Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~   作:元ジャミトフの狗

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投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございません!


第6話

 

 

 

 

 ローが居候となって三年が経過した。

 

 剣術および覇気の鍛錬。町医者のバイトに、医療知識の修学。およそ十代の娘が遂行するには、やや重すぎる仕事量。それを碌な休みなく続けていた。

 

 だから流行りの風邪などを患う。医者の不養生とはいうが、いざ目の当たりすると笑えない。

 

「――ああ、起きたか」

 

 寝間の方から物音がする。見やれば、赤い顔を拵えながら額に手を当てる小娘の姿が。この期に及んで懲りてないようで、彼女は起き上がろうとしている。

 

「馬鹿者が。大人しくしてろ」

「……何よ。貴方、罹患した女を優しくすることすら出来ないの?」

「忠告を無下にする様な放蕩娘にかける情けなんてないよ」

 

 どうもこの娘は負けず嫌いの気が強く、それは病に対してもそうらしい。しかし医者を志望するのなら、相手だけでなく自分の体調も気をかけてほしいものだ。

 

「分かってるわよ。少し、気を張り過ぎてたみたい。ごめんなさい」

 

 どうやら相当参っているらしい。普段は口が減らない娘も病気を患えばしおらしくなる。勉強になった。

 

「……今、夕餉を作ってるから。もう少しだけ寝ていても良い」

「ええ」

 

 暫くの間、薪の燃える音がこの場を支配する。また寝たのだろうか。そう思い振り返ると、彼女はじっとこちらを見つめていた。

 

「――なんだ、起きていたのか」

 

 少々驚いた。いつからその瞳は己を捉えていたのだろう。

 

「寝ようと思ったけれど、眠れなかったの」

「そうか。まぁ、あと少しで出来上がるから」

「うん」

 

 今日の夕飯は雑炊だ。最後にひと煮立ちさせて、溶いた卵と薬味を加える。正に男飯と言った様相だが、これが存外に美味いのだ。

 

「食えるか」

「ええ」

「ほら。熱いぞ」

「ありがとう」

 

 器によそった雑炊を渡す。よく煮たから食べやすいとは思う。

 

「……あつい」

 

 匙を口に運んだローが呟く。

 

「そう言ったろう」

「冷まして」

「は?」

 

 絶句。一瞬、何を言われたのか分からなかった。聞こえはしたが、理解に時間を要する。しかし器をそのまま差し出してくるあたり、俺の認識に誤りはない様で。

 

「……はやくしてよ」

「あ、ああ」

 

 催促されて我に返る。これは介護の一環だ。そうだ、何を戸惑う必要がある。病人に飯を食わせるくらい、何もおかしな話ではない。

 

 茶碗を受け取り、匙で雑炊をすくう。それを吹き冷まし、頃合いを見て彼女の口元へと運ぶ。するとローは躊躇う素振りを見せず、その形の良い唇を開いた。

 

「ん」

「まだ熱いか」

「いいえ、おいしい」

 

 咀嚼を終えた彼女はそう言う。何か悪い事をした心持になるのはどうしてか。

 

「ねぇ」

 

 茶碗の中身が全部なくなったあたりで。ローはこちらを見つめながら呼び掛ける。その瞳はやはり黒く淀んでいるように見えた。

 

「貴方は、どうしてそこまで良くしてくれるの?」

 

 以前、初めて彼女と出会ったときにも同じような事を言われた気がする。

 

「前にも答えたと思うがね。単なる親切に理屈が要るのか」

 

 だから同じように言葉を返した。この問答自体に意味はないだろう。だがその意図を知りたくはあった。

 

「どうした。殊勝にも今更恩を感じているのか」

「そんなの前からよ。ずっと前から、貴方には、何をしても返せない借りがある」

「大袈裟な」

 

 身寄りがなく、死にかけていた少女を拾った。その対価として家事は手伝ってもらっているし、食費も出してもらっている。恩の返上という話をするのであれば、ローは見事に成し遂げていると言えるだろう。

