Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:元ジャミトフの狗
A.はい。
原作のキーパーソンに、トラファルガー・ローというキャラクターが存在する。
出身はフレバンス王国。両親は名医で、裕福な家庭だったという。しかしながら、ローが10歳の時分に家族共々珀鉛病に侵され、その父と母は病の解明に奔走するも隣国の兵士に射殺された。この世界では然して珍しくないもない。ただ、悪夢の様な現実を経験した
そう、少年。つまり男だ。断じて少女ではない。だが彼女は確かに己をローと名乗った。
―――俺の推しが女体化してるんだが
日課で始めた正拳突きが、今日はどうにも鈍っている。動揺している証だ。
おかしい。だが有り得ない話でもない。この世界には性転換を容易にする悪魔の実が存在するからだ。しかし俺が見た限りでは、口調、仕草、雰囲気、何をとっても
「……まぁ、そういう事もある」
分からない事は分からない。疑問は尽きないが、実のところあまり興味もない。そも俺は転生という摩訶不思議を体験しているのだ、未知なんて今更である。
「そうだ、落ち着けよ」
原作キャラ、それも推しキャラが女性だったことに戸惑いはある。だがそれがどうしたという。俺の知る限り、差異はソレだけである。少なくとも他の人物にそういった変異はない。
記事でよく目にする四皇やその幹部、七武海に海兵。有名どころは皆、俺の記憶の通りだった。いや、それならどうしてローだけが――
「――キリがない。切り替えろ」
思考を無理やり断ち切る。考えを止めるという行為は俺の好むところではないが、こればかりは仕方がない。多分、どんなに考えても答えは出ない。そんな気がする。
「集中」
ぱんと、強く己の頬を叩く。まずは今やるべき事に専念しよう。
腰を深く落とす。
武装色の覇気には幾つか種類、というよりも段階がある。単に覇気を纏うだけでは、意志の力を十全に発揮したとは言えないのだ。
例を挙げると、硬化と内部破壊の武装色。前者は覇気を習得した者が次に目指す段階であり、後者は一握りの強者が至る領域だ。武装色だけでも奥が深い事が良く分かる。
そして現在の俺は――
「――っ!!」
降雪を、空気を打ち抜く黒漆の拳。硬化の武装色。俺はその会得に苦心している。
正確には硬化自体は出来るのだ。だがその実現には高い集中力が要求される。しかもその硬度は非常に疎らで、未だ再現性も低い。会得したというには少々恥が勝る。
「精が出るわね」
年齢不相応な落ち着きを帯びた声音。現在、我が家に絶賛居候中のローだった。
「起こしたか」
「いいえ。久しぶりの快眠だったわ」
「そうか。飯は?」
「頂いてもいいのかしら」
「今更だろう」
そんなやり取りを経て、木造の家宅へと戻る。元はマタギの翁が暮らしていただけあって、作りはしっかりしている。ただ八帖の部屋は、二人で過ごすには少し手狭だった。
「握り飯しかないが」
「好物よ。でも梅干しだけは勘弁して」
「贅沢言うな」
好物が同じで、嫌いな物も原作と同じ。やはり認めざるを得ないだろう。彼女は、やはりトラファルガー・ローなのだ。
そんな益体もない事を考えながら、朝餉の準備に取り掛かる。おにぎりと沢庵、そして味噌汁。我ながら質素だが、元日本人としてはこれ以上ない程の朝食だった。
「それで、
「……そうね」
顎に手をやり、思案する姿が様になっている。あと数年もすれば魔性の女になるだろう。何となくだが、そんな気がした。
「暫く、ここに置いてくれないかしら」
何か不安でもあるのか、伏し目がちに請うてくる。
「俺は構わんが。どうした、何か懸念でもあるのか。ああ、いや、確かに男と一つ屋根の下で暮らすのは外聞が良くないか」
「いえ、そうじゃない。貴方の事は信用してる。ただ――」
どうやら言葉に詰まる程度には、何か
「話したくないなら、話さなくていい」
「いいの?」
「構わない。それとも聞けば話してくれるのか?」
「それは――」
停止していた思考回路を動かす。
時系列的に言えば、今の彼女はコラソンと別れた後だろう。つまりオペオペの実を食べたあたり。
オペオペの実。悪魔の実の中でも、とりわけ究極と称される果実だ。曰く、その実を食した者は他者に不老不死を施すことが出来るという。
そして海賊ドンキホーテ・ドフラミンゴはその秘術を追い求めている。何せ50億という、四皇の懸賞金を凌ぐほどの金額を支払う事すら厭わないくらいだ。ドフラミンゴにとって、ローは今最も必要とする人材と言えるだろう。
ならば、彼女が危惧するところも自ずと知れる。
その上で、良しとする。ここまで関わっておいて、今更見放す根性は持ち合わせていない。
「……貴方は」
「ん?」
「貴方は、強いのね」
彼女の言葉を受けて閉口する。意図を測りかねたからだ。
「……腕っぷしには自信があるが」
「そうじゃない。そうじゃ、ないの」
やけにしおらしく感じた。それも、今に崩れてしまいそうな儚さを伴っている。しかしそれも一瞬のことだった。
「さて、配膳くらいはさせてもらうわ。これ、持っていくわね」
「あ、ああ」
何事も無かったように、ローは器を載せた盆を運ぼうとする。
「――ありがとう」
離れる間際。小さく、彼女は謝意を告げた。その笑顔があまりにも綺麗で、見惚れるあまり俺は無言で首肯することしかできなかった。
にょたろーのヤンデレに至る過程は、じっくりことこと書いていく所存です。