Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~   作:元ジャミトフの狗

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先日は多くの感想を頂き、本当にありがとうございます!
感想でしか得られない栄養素がございます。励みです。
拙作ではございますが、引き続きよろしくお願い申し上げます。




第18話

 

 

 

 男の故郷は西の海(ウェストブルー)にあった。

 

 代り映えのしない毎日、うだつが上がらない退屈な日常。つまらぬ仕事で日銭を稼ぎ、恐らくはどうでも良い何某かを娶る。そんな未来を予感させる生国を、男は好きになれなかった。

 

 男が十五の時分。海賊王ゴールド・ロジャーは捕まり、そして処刑された。これで世界の均衡とやらも平和な方向へと向かう。ああやはりつまらない、そんな感想が先走る。故に誤算だった。

 

 

 ――俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ…。探してみろ。この世の全てをそこに置いてきたっ!!

 

   

 算段を見誤ったのは世界政府も同じだった。ロジャーが死の間に際言い放った言葉は、数多の男たちを海へと駆り立てたのだ。

 

 一攫千金を夢見る者、名声に目が眩んだ者、或いはそこに浪漫(ロマン)を見出した者。人の憧れは止められない。ただ事実として、ロジャーはたった数秒で世界に変革を齎した。大海賊時代の幕開けである。

 

 故に男も狂騒に乗じた。元より荒くれ者と知恵者の二つの側面を有していた男は、口八丁手八丁で資金を調達し、必要な時は暴力でのし上がってきた。

 

 堅実に、時には大胆に。男の名声は留まるところを知らず、ただ海賊としての"格"を上げていく。

 

 何もかもすべてが順調だった。男は――カムラン・ジョーは面白くて仕方がなかった。この世界は自分のためにある。そう信じて疑わなくなるくらいに。

 

 偉大なる航路(グランドライン)に入り、海賊も海軍も敵ならば誰でも蹴散らし、そうしてたどり着いたこのジャヤの地。上陸して早々、耳聡いジョーは百獣海賊団の飛び六胞が一人、『幽鬼』の目撃情報を掴んだ。

 

 聞くところによれば、幽鬼はジャヤに近いハンナバルという島に滞在しているという。狙いは例のレースか。何にせよチャンスだとジョーは考えた。何か手土産を持っていけば、彼の四皇に下る事が出来るかもしれない。そう、例えば1()()()()とか。

 

 『死の外科医』、トラファルガー・ローがモックタウンに現れた。そんな報告が転がり込んで、いよいよジョーは神を信じる気分になった。

 

 死の外科医は、懸賞金が1億B(ベリー)の大型ルーキーである。だが所詮は女。ジョーよりも懸賞額で上回っているが、格上などでは断じて有り得ない。戦闘になれば己が勝つとジョーは確信していた。

 

 なにせジョーの知る女とは食い物だ。奪われる存在だ。性欲をぶつけ、犯される生き物だ。

 

 となれば、今日まで死の外科医が生き延びたのはまぐれ、幸運に幸運が重なった結果に過ぎないのだろう。事実、偵察に送った部下はその側近である『鳴無(おとなし)』のツバメに敗北したという。成程、鳴無はそれなりの脅威であるらしい。しかし詰めが甘いのか、それとも単に殺しが怖いのか、鳴無は襲ってきた相手の命は奪わなかった。全くもって軟弱なことだ。虫唾が走る。

 

 現在、鳴無と死の外科医は呑気に買い物をしている。なれば後は二人を尾行し、一人になったタイミングで仕掛ける。完璧かつ簡単な仕事だ。目的はあっさり遂行できるだろう。そうして四皇の配下となり、いずれはその四皇さえも手にかけ海賊の王へと至る。そういう輝かしい未来が見えた。

 

 目標の二人が酒場に入った。手始めにジョーは己の右腕と部下を数人、店に入らせる。作戦を即座に実行するための用意だ。

 

 暫くすると、鳴無が店から出てきた。僥倖だ。丁度良いタイミングだ。殺せる。簡単だ。己には何十もの部下がいるのだから。そして鳴無は雑魚の命すら奪えない惰弱な男である。心構えからしてジョーと違う。

 

 ジョーは殺せる。一片の躊躇いもなく人を殺める事が出来る。故にその引き金は軽く、剣に滴る血を見て興奮を覚えるのだ。

 

 だからもう終わりである。鳴無を適当に痛めつけ、人質にする。なにやら「気に入らない」などと吠えているが、自分よりも弱い男の言葉を聞いてやる道理もない。

 

