Re:ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:元ジャミトフの狗
覇気の修練は一筋縄ではいかない。
反復と集中、そして時間。あらゆる分野において言えることではあるが、物事を修めるにあたってそれら三つの要素は必要条件となる。加えて覇気の精度は身体と精神の調子が密に関わっているため、適切な休息なくして覇気を修する事もあり得ない。
或いは、切磋琢磨する相手がいれば猶のこと良い。
実力が拮抗する事で生まれる停滞は、己の課題を見つけ出す機会と巡り会えるからだ。この場合で言う課題とは、自分自身に対する理解。気取った言い回しをすれば自己分析となるだろうか。覇気という意志の力を引き出すために、己を知る事は非常に重要な意味を持つ。
その前提で、意志の力とは何か。己の身体に宿る内的なエネルギー、己を疑わず自分を信じぬく精神力。言葉すると如何にも抽象的だ。只人に聞かれたものなら、鼻で笑われてしまいそうな程に。
だがその曖昧な力を現実化させることが、覇気の第一歩となる。
我武者羅でも良い。理で詰めても良い。意志の力はこの世界において、確かに存在する概念である。向き不向きはあっても、誰にでも会得することが出来る平等な技術。それが覇気だ。
しかし、どうやら覇気の修練には幾つか段階があるらしい。意志の力を単に現実化させるだけでは、まだ
武装色で言えば、鋼鉄の如く肉体を強固にさせる
その一方、見聞の色を深く極めれば
覇気という概念は奥深い。その修行は探求と同義であり、恐らくはそこに果てがない。底の見えぬ深淵。成程、深みに嵌る者がいるというのも理解できない話ではない。
さて、それでは己はどうか。
覇気の研究を始めて7年あまり。六式に始まり、覇気を習得するのに要した時間が4年。そしてローたちと出会い、その鍛錬を監督する様になってから更に3年。この3年間、他人を通して自分を見つめ直す良い機会であった様に考える。
ツバメという銘、拳を突き出す事しか能がない
硬化の技術は、ローと共に鍛錬するうちに身に着いた。恐ろしい事に、ほぼ同時期にローもまた
この成果を才能などという言葉のみで片づける訳にはいかないだろう。確かに4年の差を3年で埋めたとなれば、ローの要領の良さと才能は己なんぞより余程優れている事は明白だ。しかしそれ以上に、彼女の努力が実を結んだと考えるべきである。
故に現状、己とローの実力は拮抗している。
覇気の練度では辛うじて当方が上。そこに悪魔の実の能力を考慮すれば、純粋な戦闘能力はほぼ互角と言えよう。となれば、両者が全力で争った時、勝敗を分けるのは――
「――決闘をしましょう、ツバメ」
あの日、海岸の洞窟で衰弱していたローを見つけてから三年と半年。
思えばこれまで、本当に色々な事があった。
ローとその子分たちと共に、狩りや釣りを始めとした野外活動を楽しんだ。またある日では、武器を握る事すらも覚束ない彼らに、戦闘のイロハを叩きこんだ。或いは街で略奪の限りを尽くさんとする海賊を、ローと共に退治した事もある。
たくさん遊び、たくさん働き、当たり前の様に同じ釜で飯を食べる。きっとそれは取るに足らない日常だ。しかしそんな当たり前を享受することが、この世界でどれだけ難しく尊い事か。俺には良く分かる。
――だが何事にも終わりはある。
「相変わらず言葉が足りないな」
「分かり切っている事を敢えて言う必要があるのかしら」
不敵に微笑むのは白い彼女。出会った当初と比べて、ローは心身ともに大きくなった。
成長した彼女の背丈は180㎝を優に超えている。そして愛らしくあどけなかった雰囲気は鳴りを潜め、代わりに凛然とした美しさを身に纏う様になった。小生意気にも化粧を覚えているのがその証だ。
弱冠20歳。そう考えればローの変貌にも納得である。ニット帽の映える、実に綺麗な女性となった。
「何も伝わらない以上、言葉を尽くすのは当然だと思うが。少なくとも俺は、理由もなくお前と決闘する気はない」
「理由があればいいんだ」
何が面白いのか、ふふとローは微笑む。しかし長刀を担ぐ手は、今すぐにでも抜刀する用意がある。彼女が本気で決闘を望んでいる事は明白だった。
「――今日この島を発つわ」
その宣告に納得すれども驚きはしなかった。
前々から、彼女たちが海に出る準備をしていた事は知っていた。だが分からない。その事と決闘に何の因果関係があるというのか。
「一応聞いておくけれど、貴方も私の船に乗りなさい」
「聞くというよりも命令だな、それでは」
「茶化さないで。それで、返事は?」
「断る」
ローに天竜人の紋章をタトゥーで上書きしてもらったあの日から。俺は色々考えた。
己はこの世界において特級の罪人だ。7年前、あの嵐の日にて、己は世界貴族をその手にかけた。絞め殺し、苦しみ悶える様を見て楽しんだ。度し難い人殺し、それ以外の何者でもない。
新聞によれば、あの事件は海難事故として処理されたという。となれば俺が天竜人を殺した事実は、藻屑と共に海底へと沈んだ事になる。奴隷の証も消えた今、猶のこと罪の意識に苛まれる必要はない筈だ。
――本当に?
