投げキャラ悪役令嬢は、対空必殺技が使いたい!   作:砂上八湖

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リハビリ代わりに投稿をば。

元々は「なろう」に投稿していたものを、加筆修正して転載したものになります。

かなり中二病臭い設定やら言い回しやらが目立ちますので、そういうのが苦手な方々は御注意を。
 
 



プロローグ

 

 質量を持った銀閃が一条、死の化身として躍りかかる。

 

 規則正しく波打つように歪んだ長大な刀身。

 

 二メートルはあるだろう。ナディアが知識として記憶しているのは「フランベルジュ」という名称だが、こちらの世界では「悪食剣(アークジック)」と呼ばれているのだったか。

 

 あと半瞬もかからぬ距離にまで迫る刃を視界に捉えながら、加速する思考は現実逃避にも似た文字列を吐き出していく。

 どうやら寸止めを期待できる速度でも太刀筋でもないらしい。

 この巨大な剣を横薙ぎに払った巨躯の()()は、相対する人間の少女──ナディア・ユキノインを確実に斬殺する気なのだ。

 

 斬られる。

 

 その一撃を目にした野次馬の殆どが、ナディアの死を確信した。

 

 しかし。

 

 

「(殺気が先走りしすぎですわね)」

 

 

 撫でるように。

 

 滑るように。

 

 楽団を指揮するかのように。

 

 左の腕に装備された武骨な手甲(ガントレット)が、剣の腹を滑らかに押し上げて軌道を大きく変える。自然とそうなったかの如く不自然に剣筋を狂わされた竜人がたたらを踏み、その体勢を大きく崩す。

 

 この時ばかりは、その巨体と巨剣が仇となった。どちらか片方が一段階小さなサイズであれば兎も角、両者が持ち合わせる超重量ゆえに体幹の立て直しも剣による防御も間に合わない。

 尻尾を地面に打ち付けた反動で、これ以上バランスが崩れるのを防ぐのが精一杯だ。

 

 

「お、のっ」

 

 

 おのれ、と口惜しむつもりだったのだろうか。

 牙だらけの口から漏れた声は意味を持つことなく、ただの音として霧散する。

 だがそこに悲観はない。

 竜人には生まれもっての「鎧」がある。つまりは鱗──いわゆる「竜鱗」だ。始祖となる翠皇竜には遥か遠く及ばないものの、人間が装備する鉄の鎧とは一線を画す硬度を誇る。

 

 いくら目の前の少女が金属製のガントレットを装備していても、打拳程度で屈する強度ではないし、生半可な鍛え方もしていない。

 回避も防御も間に合わないのであれば、敢えて打たせて竜鱗で弾き、カウンターで斬って返すだけだ。

 確かにナディアという人間の少女は強いのだろう。自信を持って放った()()()をいなしてしまうほどには。

 だが最終的に勝つのは自分だと、竜人は少女の一撃を待った。

 

 そして。

 

 がら空きとなった胴体へと、ナディアの右拳打が吸い込まれるように叩き込まれた。

 と、同時に。

 硬質な金属と堅牢な鱗がぶつかり合う音が響き、刹那ほど遅れて肉質的で鈍重な音が2人の距離を支配した。

 

 静止と、静寂。

 

 

「ぐぬ」

 

 

 薄く開いた口の端から白い泡を吹き出しつつ、やがて竜人が低く呻いた。

 少女の細腕から繰り出されたとは思えない強く重い衝撃が、彼の体内で暴れ回り、かつてないほど内臓を激しく揺らしたのだ。

 

 未知の痛みは竜人の脳と筋肉を著しく動揺させ、その機能を奪った。

 意識が飛ぶ。

 剣の柄を握り締めていた両手から力が抜け落ちた。

 

 だが剣を取り落としそうになった瞬間、彼は弾かれたように覚醒し、再び握力を──握力だけは搾り出す様に呼び戻した。

 他の部位は動かない。

 浸透し一気に蓄積したダメージがそれを許さない。

 それ故の意地だった。

 剣を握り直し、拳を打ち込んだままの体勢でいる対戦相手に、今度こそ意味ある言葉を送る。

 

 

「敗北にあっても竜戦士(ギルギス)の誇りは手離さぬ」

 

「──お見事」

 

 

 密着したままの拳から更なる轟撃が吼え、誇りを掲げる戦士の身体を突き抜けた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 正々堂々と戦ったのならば、勝つも敗けるも戦士の誉れ。だが無様に腹を見せて死ぬのは、竜人族にとって最大の恥であり忌むべきモノであるらしい。

