ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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カウント20 : 愛はここにある

 

 「にいちゃん、待って〜...... ぎゃう!!」

 

 「おいおい大丈夫か?

 悪いリアナ、これ持っててくれ」

 

 「ん」

 

 凪いでいる。

 薄い茜色に染まるゼルヘスの空の下、収穫した果実を持って帰宅する3人の影。

 1番小さな影は大きな影を追って走るが、勢い余って転んでしまった様。

 倒れて今にも泣きそうな、そんな妹の膝に絆創膏を貼り、その三兄妹は歩き出す。

 

 ━━幸せ、なのかもしれない。

 最初は驚いた。

 なんせもういない筈の家族が、村のみんなが、そして青騎士である父さんが、何故かこのゼルヘスの空の下に集っていたのだ。

 ゆらゆらと風に吹かれる木の葉の様に過ごすうち、憎しみも氷の様に溶けていく。

 

 妹2人が居て、父さん達が笑っていて。

 それに加えてデルタ小隊と━━

 

 「━━来てたんだ、フレイア、ハヤテ。

 ()()は元気?」

 

 「おう、元気いっぱいだ。

 フレイアによく似て、な」

 

 「ハヤテにも似とるよ?

 ほら、このあたりとか......」

 

 フレイアが生きている。

 風にならず、ハヤテと共に命を育んでいる。

 

 ......過去に縛り付けられるとは、これ程までに心地の良い物か。

 誰も『苦』の中で生きてはいない、悲しみに暮れてもいない。

 みんなが笑顔だ。

 

 近く、陽が落ちる。

 夕暮れ時の最中、俺は思ってしまったのだ。

 

 このまま、過去に身を溶かして生きて━━

 

 

 

 『━━♪』

 

 「......生きて、いいのか?」

 

 歌がきこえた。

 

 「どうしたんだレイン、私たちは生きているじゃないか?

 私達だって、生きていいに決まっているだろう?」

 

 お父さんが不思議そうな顔で語る。

 しかし、俺はそれに返答を返す事なく、夕焼けの方向へ歩き出した。

 だんだんと、世界が闇に染まっていく。

 俺は本当に幸せか?

 

 そうだ、俺は、何かと一緒に未来へ行きたかったんだ。

 でもその誰かは、一体何なのだろう。

 

 答えが出ない。

 頭が痛い。

 ガン、ガンと、頭蓋骨を縛る鎖を叩く様な痛みが脳髄に走る。

 

 壊れた時計の様に、太陽と月が交互に表れる空。

 何度も何度も闇が繰り返される中、掠れる声で、願う様に、俺の元へ一直線に届く歌が聞こえる。

 

 『━━♪』

 

 「俺は」

 

 私は。

 

 「俺は...」

 

 私は...

 

 

 

 『『ありがとう』』

 

 

 「......俺の幸せは、過去じゃない。

 未来だ、未来に闇フレイアと行く事だ」

 

 吹っ切れて、空を見上げる。

 そこには闇夜を超えて空に現れる明けの明星。

 俺の背には、満足げな表情を浮かべて霧消していく村のみんな。

 その中には勿論、家族達の姿もあった。

 

 足下から霧となり、空に消えていく。

 

 「━━そう、それでこそレイン。

 私の息子だ。

 何があっても、想う人のために進め。

 どんな障害があろうとも、ラインの黄金はお前の進む道を、照らして......」

 

 

 霧となって消えた家族を見送り、フレイアの方へと目を向ける。

 いつも通りの笑顔に、ワルキューレポーズで送り出してくれる彼女。

 もう縛られるわけにはいかない。

 

 瞼を下ろし、次に開いた眼前に広がっていたのは、静かな空。

 やる事は決まっている。

 腕甲から射出させたナイフで根を伸ばす木片を切り裂き、歌の方へと向かった。

 誰より早く、彼女の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私に、幸せな暮らしなんてわからない。

 それもそのはず、だってまだ2年と少ししか生きていないんだから。

 それでも失いたくないものはある。

 

 気兼ねなく事を話せるヴァルちゃんって言う友達。

 私を尊敬してついてきてくれる、かわいいかわいいフリッグという妹。

 

 ただ、星の歌い手の分割思考であった私たちから、切磋琢磨する仲間となった闇雲、闇カナメ、闇マキナ、闇レイナ。

 

 

 その人達のことを想いながら、ズブズブと私を取り込んでいく底なし沼へと落ちていく。

 この記憶も消えてしまうのだろうか。

 死んで、しまうのだろうか。

 

 だとしたら、ごめんなさい。

 

 フリッグ、ヴァルちゃん、ワルキューレ、Yami_Q_rayのみんな。

 クレイルさん、私、大切に想った人の手を離してしまった。

 歌えなくてごめん、レイ━━

 

 

 「......ダメ。」

 

 

 ━━だめだ。

 私がこのまま弱って死んだら、彼はどうなってしまう?

