ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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カウント18 : 俺はここにいる

 

 「━━レインの様子はどうだ?」

 

 レイナが分かりやすく気落ちした顔のまま、タブレットをトントンとタップして操作する。

 そこには微弱なバイタル数値が無情にも映し出されている。

 

 「......全身の細胞が著しく老化してる。

 本人が言って居たことを真実として捉えるなら、プロトカルチャーの遺産に触れて干渉するたびに寿命が減っていってたのかも。

 だとしても、独立戦争で1回、今回で2回目なら30歳くらいの老化なはずなのに、何であそこまで......」

 

 「4回だ。」

 

 壁際で体育座りになり俯いて居た闇レイナが立ち上がり、呟く。

 闇フレイアが歌うことを後押しし、彼女に辛い思いをさせたことを重く受け止めたのだろう。

 寝不足である事を示すように目元には薄いクマが見え、その目からは先日からの疲れが取れていない。

 

 「......バトル・アストレアの中で2回。

 私と、闇フレイアの()を見た事で結晶化が進んだ。

 だから、レインの細胞は60歳年を経ったことになる。

 それを知っててハントマンは、レインにあの木片を撃ったんだろうな。」

 

 「じゃあ......」

 

 「ゼルヘス人の寿命は基本きっかり80年。

 ...レインは今年で19だと考えるなら、あと数日生きられればいい方、かもな。」

 

 歯を合わせ、軋む音が聞こえる。

 悔しさと情けなさからくる苛立ちを何かにぶつけたりはしない。

 だからといって殴る相手はここに居ない。

 それに何をしたって、闇に落ちていった仲間が戻ってこない事は、ここにいる皆が知っている事だった。

 

 沈黙が流れる。

 デルタ小隊、ワルキューレにとって、こういう形で仲間を失う事は無論初めてではない。

 白騎士とぶつかり合い風となったメッサーも、結晶化の末に故郷の空へ消えていったフレイアも、仲間だった。

 それらから2年が経ち、またも仲間を失うかもしれないこの状況。

 

 気楽に作戦を練れという方が無理な話だ。

 

 「━━だが、後ろを向いていては進まないだろう。

 奴の操作していたVFは回収したんだろう、使えるのか?」

 

 ボーグの鶴の一声が、凍りついていた円卓を砕く。

 しんみりしていても敵は来るし、泣いていてもゼルヘスは帰ってこず、ウィンダミアに平和も訪れない。

 

 しかし前に向きかけた流れも、マキナの首が横に振られたことで断ち切られてしまう。

 

 「ううん、ダメ。

 あのバルキリーちゃん、フォールドウェーブシステムにラインの黄金を使っているんだけどそれがね、操縦者がクロクロじゃないと動かないの。」

 

 「なら外せばいいだろう。

 出力は落ちるだろうが、あの武装であれば問題はあるまい。」

 

 「それも難しくて、エネルギーの諸々もラインの黄金ありきで考えてあるから動かない可能性の方が高くなっちゃう。」

 

 一つ、地団駄を踏み鳴らした。

 八方手詰まり、その状況で何もできない自身に腹が立ったかのように舌打ちを鳴らし、ボーグは強く拳を握る。

 

 「訳の分からないモノを使うからこうなる......!」

 

 戦力差は歴然。

 立ち向かえるような戦力はウィンダミアにしか無く、他星からの増援は雀の涙ほどの数しか無い。

 打つ手無し、そう言っていいほどの状況に再び空気が重苦しくなったところへ、まるで場違いな拍手が鳴り響く。

 

 一様に音の方へと振り向けば、そこにはとろけた鉄の水溜まりから腕だけ出ている奇妙な姿。

 鉄溜まりは徐々に人の形を成して、見覚えのある忌々しい姿へと変化した。

 

 「━━いやはや、ここは重力が強い。

 まるで他星系の辺境惑星、あまりの重たさに私の心も潰れてしまいそうです。」

 

 「てめえ!」

 

 「おおっと。」

 

 サニーが腰に下げていた銃を手に取り、トリガーへ指をかける。

 しかしその指は引き金を引くことなく空を切り、終ぞ銃弾を放つことなく液体となって溶けていった。

 溶けて流体となった金属は固まってサニーの両掌を縛り、行動を制限する。

 

 指先を軽く動かすだけで無力化できる力を示しながら、ハントマンは不敵な笑みを浮かべて椅子を引き、まるで玉座のようにその上へ座った。

 

 「今日は暴力をしに来た訳ではありません、どうか落ち着いて話を聞いてもらえれば......

