Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:元ジャミトフの狗
どうか楽しんでいただければ幸いです
ふと、目が覚めた。
見知らぬ天井、鼻腔をくすぐるのは焼き物の匂いだ。上体を起こすと、被さっていた毛布がずれおちる。
「起きたか」
低い男性の声。視線を向けると、こちらに背を向けながら座る男がいた。どうやら囲炉裏の前で何か作業しているようだった。
枕元に置かれていたメスを手に取る。
「……ここは」
「プレジャータウン。その少し離れた雪山だ」
「そう」
会話を装い、忍び歩く。狙いは喉元。男の背後に立つと、そのまま喉にメスを添えた。
「刃物を置くべきではなかったか」
男は呆れたように呟いた。しかし作業する手を止めるつもりは無いらしい。
「そうね。不用心が過ぎる」
「まったくだ」
変な会話だと思った。まるで危機感を覚えないこの男の態度に、逆にこちらが不安になってしまうくらいに。
「そろそろ飯が出来るが」
「いらないわ」
「腹は減ってないのか」
「貴方、状況を理解できてないの?」
苛立ち、或いは焦燥。脅しているのは自分の方なのに、言い様のない不安が募る。そのことに気づかないふりをして、震える喉を鳴らす。
「……目的を、言いなさい」
「親切に理由が欲しいか」
男は茶碗に米をよそいながら、言葉を返す。そのたった一言で、私は返答に窮してしまった。
「ひとまず、夕餉にしよう」
その提案を断ることは、終ぞ叶わなかった。
食卓に置かれた品目は白米と焼き魚、大根の漬物に山菜の味噌汁とおよそ質素であった。しかし――
「……おいしい」
ポロリと言葉が漏れる。三日ぶりの食事だった。温かくて、身に染みるようで、視界がにじむ。
「そうか」
男は人の好い笑みを浮かべた。ただそれだけで絆されそうになる自分を戒める。
最悪を想定しろ。もしこの男が
「ご馳走様。もう、出るわ」
急いで完食した。だから筋道は通す。礼を告げつつ、すぐにここを立つ準備を進める。コートは丁寧にたたまれており、どこか男の几帳面さに見えた気がした。
コートに袖を通すと、視線を感じる。それは左腕の一点、白く変色した私の肌に向けられていた。
「――すまない。不躾だった」
「いいえ、構わない」
男が何も知らないのであれば、それでいい。珀鉛病は中毒性の病だから、ただ一緒の空間にいた程度では何の影響も与えない。それに既に
「違ったら申し訳ない。それは、珀鉛によるものか」
「――っ!!」
背筋が凍った。呼び覚まされるのは忌まわしき迫害の記憶。誰もが忌避し、誰もが理解を示さなかった。医師であっても、その凝り固まった
「……そうよ」
諦める様に肯定する。珀鉛病の症状は有名だ。無知を期待するのは、少し夢を見過ぎたか。
「重ねて済まない」
謝罪の言葉はどこか空虚に聞こえた。多分、疲れているのだ。どこか人のいないところに行こう。それで、ゆっくり休めば、この荒んだ気持ちも和らぐに違いない。
男を無視してそのまま立ち去ろうとする。すると、不意に左腕をつかまれた。
「……なに」
「もう深夜だ。夜の山は危険だ。せめて朝までここに居なさい」
「断る。大体、珀鉛に侵された人間がいたら貴方も迷惑でしょう?」
「いや、それに関しては問題ないだろう」
は、と意味のない音が零れた。何を言っている。
「怖くないの? だって珀鉛病は――」
「珀鉛病が伝染病だと断言するには、エビデンスが足りない。少なくとも、新聞を読む限りでは」
「なにを」
そこで初めて男の顔を直視した。
背丈や雰囲気から、勝手に大人だと思っていた。実際、彼は私よりは年上なのだろう。しかしそう歳は離れてもいない。ただ苦しそうに、痛ましそうにその精悍な顔つきを歪めていた。
「――もし、珀鉛病が伝染病ならフレバンス王国以外の国でも感染者は出るはずだ。しかしそういった情報は一切見られなかった。フレバンスではあれだけ爆発的な発症が確認されたのにも関わらず、だ。だから、なんだ。その……」
「世界政府が虚偽を弄したと?」
私の一言に、今度は男が言葉に詰まった。それが何だか愉快に思えた。
「……まぁ。俺は、そう考えてる」
慎重に言葉を選んだつもりなのだろう。彼は不器用に答えた。
「そう。怖いもの知らずなのね、貴方」
「どうだろう。少なくとも刃物を突き立てられたときは、少し驚いたよ」
「よく言うわ」
自然と笑みが浮かぶ。何か懐かしい心持になる。もう失ったものだと諦めていた。他人から親愛を感じる事なんて、もう二度とないのだと。そう思っていた。
――コラさん。この人なら、信じてみてもいいと思う?
今は亡き恩人に語り掛ける。そして、意を決した。
「トラファルガー・ロー」
「は?」
「私の名前」
「いや、は? え、お前が? だって」
突然しどろもどろに陥る彼。何故慌てているのかは知らない。しかし――
「名乗ったのだから、名乗り返すのが礼儀でしょう?」
ぴしゃりと言い放つ。すると彼は「……そうだな。いや、すまない」と心底申し訳なさそうに頭を下げる。つい先ほどまで感じていた底知れない印象が次々と更新されていく。その変容すらも、心地いい。
「ツバメだ。姓はない。宜しく、でいいのか」
「ええ、厄介になっても?」
手を差し出す。彼は「勿論だ」と言葉を添えて、その手を握った。
それがツバメと名乗った彼との出会い。この広い海で、確かに巡り会えた縁だった。
更新速度を優先して、短めです。
それとも時間が掛かっても長い方が良いのでしょうか。