Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:元ジャミトフの狗
薪の燃える音がする。空は暗く、とても冷たい。肌を刺すような寒さに、身体は凍え震えている。毛布一枚などでは到底誤魔化せなかった。
「……寒いか、ロー」
道化の化粧をした大男だ。屈託のない満面の笑顔。ああ、その顔が酷く懐かしい。
そうだ。これは古い記憶だ。泣きたくなるくらい、これは夢なんだ。嫌でも自覚できてしまう。だって彼は、彼の名は――
「――コラさん」
「もう少し、こっち来るか?」
戸惑いがちな声音の中に純粋な慈しみを感じる。それが分かる。こちらが頷くと、コラさんは膝を叩いた。ここに座れと言うことらしい。
夢だと分かっていても。いや、夢と分かっているから。その厚意に甘える。膝の上にすっぽりと嵌る様に、自らの腰を下ろした。
「……温かい」
「そうか。それは、良かった」
「うん」
幼き日の思い出。こんなこともあったなと、懐古する。
でもこんなにも鮮明な夢ならば、何か勿体ないような心持になる。
そう。言いたいことがあるのだ。伝えたいことがあって、共有したい思い出がたくさんある。でもその多くを語るには、きっと時間が足りない。だから――
「ねぇ、コラさん」
「んー。なんだ」
「有難う」
意味なんてない。こんな過去の残滓に思いの丈を吐露しても、何の意味もない。後悔の清算なんて、出来るはずがないのだから。そんな事、分かりきっている。
けれど、それで良いと思った。
「コラさんのおかげで、私は今日も生きている。素敵な人たちにも出会えた」
夢を夢と認識した時、既に人間は覚醒している。
それでも、この温もりだけは本物だ。コラさんから賜った愛情は、確かに今も覚えている。そのことを再確認できた事が、何よりもうれしかった。
「――――――!!」
コラさんは何かを答えてくれた。きっと優しい言葉だ。その笑顔はあまりにも不細工で、笑ってしまいそうだけれど。
「きっと、私は貴方の本懐を遂げるわ」
意識が現実へと吸い込まれていく。この温かく優しい幻想が終わってしまう。だから、最後に伝えるのだ。
「あんな奴の事なんて、本当にどうでも良いけれど。それでも、私はきっと成し遂げる。だから、安心してほしいの。私がドフラミンゴを止めるから」
本当はコラさんが成し得た筈の未来を取り戻す。私がドジを踏まなければ、彼は目的を達した筈だ。故にそのケジメをつける。
するとコラさんは嬉しそうに、けれど悲しそうに微笑んだ。心配してくれるのは分かる。でもこれが私の
「さようなら、コラさん」
スワロー島の一件。あの時、感謝の言葉も別れの言葉も告げる事が出来なかった。訳も分からず、ただコラさんの決死の成果を享受するばかりで。私は、何も返すことが出来なかった。
これがただの泡沫であろうと。たとえそれが単なる自己満足であろうと。その心残りを―――
★
目が覚める。良い夢を見た、そんな気がする。
腕を見た。丁度良い抱き枕がある。筋肉質で少し堅いのが難点だが、そこは愛情でカバーできなくもない。ただ達磨のまま放置されているのは、我ながらやり過ぎだったと反省する。
「……でもそっか。温かったのは、これか」
身じろぎすると、ふさりと羽毛が舞う。
赤い翼。それが自分の身体を包み込んでくれていた。仄かに温かく、ともすれば炎を思わせる様な朱色だ。抱き枕にしたツバメの背からソレは生えている。どうやら気遣われていたらしい。
「吉兆を知らせる神鳥。成程、確かにそれらしい。ありがとう、良い夢を見せてもらったわ」
寝ている彼の頬を撫でる。ただ触れるだけで、言い様のない喜びが胸の内に生まれる。幸せとは、恐らくこういう事を言うのだろう。
「――無茶をするわ」
しかしよく観察すると、男の目元には深く黒い隈ができていた。寝不足の証左である。
