「包囲壁を作動しろ!」
センゴクの指示の元、鋼鉄の防御壁が貼られていく。海賊達を囲んでいく中、1部の包囲壁が倒れたリトルオーズJr.の巨体を持ち上げる事が出来ず、その血がシステムに入り込みパワーダウンを促している。
白ひげがそこに勝機を見出した時、巨大なマグマが宙に浮かぶ。
「流星火山」
赤犬によって放たれた拳の形をしたマグマが、逃げ場を失った海賊達の足場を奪う様に降り注ぐ。
「ハァ……ハァ……やべぇ! 俺たちの船が……!」
「何十年も白ひげ海賊団を支えた船! ……モビーディック号が!!」
(……すまねぇ)
自身の船に目掛け降り注ぐマグマを前に、白ひげは心の中で謝罪する。
しかし、モビーディック号にマグマが当たる事はなかった。1人の男によって。
「カタラの書 第33話 カラバ公爵の贈り物 1品目 大食らいの小袋」
モビーディック号の船頭に座るナツメの頭には、猫の耳の様なモノが生え、傍に1つの小袋が現れる。口を結ぶ紐が解かれ、巨大な1枚の布へと姿を変える。その中央には、禍々しい牙や触手が今か今かと食事の時を待つ。
モビーディック号へと降り注ぐ全てのマグマを、巨大な布が受け止め、包み込む。再び紐が結ばれた袋は、中で何かを捕食するかのように、ボコボコと少しの間激しく動く。
動きが止まり、再び元のサイズに戻るった小袋は、ゲフッと紐で結ばれた口から息を吐いた。
「キミの物語の結晶を、そう簡単に消しはしないさ。安心して逝くといい」
それを見た白ひげはニヤリと笑い、包囲壁に攻撃をする。ベコォという鈍い音と共に壁がへこんだものの、白ひげの能力をもってしても包囲壁は破壊されない。
そんな時、衝撃によりまだ僅かに息があったリトルオーズJr.が目を覚ます。それを見た白ひげは、ジョズに指示を出す。
「オーズ! そこにいろ! 切り札だ!! 全員準備を! 広場に突入するぞ!!」
「ウオオオ!!」
現在侵入を許してしまっているのは、ルフィ、マルコ、クロコダイルの3名。白ひげの指示に従い、それに続く様にリトルオーズJr.によって上がり切らなかった包囲壁を、湾内の海賊達が突破しようと試みる。
赤犬のマグマによって、氷は1部を残し完全に溶けきっており、1箇所を目指し集団で海を泳ぐ海賊など海軍にとって格好の的。包囲壁に備えられた砲口が狙いを定めた時、1隻のコーティング船が姿を現す。
「全員船に乗り込みしがみつけー!」
白ひげ達の切り札。この戦争中、海底に潜ませておいた
慌てて標的を外輪船に変え大砲を撃ち込む海兵達に、白ひげの目的に気付いたセンゴクは声をあげる。
「違う! 船じゃない!! オーズを撃てぇ!!」
「行ぐどみんな!! うおおおおぉ!!」
しかし、気付いた頃にはもう遅い。雄叫びと共に、リトルオーズJr.は外輪船を掴み広場へと引き上げる。
広場へと降りたった白ひげがむら雲切を一振した瞬間、多くの海兵が宙を舞う。
「野郎どもぉ!! エースを救い出し! 海軍を滅ぼせぇええ!!」
「ウオオオオ!!」
未だ海面に凍りついたままのモビーディック号にいるナツメを残し、遂に全ての海賊が広場内へ侵入した。
「……ガープ」
「……ああ」
「こりゃ、俺達も……タダじゃすまんぞ……!」
わずかな穴を抜け目なく狙ってくる。既に包囲壁は機能しなくなり、海軍達の障害になりかねない。この事態に、処刑台に立つセンゴクも、自身達の多大な被害を受け入れる。被害を最小限に抑えるなど、もう不可能である。
白ひげの攻撃に巻き込まれぬよう、直線上を避け海賊達は進軍する。青キジ、黄猿の攻撃を、ジョズ、マルコが防ぐ様に白ひげの道をつくる。
赤犬を目の前にし、白ひげがむら雲切を振り上げた時、心臓に激痛が走る。
「ガフッ……!!」
──!!?
血を吐き出し、左胸を抑える様にその場に座り込む白ひげに、隊長達の中に一瞬の隙が生まれる。
「勝敗は一瞬の隙だよねぇ〜」
「余所見したろ? 今……」
恐れていた場面に直面し、白ひげの元へ行こうとするマルコを黄猿が打ち抜き、それに気を取られたジョズを青キジが凍らせる。そして遂に、白ひげの体に赤犬のマグマの拳が突き刺さる。白ひげ、そして隊長がやられた事で、白ひげ海賊団に綻びが生まれる。
「グズグズするな! 全員で白ひげの首を取れぇえ!!」
その綻びをセンゴクが見逃すはずがなく、中将クラスの剣が、銃弾が白ひげを襲う。
「オヤジー!!」
「来るな!!」
──!!?