 ━━人は空にある夢に手を伸ばします。

 伸ばして、それだけを見て、歩いていって...... 底の無い落とし穴へと落ちていく。

 全く馬鹿だとは思いませんか、求め求めて自滅するなんてとても頭が悪い。

 何、それで()()()()()が消えてくれたのですから、喜ばしいことこの上ないですが。」

 

 「それはレインの事かよ、ハントマン!!」

 

 「ええ、そうですが?

 サニー・ガーランド、貴方も人の事は言えないはずでしょう?

 貴方もあの手この手でレイン・クロニアを空から降ろそうとしたのに、それを棚に上げて私を責められますか?」

 

 バチン、と強烈な音と共に、サニーの口に鉄の猿轡が取り付けられる。

 それは厳し目の躾のようにも感じさせる。

 

 「まあレイン・クロニアが戦闘能力を失った訳ですし、ハインツ陛下ならびにデルタ小隊の皆様へたっぷりと、言わせていただきましょう。

 ━━私の勝ちです。

 どうでしょう、ハインツ陛下?

 私は王になるという夢を叶え、この星団内でプロトカルチャーを超える神となる。

 そこでウィンダミアには私に()()していただきたいのです。

 そうすれば、この星への行進はしないと約束しましょう。」

 

 少し、ハインツは考えた。

 それが民の幸せか、どうか。

 

 生きる事が幸せだろうか?

 誰かに永遠の服従を誓い、漸く手に入れた我らの空を投げ捨てて短い時を無味の中で生きる事が幸せか?

 

 ハントマンを神と崇める事は言わずもがな、不幸せだ。

  

 我らは━━

 

 「━━我らは服従などしない。

 ウィンダミアに住む者は誰一人例外なく、こころとルンに誇りを持って生きている。

 短い時を、ただただ真っ直ぐに。

 服従はそれを、その思いを踏み躙る行為だ。

 ......我らは服従せず!

 ただ眼前に広がる自由な空に、翼を広げるのみだ!!」

 

 王はある程度我が儘であれと、誰かが言った。

 ハインツはその言葉通りに今我が儘を通したのだ。

 

 ハントマンはため息をつき、不躾に足を組んだ。

 

 「そうですか。

 なれば、今すぐに行進を始めましょう。

 この二つの指が音を鳴らした時が、この星のおわ━━」

 

 

 

 

 

 

 「よく言ったよ、ハインツ。」

 

 「は?」

 

 剣の切っ先が、目にも止まらぬ速度で逆袈裟に切り上げられた。

 上と下が斜めの線から別れ、べチャリと地に落ちる。

 困惑の中、ハントマンは姿の見ていないアンノウンに金属の棘を飛ばすが、難なく弾かれその男は剣を大上段に大きく構えた。

 その姿を見た全員が震え、驚いた。

 

 

 

 「━━何故貴様がここにいるのだ、()()()()()()()()ァァァァア!!!!」

 

 「楽しかった勝利宣言はもう終わりにしようか。

 なあ、ハントマン━━ いや、()()()()()()()()()()()。」

 

 「その名で私を呼ぶなァァァァァア!!!」

 

 振り下ろされた剣はまるで雪を裂くかの様に金属のその体を丿(えい)の字に切り裂き、宙に舞ったその頭を鷲掴みにする。

 

 剣を鞘に戻し、ありがとうと一言添えてレインは闇フレイアへとそれを手渡した。

 

 「多分、お前が流動金属を操れない時はこういう時だろ?