 

 

 ――そうして視界が暗転する。

 

 

 

 殴り飛ばされたと知覚する間もなく。

 

 世界は広く。夢は夢のまま。今日に至るまで、自分が他人にそうしてきた様に。一人の男の野望は、ただ無情に潰えたのであった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「これは――」

 

 カムラン・ジョーの一派が散り散りに去った後の話である。

 

 どうやら彼らは置き土産を残していったようだ。拾い上げてみれば、それがエターナルポースであると分かる。金属製の名札には『ハンナバル』と刻まれていた。

 

「ふむ」

 

 相対する敵の力量を見極められぬ男ではあった。しかし己の部下を先に店内に忍ばせておく辺り、カムラン・ジョーが用意周到な男であった事にも間違いはない。

 

 とはいえ、今頃はローがきっちり始末している事だろう。覇気使いを誤魔化すには、それこそCP(サイファーポール)の上位クラスの隠密能力が求められるのだから。

 

 また、もし仮に我々を打破したところで、四皇幹部が滞在する島に辿り着けねばその努力は水泡に帰す。故に目的地のエターナルポースを押さえていた事は素直に感心である。少なくともその場の勢いで物事を決断しがちな海賊でありながら、目標が明確であったことは評価に値する。

 

 カムランに抜かりがあるとすれば、それはただ純粋に弱かったこと。そしてそれを補う策が緩かったことだろう。

 

「……一先ず、定時連絡は済ましておこうか」

 

 懐から小型電伝虫を取り出し、ポーラータングの固定電伝虫へと電話をかける。するとワンコール以内で繋がった。相変わらず真面目な仕事に苦笑する。

 

「ツバメだ。ちょっとしたトラブルに見舞われたが、既にケリを付けた。そちらは如何か」

『うっす、ベポっす。こっちも大丈夫っす! 問題ないっす!』

「そうか。悪いな、先に楽しんでて」

『それも大丈夫っす! キャプテンも副キャプテンもいっつも頑張ってるから!』

 

 その一生懸命な言葉に胸を打たれた。もう気遣いからして可愛いんだが、ウチの白熊くん。

 

「……有難う。引き続き船番を頼む」

『アイアイ!!』

 

 通話を切り、電伝虫を仕舞った。面倒ごとに巻き込まれはしたが、これで落着である。収穫もあった。あとは報告をするのみだ。

 

 店に戻ろうと、西部劇よろしくのスイングドアを開ける。すると、あれだけ騒がしかった店内が今は静まり返っていた。ただ客の視点、否、意識は一点に向けられていた。寧ろ視線は皆一様に地面に吸い込まれている。ともすれば、()()()()()()に巻き込まれない様に。

 

 異様な空気の発信源は、カウンターで足を組む白い女性にあった。

 

 トラファルガー・ロー、己の上司だ。だが滅多に激情を晒さぬ彼女が、今は珍しく怒気を孕んでいる。そして彼女の手には、何やら()()()()らしき代物が。いやな予感がした。

 

 己が声を掛けるより先に、ローは手の内にある()()を力強く握った。となれば、必然的に――

 

「があ、がああああぁぁぁああぁ!!!!」

 

 痛ましい慟哭が店内に響き渡った。ローの足元で蹲っている大男が勢いよくのた打ち回る。よく見れば大男の腕には、カムラン・ジョーの海賊旗(ジョリー・ロジャー)が刻まれていた。

 

「おい、どうしたんだ」

 

 駆け足で近づきローの肩に触れる。彼女はこちらに顔を向けない。

 

「何があった」

 

 問いかけてから気が付く。彼女の足元には大男と共に、色とりどりの布切れが散らばっていた。先ほど、ローと共に購入した衣服の残骸である。

 

 それで悟る。経緯は不明だが、この大男はローの買い物を切り刻んだのだろう。獲物はサーベルか。縫い合わせるにしても切り口は大きい。買い直した方が賢明である。

 

「そうか」

 

 彼女の怒りに共感する。議論の余地はない。この男はローの琴線に触れた。オペオペの能力で心臓を刳り貫くなど、よっぽどのことなのだから。

 

 無意識的に己は彼女の背を摩った。こういう時にどうすれば良いのか、粗忽な己には分かる筈もない。ただ、そうすべきなのだと思った。

 

「……御免なさい。少し取り乱してた」

 

 無言であること暫く。ローは落ち着きを取り戻した。顔の険が幾許かとれた様に見える。ローは自身の肩に置かれた手を優しく撫でた。

 

