「──よし、今日の実技は終わり。
今日は体を休めて明日以降に備える様に」
「「「はい!」」」
「ふうっ!」
着替えを終えて自室を後にする。
ウィンダミアに来て訓練をつけて、スプライトに乗ってラグナへ直帰するこの生活にも慣れてきたもの。
とは言え、本来は昨日帰る予定が1日ずれ込んでしまったのは予定外であった。
『ええ!? もう帰るんですか!?』
『物足りないっすよ!』
『逃げるな!!』
『なんなんだよ......』
......とまあ、教え子たちにこう言われてしまっては引き下がるわけにも行かず、1日泊まって昼前に帰ろうと言うわけだ。
『3対1に勝てるまで返しませんよ!』と言われたから全員叩き潰したが、別に問題はないと思う。
ダーウェントの大地を踏みしめながらリンゴ収穫中の人に挨拶をし、ふとこの星も変わったものだと微笑んだ。
初めてこの星に来た時は挨拶すれば、俺を地球人と思って人は逃げていったし、休戦記念にワルキューレがライブに来た時もよく思わない人はいた。
そんな実情を変えたのは人との交流。
フレイアが歌で風を吹かせ、その風がゼルヘス人とウィンダミア人を結んでいる。
関係が良好である事に悪い事はないから、スノウにもサニーにも頑張って欲しいものだ。
格納庫に着いてスプライトに乗り込もうかと言う時、背中からトントンと軽くつつかれた。
誰だ、ヴァルターか? と思って振り返れば、そこにいたのはこの場には不釣り合いな身分の王。
そして友人。
「帰るのか?」
「あ、ハイン── 陛下。はい、少し用事があるので...」
「ふふ、別に皆の前だからと言って遠慮する事はない。
私がレイン話しかける時は基本友人として、なのだから」
とは言え、なあ。
今いる格納庫みたいな所には必然的に人が多くて、そんな所で俺がハインツを呼び捨てにすれば否が応でも角が立つ。
加えて、ボーグに口酸っぱく咎められているのだ。
『そう言う会話は2人の時だけにしろ』と。
だが......
「?」
ボーグに怒られるか、ハインツに悲しげな顔をさせるかであれば、俺は前者を取りたい。
いや苦渋の決断だ、本当に。
「ん、どうせ時間もあるし、その辺座って話そうか?」
「ああ、勿論だよ」
「......うん、美味だな。
魚の旨みに手が進むし、薬味のおかげで後味もスッキリとしている」
「それは良かった、チャックも喜んでる
──あ」
2人で同じ物を口に運び、金属音を響かせて作業を続ける整備員たちを見上げた。
数人は見上げているこちらに気づいた様で、作業の邪魔をしない様言葉には出さず、小さく敬礼を見せている。
それに手を振りかえすハインツを見る限り関係は良好な様だ。
すると、翼がバキバキになった3機のドラケンが運び込まれ、俺は思わずそれから目を逸らした。
「ハァッ?! 何でこんなんなってんだ!?」
「訓練してたらこうなったってヴァルター中騎が!」
「あ〜昼飯食えねえなコレ!」
「......実機を使わなければいけない以上こうなるのは仕方ない、が。
修理費も有限だ、あまり壊さないでくれないか?」
「ごっ......めん、なぁ...」
ぶっ壊したのは俺です。
まあ言い訳のできることではない、教え子3人に本気で来て欲しいと言われたから本気でやった結果があれだ。
3機まとめて翼を撃ち抜いたのだから、整備主任もあんな反応をするのが当たり前か。
とは言ってもやってしまった事は仕方ない。
出発する時に謝っておこう。
「そう言えば、ゼルヘスとはどんな感じ?」
「そうだな......」
顎に手を当てて少し考え込み、ハインツが少し俯く。
一瞬何かあったのかと勘繰ってしまったが、話し始める瞬間の表情を見るにそうではないのだろう。
「少し前に訪問させてもらったが、復興は順調だったよ。
王という旗が民を引っ張り道を作り出し、その道を後の者が安心して歩ける様に民が舗装していく。
......私の言える事ではないが、裏切られて肉体を損傷したのにあそこまで国を想えるというのは、尊敬に値するよ」
「スノウはアレで一途だからな。
エレファ・オレーフの中でいろんな人の魂と語らって、チルディッシュと接触した頃には覚悟を決めてたんだろう。