誰かに罪を問われないから、平気でいられるのか。否、罪を犯したから後悔しているのだ。たとえ天竜人が如何に外道であろうとも、それが命を奪って良い理由とはならない。ましてや勢いに身を任せ絞殺し、挙句その苦しむ様を見て享楽するなど。
そんな罪深い人間がローの旅路に付き添うと? バカバカしい。
己と違って、彼女の復讐心は真っ当だ。
先日、彼女は身の上を語ってくれた。
フレバンスに生まれ、珀鉛に蝕まれたこと。家族を隣国の兵士に殺されたこと。死体に紛れ国境を越えたこと。海賊の下で働き、悪事に手を染めたこと。恩人に救われたこと。恩人が殺されたこと。
原作で知った気になっていたローの過去。当事者から聞いた話は唯々真に迫り、己の認識を軽々と越えていった。そして何よりも己が過去を乗り越えんとするローを見た時、俺は考えてしまったのだ。
「俺とお前は、一緒に居るべきじゃない」
己の存在が彼女を堕落させる。
ローの成長を妨げてしまう。現に俺と暮らしたことで、彼女の在り方は大きく変容した。ソレを言葉で言い表すことは到底できない。だが一つだけ分かる事は、
「はぁ。どうして貴方は平気でそういうことを言えるのかしら」
「事実だ。ロー、お前は海賊になるのだろう? ならば
「分かっているのなら、余計に酷い人ね」
当然だ。だが理解は出来ない。理由もない。その過程に己が追い付いていない。
「ふふ、こういうのを執着というのかしら。ちょっと癖になりそう」
唐突に、いやもうずっと前から。何か酷い病を患ったかのように。ローは気怠げに流し目を送る。
「貴方が欲しい。そう思う事は果たしていけない事なの?」
「それが単なる親愛であれば、或いは是非もなかった」
「違いが分からないわね。恋慕も愛であることに変わりないでしょうに」
それもまた、自覚していた。鈍感を気取る程、己は愚昧に徹しきれなかった。一度気づけば意識せざるを得ない。だが臆病な俺は後回しにして、し続けて、そうしてツケを払う日が訪れた。
「……一つ、聞いても良いか」
「なーに?」
「どうして俺なんだ」
「理由を知ったら納得してくれるの?」
「……それは、分からない」
「本当にめんどうくさい人ね。そんなところも好ましいのだけれど」
ローの笑みが崩れる事はない。さながら頑是ない子供をあやす母の様に。
「理由ね。理由なんて、考えたこともなかった。ただ自然と気になって、自覚した時にはもう心底惹かれていたから。でもそうね。多分、きっかけは私が風邪を引いた時。いつも優しい貴方が、とりわけ気遣ってくれている事が、とても嬉しかった。ああ、幸せってこういう事なんだって」
恍惚の表情のまま、今にも踊ってしまいそうな佇まいで続ける。
「理由なんて本当に些細なことよ。貴方だって言っていたじゃない。一緒にいるだけで幸せだって。私もそう思うの。でもどういう訳か、貴方はこれがいけない事だと思っている。年齢の差、それとも私の容姿が好みじゃないのかしら。いいえ、どちらも違う。そうでしょう?」
いつになく饒舌にローは語る。その瞳は何処までも、純粋な色のまま淀んでいた。
「天竜人殺害の件だけじゃない。たぶんもっと深いところに貴方を躊躇わせるものがある。そしてそれは自分の事ではない。貴方をこんなにも悩ませるものがあるとすれば、それはきっと他人事。うん、だって貴方は度を越して優しい人だから。なら答えは私なのでしょう」
優しさなどでは決してない。寧ろそれとは相反する独りよがりの我儘だ。お前はこうあるべきだと、己の理想を押し付ける唾棄すべき行為だ。
