「せぇい!」
「うわあ!?」
マクロス・エリシオン内部。
ここは艦長であるアーネスト・ジョンソンが自身の趣味込みで作った柔道部屋。
投げられ畳に大の字になって見上げれば、『耐忍』と墨で書かれた文字。
遠い宇宙にある地球というとこの文化を好んでいるのだろう、この柔道も地球の小さな島国、日本の文化だと聞いた。
「では、柔道の講義を終わりにする。
昼飯をたらふく食べて体を大きくする様に!」
「はあ〜い......」
柔道着を着替え、食堂に向かう。
ここ数日はカレーだとか何だとか、固形物を水で無理矢理流し込んで食べていた。
それだけに、今日の定食のメニューに書かれたゼリーの文字には少しテンションが上がる。
おばちゃんに無理言ってゼリーだけを出してもらい、つるつると喉へ流し込む。
普通に美味しく無いが噛まなくていいだけマシ、というものだ。
そうしていると、食堂入り口の扉が思い切り開いた。
機械だから開き方なんて一定のはずだが、これに限っては開けた人の形相も相まって強く開いた様に見える。
「ハヤテ・インメルマン候補生! 出てきなさい!」
ミラージュさんの怒号が響く。
メカニックもパイロットもオペレーターも慣れた様子で、ここにはもういないと簡潔に事を伝えた。
どうやらハヤテは飛行実技以外サボっている様で、ろくに講義には出ていないらしい。
アーネスト艦長がぼやいていた。
友達なりに彼の事を心配しながら、食堂を出てミーティングルームへ向かう。
ハヤテにミラージュさんが教官としてついている様に、俺も教官に出る様に言われている。
正直さっさと空を飛びたいと思わなくも無いが、何にしてもまず一歩から。
ノートとボールペンを持参し席へ着いた。
「━━以上が、空戦時におけるVFの回避方法だ。
実戦ではこれらに加えて組み合わせによるアドリブが必要になる、質問は?」
「はい。」
「クロニア候補生。」
「この回避方法なんですけど、アル・シャハルで俺がやった
ガウォークを利用して避けながら上を取る、悪くないやり方だと思ったんですけど......」
「悪くは無い、が......
その回避方法は機銃などの攻撃に相性が悪い。
それにスピードをそのままにあの軌道を取れば、常人なら気絶し墜落するだろう。
だが単発の攻撃には効果的だ、飛行実技のメニューに入れておく。」
「ありがとうございます。」
メッサー・イーレフェルト。
Δ小隊のエースにしてΔ2。
無愛想で無表情、強面のモヒカン。
そして、俺の教官でもある。
チャックさんから話を聞く分にはとてつもなく怖い人、というイメージだったが、これが割と優しい。
飛行実技中にミスれば厳しいながら的を射た指摘をしてくれるし、その飛び方は見惚れるほど丁寧。
正直言って憧れてるし慕ってる。
......あ、ホコリ。
「━━クロニア候補生、聞いているのか。」
「あっ、はい?!」
「次は飛行実技だ、パイロットスーツを着てアイテールの甲板にまで来るように。」
ぼーっとしていた。
何というか、こうしてふとした瞬間に別の物へ集中が移っちゃうの、直したいな。
でもまあ、7年ウィンダミアでどうにかしようとして無理だったものだ。
ラグナに来て数日でどうにかなる者じゃ無いか。
「━━どうだメッサー、新人は?」
「操縦技術は『父親に習っていた』と言うだけあって見張るものがあります、恐らくチャック少尉より技量だけなら上でしょう。」
「そうか、なら
「いえ、逆に言えば『戦うための飛び方』しか知りません。
ワルキューレのバックパフォーマンスを教えることも考えれば、ハヤテ・インメルマンの方が飲み込みは早い。」
「どっちもどっち、か......」
「アラド隊長、何故レイン・クロニアの教官に自分を?」
「ん? おお、そりゃお前が暇そうだったからな!」
「『恋!ハレイションTHE WAR』のフォーメーションだ、流れはあらかじめ言った通り。
