マスターがゴッフ、パーシヴァル、エミヤの3人に慰められながら███の死を受け入れる話 作:ネコモチ
原作:Fate/Grand Order
タグ:Fate ぐだ子 パーシヴァル ゴルドルフ ゴッフ エミヤ ホームズ 死ネタ
藤丸立香が唐突な別れにより悲しみに明け暮れることとなった。彼女は強くあろうと虚勢を張っているがそれがさらに緋想を深めていくことになっていく。
そんな中二人の英霊と新所長が表れ、それがっきっかけで再び立ち上がるきっかけを手にするのであった。
「お疲れ様、立香ちゃん!」
レイシフトでの帰還を終えるとダヴィンチちゃんが出迎えてくれた。私はコフィンから出て、ただいまと返事をする。マシュ達は先に待機して、簡易的な報告を済ませていた。
「……藤丸、大丈夫か」
「……」
そうだよね。言いたいことはわかる。カドックの表情を見ずとも心配そうにしているのが伝わってくる。
「うん! 大丈夫だよ!」
それでも私は胸を張って虚勢を張る。一応、人類最後のマスターだから元気でいなくちゃ。つらい姿を見せちゃうと周りが心配しちゃうから。カドックはそんな私を見て少し戸惑ったように目線を逸らした。
「それだったらよかった。……だけど今日は休んだ方がいいと思うぞ」
それだけ言うとダヴィンチちゃんに軽く会釈してその場を後にした。その横顔はなんだか、何かをぐっと抑え込んでいるようだった。
「先輩、私は
優しくマシュが話しかけてくる。だけどその顔は少し暗い。
悟られてはいけない。ああ、うんと返事だけして笑顔で私はその場を後にしようとする。待って、と呼び止められた。
後ろを振り向くと私の服の袖をつかんだ心配そうなダヴィンチちゃんがいた。
気をしっかりと言って背中をさすってくれる。
いけない、不安にさせちゃっている。笑顔。そうだ、笑顔だ。私は大丈夫だよと優しく答え、その場を足早に後にした。
自分の部屋のベッドに倒れこむ。体の節々の痛みが全身に広がっていく。一人になってやっと気が抜けたのだろう。だんだんと体が重くなっていく。今は何もしたくない……。
ごろりと寝返りを打つ。深いため息をつき壁掛けの鏡を見る。そこにはげっそりとした女が写っていた。
「ハハ……。ひっどい顔」
笑っては見たものの、虚ろな目はピクリとも表情を変えない。ああ、こんな顔だったら心配されちゃうなぁ……。二人と別れた後もきっと笑えなかったんだろうなぁ……。
原因は分かっている。ホームズが消滅したことだ。彼は異星の神の使徒ではあったが、それでも長く冒険を共にしてきた仲間だ。唐突な別れはいつまでも辛く、悲しいものだ。いつまでたっても慣れない。
でも、マシュも言っていたように原作さながらの復活をするはずだ! 縁も完全に切れたわけではないからきっとまた会える! だから、大丈夫。悲しくない。
そんなことを考えていると鏡の中の瞳が潤んでいく。ハッとして私は布団にくるまり鏡から目を背ける。
「大丈夫……大丈夫……」
唇をかみ、自分に言い聞かせる。悲しくない。辛くない。寂しくない。泣いてしまうと心配されちゃう。自分の弱さを見せちゃいけない……。私はただただ声を殺し続けた。
ゆっくりと目を開く。いつのまにか寝てしまったようだ。ベッドから出たくない。今日は一人にいさせて──。
グゥゥゥ……。
……どうやらこんな時でもお腹が空くようだ。私は鉄のような体を無理やり動かす。体を起こすとあたりはもう暗くなって、星明りだけが部屋を照らしていた。時計を見ると深夜の一時を回っていた。さすがに食堂は開いていないが、インスタント麺ぐらいは残っているだろう。まだ眠って痛い感情を押しとどめて私はキッチンに向かうことにした。
壁にもたれかかりながら歩みを進める。沼にはまったときのように足が重い。本当は寝てしまいたいのだが……、流石に何かお腹に入れないとまずい。おそらくみんな寝てしまったのだろう、廊下には照明の一つもついておらず、いつもは騒がしいストームボーダーも今日は静かだ。私はノロリノロリと外の月明りと、漂白された地表の反射光を頼りに暗い廊下を進んでいく。
「遅いぞ! 藤丸立香!」
食堂に着くと何故かゴルドルフ新所長がエプロン姿で待機していた。さらには近くのテーブルにはパーシヴァルがお茶をたしなんでいる。新所長があくびしながら頬杖をついているあたり、ずっと起きていたのだろう。
「おや、さっきまで眠りこけていた人が何を言っているのかな?」
「お、おい! そのことは言うでない‼」
驚いたことに、キッチンの奥からモンペを着たエミヤがひょっこり顔を出してきた。ぽかんと唖然している私を見て、エミヤは悪戯な笑みを浮かべる。
「おや、もう一人寝坊助さんがいるな……。ちょっと待ってろ、今朝食を作るからな」
「朝食というか夜食な気が……」
「ふむ、確かにそうだな」
愉快そうに笑うエミヤを見て思わず苦笑いを浮かべる。新所長はパーシヴァルにべbb名をお願いしたが、騎士故嘘は付けないと言われてしまっている。いつもの日常が戻ったようだった。
「マスター、どうぞこちらに」
パーシヴァルが手招きする。隣に座ると、お茶を注いでくれた。
