「ああクソ、何故ここまで思い通りにならない!?
神の如き力を手にした私への信仰という至上の行為が、何をどうして色恋などと言うものに負けるのだ?!」
軽ーく、ため息を吐いた。
目の前にいる、その名の通り
ここから見えるのは、とても気持ちがいい笑顔であの子に語りかける親友の姿。
それを見て『ああ、やっとか。』なんて思いながら制御盤よりこの手を離し、腰から母の残した旧式の拳銃を構える。
色々思うところが無いわけではないが、私はこの星が大好きだ。
王族だから、とかじゃなくて、茜色の空も綺麗な自然も美しく流れる川も、この星を彩るそれらがとても好きなのだ。
この星を助け、共に歩んできたこの大樹もそう。
しかして、エレファ・オレーフも生きている。
生きているなら寿命がある。
その寿命はもう、すぐそこまで来ている。
だから。
だから私は、最後の一手として。
「また、会えたら会おうね。
エレファ・オレーフ、私の
「━━!
貴様、何を!」
撃鉄が6度、銃弾の尻を叩く。
打ち出された弾丸は2人のいるスペースにある、妖しく光る結晶体を容易く砕いた。
その結晶体は、言わば人の心を支配するための装置。
これによりチルディッシュはもう、神の様に振る舞うことは出来ないだろう。
すかさず制御盤に触れ、
━━ここまで出来たら、満足。
「━━......あっ」
心臓を撃ち抜かれてその場に倒れたとしても、この私に悔いはなかった。
憎悪と侮蔑を含んだ目でこちらを見下ろすチルディッシュに、掠れた声で悪態を吐く。
「よくも......よくもこの様なことを!!
復讐がしたかったのではないのか?!」
「復讐......復讐、ね。
私の、復讐はね? 父様の部下に、『今がクーデターのチャンスです』なんて唆したおバカの計画を、ギリギリでぶち壊す事だったの。
ばかだねぇ。
私が......
頭を撃ち抜かれ、意識が溶けて視界が暗闇に呑まれる。
手は打った。
後は、2人に任せるだけ。
「レイン。
私は、ここにいたよ」
『全員殺してやる!!
私を見下す者も、可哀想だと寄り添う者も、愛などと存在し得ないものを振りかざす、お前たちも!!!』
「やってみろ、チルディッシュ・ハント!!!」
『手始めにスノウ・ゼルヘスを殺した!
次はお前たちだ!!』
一瞬だけ、手のひらに込めた力が強くなる。
しかし冷静さは失わない。
歌がある。
スノウはタダで死ぬ女ではない、何かを残したはずだ。
それが俺たちにとって損でも得でも、期待するに越したことはない。
『デルタ小隊、行くよ!!』
「了解!」
ミラージュの指示と共にベクタードノズルから炎が吹き出し、各機ただ一点に向けて加速する。
狙うは天に咲き誇る花弁の中心、花の内部。
風を捉えて空を舞い、エレファ・オレーフと融合したマクロス......エレファマクロスとでも呼ぼう。
そのエレファマクロスから放たれるレーザー、数多の砲台による射撃を避け、ゴーストの胴体へ容易く拳をめり込ませる。
ここまで感じてきたこのゴーストに対する攻撃の当てにくさなんて物は微塵もなく、奴らの動きはまるで掌の上にいるアリのように容易く察知できる。
しかし、それでも敵の数は多い。
たとえデルタ小隊とウィンダミアの精鋭が孤軍奮闘したところで、このままでは難しいところがあるだろう。
だが、いい知らせというのは連続するものらしい。
それに誰よりも早く気づいたのは、勿論ハヤテ・インメルマンその人だ。
『━━♪』
「この声......まさか!」
歌う。
歌う、歌う、歌う。
ワルキューレも立ち直り、9人揃って声を響かせる。
だが、それでも数の差というのはそう覆せるものではない。
心地よい風とは裏腹に、私たちを飲み込む様な夜と銀色の光に目が眩みそうになったその時。
『━━まだ、諦めたらいかんよ?』
「えっ......まさか!」
背中を支えてくれたその手は温かく。
その歌声は力強く、正に『
いつかデータベースで見た『スカーレット・ノーブル』という衣装に身を包んだ彼女は、
確かに、ここにあるものとして、歌を歌っている。
ワルキューレ達は皆一様に涙を浮かべ、5人並び立ち天にワルキューレポーズを掲げた。
「歌は命!」
「歌は愛!」
「歌は希望!」
『歌は元気!!』
「歌は神秘!」
「「「「『超時空ヴィーナス、ワルキューレ!』」」」」
ここに、闇と光の5人が集った。
ならばこの歌は何者にもかき消されることはなく、まるでレイン達の背中を打つ様に真っ直ぐ届くはずだ!