己のエゴにツバメを巻き込んだのが既に3年前も出来事。共に航海して分かった事は、どうにもこの男は自分の身体を蔑ろにするきらいがあるという事だ。
或いは献身と言い換えてもいい。だがそれにしたって度を越している。船員のため、より良い航海のためと言えば聞こえは良いだろう。しかしその中にツバメ自身は含まれていないのだ。
その事が気がかり、いや端的に言って不愉快だった。
「こんな事、私が言えた義理ではないけれど。もっと自分を大事にしてほしい」
胸に手を当てると規則的な鼓動を感じる。彼は生きている。今も確かに生きているのに。
「どうしてそんなに生き急ぐのかしら、貴方は」
ずっと前からそうだった。ツバメという男は子供の時分で雪山に籠り、自らを戒める様に修行を積んでいた。それは自殺行為と言い換えてもいい。今も生きているのは運が良かったからに過ぎない。
今回の件もそうだ。平気な顔のまま無理を通した結果、過労に気づかず倒れる。一歩間違えていれば、死んでいたかもしれない。
「もっと器用に生きることが出来たらいいのにね」
多分、言っても聞かないのだろう。そういう意味で言えば、彼はコラさんとよく似ている。二人とも他人のために己の命を張れてしまうような人だから。
それが嬉しくもあり、辛くもあるのだ。まだまだ未熟だと。彼らの庇護下に過ぎないのだと。そんな現実を突きつけられている事が、酷く分かってしまう。
「貴方からすれば、私はまだ小娘のままなのかしら」
もっと頼ってほしい。もっと求められたい。同じ視座に立ちたい。そういう我欲がある。
しかしどこまでもそれは自分の我儘に過ぎず。私が未だに至らないから、ツバメは無茶をする。欲を遂行するには、それ相応の力が必要だ。
「――強くならないと」
力も金も権力も、今の自分には何もない。ソレそのものにあまり興味はないが、分かりやすい指標は必要だ。
室内にあった新聞を能力で取り寄せる。記事には、左目に3本の傷跡を持つ男の写真が大々的に載せられている。
赤髪のシャンクス、
「新たなる海の皇帝。傾く世界の均衡、か」
何と無しに記事の見出しを読み上げる。
四皇、即ちこの海に君臨する大海賊たち。相対するは世界政府直轄の正義の軍隊、海軍。そして世界政府に略奪行為を認められた海賊、七武海。これら世界の安定を司る3つの勢力を称して、三大勢力という訳だが――
「――そうか、七武海」
何かが頭の中で組み上がる。己の目的を遂行するのに、これほど都合の良い隠れ蓑はない。
「誰かを引き摺り下ろすか。それとも四皇の幹部? それに準ずるクラスの海賊でも悪くないかしら」
思考は驚くほど冴え渡っている。
目的は新世界に拠点を下ろしていて、私の存在は奴の耳にも届いていると考えて良い。接触を図るのであれば、その座を狙う事も決して悪い選択ではないだろう。奴が直接手出しできない立場に身を置く、やはり悪くない。
「何にせよ、まずは実績を上げること。あーあ、これから大変ね。そうは思わない?」
再度、眠りこける男の頬を掻い撫でる。そうしてそのまま、首筋に残る大きな傷跡をなぞった。穏やかではない。動脈に限りなく近い位置だ。少しでもズレていたら、彼の命はなかっただろう。それだけ大きい疵だった。
曰く、昔どこぞの世界貴族に付けられた代物なのだという。深く、まるで己の物だと主張する様に刻み付けられている。
彼にとって忌まわしい過去の象徴たるソレは、オペオペの能力を以てすれば消し去ることも不可能ではない。しかしどういう心算か、彼は残しておきたいという。理由は頑なに語る事はなかった。
「……不愉快ね」
独占欲の発露は、自分でも意外なほど部屋に響き渡った。
投稿が遅れてしまい申し訳ございません……。
今回はロー視点ですが、ヒロイン視点って需要はあるのだろうか。
自分があまりside形式が好きではないので、ちょっと聞いてみたかったり。