『文豪』が記すのは、大海賊時代の物語   作:宮川アスカ

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第1話 新たな世代

 

「ナツメ! もう行っちゃうのかい?」

 

 太陽が顔を覗かせる頃、ナツメと呼ばれた青年が振り返った先には、夜通し語り合った少女の姿があった。

 

「そうだな。あまり長居してカイドウが帰ってくると面倒くさい」

 

「そっか……。次はいつ来るの? また冒険の事や世界の事、色々聞かせてよ!」

 

「ああ、その事なんだが、当分この島には来ないつもりだ」

 

「え……」

 

 嬉々として話しかけていた少女の顔が一瞬にして曇を見せた。

 

「おや、そんな暗い顔はするものではない。今生の別れというわけでもあるまい」

 

「だ、だって、そんな……、なんで急に」

 

「この前久しぶりに会った友人に面白い話を聞いたもんでね」

 

 ──あの麦わら帽子はどうしたんだ? 

 

 ──ん? ああ、あれか。次の世代に託してきた。

 

「もう数年もすればこの均衡した世界が動き出す。長きに渡った大海賊時代が終幕に向かい動き出すんだ。私はその終わりを見届けなくてはいけない。それが私の役目であり、私の夢だ」

 

「じゃあ、僕もその旅に連れていってよ! この手錠だってナツメには外せるんだろう? 外の世界を、その終幕ってやつを、僕はキミの隣で見たいんだ!!」

 

「何度言っても答えは同じだ。それは出来ない。キミの物語はキミのモノであると同時に、この国の歴史の1部で、それはこの世界の物語の1部でもある。キミが父親としっかりケリをつけるまでは連れてはいけない」

 

 分かってはいた事だ。少女にとって外の世界に出る事は夢であり、その夢はナツメの隣でと何度頼んだか分からない。その度に先の言葉で断られてきた。長い付き合いだからこそ彼の性分はよく知っている。そしてそんな所も含めて、少女はナツメに惹かれていた。

 理解はできるが、やはり納得は出来ない。そんな、どこか歯切れの悪そうな少女にナツメは頭を掻きながら言葉を発する。

 

「次私がここに来るのは約10年後、この国の歴史に関わる大きな決戦の時だ。もしその戦いでカイドウの政権が終わり、キミが外の世界を旅する事が出来るようになったのなら、私がキミを連れ出そう」

 

「! ほ、本当かい?! 武士に二言は許されないよ!!」

 

「私は武士ではないんだがな。まぁ、男として二言はないさ。ああそれと、これをキミにあげよう」

 

「これは?」

 

 別れ際、ナツメが取り出したのは大量の本であった。

 

「私が今まで旅してきた中で見た全ての物語だ。今までキミに話した事からまだ話した事のない事まで記されている。世界一有名な作家である私の書き上げた世界で1つしかない本だ。大切にしたまえよ?」

 

「これを僕に? ……ああ! ああ!! 勿論だとも! 一生の宝物だ!!」

 

「それは良かった。それではな、ヤマト(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)。季節・天候・海流・風向き、それら全てがデタラメな海の上を1艘の船が進んでいる。そんな、偉大なる航路には似つかないその小型船の主が、突如ムクリと起き上がる。

 

「……懐かしい夢を見たな」

 

 ヤマトと会わなくなってから早10年が経った。ナツメは、ニュース・クーから買い取った新聞に目を向ける。

 

「世界政府に喧嘩を売りエニエス・ロビーを崩壊させた大悪党……か。これにはあの爺さん達も黙っちゃいないだろうな」

 

 そう呟くナツメのもう片方の手には、ニカッと笑う麦わら帽子を被った少年の下に3億ベリーと記された手配書と、その一味の物が握られていた。

 

「それにこの麦わら帽子。シャンクス、確かにキミの言っていた事は間違いではなかったようだ」

 

 手配書から顔を上げた視線の先にあるのは、彼の今回の目的地。今世界を1番騒がせている事件が起こった場所であり、『水の都』ウォーターセブンである。

 

「キャー! 変態よー!!」

 

「おい待て!! なんでアイツ何も履いてねーんだ!!」

 

「ワイセツ物チン列罪だ! 逮捕する!」

 

「パンツを届けろー!!」

 