 一族の魂に刻まれた生死観。

 それが理由なのだろう、ナディアに敗北した竜人は仰向けではなく、衝撃に逆らい前へと倒れ伏していた。

 

 

「ふううう」

 

 

 構えを解き、深く静かに吸い込んだ空気を大きく長く吐き出す。

 アーデルハイド流突拳術に伝わる呼吸法。

 全身に伝播した緊張と尖鋭した意識を弛める為のもの。

 師匠に言わせれば「道半ばの未熟者が使う技」なのだそうだが。

 そこに至って漸くナディアの白い肌に汗が浮かび上がる。野次馬からすると余裕の勝利に見えていたであろうが、実のところ割とギリギリな状況での勝利であった。

 

 

「(これで()()()()()()()()()だというのだから堪りませんわね)」

 

 

 心の中で重い溜め息が漏れる。

 そして胸の内で語る言葉もユキノイン侯爵家令嬢としての口調になってしまっている事実に改めて意識が向き、それを慣れとして諦めるべきか自己嫌悪すべきかで戸惑ってしまうナディア。

 

 

「(()()()()()()が心の中の台詞までお嬢様口調とか……我ながらドン引きですわ)」

 

 

 竜人族の生死観と同じ──というわけではないが、魂に刻まれてしまったもの……という意味では同質のものかもしれない。

 もっとも、ナディアの場合は「(のろ)い」に近いのだが。

 

 

「なんでこうなってしまったのかしら……」

 

 

 今度こそ口から溜め息が重く零れた。

 

 ふと瞳の蒼い視線を、やや斜め上へと移して意識を集中させる。

 

 すると彼女の身長、160センチより少し高い空中──そこに最近ようやく使い慣れ始めた「黄色に淡く発光する数字(スコア)と、幾つも並んだ矢印の図式(アイコン)、真横に細長く伸びた黄色い(ゲージ)」が浮かび上がった。

 

 ランダムに並んだ矢印の中から、無意識に「入力方法(コマンド)」を目線で拾ってしまう。

 

 すると選択した矢印が消え、そこから少し下の辺りに「➡️⬇️↘️」と表示される。

 やや遅れて「大P」という単語が選択された矢印の横に追加されるものの、特に何の効果も発揮されない。

 その矢印も文字も、数秒ほど点滅した後に消えてしまった。

 

 

「やはり対空技は使えませんわね……」

 

 

 再び嘆息して他の表示も消し、視線を元に戻す。

 すると肩口で揃えられた金色(こんじき)の縦巻きロールが「ふわり」と揺れた。

 

 そう、縦巻きロールである。

 

 ヘアメイク係の侍女達による渾身の縦巻きロールである。

 何個もの筒を後頭部からブラ下げているような狂気漂う髪型のアレである。

 筒のように見えて、バネのような構造と伸縮性がある謎に満ちた髪型のアイツである。

 

 ナディア自身も我ながら冗談みたいな髪型だとは思うのだが、これ以外の髪型にしようとしてもできないのだから仕方がない。そもそも侍女達が縦巻きロール以外を認めてくれない(時折「あれれ? これ、もしかして新手の苛めでは……?」と疑うナディアを誰が責められようか)。

 

 口調と同じで、これも一種の「(のろ)い」なのだろう。

 

 

「(というより……「設定」と呼ぶべきなのかもしれませんわね……)」

 

 

 ナディア・ユキノインという存在を自覚しながら、それでも何処か他人事に己の根底を捉えた。

 意識の表面を、哲学めいたアトモスフィアが滑りかける。

 いけないいけない、と(かぶり)を振って思考の盤面を滑走しようとする哲学者を追い払った。

 

 それにしても無駄に髪質が良いのが腹立たしい。

 この鋭くキツい目元とセットに考えると、まるで悪役令嬢のようなビジュアルである。

 

 

「ああ、いえ……本当に悪役令嬢でしたわね、(わたくし)……」

 

 

 なんでこんなことになってしまったのか。

 

 自問が再来する。

 

 本当に。

 本当に、様々なことがあった。

 勝手に試合の勝敗を賭けていたらしい友人と野次馬達との喧騒を視界の端に収めながら、ナディアは自身が此処に至ったまでの経緯に想いを馳せる。

 

 それはそれとして、取り敢えず友人(あのバカ)は殴ろう。

 

 分割した思考で開廷された裁判所が無慈悲に実刑判決を下して結審させつつ、彼女は「事の発端」を、過去の記憶を紐解いた。

 

 

 そう、あれは──

 

 

 

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