ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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カウント19 : わたしはここにいる

 

 オペレーション・ロンギヌス。

 

 それはゼルヘスに巣食う聖者の皮を被った夢追い人を、復讐の為に自らを闇に染めてしまった王女を、打ち倒す戦いの名。

 その名の通り少数の精鋭であるケイオスのデルタ小隊、ウィンダミアの空中騎士団、行進により記憶を取り戻した新統合軍が垣根を越えて一つの槍となり、決戦の地へと向かっている。

 

 そんな最中、3人でパイロットスーツを着込む男たち。

 うち2人の視線は黙々と着替えを進める男の背中へ集まっていた。

 

 「......なあ、本当に治ったのか?

 結晶化とか諸々。」

 

 耐えきれず、ハヤテが問う。

 やはり気になっていたのは、視線を集める男の回復だ。

 事実、病床について寝込んでいた彼の寿命は1週間も持たないはずであった。

 しかしその男はここに立ち、新しく支給されたパイロットスーツに身を包んでいるのだ。

 たとえ確かに目の前で起こっていることであろうとも、そう易々と『よかったね』で済ませられることではない。

 

 だが、その質問に対して回復した彼は顎に手を置き、本人であるのに余程不思議な様子で首を傾げる。

 

 「治っ......たんだと、思う。

 健康そのものって医者に言われたけど、何で治ったまでかは俺に聞かれてもわかんないな...」

 

 そう、彼は何故自身が健康体へと甦れたのかを知らない。

 それもそのはず、覚悟を決めてナノマシンを使用した闇フレイアが、レインへと未だ伝えていないのだ。

 そこには彼女なりの恐れ、覚悟を決めていても言い難い思いがあるのだろうが、レインはそんな事をつゆ知らずに着替えを終えた。

 

 そのまま部屋を出て格納庫に向かうでもなく、その辺りにあった椅子へと腰掛けた。

 軽いため息が口元からこぼれ落ちる。

 

 無論それは、これから相対する幼馴染へ向けるもの。

 ━━だが、手を下さなければならないことへの葛藤、そこから来るため息では決してない。

 

 問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼女はとても賢い。

 レインとサニーを合わせて考えても、遙かにスノウの方が上手だろう。

 なれば復讐に仇なすデルタ小隊など容易く握り潰せたはずだ。

 しかし、スノウはそれをせずにチルディッシュへの協力という形で、クーデターにより父親を奪った星への復讐だと━━

 

 『━━私の頭にある一番目はゼルヘスの事だけ。

 愛憎含めて、ね。』

 

 愛憎。

 少し引っかかるその表現に希望を見出し、スッと立ち上がって扉の前に立った。

 レインの頭には、過去も未来もなく、全てを平等に見つめる瞳があるのみ。

 その後ろ姿へ、竹馬の友が問うた。

 

 「レイン、お前は...... スノウを撃てるか?」

 

 「撃つさ、友達だから。」

 

 「......そうだよな。

 俺たちにできるのは、スノウを呪縛から解いてやる事だけ。

 やろうぜ、もう、()()()()()()()。」

 

 その言葉を背中に受けて、レインが扉を開けようとしたその時。

 

 「いたー!!!」

 

 「フリッグ?! 何でお前アイテールに?!」

 

 勢いよく現れた金髪の女の子がレインの股の間をすり抜け、その向こうにいたハヤテの元へ突っ込んだ。

 まるで職場に娘が現れた父親の様に困惑するハヤテの姿に2人の間に流れていた緊張感は消え去り、ふわりと笑う。

 

 「あのね、クレイルおじちゃんの手紙を渡そうとして来たら迷って、疲れて寝ちゃったてたらここに居るって言われたから......」

 

 「手紙?」

 

 「うん!」

 

 その元気な笑顔と共に渡されたのは小さな封筒。

 裏にはとあることが書いてあり、それを見たレインは一言置いて廊下へ飛び出した。

 それに思うことがあったか、ハヤテは優しく声をかける。

 

 「━━ごめん、先行くね。」

 

 「......おう、作戦開始までには時間があるから好きなだけ話してきな。

 はあ、さてと? どうしたもんかな......」

 

 「いひひ!」

 

 「とりあえずハインツ陛下に預けます?

 断りはしないでしょうけど......」

 

 

 

 

 

 

 「━━って言うわけで、見よう!」

 

 「う、うん、いいけど......」

 

 格納庫から少し離れた廊下。

 2人の男女が椅子に座り、今は亡き青騎士からの置き土産である手紙の封を切った。

 そこにはち切れんばかりに入っていたのは、少々古臭い写真たち。

 今となっては珍しいフィルムによるもので、数枚の写真に写った景色はデジタルのものより数段美しく見えた。

 

 「あっ、これって昔の......?」

 

 「そうだね、昔の俺だ。」

 

 何よりも多かったのは、昔の俺が写った写真。

 真面目な顔で勉強に励む姿、雪にテンションを上げて飛び込む姿、毎年のように撮っていた2人の姿。

 全てが懐かしい過去のこと。

 しかし、今までの様にそのまま投げ捨てたりはせず、しっかりとした力でその思い出を掴む。

 

 「かわいい......」

 

 「割と恥ずかしいな、っと、これは......」

 

 その束の中から、ヒラリと薄い紙が一枚落ちた。

 そこには力強い筆跡と共にたった一言、『大切に想ったものを離すな』と。

 掴んだ指に力が入り、少し紙に皺ができた。

 

 「......さよならの一つぐらい、書いとけよ...」

 

 「進み続けたんだ、おじさんも。

 ━━なら、尚更私たちが止まるわけにはいかないね。」

 

 目を擦り、2人で立ち上がった。

 目線が合い、一瞬の沈黙が流れた。

 

 「......俺は、闇フレが━━」

 

 レインが口から何かを滑らせようとした時、背後から2人を呼ぶ声がした。

 レインを闇マキナが、闇フレイアをマキナが呼んでいるが、マキナの方は手で口を抑えて『しまった』と言いたげな表情。

 

 「いや、ナシナシ!