その筈なのに、どうして結論は一致するのだろうか。
「ええ、多分、想像する通りよ。私は貴方のためなら何でも出来る。貴方を傷つける人なんて許せないし、そんなことされたら私だって何をするか分からない。とっても醜くて愛しい感情ね。でもそれで良いと思うの。これが私、
彼女が欲してやまなかった
とある少女の情緒を、そして本来あるべき生き方を狂わせた。それが最大の過ち。その罪が、俺の有するありとあらゆる罪の中で最も重い。
「私はもう貴方無しに生きられない。だけど貴方はそれが許せない。ええ、きっと貴方が正しい。依存と執着の関係って、私でも愚かしいと思うもの。でももう遅い。もうそうなってしまったからには、どうしようもない。貴方が拒もうが関係ないのよ。私は私のために、貴方を奪うわ」
執着と支配。それがローの奥深いところで混ざり合っている。その感情を有すること自体が、己の怨敵に近しい行為であると気づいているのだろうか。
「……どうやって」
「言ったでしょう? だからこその決闘よ」
「お前、それは」
「本気よ。死ぬ気で挑むわ、貴方に」
故に、対話に意味などない。これは単なる答え合わせに過ぎないからだ。
俺はローに在るべき姿で居てほしいという我欲が。ローはツバメという人間と一緒にいたいという我欲が。その主張が根本で食い違っているのなら、後はもう力を示し、自分が望む未来を勝ち取る他にない。
「海賊として貴方を奪う。だから約束して、私が勝ったら大人しくついてくると」
「滅茶苦茶だ」
「ええ、ごめんなさい」
心の底からの謝罪。それが分かるから、居た堪れない。
「分かった。だが俺が勝ったら」
「金輪際、貴方と関わらない事を誓うわ」
ちくりと、胸を刺す痛み。この期に及んでまだ優柔不断であるらしい。全く本当に、真の意味で愚か者だ。その腐った性根に反吐が出る。
「――ああ。それでいい」
「嘘つき」
そうして師弟の殺し合いが始まった。
結末は語るまでもない。
実力が互角な相手と殺し合えば、あとは意志の強さがモノを言う。
俺にはほんの小さな躊躇いがあり、彼女には揺るがぬ覚悟があった。
その僅かな差が勝負の明暗を分けた。
「……私の、勝ちね」
先ほどまであたり一面に広がっていた雪景色は、泥とクレーターしかない戦場に変貌していた。その中心で、刀を杖代わりにして佇んでいるのは一人の女。
最後に立っていたのはローの方だった。対する俺は彼女の足元で、無様に這いつくばっている。指先すら動かせない。
なれば、俺にとってはこれ以上ない程の敗北である。
「容赦なく、殴って、くるんだから。跡が残ったら、どうしてくれるの?」
息も絶え絶えにローは告げる。だがその疲労とは裏腹に、彼女の声音は明るい。
「何か、言ってよ。それとも死んじゃった?」
「……縁起でもない」
言葉を発する事が異様に重い。単に死にかけているからであると信じたい。
「もう本当に、強いんだから」
「嫌味にしか聞こえないな」
「そんなつもりはないけれど」
「ああ、知ってるよ。負けた腹いせに文句を垂れているだけだ」
本来、弟子に負けたら師匠は喜ぶべきなのだろう。だがどうにも、己は負けず嫌いの性を抱えていたようだ。はっきり言うと、心底悔しかった。
「さて、約束の通り。貴方は私のクルーになってもらうわ」
「……今更、反故にするつもりはないが」
というよりも、そんな事をする余力など残っていないといった方が正しい。容赦なく刀を振るい、能力を行使してきたのはローも同じである。