助けに向かおうとする自身の息子達の足を、白ひげは止める。
「こいつらぁ……これしきで、俺を殺そうと思ってやがる……。ハァ……ハァ……助けなんざ、いらねぇよ……」
全身から血を流し、呼吸も乱れている。しかしこの男が倒れる未来が不思議と想像できない。白ひげはギロリと海兵達を睨み、大きく腕を振る。
「俺ァ白ひげだぁあ!!」
赤犬の攻撃を受け、無数の傷をおってもなお、中将達を薙ぎ払い君臨するその姿に、海兵達は恐れおののく。
「俺が死ぬ事、それが何を意味するか……俺ァ知ってる……! だったらおめぇ……息子達の明るい未来を見届けねぇと、俺ァ死ぬ訳にはいかねぇじゃねぇか……!」
そんな白ひげの後ろを囲う様に、隊長達が構える。
「……お前らにゃあ……わからんでええわい」
「俺達はオヤジの誇りを守る!!」
「気が利きすぎだアホンダラ」
なぁ、エースとエースを見つめる白ひげに、その横に立つセンゴクは問いかける。
「……何故そこまで死に急ぐ必要がある。現に自身で身の潔白を証明出来たのならナツメに刺される必要などなかっただろ」
「グラララ……! ハァ……ハァ……この戦争中、アイツが自由に動ける様にするためだ……。俺の首1つくれてやったんだ……その位は許してやれよ? センゴク……!!」
「貴様もあの男の性分は分かっているだろ! ヤツは自身の手でエースを助ける事は絶対にせんぞ!!」
「それならお前も分かってるだろ……アイツぁ約束は守る男だ。傍観者決め込む割に、情や約束に弱え男だ……。エースと何を話してたかは知らねぇが……それが息子の為ってんなら、……ハァ……オヤジが命懸けずに……どうするってんだ!!」
「……そんなに未来が見たけりゃ、今すぐ見せてやる!!」
センゴクの、やれという指示に従い執行者が白刃を振り上げる。
「無駄だ……俺がそれを止められねぇとでも……ゴフッ!」
白ひげの意志とは裏腹に、毒の呪いが白ひげの身体を駆け巡る。白刃が振り下ろされ首元に届いた時──
「やめろぉぉおおおおお!!」
ルフィの叫び声と共に、執行者、いや、気の弱い者達が次々に倒れていく。
「ふふ。偶然か、はたまた必然か。血は争えんな……ドラゴン」
離れた場所から、この戦争を見守るナツメの髪を東の風が揺らす。
この戦争の中心が、白ひげからルフィへと変わった瞬間であった。
処刑台が崩れ、処刑台ごと吹き飛ばそうと砲弾が放たれる。
処刑台が崩れた段階では、エースは未だ海楼石の錠がつけられており、生身のエースに、多くの海兵が死を確信した。
しかしその次の瞬間、爆炎の中に炎のトンネルが現れる。
「お前は昔っからそうさ! ルフィ!!」
爆炎の中から突如として放たれたその声に、海賊達の歓喜の咆哮が響き渡る。
「俺の言う事もろくに聞かねぇで、無茶ばっかりしやがって!!」
炎のトンネルから現れたのは、錠が外され自由になった我が身で弟の事を掴むエースの姿であった。
「エースー!!」
遂に、火拳のエースが解放される。これは、海軍の大きな失態を意味し、海賊達が勝利に向けて王手をかけた事となる。
そんな中、1隻の外輪船が海軍本部目掛け陸の上を突き進む。
「オヤジィ! みんな逃げてくれ! この戦場は俺達が請け負ったぁ!!」
「スクアードの野郎! つまらねぇ方法選びやがって!!」
白ひげを刺した罪滅ぼしとして、自身が犠牲になる事を選んだ大渦蜘蛛海賊団。それをマルコが止めに出ようとした時、海軍本部に直撃間近という所で、白ひげが外輪船を止める。
「オヤジィ!!」
「ハァ……ハァ……。子が親より先に死ぬ事がどれ程の親不孝か……てめぇにゃ分からねぇのかスクアード!! 付け上がるなよ、お前の一刺しで揺らぐ俺の命じゃねぇ……! 俺を殺すのはヤツの毒だ……どう転ぼうとも俺は今日死ぬ……!!」
「──!!」
「今から伝えるのは最後の船長命令だ……! よぉく聞け……白ひげ海賊団!!」
「最後って……ちょっと待てよオヤジ!」
「縁起でもねぇ! そんなの聞きたくねぇよ!」
自身の言葉に、猛反発する息子達の方を、白ひげは振り返らない。彼の意思は変わらない。
