ある星に、3人の子供たちがいました。
時が経ち、それぞれ別々の場所で育った3人はそれぞれの意志を胸にぶつかり合います。
1人は道に迷いながらも、友と空でぶつかり合った末に見つけたものを胸に。
1人は父、母が死ぬ原因となった男に復讐をし、愛憎飲み込んで守りたい故郷を守る心を胸に。
1人は愛する人の歌を背に、その翼を空に羽ばたかせて前に進んで行く残された者としての心を胸に。
相反する意志はぶつかり合った結果前へと向かい、彼らを引き裂いた男を退けます。
嵐は災いを吹き飛ばしました。
わたしはそれを見続け、友と語り合えた。
......満足な人生。
いえ、満足なバジュラ生と言うべきでしょう。
先の長くない私の道を彩ってくれたのは、彼ら3人の歩みだった。
感謝しなければなりませんね。
では、最後の役目を果たすために友の目覚めを待たせていただきます。
ごきげんよう、わたしの思考を見れる方々。
このバジュラ生を終えたのち、もしも人生を送れたのなら、その時はまた。
「━━あ、おはよ!」
気軽が過ぎる。
今床から上体を起こし、胸と下半身だけを隠したボロボロのドレスに身を包んでいる彼女、スノウ。
その笑顔は確かに9年前を思い出させる、が━━
「え、本当にスノウ、か......?」
少しだけ闇フレイアを下がらせ、動揺しながら警戒する。
あまりにも違うのだ、先日までぶつかり合っていた、チルディッシュとつるんでいたあの姿と。
さらに言えば声色、顔色、その背格好。
俺やサニーの成長が等速だとして、スノウだけ0.7倍速で育った様な、そんな感じ。
それに加えて目を引くのは、肋骨から下、鎖骨から上のお腹。
そこだけ人らしい肌色ではなく、半透明の薄緑で彩られている。
......正直、本当にスノウなのか?
チルディッシュが『殺した』と言っていた事からも、にわかに信じがたい。
「その顔、絶対信じてないね......?
なら! っと...」
ふらつきながらも立ち上がる彼女に思わず肩を貸し、至近距離でその瞳が映る。
虹彩の奥には純粋種のゼルヘス人とは違う、X字の小さな紋様が見え、その美しさはまさに王の血筋たるにふさわしい物。
困惑と驚きに包まれたままの俺と闇フレイアの事など知らんとでも言わんばかりに、彼女は9年前の様な明るさで笑いながら、俺の眉間を人差し指で突いた。
「なんでも秘密を言ったげる!
サニーの事とか、それこそレインの事とか!
あ、闇フレちゃんの事でもいいよ!」
「うぇっ!? 私!?」
「え、じゃあ闇フレイアの......」
「なんでぇ!」
そりゃあ選択肢にあれば無条件で選ぶだろう。
知れるのなら知っておきたい。
するとスノウはまるで注文を受けた飲食店の店員の様に『要求いただきましたー!』と声高らかに宣言。
一転、神妙な顔をして口を開く。
「彼女、レインの風呂上がりに居なくなるでしょ?
絶対。」
「あ、ああ、確かに......」
「あれ実は適当なとこに隠れて、上裸を目に焼き付けてる━━」
「わ、わー!!! わー!!!
ダメ、ダメダメダメ!!!」
速っ。
2メートルくらいあったはずの俺と闇フレイアの距離は1秒を待たずに縮まり、目の前にいたはずのスノウは決死のディフェンスでもう見えない。
と言うかまあ、上裸を見たいのなら見ればいいと思うんだけど......
「しかもねー、たまにムラっとして......」
「ひぃ゛やぁぁぁ!!!!」
oh......
「えっ、本当なの?」
「本当!!!!!」
やべえ、キレてる。
どうしようかな、謝るのは当然として、その後はどうすれば機嫌を直してもらえるか。
そんな事を考えていると、その矛先が方向を変えた。
「私はいいよね!? 次! レインのヒミツ!!」
「うわぁ......」
「はいはーい!
━━レインはね、そのー...... Yami_Q_rayとして歌う時の衣装あるじゃない?
その腰周辺と背中は絶対見てないよ。」
「どうして?」
「露出多いから!」
スノウに言われる前に、もう自分で言ってしまった方がダメージが少ない。
そう、俺が腰と背中を見ていないのは事実。
だって仕方がないと思う、背中とか隠す気がないレベルで開いているし、腰に関しては後ろから見ると...... その......
尻が...... 見えそう......
さて、互いに致命傷に近い精神攻撃を喰らったところで、目の前の彼女がスノウでないかスノウなのかの裁定に移ろうかと思ったが、もう考えなくてもわかると思う。
「信じてもらえた?