 

「……違う。何も、貴方は分かっていない」

「何が」

「貴方はとても賢い人よ。だから三年前、スワロー島で起きた事件を知らない筈がない。なら――」

 

 その後の言葉は続かなかった。何かを躊躇している事は分かる。しかしどうにも真意を測りかねた。恐らくはローの中でも整理しきれていないのだろう。

 

「落ち着け。ゆっくりでいい」

「――っ! そういうところが、狡いのよっ!」

「む、心外だな」

 

 何が狡いのかさっぱりだ。そういう意味で言えば、確かに彼女の言う通り何も分かっていないのだろう。だが他人の心を並べて理解する事など、粗忽な己では身に余る。

 

「貴方には聞いてほしいの、私の全てを。でもそれは私の事情に貴方を巻き込む事になる」

 

 構わんと、そう応えることが出来れば良かった。だがローにはローの事情がある様に、俺には俺の事情がある。故に――

 

「――だから聞かせて。貴方の話を」

 

 脳天に鈍い衝撃が走ったような気分になった。何時から気づいた。何を見た。何を聞いた。問い質したいことは山の様に溢れ、しかし口からは意味のない音が零れる。

 

 

「貴方の背中を見た。()()()()()()()を」

 

 

 踏み込んで来たのは、彼女の方からだった。

 

 この世界の頂点で君臨する世界貴族、天竜人。天翔ける竜の蹄とは、その天竜人の紋章だ。そして()()は確かに、俺の背中に刻まれている。

 

 その事実が意味するところを、彼女は良く理解している筈だ。何が「聞かせて」だ。もう何もかも察しているだろうに。

 

「上手く隠していたつもりだったんだがな」

「そうね。盗み見たようで気分が悪かった」

「事実、そういう事だろうに」

「謝った方が良いかしら」

「……要らない。同じ屋根の下に住んでいれば、起こり得ることだった」

 

 俺の不注意が招いた事故だ。知られたくないのなら、彼女と同棲するべきではなかった。それでもローをここに置いたのは、単なる俺の――

 

 

「敢えて言うまでもないだろうが、俺は天竜人の奴隷だった」

 

 

 俺は世界政府の非加盟国で生まれた、()()()

 

 物心ついた頃には奴隷となっていた。聞けば実の両親に売られたのだという。だがそれ自体はどうでも良い。問題だったのは、俺の主人となった相手が世界貴族であったという事。

 

 地獄の様な日々だった。無駄に顔の造形が良かった俺の使い道は、()()()()()()。即ち売春、慰み者だった。このことを詳しく語る必要はないだろう。ただ幼い男児でしか興奮できない変態は存在するという事だ。

 

 転機が訪れたのは、飼い主が気まぐれで行った北の海(ノースブルー)の観光。その旅程に天竜人は多くの奴隷を連れて行き、その中には俺も含まれていた。

 

 旅の道中、これまた戯れに天竜人は航海士と船長を射殺した。理由など知らないし、知りたくもない。ただその結末は荒れた海に呑まれて終わりというモノだった。尤も、天竜人はどさくさに紛れて俺が殺したのだが。

 

 そうして運よくこの島にたどり着いた。これが7年以上前の出来事。まったくもって面白くない話だ。

 

「――以上だ。悪いな、退屈だったろう」

 

 ローは終始無言で俺の話に耳を傾けていた。何かを思案しているようで、俺の言葉に彼女は何も答えない。別に催促するつもりもなく、待っている間にすっかり冷え切った雑炊を食した。

 

「……貴方が、こんな雪山に住んでいるのは」

「ま、そういう事だわな」

 

 街の人間に奴隷であった事を知られるのは、あまり好ましくない。プレジャータウンの住民は皆が気の良い、それこそ善人と呼ぶに値する者達ばかりだ。しかし全員が全員、そうという訳じゃない。