「謝る事ではない。だが()()は流石に返してやれ」

 

 俺が告げると、ローも小さく頷いて()()をテーブルの上に置いた。誰の物かは語るまでもない。

 

「折角貴方が選んでくれたのに」

「また選ばせてくれ」

「――うん」

 

 舌足らずな返事。いつの日か病を患ったローを思い出す。しおらしい彼女は久方ぶりだった。だがそれはそれとして――

 

「おい、起きろ」

 

 床に寝転ぶ大男を起こす。正直に言えば、俺としても今回の件は腹に据えかねた。金銭だけで済む問題ではない。落とし前はつけさせてもらう。

 

 だが、男は一向に起き上がる気配がなかった。完全に失神している。たかだか臓物を一度握られたくらいで情けない。

 

「此奴の仲間はいないのか。さっさと連れて行ってくれ」

 

 呼び掛けると、顔面を蒼白にしながらも前に出てくる輩が数人。全身を震えさせているところを鑑みるに、完全に心が折れている。ウチのキャプテン、相当苛烈な怒り方をしたらしい。

 

 気づけばそそくさと男たちが逃げようとしているので、「おい」と呼び止める。

 

「せめて有り金はおいていけ」

 

 男たちは慌てて紙幣と金貨をカウンターに叩きつけていった。あぶく銭ではあるが、衣服の弁償代としてはあまりに足りない。後ほどきっちり取り立てる必要があるか。

 

「……全く」

 

 まるでチンピラが如き己の行儀に辟易する。男たちは既に店を後にしていて、残るは気まずい空気のみ。全く本当に厄介なことをしてくれた。

 

「出ようか」

「……ええ」

 

 意見は一致した。店主に御代を聞くと、「要らないからさっさと出て行ってくれ」と告げられる始末。流石にそれも悪いので、先のあぶく銭の過半を置いていった。

 

 全く本当に、とんだ休日である。

 

 

 

 ★

 

 

 

「もっと飲むのー!」

 

 本当にとんだ休日である(二度目)。

 

 店を変えて飲み直す事にしたのが今から二時間前。長い時間をかけて購入した衣類がお釈迦と化したのは、ローとしても相当に堪えたようで。ご機嫌取りに次なる店に足を運んだら、一人の酔っ払いが出来上がったという寸法である。

 

 因みに先の事情は、既に船員(クルー)達に伝えてある。その時の彼らと言えば、通話越しでも伝わってくる程度には怒り狂っていた。

 

 ドライを自称しているハートの海賊団だが、その実態はキャプテン大好き集団である。故に彼らが敬愛するキャプテンを悲しませたらどうなるか。それは火を見るよりも明らかだった。ただ己の不始末を仲間に押し付けるのも忍びないので、今しばらくクルーの皆様方には待って頂いている。

 

「ちょっと、ツバメ。聞いてるの?」

 

 その一方で、この呑兵衛(のんべぇ)である。ふくれっ面になってどうした。

 

「聞いてるよ」

「でも上の空だった」

「そんなつもりはないが」

「じゃあ、何の話をしてたか言ってみて」

「何の話って、お前」

 

 彼女に問われ、会話とは何かを考える。自分の認識が一般大衆と変わりないのであれば、会話とは言葉のキャッチボールである。即ち、互いが互いの話を聞いて、応答する。そういう発話のまとまりだ。

 

 故に今この場において――

 

「ふふ」

「どうした?」

「楽しいね」

 

 俺とローの間で会話は成り立っていない。というか、先に問答を始めたのは彼女の筈だが、もうすっかりその事を忘れているらしい。絡み酒とはこういうモノなのか。

 

 そうと己が油断している内に、彼女は追加の酒類を頼んでいた。流石にこれ以上の飲酒は悪酔いだけでは済まなくなる。なので、それとなく胸の前で小さく手を交差させると、バーテンも頷いてくれた。何か子供だましのソフトドリンクを用意して頂けたらありがたいのだが。

 

「つばめっ!」

「な、何だ」

「呼んでみただけ」

 

 何やらふにゃりと微笑むものの、やはり会話とは相成らない。上機嫌なローに構われて嬉しくない事はない。だが、少し無防備過ぎやしないだろうか。

 

「そろそろ帰るか?」

「もう少し飲む」

「十分飲んだろうに」

「まだ飲むの」

 