「今日は遅いからな、胃に優しいものにしておいたぞ」
しばらくすると、新所長が皿に盛りつけたおにぎりを持ってきた。目の前に並べられたものを見ると、日本にいた頃が想起される。
「藤丸立香、ええと……その、なんだ……」
気まずそうな顔で新所長は言いよどむ。私はじっと彼を見つめて待つ。おろおろとしていた新所長は一度目を閉じ、深呼吸をする。
「辛かったら、弱音を吐いても大丈夫なんだぞ」
目を開けた彼は真剣で、優しいまなざしを向けていった。そこには心配や不安もなかった。
「でも……、皆のこと心配にさせちゃう……」
思わず本音が零れる。
「なーに、君はまだ若い! 少しくらい弱音を吐いても良い。それにここにはここで会ったことを吹聴するような輩はいないから安心しろ」
ガハハと豪快に笑う新所長。
「さぁ、マスター! 冷めてしまう前に食べましょう!」
ウキウキなパーシヴァルが私の肩を軽く揺する。早く私におにぎりを食べてもらいたいのだろう。というか、おにぎりを口に突っ込まれるのでは……、そんな気もする。
「うん、いただきます」
流石に突っ込まれるのはごめんだ。私はおにぎりを口に含む。塩だけ振られており、具は何も入っていない。質素ではあるが、どこか懐かしく優しい味だ。ゆっくりと食べ進めていくと、ようやく気持ちが落ち着き始めた。
ホームズが、今の私を見たら何て言うのだろうなぁ、とぼんやり考えてみる。変わった性格だけど、なんだかんだ真面目に話を聞いたり、アドバイスしそうだな……。
トラオムに行く前に『よろしくバリツ!』と言ったけど、もうホームズにおふざけができなくなったな……。
ふざけた後の愉快そうな笑顔も、調子に乗って乗っかるところももう見られないんだな……。
攻略中の頼もしいオペレーションも、叱咤激励ももう耳にすることはないんだな……。
いつのまにか涙があふれてきていた。今までの冒険、ホームズと共に歩んだ旅の記録。これらが脳内で再生されていくたびに目から雫(しずく)が零(こぼ)れ落ちていく。
「マスター、こちらを」
隣を見るとパーシヴァルがそっとハンカチを差し出していた。お礼を言い私は濡れた頬を拭う。
「……かつての私も、大切な人を亡くし一人泣いたことがあります。そういった傷はいつになっても痛く、辛いものです」
パーシヴァルが懐かしそうに呟く。
「ですが、共に歩んだ時間と思い出はなくなりません。すぐに受け入れろとは言いませんし、受け入れられなくても大丈夫です。あなたは強い、きっといつか乗り越えられます」
言い終えると、パーシヴァルは、愛弟子を見る師匠のような柔らかなまなざしを向ける。
震える呼吸を落ち着かせ、お茶を一気に飲み干す。在りし日の思い出と一緒に一気に流し込む。手放さないように、忘れないように胸に刻み込む。胸が熱くなりむせ返りそうになるが、我慢した。
「私はもう大丈夫だよ」
私は顔をあげて力強く言った。虚勢ではない、心からの言葉を私はやっと言えた。
「それは良かった」
エミヤはそれだけしか言わなかったが、どこか嬉しそうだった。新所長も、パーシヴァルも優しい表情を浮かべている。
「というわけで、私はトロットロのカルボナーラを頂きたいです! 新所長‼」
「いやいやいや、今何時だと思いかね⁉それに、今は胃に優しいものを食べなよ!」
「新所長の言うとおりだ。マスターは少しだが衰弱している。体にいいものを食べたほうがいい」
「むぅぅぅぅ、ケチ!」
「ケチって何だね、ケチって‼代わりにサックサクのクロワッサン作るから我慢しなさい!」
「ほんと⁉やったー!」
「それならばマスターに超特大クロワッサンを──」
「パーシヴァル、お前は一体何を言っているんだ……」
深夜で普段は眠っている時間だが、この日は話に花を咲かせ遅めの食事を楽しんだ。
「ごちそうさま!」
勢いよく手を合わせ元気よく言う。
「うむ、それは良かった……。明日はゆっくり起きてもよいが、早めに寝ておくことだな」
「えー、なんかお父さんみたいなこと言われてもなー」
「誰がお父さんだ!」
でも、新所長の言う通りではある。なんだかんだ言って深夜の二時になろうとしているころだと思う。いい加減に寝ないと、というか眠い。自分の部屋に戻ろう。
「じゃあ……、おやすみバリツ‼」
三人に向かって小ボケを言っておく。
「はい! おやすみバリツ!」
「……おやすみバリツ」
困惑している新所長を尻目に二人はちゃんと乗ってくれた。……エミヤは苦笑いしながらだけど。
「フ……フム。そういうことか。じゃあ、おやすみバリ──」
理解した新所長が言うことをわざと最後まで聞かずに走って部屋を後にする。
おおおおおい! 最後まで聞きなさい!
食堂から盛大な突っ込みが聞こえ、思わず笑ってしまう。私は軽快な足取りで自室に向かう。足はもうとっくに軽くなっていた。確かに私はホームズの死を深く悲しんだ。でも、きっとホームズ自身はそんなことを求めてはいないはずだ。きっと彼は、一緒に行きたくなる楽しい旅を望んでいるはずだから。
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