茜色の空の下をこれ程までに優しい気持ちで歩けるのは、何の気兼ねをするでもなく歩けるのは、果たしていつぶりなのだろうか。
エレファ・オレーフの根っこまで歩く道すがら、視界の端に見える作業様の重機は忙しなく動き、あの戦いから3日しか立っていないながらもこれほど早く立ち直ろうとするゼルヘスの心の強さには、我が故郷ながら感心してしまう。
洗脳が解け、半ばパニックになっていた住民達はサニーのお婆さんが代理の指導者として纏めている。
アレで元々は王族に仕えていたちゃんとした出自の人。
しばらくは問題ないだろうが、それでもしっかりした立場として民を導く『王』が居ないのは、これから先のゼルヘスを考えると致命的な事だ。
そう考えれば、チルディッシュはなかなかな事をやってくれたものだ。
だが、今のところは問題ない。
「そっちは被害者キャンプへ食糧、水を届けろ!
こちらもドラケンで遠方の者たちに生活必需品を支給しに行く!」
「皆の者、今のゼルヘスは傷つき、助けを求めている!
9年前のウィンダミアの様に孤立無縁にはさせるな!」
戦いにより家や家族を失った人たちには、ウィンダミアが手厚いサポートを行っている。
やはりバルキリーのあるないは大きい様で、ゼルヘスだけの力では1日かかっていた物品の輸送もバルキリーなら1時間と少し。
最初は他星人である空中騎士団に怪訝な目を向けるゼルヘス人も多かったが、ウィンダミアで過ごしていた村の人たちが彼らの事を良く言ってくれたことにより、偏見も取り除かれて来た様だ。
......本当に、良かったと思う。
ハインツがこちらにかかり切りなのは大丈夫なのか、と思ったが、彼が『大丈夫』と言っていたからには大丈夫なのだろう。
もう、ハインツ・ネーリッヒ・ウィンダミアは1人で無理をする様な王ではないのだから。
さて、頭上に物を届けに行くジークフリードが通過したところで、目的地である根っこにたどり着いた。
一度足を止め、後ろを振り返ってこちらを追う影を待つ。
「速い〜......」
「だから言ったでしょ?
『少し急ぐよ』って」
ルンをヘナヘナにして膝に手をつき、頭を下にして息を整える彼女に手を差し出す。
大きく深呼吸をしたかと思えば、差し出された手を取るどころか柔らかく伸ばされた腕にしがみつき、絶対に離さないという意志をその体温で伝えてくるかの様。
その温もり、その行動による身体の不自由。
それらに不快感などはなく、むしろフワフワと飛んでいって空に消えてしまいそうな自分を繋ぎ止める鎖に、俺は大きな嬉しさを抱いている。
そんな一連がありながら、くるくると根っこの周りを歩く。
側から見れば『なんかやけにいちゃついてるデート』の様に見えるかもしれないが、断じてそんなことはない。
......本当に無い、やるとしてももう少し段階を踏んでからだ。
話を本筋に戻すとして、実は戦闘中に見えたのだ。
知っての通り俺は純粋種のゼルヘス人なわけで、一般的な地球人よりは視力がいいと自負している。
そして、その目で見たのだ。
エレファ・オレーフの立ち入り禁止エリアの中に━━
「......あった」
「これが、見えた
そう、この巨大な扉。
ちょうど地上からは見えず、一般的に立ち入る事もないこの場所に俺が3人分くらいの扉があった。
目の前にあるそれは、戦闘の衝撃からか数人が横並びで入れるほどの隙間が空いている。
中は薄暗い。
携帯のライトで行く道を照らし、先ほどの闇フレからの問いに頷きで返して歩き出した。
さらに距離の縮まった闇フレイアの温もりを右腕に感じながら、退屈な道中を彩る様に会話を交わす。
「......ねえ、この向こうに何があるの?」
「んー...... 分からない。
だけど、この木の1番深いところにはバジュラの死体があって、それが養分になったからここまで大きくなったとかは本に書かれてた」
「じゃあ歩いて行ったら、バジュラがいるのかな」
「そういう事でもなさそうだね。
ほら、あそこの壁画......」
そう言って照らした壁には、人の様な形をした生物が琥珀の様な物を掘る姿。
どうやらエレファ・オレーフから採掘されるフォールドクォーツであり、これまでに力として使って来たラインの黄金の採掘方法が記されている様だ。
「これが本当に採掘方法のメモなら、この先にあるのはバジュラの死体じゃ無くてラインの黄金かもしれない。」
少し光が入って来た通路を通りながら、思考を回す。
ラインの黄金がまだ残っていたとして、どうするのか?
今のうちに考えをまとめておくというのが吉だろう。
しかし、その考えはすぐに砕け散る事となる。
壁画から少し歩いたところで、またも鉄の扉に行方を阻まれる。
しかしこの扉はそれほど大きくなく、俺と闇フレイアの2人がかりでなら容易く開けられるほどの重量。
闇フレイアの方が力が強いので、あまり重さを測る際の参考にならないのは辛いところ。
そんな辛いところをかき消す様な光景が、扉を開けたすぐそこに広がっていた。
「......ええ?」
2人して目を擦る。
幻影ではないか、夢でも見ているのではないかという考えに乗って目を疑うが、身体は正直にその光景を現実と判断する。
「何これ、大っきい......!」
眼前いっぱいに広がるのは、日光が差してとても明るい空間を埋めそうな大きさの、
しかしてその姿は壁面に埋め込まれた琥珀の中に見える物であり、今の俺たちはとてもリアルな絵に驚いている少年少女の様な物。
現実から目を背ける様にバジュラから目を離せば、次に目についたのは空間の中心にある、人1人が入る様なカプセル。
天面はガラスの様に透明な結晶体であり、その手触りはそこらに転がっている琥珀となんら変わりない。
しかし重要なのはそこではなく、そのカプセルの中で寝ている人間。
2人して顔を見合わせ、そのガラスを叩き壊して引っ張り出す。
その人物は。
「━━なんでこんなところにいるんだ?!