Yami_Q_ray、ワルキューレ混合の超時空メドレーは、私たちの『綺麗な花には毒がある』から走り始める。
『待たせたな、アラド!』
「アーネスト?! ようやく思い出したか!
━━よし、一風吹かせるぞ!!」
続いて宇宙よりマクロスエリシオンがその姿を表し、ヘーメラーより放たれたマクロスキャノンは数多のセイントを薙ぎ倒して一筋の道を切り開く。
デルタ小隊と赤騎士の機体がこの好機を逃すまいと突撃、その暴風の中へと飛び込んだ。
フレイアが居る。
闇フレイアが居る。
マクロスエリシオンも来た。
ここまでのお膳立て、負けるわけにはいかない。
だがこちらが負けられない様に、チルディッシュにとってもこれは負けられない戦い。
目の前から迫る四機のセイント、そのコックピットに見えるのはメッサー、ロイド、キース。
そして、クレイル・アズール。
「サニー!」
『ああ、俺はロイドを!』
『ハヤテは私とメッサー中尉を!』
『わかった! 行くぜ!』
『俺は......白騎士様を!』
『よっしゃあ、行け!
殿はこのチャック様に任せとけ!!』
射出したゴーストの内サラマンドラとノームをサニーに付き従わせ、俺はクレイルとのドッグファイトへと突入する。
何故サニーにその2機を付けたかと言われれば、サニーのジークフリードプラスは防御面が脆い。
だからこそピンポイントバリアを発生させることのできるノーム、攻守のバランスに優れたサラマンドラを配置したのだ。
サニーのことを考えるのはここまで。
ここからは、生前叶わなかったVFでの
シザース機動に突入し、残りの小型ゴーストであるシルフ、ウンディーネと共に絶え間なく射撃を続けるが、クレイルはそれらをセイント特有の変形で回避、俺の上へついた。
『獲った』と言わんばかりにバトロイドへ変形して狙いを定め、こちらへ光線を放たんとする一瞬。
その一瞬のうちにガウォークへ変形してその光線をシールドとバリアの2段階で防御、カウンター気味にガンポッドの収束させたビームを放つが、そこは青騎士。
まるでサーカスのアクロバットの様に回避する姿を見せ、再度ゼロへと戻りシザース機動が始まる。
何故だろう?
ゴーストと戦っている時、これまで楽しいとなんて思ったことは一度もなかった。
だが今、この瞬間。
まるで人とやり合っているかの様に、俺は楽しんでる。
風に乗り、歌に押されて、羽を羽ばたかせる。
もしもこの風が父さんのもとに届くのなら、俺がこうやって飛んでいる事を喜んでくれるだろうか?
ガンポッドを盾に突撃し、爆風の中から飛び出して腕部に接続したシルフから放たれるレーザーがコクピットを撃ち抜こうとしたその時。
『━━楽しかったぞ』
銀色の何かじゃない、人間の父さんが笑った気がしたんだ。
「くうう......!!」
バトロイドの状態で敵機に掴みかかり、いわゆるゼロ距離の状態。
左脚部が吹き飛び、右翼も破損している。
いまここでこの手を離してしまえば、ロイド・ブレームが駆るこのセイントには2度と追いつけ無いだろうという確信があった。
だから離さない。
この手は、言うなればレインの手を掴んでいる様なもの。
フワフワとしていて、いつもはどこか抜けているのに、こういう時は誰より頼りになる親友。
今俺はその手を掴んでいる。
俺の知らないうちに何処かへ行ってしまわない様に。
掴み続けて......
━━それでいいのか?
俺は、そうやって引き止めるばかりでいいのか?
そうだ、衝撃でぶつけた血の流れる頭で思い出せ。
俺は選んだんだ、もう誰かを手の届く範囲に置くんじゃない。
「━━俺は、進むんだ!!!」
握っていたレバーを倒し、残るちからの全てを出して前進する。
その勢いにセイントはバランスを崩し、背中がガラ空きになったところへサラマンドラが攻撃を加える。
苦し紛れの反撃はノームが防ぎ、至近距離、回避不可のスナイパーライフルが火を吹いた。
爆風に巻き込まれて地に落ちていく中で、レインに向けて叫ぶ。
「レイン!!! 持って、けぇぇぇえ!!!」
上に向けて放り投げたスナイパーライフルをキャッチしたスプライトを確認して、親指を立てて落ちていく。
俺は託した。
頼れる親友は、振り向かずにエレファマクロスへと向かっていく。
「サニー...... 行っくぜぇぇぇえ!!!!」
思いは受け取った、ならばもう止まることはない!
