ヤミキューレは駄弁りたい
「で、どうなんだよ?」
闇レイナからのその問いに対し、すっとぼけた様に「なにがー?」と机の上に顎を置いて明後日の方を見る。
それを見て質問主は何かを察した様にため息を吐き、一方で網タイツに包まれた長い足を組み、丁寧にグラスを持ってストローに口付けする闇カナメはにこやかに笑っている。
昼下がり、ラグナのカフェ。
ここより遥か遠くの星で起きた出来事から数ヶ月が経ち、ワルキューレに続く戦術音楽ユニットとしてYami_Q_rayがメジャーデビューしてからもそこそこな時間が過ぎた。
こう自分で言っては自惚れの様に聞こえるだろうが、まあ人気な方だと思う。
銀河ネットワークチャートにもランクインしている......の、だが。
一時期のワルキューレよりも伸び悩んでいるのだ。
仕方ない面はある。 ワルキューレを光として、Yami_Q_rayはその名の通り闇。
そこの印象から感じとられたのかどうかは分からないが、対外へのメディア露出がそんなに無いのが恐らく伸び悩みの原因だろう。
もっとインタビューとかの予定を組んでくれても良いのに。
で、今回Yami_Q_ray全員が揃ったのはそのあたりをどうするか決めるため。
......決めるために来たのに、何故か女子会まがいの事をやってしまってる訳だが。
上半身を持ち上げ、手を使わずにストローを加えてグラス内の水分を取り込んでいく。
カランと氷の音が涼やかで心地よい。
「その反応を見るに告白してから進展はなさそうね?
なんだ面白く無い、これじゃあ
「......揶揄ったら噛むからね」
「あら、こわいこわい」
のらりくらりと鋭い視線を躱されながら、私は少しだけ安堵して話を本筋に戻そうとする。
問い詰められてはいけない、恥ずかしい思い出など焼却炉に......
「え、なんか夜這いしようとしてヘタレて辞めたんでしょ?」
「──締め落としてやるゥゥゥ!!!」
「ちょ、やめなさい!
公衆の面前なのよ!?」
闇雲に抑えられながらも、それでも進もうとする意思を見せる。
どうせ言わないだろうと闇マキナに話したのが間違いだった、そうだ、彼女は何かを食べている時にポロッと言葉を漏らす。
しかも何が大変ってその言葉に少々脚色がついているところ。
毛を逆立てた猫の様になった背中をさすられながら席につき、マキナの食べていたケーキを一口奪い取って訂正に挑む。
「むぐ...... そもそも、夜這いって言い方が良く無い!
それえっちな言い方じゃん! はいえっち、マキナはそういう事考えちゃう子ですー!」
「あー! 私の!!
ていうかそういう考えになる方がダメでしょ?!
ずっとそういうこと考えてるんじゃん!」
「考えてないよ、知識として入ってるだけ!ちーしーき!!
そもそもそういうことやってないから!」
「あら、なら何をやったの?」
「寝てるレインにキスしようとした!
あっ」
「ぬゔぁぁぁあ......!」
「女の子が出して良い声じゃねえだろ......」
そうは言うが、出さざるを得ないというものだ。
体から魂魄が抜けていく様な感覚と共に息を吐き出し、自分の浅慮さに情けないと涙が滲む。
ワッと感情が出た故に闇マキナに突っかかってしまったが、ちゃんと冷静に考えればそこまでのことじゃ無い。
......多分、きっと。
そんな私を見かねたか、格好をつけてカップを傾けた闇雲が話を本筋へと戻す。
リーダーだけあって威厳はあるが、その傾けた器の中身がホットミルクであると言う事を考えると、まあ、うん。
「......で、本題の方はどうするの?
知名度なりを伸ばすとしても、そう易々と出来ることでは無いでしょう?
その証拠に私達は今チャートの中堅に閉じ込められている」
「ワルキューレの時と違って
身も蓋もない事を言えば、私たちって二番煎じだもの」
氷の冷気に満たされて冷え切ったグラスに額をつけ、冷ました頭で冷静に思考する。
戦術音楽ユニット。それはケイオスが有する大きな看板であり、少し前までならワルキューレにしか適応されなかった特異な枕詞。
その唯一性と実力でワルキューレはのしあがった訳だが、私たちにそれはない。
二つめのユニット、ワルキューレに瓜二つなその風貌と、まあよく思わない人もいるだろう。 便乗しただけとか、なんだとか。
名前と顔に関しては仕方ないところがあるが、それとして私たちにある唯一性とは何か?
全員が星の歌い手のクローンであること?
普通の人はそんなこと知ったところで『だから何?』だろう。
ヘイムダルに所属して暴れてたこと?
......言うまでもなく唯一性として考えるべきものではない。
はぁ、とため息が溢れる。
私の思考からも皆の口からもここまで出ないとなれば、新しく独自性、唯一の何かを作り出すしかない。
「──と、言ってもな......」
喫茶店でも開くか? そんな費用はないが......
皆それぞれ茶を飲んだりしながら考える中、5皿目を平らげた闇マキナが唇についたクリームを舐めとり恐る恐るその手を上げて口を開く。
「お菓子作りする、とか......?」
「良いんじゃないかしら?