「なぁ」
「ん?」
「俺は面倒くさいぞ」
平気で自分の理想を押し付けるし、神経質だから最悪の事態ばかり考える。こんな七面倒な輩を好き好んで選んでくれた彼女の気持ちを、俺は理解してさえやれない。それでも良いのかと、俺は問う。
「――ええ、知ってる。何年一緒に居たと思ってるの?」
なんでもない事の様に、彼女は微笑みかけた。それできっと、俺は完全に堕ちてしまったのだ。
「ああ。それとも疑ってるのかしら。私、自分でもかなり尽くす方だと思っているのだけれど」
「……別に、そこは疑ってないよ。ただ趣味が悪いなと思っただけだ」
「顔は好みよ」
「最低だこの女」
互いに軽口をたたき合う。何だか懐かしい心持になる。それもそうだ。何せ殺し合いは文字通り
「――ねぇ、逆に聞いていいかしら」
「なんだ」
「私、やっぱり重い?」
「それはお前」
論ずるに値しない。端を発するのは己の優柔不断なのは重々承知の上で、それを棚に上げるのであれば。嫌がる男を力でねじ伏せて、手前勝手な理由で海賊にさせる女が重くない筈がない。
「そう。なら重いついでにもう一つ」
ずぷりと、彼女の腕が俺の左胸を貫いた。
痛みはない。ただ一瞬、意識が途切れそうになった。
「――綺麗」
生体を構成する上で最も大事なモノを今、彼女のオペオペの能力によって
「お前なんてことするんだ」
「勢いって凄いわ。こんな残酷なことも平気で出来るのだから」
俺の心臓。それが彼女の手にある。まるで大切な宝物を扱うかのような丁寧な手つきで、それでいて新しい玩具を与えられた子供のようにソレを弄ぶ。
その様はある種狂気を帯びている。だというのに。
「……それはくれてやってもいい。迷惑料だ」
そんなふざけた言葉が己の口から出た。どうやら狂熱にあてられたのは、何もローだけではなかったらしい。
「いいの?」
「ああ。正直、俺はお前の気持ちに応えきれる気がしない。なら心臓の一つくらい、何てことはない」
「貴方も大概ね。でもそれはちょっと不公平だから――」
その後の言葉は続かない。代わりにローは苦悶の声をあげた。見やれば、ぽっかりと。彼女の胸に穴が空いていた。ちょうど俺と同じように。
「お前」
「あげる」
酷いやり取りだ。ローは自分の心臓を俺の左胸部に
「これで私たちは一心同体。私が死ねば貴方は死んで、貴方が死ねば諸共私も死ぬ」
「狂ってるな」
「これくらいが丁度いいでしょう、私たちなら」
これは俺と彼女を繋ぐ楔だ。文字通りの運命共同体。俺はもう自分の都合で死ぬことは許されない。拗れに拗れた結末がこれであるのなら。成程、確かに素敵な関係である様に思える。
「――よろしく、ツバメ」
性別も、性格も、その根っこの部分も原作から乖離したトラファルガー・ロー。色々不安は残っている。しかし死闘に敗れ、完全に屈服してしまったからには――
「ああ、こちらこそ宜しく頼む」
死力を尽くして、彼女を支えようと思う。
今回は難産でした。いや本当に。
もっとさっくり終わらせるつもりだったのに、主人公君が勝手に解釈違い拗らせてヘラっちゃうんだもん。
ともあれ、プロローグ編はこれにて終了です。次回はいきなりグランドラインから。とあるレースに参加させるつもりです(ネタばれ
・ハートの海賊団の覇気練度早見表
ツバメ≧ロー>>ベポ>>シャチ=ペンギン
・ハートの海賊団の戦闘能力早見表
ロー≧ツバメ>>ベポ>>シャチ=ペンギン
原作と比べてハートの海賊団の初期メンバーはかなり強くなってます。