スノウ・ハミルトンことスノウ・ゼルヘス、20歳。
ちゃんと生きてます。」
「......本当、なんだな」
頷いたスノウの顔がこちらを向くと同時に、『ああ、良かった』と安堵が込み上げる。
チルディッシュの側に加担していたとして、彼女が何をしていたとしても、かけがえの無い友人だと言うことには変わりない。
生きていれば何だって、嬉しいものだ。
だが、どうしたものか。
友達とは言え、彼女がエレファ・オレーフを操作して攻撃を行ったのは事実。
スノウが
確かに彼女の行動が無ければメッサーさん達はこちら側につかず、あのまま物量差でやられていた可能性もあったので、一概に悪や善で語れないのも難しい。
『そこを何とか、お願い出来ないものでしょうか?』
「!?」
不意に響く、優しい声。
その声は空気を震わせ、耳から入って脳に辿り着くまでで一瞬。
まるで脳内に直接語り掛けられている様に錯覚させられる。
声の聞こえた方向に振り返れば、そこにあるのは琥珀の中に包まれたバジュラのみ。
まさか、と思ったが、スノウも闇フレイアもそっちを見ている以上、声の主はその琥珀なのだろう。
度重なる驚愕に頭が悲鳴をあげていると、今度は闇フレイアの身につけていたチョーカーがひとりでに外れ、輝き始めた。
『
『よくぞ帰って来ましたね、私の分身、私の娘。
彼らの活躍はあなたを通して、
「......エレファ、もういいの?」
『ええ、もういいのです。
いいバジュラ生でした、憂いはありません』
信頼を感じさせる、言葉の少ない問答。
優しく微笑んだ様にも見えたバジュラを尻目に、彼女は自身の寝ていたカプセルに取り付けられていたパネルを操作して、何らかの装置を作動させる。
その行動が終わった次の瞬間、バジュラの閉じ込められた琥珀から強烈な衝撃波を放ち、光の柱が天を貫く。
「きゃっ!」
「危ない。
......大丈夫?」
「う、うん...」
衝撃波で倒れそうになった闇フレイアの体を抱えながら、その光を見る。
よく見れば、その光は人の形をしたものがいく数にも重なったもの。
人魂と呼ぶにふさわしいその光たちは、まるで枷を引きちぎり自由となった闘牛の様に、全速力で各々別の場所へと向かっていく。
何をしたのか?
スノウに聞いてみれば、帰って来たのは先程までのテンションとは一転して、友人を失った悲しみを噛み締める様な声色の返事が返ってくる。
「......エレファ・オレーフはね、防衛システムでもあり、
善良、悪辣、中庸。
それらを分けて悔いの無い者は天に霧散させ、多少なり悔いがある魂はエレファ・オレーフ経由で世界を見て、悔いが無くなればそのまま天に昇らせる。
......まあ、チルディッシュはその保管した魂を利用した訳だけど」
「じゃあこの光の柱は、死んだ人の━━」
「そう。
エレファ・オレーフももう寿命だから、最後の力を振り絞ってコレをやってもらってる。
あとこれ、ラインちゃんにプレゼントだって」
そう言って懐から取り出し、手渡されたのは機械の人形。
ツインテールの様な意匠が頭部から伸び、大きな目はスノウの腹部の様に薄緑。
それを闇フレイアが手に取ると、ラインの黄金の輝きが人形に移り、元気に空を飛び始める。
『わあ...... ありがとうございます、お母様』
声色はいつもと変わらず平坦であるが、その動きは嘘偽り無く嬉しいのだろうと言う事を感じさせる。
どうやら浮力は脚部裏の薄緑の結晶から発されていて、ラインの黄金からのエネルギーを利用しているからほぼ無制限で浮遊できるらしい。
あの薄緑は何なのだろう、伸縮性もあるし、エネルギーの利用も出来るとは......
「これ? これは何と言うか...... ラインの黄金からフォールドクォーツの力を抜いて、その代わりに色々追加したー...... そう、生体パーツってやつ!
ほら私、落石に巻き込まれて胴が2分割されてた時あったから」
「......なんかごめん」
「生きてんだから謝らなくていいの!
━━それじゃ、外に行こうか。
......ありがとうね、エレファ。
あなたがいたから私は心を失わず、この木にいたみんなのおかげで私はこうして生きている。
王族でありあなたの友達として、心からの感謝を」
『ええ。
皆、強く生きるのですよ』
光の柱を背に、歩き出す。
魂の輝きは薄暗かった道ですら照らし、出口までを導いてくれている。
空は変わらず晴れ渡っている。