 頭と接続している何かが金属に触れなきゃあ何もできないただのおっさんだな、チルディッシュ?」

 

 「貴様、何故......!」

 

 ひどく冷静な様子のレインは右手を開いたり閉じたりしながら、不思議そうに空を見上げる。

 その瞳はさらなる次元にその心を連れていった事を示し、照明の光を反射して赤と黒に輝いた。

 

 「何でだろうな。

 少し首が痛くなって、起きたら結晶化は無くなってて...... 何故か俺はここにいる。

 せっかくだから調べてきたよ、お前の素性。

 チルディッシュ・ハント、28歳。

 シドニー・ハントが孤児のお前を引き取ってスパイとかをやらせていて、2年前シドニーが死んでから行方をくらました。

 それでまあ、今に至る、と。」

 

 「ぐっ、い、良いのか?

 私に早いところトドメを刺さなければ、今すぐにでも聖者の行進が━━」

 

 「いや、もうセイントが侵入してきた航路は使えない。

 ラインの黄金ってのは便利でさ、お前が何年かかけて作ったステルス、全部破ってくれたよ。」

 

 「......くそ、クソッ、クソックソッッ!!!!」

 

 先程までの余裕は今のハントマン━━ いや、チルディッシュにはまるで無い。

 それもそのはず、完璧に勝ったと思っていた所への予想外。

 ただ体を切られるよりも数倍苦痛だっただろう。

 罵詈雑言を吐き始めたチルディッシュの口に剣先を突っ込んで黙らせたその時、またも扉が開いて来客を知らせる。

 

 困惑の声がサニーより上がった。

 

 「......スノウ?!

 何でスノウがここに?」

 

 「久しぶりサニー。

 やっぱりみんな、私だってわかるのね。

 ......レイン、薄々勘づいてたんでしょう?」

 

 「━━そう、だな。

 こんなでも俺は一応、村の長の息子ではある。

 長っていうのは毅然な態度と優しさと、後礼儀作法も必要になってくるわけで、ある程度は頭に入っていた。

 ......だから、スノウの作法が綺麗すぎることぐらい分かってたよ。

 そうは思いたく無かったけど、さ。」

 

 困惑しっぱなしのサニーを横に、レインが切っ先からチルディッシュの首をスノウの方向へと投げ捨てる。

 彼女はそれを容易くキャッチし、小さく微笑んだ。

 

 震える村長の声が、彼女の正体を示す。

 

 「━━スノウ様......!?

 何故、何故あなた様がその様な男と!」

 

 「そうだね、おばあさんも久しぶり。

 ━━私はレインとサニーの幼馴染で、この男の協力者である試験管生まれの王族。

 スノウ・ハミルトン改め、()()()()()()()()

 よろしく。」

 

 その時、二つに反応が分かれた。

 薄々そうだろうなと気づいていたレインと、知らぬが故に衝撃を受けるサニー。

 どちらにも共通する事は、馴染みと戦わなければならない、という事。

 

 スノウは王女である事を思わせる優雅な礼を見せ、きた道を振り返った。

 レインはその背中に視線を向ける事なく、冷たい声色で雪の様な彼女に問う。

 

 「━━ゼルヘスでしてくれた事は、全て演技だったのか?

 Yami_Q_rayの為に朝ご飯を作ってくれた、あの日も。」

 

 「......お別れの日くらい、誰にだって親切にするでしょ。

 例え復讐でもなんでも、私の頭にある一番目はゼルヘスの事だけ。

 愛憎含めて、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、アイテールとそれに随伴するハインツの乗った戦艦が、暗黒の宇宙を漂っている。

 その進行方向には惑星ゼルヘス。

 

 「━━我々は、これより惑星ゼルヘスへ向かう!

 負ければ星団は似非の神を崇める様になり、ブリージンガルの秩序は彼方へと消え去るだろう。

 似非の神を打ち破り、銀河に平和を取り戻すのだ!!」

 

 

 最終決戦は、すぐそこに。

 

 

 

 

 

 

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