捕まれば四散、鬼は足を止めることがない。
━━白騎士の誇りを侮辱した罪は、こんな物では払えない!
強烈どころではない、凶器のようなGが身体にかかる。
内臓が凹む、骨が軋む。
だがこのハンドルは、レバーは前に入れたまま。
「取った!!」
摩擦熱で塗装が剥げると同時に、ピンポイントバリアを展開した翼がセイントの身を二つに切り裂いた。
リミッターをかけ、緩やかにスピードを落とし、バトロイドに変形してゼェゼェと忙しない呼吸を繰り返す。
生きていると言う実感と共に緊張が切れた。
本当にギリギリで、疲れ切った指先から力が抜けていく。
戻らなくてはとスロットルレバーに手を重ねた時、新たな閃光が脚部を貫いた。
「......マジか。」
振り向いて見れば、おそらくボーグ達が取り逃がしたのであろうセイントが1機。
キャノピーにはまたもキースの顔が見える。
たくさん作れるのか、同一人物でも。
驚きは無かった、恐怖も無かった。
何故だか、全てに疲れてしまっていたのかもしれない。
銃口の輝きがこちらを指差し、受け入れるように瞳に帳を下ろした瞬間。
『ウオォォォオ!!!』
猛々しい声と共に、青色のドラケンがガウォーク状態のセイントへ掴みかかった。
一転、困惑が頭を支配する。
理解するまもなく、父さんの声が耳に刺さる。
『レイン! ......お前は生きて、前を向け!
選んだ道に後悔を残すな!!!』
ドラケンの拳がキャノピーを割って機首をへし折る。
セイントのビームガンポッドから放たれた光が、ドラケンのコクピットを焼いた。
「父さん」
「父さん、父さん」
「ごめんね」
「俺がもう少し頑張ってたら」
「ごめんね」
「寂しいよ」
「また師匠の話をしてよ」
「......寂しいよ」