マクロス・エリシオン内部。
とある一室にて、とある光景がモニターに映っていた。
困惑するミラージュに纏わり付き「何とかならないか」と懇願するフレイアと、それを見守る3人の男たち。
あのワルキューレへ「絶対なってみせる」と啖呵を切ったのにオーディションの予定を間違えていたなんて、アホらしいにもほどがある。
小さくため息を吐き、肩をすくめた。
「......どうしましょうか、アラド隊長?
一応予選通過の条件は満たしていますけど......」
「はあ、ったく......」
とあるベンチの上、体を横にして空を見上げる。
あの後2人と一緒にエリシオンの中へ行ったが、なぜかハヤテだけΔ小隊の人に呼ばれて行ってしまった。
スカウトだろうか?
良いなあなんて思いながら、仰向けの体を横に傾ける。
まあ羨んでも仕方ない、あの2人と別れて、これから一体何をしよう?
何にしても、まずは仕事探しからか。
ワークロイドを使った仕事が個人的に1番良いが、別に厳し目の肉体労働でも構わない。
まずは雇ってもらえるところを探そうと体を起こし、行動しようと目を傾けると。
「あ、起きた!」
気付かぬうちに、携帯押し売りさんきょうだいに囲まれていた。
なんだ、まだフレイアのことを蒸し返すつもりか?
「ダメだよ」と説教したのは対して意味無かった様だ、次男らしき子なんて半泣きだったのだが。
「......フレイアならどこにいるのかわかんないよ、俺も払わないし。」
「違う違う、請求に来たんじゃなくて━━」
「ホントごめんね、この子たちが!」
「いや別に、そんな謝られる事では......」
どうやら俺の説教の話が長姉まで届いた様で、流石にあの売り方はダメだったらしい。
お詫びに何かをしたいとの事だが、まあそれならば、と。
「いらっしゃいませぇぇえ!!」
こうして飯屋の手伝いをしてる。
正式な仕事先が決まるまでの仮宿みたいなものだ、ちゃんと雇ってくれるところができたら出ていく予定。
焼き魚を注文先のテーブルへ置き、星の出始めた空を見上げていると、足下をちょろちょろと
「にいちゃん、なんか人が変わったみたいだな。」
「何が?」
「おとなしいっていうかさ、全然笑わないじゃん?
説教してきた時とかあの2人といた時とか笑ってたのにさ。」
「......人間、1人になればそんなもんだろ。」
「にいちゃん、チャックにいちゃん帰って来たよー!」
「おー! おかえりー!」
どうやら話に聞いた長兄が帰ってきた様で、返した答えを気にする様子も見せずに店を出ていく3きょうだい。
その切り替えの速さ、見習いたいものだ。
「走ると危ない」と注意するが、気にする様子もない。
全くもう、と呆れにも羨ましさにもなる感情を口に出しながら、子供たちを追い店の外へと出る。
「あっ、ハヤテにフレイア!」
そこにはどこか上機嫌なフレイアと、大きめな鞄を肩に背負ったハヤテが並んでいる。
オーディション会場にいたラグナ人男性のチャック・マスタングと、フレイアの教えてくれたワルキューレのメンバー、カナメ・バッカニアも一緒である。
ラグナにしか居ない種族であるウミネコ、Δ小隊のメッサー・イーレフェルトの登場など色々ありながら、食卓へ着いた。
俺も休憩を貰い、同じテーブルを囲む。
りんごジュースのいい香りを味わいながら、背もたれに体を預けて体を休める。
名物のクラゲに手をつけることはない。
「お? 食べねえの?」
それを怪訝に思ったか、チャックさんが端に摘んでクラゲを差し出してきた。
丁寧にその箸を突き返す。
「はい。
ゼルヘス人って味覚があんまりで。」
唐突ではあるが、ゼルヘス人の成長は他星人のそれとは少し違う。
普通は喜怒哀楽とか体の機能とか並行して成長し、身につけるものではあるが、ゼルヘス人は一つ一つ成長していく。
順番はそれぞれだが、基本は視力聴力、心、体の丈夫さ、それらの後、1番最後に味覚がくる。
まあ、だから飯を食べる時間はそんな好きではないし、基本はこうして香りのいいものを好んで食す。
りんごジュースを飲んでこそいるが、俺にとって匂い以外はただの水である。
チャックさんはそんな話を「フーン」と聞き流し、まるでゲリラ豪雨がごとく瞬時に話題を変えた。
「━━そういやさ、仕事探してんだろ?
じゃあ
「えっ、いいんですか?!
でも何で?」
そりゃ、雇ってもらえるならそうしてもらいたい。
だがあまりにもいきなりだ、理由らしい理由が欲しい。
「いやな、ウチの隊長が前の記録映像を見てな?
このチャック様にお前のスカウトを任せたってわけよ!」
「おお......!
......でも、それならオーディション会場に行った時に俺も呼んでくれれば良かったのに。」
「それがなぁ、悩んでたんだと!
殺意100%の飛び方してたもんだから、一度見送ったらしい。」
それは......まあ、否定できない。
あの母親のことを思えば今でも胸が軋む。
生きているうちに子供を抱かせてやらなかったことと、死に方が母に似ていたことのダブルパンチ。
正直相対したあのVFの形を覚えていない程度には、頭に血が昇っていた。
「じゃあ...... よろしくお願いします。」
「よっしゃ決まり!
寝床は確か、いっちゃん右の部屋、使っていいぜ!
じゃあ隊長に連絡してくる!」
パン、と柏手を打ち、意気揚々とチャックさんは店の裏方へ消えて行く。
ひと息にジュースを喉へ流し込み、深くため息を吐いた。
安心と迷いのため息。
職についた事への安堵と、母を、父を、
でも、それでも。
「━━風、気持ちよかったなあ......」
ワルキューレの歌が流れる中、熱くなる体を冷ます風。
澄んでいく視界、手足の様に動く機体、体に伝わってくる重力、あの景色!
受けない選択肢など、何処にもない。
強い興奮と共に、コップに映る右の瞳が赤と黒へまるで絵の具を垂らした様に染まる。
「つーことは、明日からお前と同僚か。
改めてよろしくな、レイン!」
「うん、頑張ろう!」
ちょっと驚いてから、ハヤテがこちらへ拳を突き出した。
右の拳を突き合わせて微笑む。
「......目の事はそっちの方で慣れてね?」
「時間かかるな、多分......」
『お母さん、お父さん!
焼け焦げる木々の匂いの中、叫び、走る。
左右どちらを向いても死体だらけであり、中には焼かれながら悶え苦しむ者もいる。
これだけの地獄、そう見れる者ではない。
俺は燃える村を俯瞰で見ている。
であれば分かるはずだ、これは夢だと、幻だと。
『あっ、お父さ......ん。』
半身の吹き飛んだ父。
右目は白目が黒に、星は赤になっているが、視力はない様だ。
見たくない景色に、心の中で強く『これは夢だ』と念じる。
『死なないで! まだ全然教えてもらって無い!』
これは夢。
『これを託そう。
レイン、お前は━━』
これは幻。
『生きて、したい事をしろ。』
これは━━
「......」
かもめが鳴いている。
それは朝の到来、そして俺が現に戻ってきた事を示す。
ビショビショの背中に張り付いた寝巻きに気持ち悪さを覚えながらも、チャックさんのお古へ袖を通した。
少し大きいが致し方無し。
「ああ、久しぶりに見たな......」
全くもって嫌な夢だ。
隊長さんへの挨拶もある、足早に裸喰娘娘を出てエリシオンへ向かう事にした。
......今はまだ、向き合う覚悟が出来ていない。