昔からそうだった......」
「あの大樹も美しく花開いていた。
下世話な話になるだろうが、観光名所になりうるだろうと思う。
......とは言え防衛機構をなくした事で、ゼルヘス王もVF部隊を採用するかどうか悩んでいる様子だったが」
そこはスノウも悩むポイントだろう。
事実として、ゼルヘスにマクロスクォーターで攻められた際はエレファ・オレーフも起動せずにそのまま占領された。
コレはエレファ・オレーフに頼りすぎていたというゼルヘスの弱点を露呈させる物であり、同時に民衆が武器を持つ事に寛容となるキッカケになる出来事だった。
しかし、ここでストッパーとなるのがブリージンガルの情勢。
争いの種となる可能性があったウィンダミアは新統合政府と和解の道を辿り、ヘイムダルは崩壊。
チルディッシュは俺がこの手で殺した。
それに加えてゼルヘスではヴァールが確認されていない事もあって、鎮圧部隊としてVFを導入することも怪訝な顔をする人たちがいる。
そしてウィンダミアとの同盟国関係。
武力を持てばいつか起きる戦争に駆り出されるのではないかという意見もある。
武を持つ事をよしとする人と良しとしない人、そのどちらもゼルヘス人として好いているスノウだからこその悩みだ。
だが。
「きっとスノウは答えを出すさ。
民が全員受け入れてくれる様な考えを出してくれる。
そういうの得意なんだよ」
「ふっ、信頼しているのだな?」
「まあね!」
前向きに会話を中断し、片手に持った物を口に詰め込み飲み込んだ。
それを真似してハインツも頬張るが、横から飛び出た魚肉が頬に付く。
気づいていない様子だったので摘んで取り、せっかくだからと口に運んだ。
「どうした?」
「いや、付いてたからさ。
ちっちゃいんだな、口」
「......王にあるまじき姿を見せた。
忘れてくれると嬉しいが......」
「まあ良いじゃない。 王だって人なんだ、このくらい抜けた所を見せてくれたって良いのさ。
可愛いところを忘れる理由もないだろ?」
「そう、か......?」
ハインツは顔を背けて俯くが、その耳は真っ赤。
その状態のまま少しして、彼はその手に残ったものを口に詰めて飲み込み、こちらへまっすぐな視線を向ける。
息を飲み、口を開いた彼から目を離さない。
「......これは、戯言だ。 一時の気の迷いとして聞き流してくれ。」
「......」
「
私を支えてくれた空中騎士団の面々も多く風となっていった。
カシム、ヘルマン、テオ。 そして兄様、ロイド...... 皆この星のために戦いルンを削り、そして時を迎えて風となった。 ぽっかりと胸に穴が空いた様な気持ちだった。
1人ではきっと、私は耐えきれなかっただろう。
......だが、ボーグがいた。 無論レインも。
王としての私を支えてくれたのはボーグで、人としての私を支えてくれたのはレインで。
だから私はここにいられる。
こうしてものを食べ、リンゴの花を見て、民と生きていられる。
──ありがとう。」
「どういたしまして。」
「......ふふ、私たちどちらかの性別が違えば、きっと伴侶になっていたかもしれないな?
そういう未来もあったかもしれない。」
「どうだろうね? 俺が婿入りの形になるのかな?」
「いや、私が娶る形になる」
「あっ俺が女になるの?!」
そんな話をしながら、時間が過ぎる。
午前11時、ラグナはまだ朝。
何者でもない2人として語らえる、ただ一つの時間。
「──レイン・クロニア......!!」
「あっ、見つかった!」
「貴様は何度言えばわかる!? 陛下と語らう時は然るべき場所でしろと!!」
「まあ待て、ボーグ。
昼前だ、コレを食べて皆で休もう」
「むぐっ!? こ、これふぁ......!」
「美味だ、味わって食べろ?」
「はは、ボーグもハインツの前じゃ形無しだな?」
「き、貴様!」
「ボーグ。」
生きている3人だから、手を取り合って。
「はははっ」
「ふふっ...」
「フン......」
たまにはこうやってご飯でも。
たった3人の、分かり合えた友だから。
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