 

 それに天竜人の奴隷であるという情報が、世界政府に漏れ出もしたらどうなる事か。俺にも想像できない。少なくとも、被害は俺だけで済まないだろうという事は想像に難くない。

 

「分からないわ。それならどうして、私を受け入れてくれたの?」

「お前も人を信じる事の出来ない性質()()()だろう。似た者同士なら、まぁ、仲良くする余地があると思ったんだよ」

「……そうやって、いつも気を遣ってばかり」

「あ?」

 

 雑炊を食べる手を止める。ローの方を見れば、彼女はこちらを睨みつけていた。

 

「……お願いだから教えてよ。どうしてあなたは、あなた()()は無償の愛を注ぐことが出来るのっ!?」

 

 あなたたち。その言葉について言及するのは野暮だろう。それに問うまでもなく、彼女が俺を通してその誰か(コラソン)を見ていた事は分かる。

 

「――俺は」

 

 誰かを助ける事に理由が要るのか。いや、俺の場合は少し違うか。己には彼の様に立派な志など持ち合わせていない。無償の愛など大言壮語もいいところである。

 

 結局、俺は寂しかったのだ。

 

 身も凍る雪山で一人でいることが、とても寂しかった。だから体の良い言い訳を利用して、彼女を繋ぎとめていた。今にも独り立ちしそうな彼女を、俺の我儘でここに縛り付けていたのだ。

 

「俺は、お前と一緒に暮らせて幸せだった」

 

 覇気の探求も寂しさを紛らわせるために始めた事だった。実際、一時は熱狂する事が出来た。だが一区切りついて、一人の鍛錬に限界が見えた時。より一層、己が孤独である事を自覚してしまった。

 

 そんな最中に出会ったのが、オペオペの実で己の珀鉛病を治療した直後のローだった。

 

 俺は女性であるトラファルガー・ローを知らない。だが原作のトラファルガー・ローならば、不器用な優しさを併せ持っている。だからこそ俺の推しキャラだったのだ。そして、俺はソレを利用したという訳だ。

 

 ――醜悪極まるなぁ

 

 心の中で呟く。口に出さないことが如何にもそれらしい。

 

「……気遣いなんてしていない。俺はお前が隣に居てほしいと思ったから、優しげな態度をとっていただけだ。ましてや無償の愛だなんて、俺はそんな高尚な存在じゃないぞ」

「―――っ!」

「はは、そう考えると酷い奴だな。俺は」

 

 本音を口にしてみれば、存外心地よかった。

 

「本当に、酷い人。貴方のおかげで、どれだけ私が救われたと思ってっ!! 私だって、貴方と一緒に――」

 

 何かを伝えようとして。しかし、ふらりとローはよろめく。反射的に、倒れそうになる彼女を支えた。そしてそのまま、ローを布団に横にさせる。

 

「病人が興奮するな」

「貴方が、悪い」

「そうだな。俺が悪――」

「だから、今度は私の話を聞いて」

 

 俺の言を遮る様に告げる。何か覚悟を決めたような、そして獲物を前にした獣のような。ローはそんな複雑な表情をしていた。

 

「もう我慢しないから」

 

 何か恐ろしそうな事を言う彼女に、俺は「……せめて風邪を治してからにしてくれ」と力なく告げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 





・ロー子の視点から見た主人公
①特に詳しい事情を聞くことなく衣食住を提供してくれて、しかも鍛錬にも付き合ってくれる良い人。熱を出したら甲斐甲斐しく看病もしてくれる。気遣いの鬼。
②どうやら何か重い過去を抱えているらしい。何か助けになりたい。でもそれはそれとして、自分の事も知ってほしい。
③実は天竜人の元奴隷だったらしく、本人はその事を気にしているらしい。
④主人公の「今まで寂しかったけど、お前と一緒に暮らしてたら幸せになった」宣言を受けて脳が破壊される←イマココ
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