......と言いたいところだけれど、それをどうやって多数に認知してもらえるかが重要。
雑誌を見たりネットで見る人は私たちをもう知ってるだろうし。 闇雲はどう?」
「意外性が必要なら、別ジャンルの活動に軽く参加するとかかしら。
例えるなら、スポーツ関連に参加して活躍すればそのジャンルの人が私たちに興味を持つかもしれないじゃない?」
「ええ、アリだと思う。
そういうアプローチ、必要よね〜...」
やはり音楽に対して直線的なだけでは新規の人間は見込めない、というのが皆の意見か。
変化球を交えなければ当てられない的当てをやっている様な気分になる。
「......で、闇カナはどうなの?」
「私? 私はもう、お酒──」
「それは」
「絶対に」
「「ダメ」」
「えぇ〜......」
言うだろうなとは思っていたが、本当に酒関連のことを言うとは。
筋金入りだ。
......そう言えば、先ほどから闇レイナが腕を組んで何も言わない。
人差し指でトントンと片方の腕を叩き、まるで何かを待っている様な......
そんな事を考えていたら、不意に頭へ衝撃が走る。
リンゴほどの重さで激突したそれは痛みで俯いた私の頭から落ち、一回転して膝の上へ着地した。
こちらには目もくれずに闇レイナに挨拶する白い身体に軽くデコピンをくれてやるが、無反応さに私が少々イラついただけ。
『──闇レイさん、ケイオス広報部からの許可をいただいてきました』
「よし、よくやった。
......それはそれとしてちゃんと謝れよ?」
『ごめんさーい』
「この......!」
ここ最近ラインも生意気になった。
心を覆っていた凍土のような壁が溶けきったからだと思えば良いことのように聞こえるが、それを差し引いても少々生意気がすぎる。
フリッグを懐いてくれる可愛い妹とするならば、ラインは小生意気な妹。
しかも先日食事機能を体につけたようで、我が家の食費は3人分に増えた。
だが、ラインの言う許可とは?
その如何を聞く前に、闇レイが自身ありげな表情で携帯から画像を映し出す。
「──ま、お前らが女子会やってる中で真面目に考えた。大多数の目に届いて、私たちの個を出し、かつコンスタントに人を呼び込める......
それは!」
「「「「それは?」」」」
「動画配信、だ!!」
「動画配信って、ネットワークによく流れてくるゲームとかのやつ?」
「そう! 菓子作って配信すりゃ私たちを知らねえやつも見るだろ?
酒飲んでるだけでも配信になるし、何か別ジャンルの事やっても良しだ。
どうよ、ちゃんとしてるだろ?」
「そう、ね。
確かに理にはかなってる」
「決まりで良いんじゃないかしら?
闇フレも良い?」
「うん。
......でも何処でやるの? スタジオでも借りる?」
「いや、そりゃあ──」
「じゃ、1週間後なー」
「ええ」
「お願いね、闇フレ」
「帰ろー」
「はーい。 ......はあ」
夕方。
帰路について砂浜周辺を歩く。
本当に闇レイナは頭がいい、ちゃんと考えて行動に移せるところは尊敬に値する。
......で、結局1週間後に配信という流れになったのだが。
カメラやらなんやらはあちら4人がやってくれるらしく、私が任されたのは撮影場所にレインの家を借りる事とゲーム機の調達。
なんならゲーム機なんて帰りに買っていけばいいが、家のことに関しては......
怒られるの覚悟で許可を懇願するしかないだろう。
『コチラで聞いておきましょうか?』
「ううん、Yami_Q_rayの事だから私が聞きに行かないと。
ありがとね、ライン」
橋を渡りきって空を見上げれば、そこには毎日のように空を舞う黒い翼の姿。
今日も流麗、繊細、かつ大胆な曲技飛行だ。
飛行機を模した右手をその姿に重ね、小さく微笑んだ。
平和だ、と。
右手を戻して先を急ごうとした時、携帯に連絡が入る。
通話に出てみれば、発信元は空に浮かぶ翼から。
「どうしたの?」
『いや、見かけたから...... 嫌だった?』
「ううん、むしろ嬉しい」
適当なところに腰掛けて再度空を見上げれば、バトロイドに変形したスプライトの姿。
受話器を真似たような形に指を折りたたむ左手を頭部側面に着け、空いた右手でこちらに手を振る姿は彼のよう。
せっかくだ、伝えてみる事にする。
「その、実は──」
『──ああ、全然いいよ。
むしろご飯とか食べていくのかな、問題はそこくらい』
「本当!? 良かった〜、もっと怒られると思ってたから......」
『怒んないよそんな事で。
ああそれじゃあすぐそっち行くよ。 ゲーム機、一緒に買いに行こうか』
「うん、待ってるね!」
ピッと通話を切り、先程とはまるで違うスピードで母艦に帰っていくその後ろ姿を見てルンに触れる。
真っ黒な私のルン、今はどうなっているのだろう?
もし願えるなら──
「ふふふっ!」
私の心の様、ピカッと花咲き輝いて!
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