そちらの合図に合わせる。」
「はい、じゃあ行きます!」
気合いを込め、操縦桿を握る。
視界を遮り窮屈なヘルメットに不快感を覚えながらも、事前に映像込みで覚えた軌道を描く。
左へ旋回し、ローリング。
その最中にガウォークへと変形し、Sを描く様に今度は右へ、機体の腕を宙を撫でる様に動かしながら左回りでローリングしてバトロイドになりポーズを決め、ガウォークに戻って上昇する。
複雑な動きではあるが、今回は通しでやり切った。
今まで途中で止められていた事から考えれば、大変成長したと言って構わないだろう。
だがメッサーさんから届いたのは無慈悲な通告。
「ダメだ。」
「なんでぇ?!」
「バトロイドでのポーズが遅れている。
曲の見せ場だ、妥協は許されない。」
......こうして、またノートに反省が増えていくわけだ。
そろそろ2ページ目も埋まりそう。
機体を降り、何よりもまずヘルメットを脱いだ。
この閉塞感と視界の悪さは好きでは無い。
「その様子では戦力になるのは相当な時間がかかりそうだな。」
「......でも、対人なら戦力になれると思いますけど。」
屁理屈だとはわかっている。
でも口から出てしまったのだから、仕方ない。
大人になりきれない16歳の戯言、聞き流される様な事だ。
だがそんな戯言にメッサーさんは極めて真面目な顔で返す。
「敵機を落とすだけなら三流、踊るだけなら二流。
両方兼ね備えて一流だ、三流のパイロットは戦場には出せない。
出したところで死ぬだけだ。」
「今、考えたんですか?」
「アラド隊長からの受け売りだ。
あの人はあれで色々考えている、クロニア候補生はシミュレーションで練習をするように。」
言葉の節々から、なんというかこちらのことを考えてるのが伝わる。
本当に怖い人ならスパッと切り捨てて終わりだろう。
言いたい事を言って自機の方へ戻っていくメッサーさんの背中を見送りながら、ボソリと呟いた。
「......これだから、厳しくても嫌いになれない。」
父さんが『師匠』と呼ぶ人の武勇伝をよく話してくれた事を思い出す。
あの人もこんな気持ちで飛び方を教えてもらっていたのかと思うと、笑みが溢れた。
今日はこの後にあるミラージュさんとハヤテの決闘を見て、一日中シミュレーションの機械に籠るとしよう。
「頑張れハヤテー!」
「やった、ハヤテが勝ったー!」
「━━大人気なさすぎない!?」
その後の決闘、ハヤテの勝利、メッサーさんの乱入に一喜一憂、ドン引きしたのはまた別の話。
実際、戦場では増援も来るだろうけど、そんなへし折るような真似しなくても......
帰り道、歩いているとフレイアに出会った。
こちらに気づくと夜風の中で口ずさむ歌を止め、ウサギのようにトコトコと歩いてくる。
どうせ裸喰娘娘に向かうのだからと並んで行く事にした。
「今日はどうだった?」
「やっぱりダンスは大変やね......
でも! もう少しでデビューするからには頑張るんよ!
そういうレインはどうなん?」
「俺は次のライブに間に合いそうに無いかなあ。
でも参加できたら思いっきり盛り上げるつもりだから、覚悟してね。」
どうやら少しいいことがあったらしい。
先日までに比べて顔から緊張が抜けて、自然な笑顔が出てきている感じがした。
「そう言えばさ、フレイアってウィンダミア出身だろ?」
「そやんね、でもそれがどうかしたん?」
「いや、俺もウィンダミアから来たからさ。」
「ええーっ!?
ルンがないのに?!」
「いやそれはゼルヘス人だから。」
歩きながらウィンダミアについて話す。
俺の知らないウィンダミアの事や、住んでいた村がフレイアの故郷の2つ隣だったとか。
ハヤテ然りフレイア然り、こうして友達と話せて、戦争の活発な世界じゃ無くて本当に。
「━━心から良かったって、そう思うよ。」