「お前らと俺はここで別れる! 全員必ず生きて! 無事新世界へ帰還しろぉ!!」
「オヤジ! ここで死ぬ気か?!!」
「俺ァ時代の残党だ……! 新時代に……俺の乗り込む船はねぇ!! 行けぇ! 野郎どもぉー!!」
大気を掴んだ白ひげの攻撃は、海軍本部に大きな亀裂を生み出す。
(振り返るな、時代は変わる。新時代はお前に託したぜ……文豪)
エースに気遣う事の無くなった今、白ひげは本気でマリンフォードを沈める気でいる。
「随分長く旅をした……
今、1つの時代が終わりを迎えようとしていた。
白ひげの意志の元、覚悟を決め、多くの者がモビーディック号へと向かう。その船頭には既にナツメの姿はない。
「本気で逃げられると思うちょるのか……! めでたいのう」
そんな海賊達の逃亡を阻止するように、赤犬は拳を振るう。
「エースを解放して即退散とは、とんだ腰抜けの集まりじゃのう、白ひげ海賊団。船長が船長……それも仕方ねぇか……! 白ひげは所詮……戦の時代の敗北者じゃけぇ!!」
「ハァ……ハァ……敗北者……?」
『敗北者』その言葉が、白ひげを置いて逃げる事を決めたエースの足を止める。
「取り消せよ……!! 今の言葉……!!」
「おいよせエース! 立ち止まるな!!」
「アイツ、オヤジをバカにしやがった……」
怒るエースを見て、悪びれる様子もなく赤犬はエースを挑発する。
「お前の本当の父親、ロジャーに阻まれ王になれずじまいの永遠の敗北者が白ひげじゃぁ! どこに間違いがある……!!」
「……やめろ!!」
「……何十年も海に君臨するも王にもなれず何も得ず……! 終いにゃあ、口車に乗った息子という名のバカに刺され、それを守る為に死ぬ! 実に空虚な人生じゃあ、ありゃせんか?」
「やめろ……!」
「のるなエース!! 戻れ!!」
仲間の冷静な判断も、エースには届かない。今のエースには、どこか危うさが見られた。
「白ひげは敗北者として死ぬ!! ゴミ山の大将にゃあ誂え向きじゃろうが!!」
「白ひげはこの時代を作った大海賊だ!! この時代の名が!! 白ひげだぁ!!!」
マグマの拳と炎の拳がぶつかり合う。ただし赤犬の火は、エースの炎をも焼き尽くすマグマ。その明確な上下関係の前に、エースのみが傷をおう。
「貴様ら兄弟だけは絶対に逃がさん!!」
『海賊王』ゴール・D・ロジャー、『革命家』ドラゴン。この名が意味するもの、それは血筋だけで大罪とされる。
「よう見ちょれ……」
そう言った赤犬の拳は、エースの傍に座る、ルフィへと向けられる。
既に何度も限界を無理やり超えたルフィの身体は、既にいうことを聞かなかった。自身の死を悟った次の瞬間──
「……え」
「ガフッ……!」
ルフィが目にしたのは、目の前でマグマに焼かれ、腹部を貫かれた兄の姿であった。
「エースがやられたぁー!!!」
「赤犬を止めろぉー!!!」
一瞬の沈黙を後に、海賊達の悲痛の叫び声が上がる。
「まだ息はありそうじゃのう……」
赤犬を止めるべく海賊達が銃弾を放つが、ただの攻撃ではマグマの身体に傷1つ付けることは出来ない。エースにトドメを刺そうと、再び右腕を振り上げた時、遠くの方で一瞬、地鳴りの様な音がする。
「やめろぉおお!!」
ルフィの叫び声と共に、赤犬の拳が振り下ろされる。エースに当たろうとした瞬間、何者かがその拳を止めた。
「その拳……少し待ってくれないかな赤犬……約束があるのでね……!」
【カタラの書 第33話 カラバ公爵の贈り物 2品目 血染めのブーツ】
その靴は、1歩で地を割り、2歩で音を超える。
赤犬の拳と交差する赤黒いブーツに付いた1つ目がギョロリと動く。この戦争、自身の役割は果たしたと言わんばかりに、離れた場所で傍観者を決め込んでいた男が遂に動いた。ただ、あまり良いものとは言えないだろう。
それは明確に政府を敵に回す事を意味するのだから。
次回で頂上決戦編は最後となります。その次に閑話でヤマト坊ちゃんの受難です。
皆様が原作を知っている前提で、エースが解放される前を端折りましたが、分かりにくかったり違和感がある様でしたらお伝えください。書き足します。