 飲むというか、飲まれているというか。ただ中性的な容姿を持つ彼女が、今日はどこか艶っぽい。紅潮した頬は酒精によるものだけではなく、さながらローの興奮度合いを指し示している。理性を忘れるほどの飲酒は、記憶にある限り今日が初めてだった。あまり肝臓は強くないと見える、覚えておこう。

 

「お客様」

 

 グラスがテーブルに置かれる。香りからしてジンジャーか。何らかのカクテルである事は分かる。

 

「ああ、有難う。これは――」

「はい、ご要望通りに」

完璧(パーフェクト)だ」

「感謝の極み」

 

 バーテンダーは仰々しく頭を下げる。どちらかと言うと、執事と呼んだ方が雰囲気に沿う。そういう店員だった。

 

「……ちょっと」

「ん? ほら、お求めの物がきたぞ」

「そうじゃなくて」

「何だ」

「私を見て」

 

 要領を得ない言葉の応酬である。何の意図も掴めないまま、ただローの言う通り身体ごと向き直る。すると己の頬に両手が添えられ、そのまま子供が玩具にそうする様に潰された。「ぶへ」などと情けない声が零れ落ちる。

 

「私を、見て」

 

 意識が定かでないのか、ローの瞳は虚ろになる。暗く深い。こういう病みを帯びた目で見られる事が、不健全であると分かっていても嬉しかった。しかしそうか、先のバーテンとのやり取りがお気に召さなかったか。まったく本当に、締め付けが強いと愛想を尽かされるぞ。

 

「ああ、見ているよ」

「なら良い」

 

 両手が離される。そうしてノンアルのカクテルを口へ運ぶ。もし酒類だったらと思うと不安になるくらいの一気飲みを披露してくれた後、ぷっくりとしかめっ面になる。曰く「これ、お酒じゃない」とのこと。察しの良さは酩酊していても変わりないらしい。

 

「いい加減、酒宴もお開きだ」

「……どうして?」

「真面目な話をしよう」

「というと?」

 

 彼女のトロンとしていた瞳に生気が灯る。理屈は分からないが、恐らくはオペオペの能力を用いて体内からアルコールを取り除いたのだろう。どこまでも便利な悪魔の実の能力である。

 

「先に交戦した海賊から得た情報だが、近辺に四皇の幹部が出没したらしい」

「どこの」

「百獣海賊団、飛び六胞だそうだ」

「近辺って具体的には?」

「ここだ」

 

 入手したエターナルポースを渡す。指し示す場所の名は――

 

「ハンナバル、か。確かに聞いた事はある。海賊によるレースがどうとか」

「その認識で相違ない。正式にはデッドエンドレース、優勝額は1億らしい」

「へぇ。それは中々」

 

 女性にあるまじき凶悪な笑みを浮かべるロー。しかも何やら姦計を巡らす算段らしい。自分から話題を提供して何だが、この温度差の変化は普通に頭がバグりそうになる。

 

「――行きましょうか」

「レースに参加するのか?」

「ええ勿論。でも狙いは優勝じゃないわ」

「……まさか」

「ご明察」

 

 つまりローの狙いは()()()()()()()()()()()()である。

 

 意外だった。今日に至るまで、ローは自らの意志で何某かを襲う事は殆どなかった。あるとすれば、それは職業安定所の名を騙る人攫いぐらいだ。基本的なスタンスは、降りかかる火の粉を払うというものである。

 

「どういう心算か聞いても良いか」

「別にそんな大仰な物でもないけれど? 単に名を挙げようってだけ」

「それで四皇に喧嘩を売るのか」

「聞くところによれば、百獣のカイドウは強きを尊ぶと聞くわ。未だ前半の海で燻るルーキーに敗北するような部下なんて、向こうとしても要らないでしょう」

「おいおい、それは憶測が過ぎるだろう」

 

 苦言を呈すと、彼女はにっこりと微笑む。笑顔の起源が威嚇であると見聞きしたのは、果たして何時だったか。少なくともこの場において、トラファルガー・ローという女性は最も獰猛な生き物だった。

 

「――大丈夫。私には貴方が、貴方たちがいるから」

 

 

 

 




デート回はこれにて終了。
次回からは多少シリアス方面でいきます。

言うまでもないかもしれませんが、今作で登場する飛び六胞の『幽鬼』はオリジナルキャラです。
原作から数えて6年前の四皇幹部は、きっと今の顔ぶれと違っていたのではないか。そういう発想で生まれたキャラです。
原作の描写から、百獣の海賊団は競争が激しそうだし。
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