リミッターを全て解除し、ISCを全開にしてエレファマクロスへと突っ込む。
一機、ニ機と立ちはだかるゴーストを払う様に落として突き進むが、不意の爆風に巻き込まれて機体のバランスを崩した。
その先を狙って、銀の銃口から光が漏れる。
「くっ! まずい!」
そう言ったのも束の間、それぞれ別の角度から銃弾が撃ち込まれ、3機のVFが露払いを買って出た。
一機はその背中に死神を背負い、銀の機体色を黒へと変えて。
『レイン少尉、後方への警戒が甘いぞ!』
「メッサーさん!? どうして!」
『少尉の友人が俺たちに自我を取り戻させ、カナメさんの歌が聞こえたから俺はここにいる。
それに、
━━行け! もっと高く、もっと強く飛んでみせろ!!』
「......了解!!」
死神に背を守られ、空を飛ぶ。
少し進めば、またも壁。
しかして壁は両断され、刃を手に持つその二機の後ろ姿は正に誇り高き騎士。
片や烈火の如く燃え盛る赤に身を包み、片や
『行け、レイン・クロニア!!
ここは俺と......』
『キース・エアロ・ウィンダミアが切り開く!』
「白騎士! 貴方も!」
『ハインツの事を気にかけ、友として弟と過ごしてくれた事、感謝するぞ。
さあ行け! 背中は俺に任せろ!!』
騎士の開いた道を行き、遂に壁は消え去った。
バトロイドへと変形し、エレファマクロスと俺たちを隔てるバリアへと両の掌を当てる。
機体が軋む、息が詰まる。
それでも、背中を押す歌がある限り。
「━━レイン!」
「闇フレイア! 手を!」
「うん、2人で!」
「「いっけぇぇぇぇえ!!!!!!」」
━━愛する人がいる限り、この翼は止まらない!
バリアを突き破り突入。
最後の悪あがきをする様に伸びる枝を、手に持っていたスナイパーライフルで根本から撃ち抜くと同時にそれを投げ捨て、エレファマクロスの甲板をバトロイドで走り抜ける。
『何故、何故理解しない!!
この世界には神が必要なんだ、神という絶対がなければ、また人は自身が最上だと勘違いをして争いを始めるんだぞ!!!』
「人はどんな絶対があろうと、未然に戦いを止めることはできない!」
『ならば!!』
「......でも!!
そうやって傷つけあって、分かり合って、許しあえるからこそ!!!
戦いを終わらせて......」
飛び上がり、右腕部にシルフとウンディーネを接続して、スパークが起きるほどのバリアがそれを包む。
チルディッシュが見上げているエレファ・オレーフの司令部へ、最後の拳を振り下ろした。
「愛を、伝えられるんだぁぁぁぁあ!!!!」
「アイ、なんぞにぃぃぃぃイ!!!」
幾重にも重なった爆風がエレファマクロスを破壊し、段々とエレファ・オレーフとマクロスクォーターが分離していく。
エレファ・オレーフの花は完全に閉じ、セイントは沈黙。
『フッ...... 高く強く、か』
『ボーグ、お前は...... 道を見失うな』
『......久しぶりに歌えて、ほんに嬉しかった!
美雲さん、カナメさん、マキナさん、レイナさん!
それに、Yami_Q_rayのみんな!
━━あんがとね!』
同時に、ケルビムは人の形を保てなくなり、スライムの様にその形を変える。
戦いは、終わった。
「......レインが、まだ...」
しかし、最後の一撃を決めた彼は帰って来ず。
未だエレファ・オレーフの蕾は黒煙に包まれたまま。
すると、黒煙を切り裂いて上方向に飛んだVFがバトロイドとなり、まるでスカイダイビングでもするかの様に腕を広げて落下してくる。
誰あろう、レイン・クロニアその人だ。
「━━帰ってきた、帰って来た!!!」
「ただいま!」
「おかえり!」
2人は涙を浮かべながら、人目も憚らずに抱きしめ合う。
その2人の愛と旅立ちを祝する様に、東から登り始めた太陽の光がその道を照らす。
暁の時。
その日、星団は再びの平和を取り戻した。
笑い合い、同時に言葉を紡ぐ。
繋がりあった喜びを、分かち合うかの様に。
「「━━愛してる!」」
もう少し続きます