 小型船を港に停めると、街の方がなにやら騒がしい。

 何事かと思い騒ぎのする方へと進んで見ると、群衆の中を下半身丸出しで走り回る1人の男と、恐らくその男のものだと思われるパンツを持って逃げ回る男達の姿があった。

 

「あの男は……」

 

 ナツメは先程も見た手配書にもう一度目を通す。『鉄人』フランキー、懸賞金4400万ベリー。今回の事件に大きく関わった内の1人である。

 なかなかどうして面白い。そう思ったナツメは、群衆の波に飲まれる様に彼らの事を追いかけていくと、辿り着いたのは廃船島。沖には大きな船が浮かんでいた。ヒマワリのような、ライオンのような船首をもつ船の上でルフィは叫ぶ。

 

「このパンツ! 返して欲しけりゃ俺たちの仲間になれ!!」

 

「馬鹿言え! パンツ取ったくらいで仲間にできると思うなよ!」

 

 

 なんのその 男は裸 百貫の 波に向かって立つ 獅子であれ

 

 

 罵声を浴びる中、下半身丸出しでポーズを決めるフランキーを見て、ナツメはふふっと笑う。

 

「面白い男だ」

 

 そう呟くと、手帳とガラスペンを取り出し、スラスラと文字を書き始める。すると突如、フランキーの悶絶が響き渡る。

 

「ホデュアァァァーッ!」

 

 倒れ込みながら股間をおさえるフランキーと、その先には船の上で両腕をクロスさせ両手を握るニコ・ロビンの姿が。

 

「グラップか。しかしこれはちとやりすぎだな」

 

 ナツメは、群衆を掻き分け前に進む。フランキーという男は本当に面白い男だ。変態だなんだと罵声を浴びせられながらも、それを言う民衆達からは確かな愛や感謝を感じられる。彼に直接話を聞いてみたいと思ったナツメとしては、このまま股間を握られたまま、まともに話せないという状況はあまりよろしくない。

 

「そもそも俺は船大工を辞めた身だ! だからそれは俺が作る生涯最後の船であり念願だ! それこそが夢の船だ!!」

 

「……それがキミの本音の全てかね?」

 

 ──?! 

 

 突如としてフランキーの目の前に現れた1人男にこの場にいた全ての人が固まる。そんな事はお構い無しというように、ナツメはスッと海賊船の方に目を向ける。

 

「その手を緩めてくれないかな? ニコ・ロビン。私は彼と話がしたくてね」

 

 一瞬の静寂が徐々に徐々に喧騒へと変わっていく。

 

「あ、あの人は……」

 

「た、大変だ。海賊を、フランキー達を捕らえに来たのか?!」

 

「けど海軍は捕らえずに帰ったんじゃ……!!」

 

「いや、けどあの方は世界政府側だけど海軍ってわけじゃ……!」

 

「どうしよう、アイスバーグさんの恩人なのに」

 

 喧騒の中、視線を向けられたロビンは冷や汗をかいていた。

 

「……どうしてあの男がここに」

 

「なんだぁ、ロビン。アイツの事知ってんのか?」

 

 ロビンや民衆の様子を見たルフィの問いかけに、ロビンは小さく頷く。

 

「ええ……。あの男の名前はナツメ。『文豪』とも呼ばれる王下七武海の1人よ……!」

 

「文豪ぅ? なんかあんま強そうじゃねぇな」

 

 首を傾げながらニシシと笑うルフィの頭をナミが勢いよく叩く。

 

「馬鹿! あんたナツメを知らないの?! 世界で1番名の知れた作家よ?!」

 

「ええ、それに彼の強さは貴方もよく知る四皇、赤髪のシャンクスや彼と同じく王下七武海、鷹の目のミホークにも引けを取らないと言われているわ」

 

「鷹の目だと……」

 

「シャンクスにかぁ?!」

 

 ロビンの言葉に、ルフィは驚きの表情をみせる。今まで黙って聞いていたゾロも鷹の目という言葉にピクリと反応する。

 港がザワつく中、当の本人はゆっくりと口を開く。

 

「なに、別に私は君たちを捕まえに来たわけでは無い。先も言ったろう? 彼、『鉄人』フランキーの話を聞きに来たのだ。私は作家、物語を書く為に存在し、この時代の行く末を見守る者だ」

 

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