 じゃあ頑張ろう、お互い。

 俺は飛ぶから!」

 

 「あ、えー、うん!

 私も歌う!」

 

 別れ、それぞれの方向へ進んでいく。

 互いの胸にある何かを告白できないまま、互いに手を離した。

 

 

 「で、どうしたの?」

 

 「機体の調整が終わったの! 

 じゃーん、これが......」

 

 半ばランナーズハイ、いや、この場合はワーカーズハイ?

 そんな状態の闇マキナを見て、思わずマキナさんは人の扱いがうまいとレインは唸る。

 闇マキは追い詰めた方がいい動きをするからだ。

 

 さて、彼女がドヤ顔で視線を誘導した先にあったのは、2年前に俺が乗ったジークフリードのYami_Q_rayカスタムを強化した様な印象のVF。

 期待各所に見えるのは黄色のフォールドウェーブシステム、そしてそれを活用する為に脚部に装備されたホーミングレーザー。

 2年前と違うのは、やはり最も眼を引く翼部。

 

 ラインの黄金による有り余るエネルギーがなせる業であるのだろう、4発式のエンジンに地上戦を想定した前進翼のフォルムが映える。

 背中には二連装展開型ビームキャノンが見え、スラリとしたその形には見合わない強力な武装が搭載されている事は想像に難くない。

 

 「これ、1人が持つには過剰じゃないか?」

 

 「うーん、スーリヤ・エアロスペースの人が言うには、ヤン・ノイマンって人が言うことを聞かなかったんだって。

 それはそれとして、この機体にはちゃんと名前があるんだよ!

 その名前はねー......」

 

 

 「━━Y()F()-()3()5() ()()()()()

 だろう? ラインが教えてくれた。」

 

 話もそこそこに、作戦開始時刻となった。

 新たな翼へと乗り込み、カタパルトの上でレインは想う。

 この戦場を戦う意味を。

 

 『レーダーを起動しますか』

 

 「ああ。

 ......確認も板についてきたね。」

 

 『我々は成長しますから』

 

 通信の向こうから聞こえたミラージュの声と共に、デルタ小隊が出撃する。

 歌に背中を押されながら、星に対する防衛ラインを敷くセイントの束を切り裂いていく。

 

 誰より速く、誰よりも鋭く。

 妖精(スプライト)は過激に聖者を蹂躙していった。

 

 「邪魔だ!」

 

 バリアを展開しての翼が通りすがりに胴を切り飛ばし、プログラムが洗練され精度を増したホーミングレーザーが頭部を焼いたところへ遠方からの狙撃が包囲網に穴を開ける。

 レインは後方から支援する友にグッドサインを送り、空いた穴を戦艦が通れるほどに巨大にしていく。

 

 『俺だって、狙撃の練習してきたんだよ!』

 

 サニーが駆るはジークフリードプラス、スナイパーパック。

 遠隔狙撃を得意とする機体は、近づく不届き者たちを容易く撃ち落としていった。

 

 無論、ワルキューレもYami_Q_rayも歌を響かせている。

 それもただの歌ではなく、Yami_Q_rayは最初の頃が嘘の様に力強く覚悟を乗せた歌を歌っている。

 

 「凄い、闇フレイアのフォールド波が......!」

 

 それはフォールド数値として現れ、最前線の守り手達を後押しする。

 

 

 

 「今だ、全艦突っ込め!!」

 

 雲の様に展開していたセイントに向けて主砲が放たれ、その穴を戦艦がこじ開けていく。

 落ちていく者もいた。

 だが、止まるわけにはいかない。

 

 次の瞬間、眼前に広がったのは茜色の空。

 そして━━

 

 

 

 「チルディッシュ・ハント......!!」

 

 『その名で私を、呼ぶなァァァァア!!!!』

 

 大地への被害を考える事なく、空に伸ばした枝から光線を放つ守りの大樹の姿。

 その姿は古き者からの贈り物ではなく、まさに破壊と不和の化身。

 

 「なっ!」

 

 『すぐに終わらせてやる、お前達も私に祈りを捧げろぉ!!』

 

 『操作しているのは私なのにねえ?

 ━━まあ、少し苦しんでね。』

 

 光線による誘導、そしてその隙を狙うかの様に打ち出された木片の弾丸は、誰1人逃す事なくそれを突き刺した。

 大したダメージではない。

 そう思いレバーを握り込んだ瞬間、歌おうとした瞬間、星にいる者全ての頭に激痛が走る。

 

 「がっあ、う......!!!」

 

 『これは、星の歌い手と......!』

 

 「なに、これ...」

 

 全ての生物が意識を失うまでに、そう時間はかからなかった。

 

 

 静かになった空。

 ただ1人、チルディッシュの高笑いが響く。

 

 「馬鹿どもが!

 9年前から調査を続けていた甲斐があったぞ、エレファ・オレーフの影響はただの洗脳にはとどまらない!!

 ()()()()()()()に、永遠に溺れるがいい!!」

 

 「何がそんなに嬉しいんだろうね......

 ま、ここで終わりならもう一手、つぎ込むだけだけど。」

 

 

 どうぞ、幸せな夢を。

 幸せなだけの世界で死ぬ人々を、スノウは冷たく見つめていた。

 

 「どうするのレイン。

 わたしはここにいるよ。」

 

 

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