Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:元ジャミトフの狗
あれから数日。介抱の甲斐もあってか、すっかりローの体調は回復した。医者でありながら風邪を患ったことは存外堪えたようで。彼女は己のタスクを見直し、およそ健康的な生活を心がける様になっていた。
しかし精神的な焦燥感は未だに彼女を襲うらしい。新聞を見るローの表情はいつも暗かった。その記事の内容は、大抵ドレスローザやドフラミンゴに関する事である。
さて、そんなある日のこと。いよいよ先立つ準備を始めた彼女は――
「上着を脱ぎなさい」
等と、とんでもない事を口にした。彼女の掌には円形の空間が出来ており、今にもオペオペの能力を行使せんとしていている。
「言葉が足りない。何をする心算だ」
「
「何の」
「その背中の烙印を消す」
成程、と思った。そして願ってもない事である。俺が日常生活を送る上で、気に掛ける要素が一つ減るからだ。
「頼めるか」
「断られても
「どんな医者だよ、それは」
「言ったでしょう? もう我慢しないって」
我慢しないってそういう。確かに堪え性の無さで言えば、最近の彼女は特に目を見張るものがある。うん、でもだからって毎朝無言でハグを求めてくるのは何か違う気がするのだ。
「早く脱ぐ」
「ん」
言われた通り上裸となる。こうして他人に自ら肌を晒すのは久しい経験だった。
「……」
思い出したくもない過去の残滓。下卑た笑いを浮かべる男、道具よりも無遠慮な扱いをされる己。生傷絶えない夜伽はまるで地獄の様だった。
「どうしたの」
「ああいや、何。少し嫌な記憶がな」
「私と
「分かってる」
「それなら宜しい」
にこりと微笑みかけてくる。毎度のことながら可憐である。その容姿も性根も、彼女を構成する何もかもが。
ああダメだな、もう贔屓目抜きにしてローを見ることが出来ない。今更ながら自覚した。俺は随分と絆されている。人を盲目にさせる感情は一体何だったか。
「それにしても全身傷だらけね」
傷跡をなぞりながら彼女は言う。なんだか手つきが危うい。
「すまない、見苦しいだろう」
「ちょっと謝らないでよ。別にそんなんじゃないってば」
医療器具の準備をしているのだろうか。かちゃりと金属が触れ合う音が聞こえてくる。
「……まぁ良いわ。皮膚の移植手術を始めるわ。少し痛いでしょうけど、我慢して」
「勿論」
彼女の指示に従って横になる。既に手術は始まっているようで、ローは己の背中に触れて何かをしている。気のせいでなければ、能力で皮膚を剥がされている。痛いとの事だったが、あまり気になる程ではなかった。
「しかし焼きごてなんて。人を家畜の様に」
「事実、連中にとっては俺らは家畜なんだよ」
「……全く。反吐が出る」
吐き捨てる様な物言い。粘り付くような執着心を感じる。その真意を問い質すには僅かばかり恐怖が勝った。
暫くの間、無言の施術が続く。時間にして6時間、ローの医療技術は折り紙付きだ。不安はない。しかしそれにしても長く感じる。
「なぁロー、お前今何をしてるんだ」
「入れ墨を彫ってる」
「は?」
何かの聞き間違いだろうか。入れ墨って、刺青、タトゥーの事か。
「いや待て。皮膚の移植はどうした」
「そんなの既に終えてるわよ」
「では入れ墨とは」
「嫌だった?」
嫌かどうかはこの際関係ない。本人の同意なしに墨を入れるのは如何なものかって話だ。それに――
「移植手術した後すぐに墨なんて彫っても大丈夫なのか」
「普通はダメね」
「……普通はって」
常人のお医者様であれば問題となる。だがトラファルガー・ローは違う。オペオペの実を食べた改造自在人間。医療を施すだけでなく、人体を改造する事もお手の物という訳だ。若干、誤った扱い方である様に思えるが。
「まぁいい。ローを信用しよう。だがそもそもお前、入れ墨なんて彫ることが出来たのか」
「勿論、勉強したのよ。ほらこれ」
指に刻まれた『DEATH』の文字を見せつけてくる。
「私の能力、思いの外万能みたい。ちょっと彫り間違えてもすぐに元に戻せた。おかげで痛い思いはしたけれど、良い練習になったわ」
「無茶をするな」
「一応、本職の彫り師に師事したのよ?」
「当然だ。独学で彫られたら堪ったもんじゃない」
まぁ、事後承諾の形になるが。別に入れ墨の一つや二つ構わない。
だが彼女が過労で風邪をひいたのは、つまりはそういう事か。だとしたら、何だか申し訳ない気分になる。
「お前なら良い。好きにしてくれ」