 私の自己満足からくる死に、彼を巻き込んでたまるものか。

 まだ彼は飛ばなきゃダメなんだ。

 

 泥沼から抜け出し、震える子鹿のように立ち上がる。

 

 彼は飛んで、飛んで、私はその背中に死ぬまで歌を届けるんだ。

 彼がやっと自分を曝け出してくれたのに、私が死ねるか!

 それに!

 

 腰に下げたお守りの剣を抜き、力任せにその辺りに刺さった木片を切り捨てる。

 渾身の力で甲板に剣を突き刺し、歌いながら空へと飛び出した。

 

 

 「一度だけの恋なら、君の中で遊ぼう

 ワガママなキスをしよう━━!」

 

 怖い、怖いよ。

 それでも私は今、飛ばなきゃならない。

 

 

 フワフワと浮かんでいるYF-35 スプライトの上につき、心の中で一つの覚悟を決める。

 

 

 「私は...」

 

 俺は

 

 「私は!」

 

 俺は...

 

 

 

 「━━正面切ってレインに『大好き』って言えてないのに、こんなところで死ねるかぁー!!!!」

 

 

 私の歌よ、届け。

 彼の心の内へ。

 

 

 「━━闇フレイア!!」

 

 スプライトのフォールドウェーブシステムが色を取り戻し、木片を切り飛ばすと同時にキャノピーが開いて彼の胸へと飛び込む。

 バクバクと心臓が鳴るのは、彼に抱きついたからか、空を飛ぶのに死ぬかと思ったからか。

 わからないが、彼の胸に抱かれたまま空に飛ぶ。

 

 『ゼルヘス星内から脱出を。

 脳内に映した指定座標ならゴーストもカバーしていません』

 

 「えっ誰?!」

 

 「ラインだ!

 少し飛ばすよ!!」

 

 ものの数秒。

 勢いに驚いて閉じた目を開ける頃には、周りは宇宙。

 デブリの影に隠れながら、2人きりで向かい合った。

 

 ああやって決意を叫んだのはいいが、いざ彼を目の前にするとドギマギして上手く話せない。

 しかし既に言うと決めたのだ!

 大きく息を吸い込み、大きな声で彼に伝える時。

 

 

 「わ、私は━━」

 

 

 

 

 「私は、レインが好き!! 大好き!!!

 ずっと一緒にいてほしい!!!!」

 

 耳が。

 耳がキンキンする。

 

 まるで自分が去勢されたことに気づき、虚無に満ちた顔で天を見上げる猫のような表情をしていると、彼女はかくなる上はと追撃を繰り出した。

 

 「絶対拒否とかさせないから!

 今レインの体は私と繋がってて、私が死んだらレインも死んじゃうんだからね!!

 命の恩人の告白だから!」 

 

 「え、まさか俺が治ったのって!」

 

 「そ、そーだよ!

 私がナノマシンを打って、レインの体調を管理してるんだから!

 ......だから、そのぅ...」

 

 燃料が切れたようで、だんだん天を突き上げるように上向きに飛び出していたルンがしょんぼりとし始めてくる。

 彼女なりに考えて言った告白だったんだろう、すっかり耳まで赤くなって、まるで完熟のリンゴを思わせる頬と耳。

 

 そも、俺から言うつもりであったことでもある。

 ━━父さんが残した手紙の裏。

 何が書かれていたかと言えば......

 

 

 

 「━━俺もだ。

 俺も、闇フレイアと一緒に生きていたい。

 欲を言えばラグナの海で一緒に海水浴したいし、ウィンダミアでコタツに入ってくつろぐ闇フレの口にリンゴの切り身を突っ込んでいちゃつきたい。

 さらに言えば......」

 

 「わわーっ!!

 待って、待って!」

 

 口を物理的に抑えられ、ものが言えない。

 真っ赤な顔でジタバタと暴れる姿もまた、かわいいものだ。

 

 「......ほ、本当に、いいの?」

 

 「ああ、リンゴの花のように短くても、マーガレットコスモスのようにずっとでも、どんな時間も闇フレと生きたい。

 それが俺の気持ちだよ。」

 

 「━━私も!!!」

 

 

 父さんが残した手紙の裏に書かれていたのは、『想い人と見ろ』と言う言葉。

 ずっと、彼女が好きだった。

 

 しばらく抱き合い、どちらが離すでもなく同時に離れる。

 顔を近づけるが、彼女の唇はそっと人差し指を当てて()()()を静止した。

 

 「まだ、だめだ。

 全てが終わった後、俺へのご褒美として残しておいてくれるかな?

 気が引き締まる気がする。」

 

 「ん、わかった!

 ━━私はレインと一緒に歌い続ける!

 歌は狂気、って!」

 

 「俺は、闇フレイアと一緒に飛び続ける。

 空は狂気、で、いいのかな。

 ......行くぜ、ライン!!!」

 

 『はい。

 あなたに祝福を。

 見守ってきた存在としては、感慨深いものがあります』

 

 

 もう、止まらない。

 想いを伝えあった者たちは狂気という祝福を受け、空を飛び、歌を響かせる。

 何があろうと止まる事なき闇の翼。

 

 その翼は、愛はここにある、そう言って薄い茜色の空に大きく羽ばたくのだ。

 

 

 

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