「――ええ。元からそのつもり」
しかし、身体に墨を入れるのは前世込みでも初めての経験だ。元より親に捨てられた身の上。その体をどう扱おうが俺の勝手である。うむ、そう考えれば入れ墨に対する抵抗感も消えた。
「何を彫ってるんだ」
「ハート」
「……ファンシー過ぎるだろう。俺の柄じゃないと思うんだが」
「そうかしら? 私は似合うと思うけど」
何を根拠にそんな事を。いや好きにしろと言った手前、文句などないのだが。
「だって貴方ほどのお人好し、そうはいないもの」
「……そうでもないと思うが」
「そうでもあるのよ」
温かくも湿度を帯びた声音。そうも断言されると返す言葉に困る。ムキになって訂正するような事でもないから、余計に気恥ずかしくなる。
「ああでもね。それだけじゃないの」
「ん?」
「お揃いにしたかった」
「それは、どういう――」
そこまで口にして思い出す。
原作におけるトラファルガー・ローは、トライバルタトゥーを全身に刻んだカジュアルなキャラである。指、肩、そして胸部に。俺の記憶が正しければ、ハートをモチーフとしたデザインのタトゥーを彫っていた筈だ。
「ロー。お前、今自分の身体に何か所入れ墨がある」
「3つ。胸と指は自分で。背中は入れ墨屋に彫ってもらったわ」
「……お前」
「なーに? もしかして心配してくれてるのかしら」
「五月蠅い。このドラ娘が」
知らなかった。まさかそこまで不良化が進んでいたとは。彼女の身体の事だ。俺がとやかく言う資格はない。だがどうしてかだろう。物凄くショックを受けている自分がいる。
「……それはそうと。お人好しとハートマークに何の関連性が?」
「ハートは愛の象徴でしょう?」
「まぁ、そういう側面もあるだろうな」
「だからよ」
得意げに語るロー。顔は見えずとも喜んでいる事は分かる。
「それに愛を体に刻むって、なんだか素敵じゃない?」
「重い重い」
「む、失礼ね」
何が失礼なものか。俺でなければドン引きされるぞ。
「……さて、これでおしまい。お疲れ様」
「そちらこそ」
一体どれだけの時間、俺は横になっていたのだろう。一先ず立ち上がって体を伸ばす。それでも残る背中の違和感。
彼女が彫ってくれたデザインが、どの様な代物なのか非常に気になる。しかし狭い我が家には、全身を移すほど大きな鏡など置いていない訳で。だがその前に――
「――ありがとう」
謝意を述べた。忌まわしき烙印を消してくれた事、その上に親愛の証を刻んでくれた事。彼女の厚意全てに対し、万感の想いを込めて感謝する。
「……いいえ、こちらこそ。その、我儘を聞いてくれて、悪かったわね」
「悪いという自覚はあったのか」
「うるさい」
ぷいと己から顔を背ける。それがあまりにも愛おしく思えて、無意識のうちに彼女の頭を撫でてしまった。さらりと心地の良い感触。しまったと後悔するのも束の間。
「……ん」
目を細めてされるがままのローがそこに居た。撫でる手を止めると睨んでくる。どうやら続けろという事らしい。
「――本当に、ありがとうっ」
自分が思っているよりも、己は感極まっているらしい。目から涙が止まらない。ローの黒髪を撫でる手とは反対の手で口元を抑える。気を抜けば嗚咽が漏れそうだった。
身体が膝から崩れそうになって、しかし彼女に抱き留められる。
「貴方も泣く事があるのね」
「……俺を何だと思ってるんだ」
「超人、修行馬鹿、鉄面皮」
「酷い言い草だ」
ダメだ、年甲斐もなく大泣きしたい気分だ。こんなにも嬉しい事はない。ああ、本当に。この娘は――
「さて、泣くのも程々にして。アフターケアに移りましょう。まずは――」
なんて優しいのだろう。その優しさに、俺は溺れてしまって良いのだろうか。いや、きっと彼女は受け入れてくれる。それが分かっているのなら、迷う必要なんてないのに。
「ツバメ?」
「ああ、済まない。何の話だったか」
「貴方ねぇ。だから――」
天竜人に手をかけた。よもやその過去を後悔する日が来るとは、思いもしなかった。
・主人公から見たロー子
①天竜人の紋章を消してくれただけでなく、自らの手で思い入れのあるハートマークを彫ってくれた。
②あまりにも嬉しくて泣きそう。というか好きすぎて辛い。一緒に海に出たい。
③でも昔、勢いに任せて天竜人殺しちゃった。万が一そんな事が海軍にバレでもしたら、ロー子の復讐に差し障っちゃう。
④ど う し よ う←イマココ
皮膚の移植手術とかタトゥーに関しては、素人なのでマジで適当な事書いています。許して。