王下七武海。世界政府によって公認された7人の海賊であり、収穫の数割を政府に納めることで、海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されている組織である。政府の犬と揶揄される様に、表向きは世界政府側につく彼らだが、監視の外では各々が思うがままに活動している為、一般市民からしてみればその辺の海賊と何ら変わらない。寧ろ下手に権力を持っている為、一般の海賊よりもタチが悪いと言えるだろう。
しかし彼、ナツメは一般市民からの評判は割と良いものだった。世界一有名な作家である彼の本はそこら中の書店に置いてあり、他の王下七武海よりもどこか身近に感じられる存在であったナツメは、海賊としてでは無く、作家としてのファンが多いのだ。
そんな彼は、面白い物語が書けそうだと、目の前で股間をおさえ蹲る男を見つめている。ただ、その為には少々彼の心を引き出す必要がありそうだ。
「……それがキミの本音の全てかね?」
「ハァハァ……! おめぇに何が分かるってんだ。おれぁ、この島に居たいんだよ!!」
「ああ、確かに私には分からない。ただ、彼は何か言いたそうだぞ?」
フランキーの言葉を聞いたナツメは、アイスバーグの方をチラリと見る。
「フランキー。この船はお前の言う夢の船じゃねぇはずだ。幾度となく続く戦いを乗り越え、夢の果てへ到着した時。そうだろ? お前はまだ夢の船を見届けられてねぇ」
「やりてぇ事が変わったんだ……!」
「やりたい事……。それは償いかい?」
フランキーの言葉を聞いたナツメは視線を合わせるようにしゃがみこみ、フランキーの目を見つめる。
「……どういう事だ」
「
「……そんなわけねぇだろ! そもそもなんでてめぇがトムさんの事を。何も知らねぇんじゃねぇのかよ」
「私は作家だぞ? 物語がある所に私は居る。あの男が連行された時も、な。私が分からないのはキミの心だ。だからキミと話がしたかった。カティ・フラム、キミの師の最後の言葉は美しかったよ」
フランキーは目を見開いた。あの事件、あの場にいた者達は口を揃えてトムの行いを、海賊王の船を作った事を、その誇りを否定した。ただ、今目の前に立つ男はそれを美しいと言ったのだ。
「フランキー、いつまで自分を押し殺して生きていくつもりだ? もういい加減に自分を許してやれよ、フランキー!!」
アイスバーグの言葉でその見開いた目に、涙が溢れる。
「……もう、てめぇの夢に、生きていいだろう……?」
フランキーは泣き叫ぶ。股間を握られている事を盾にして泣き叫ぶ。家族皆で泣き叫ぶ姿を見て、ナツメは手帳をパタリと閉じる。また、良い物語が1つ書けたと。
そんな時、1つの足音が忙しなく向かってくる。
「ルフィー!! 大変な事になってきた! お前の爺さんが戻ってきたぞ! 向こうの海岸で攻撃態勢になって俺たちの事を探してる!!」
「ええ?! なんで?! 捕まえねぇんじゃなかったのかよ!!」
「知るか! とにかく出航準備急げ!!」
叫びながら船の方に走るサンジと共に返されたパンツ片手に、フランキーは1歩を踏み出す。
「ちょっくら行ってくらぁ!!!」
フランキーが船に乗り、ルフィ達が出航の準備をするのを見てナツメは、はて? と首を傾げる。
「そげキング、彼もキミの仲間なのだろう? 居ないようだがいいのかい?」
ナツメの言葉に、ルフィはどこか無理した笑顔をみせる。
「いいんだ。もうずーっと待った。それでも来なかった! ……これが答えだ!! アイツも海賊はやめねぇだろうし、旅してればまた会えるさ!」
「そうかい。これはキミ達の物語だ。キミがそう決めたのならこれ以上私からは何もないよ」
麦わらの一味の船、この直後、サウザンドサニー号と名付けられる海賊船が出航する。ある程度港から離れた時、骨を加えた犬の船首をした船が現れる。海軍中将、モンキー・D・ガープの軍艦である。
『おいルフィー! 聞こえとるかー?! こちらじいちゃん、こちらじいちゃん』
「じいちゃん! 俺たちの事、ここでは捕まえないんじゃねぇのかよ!」
『まぁ、色々あってな。お詫びと言っちゃあなんだが、ここはワシが1人で相手しよう』
スピーカーから手を離し、ガープは砲弾をと右手を出す。その次の瞬間──
「
「うおぉっ!!」
大砲よりよっぽど威力の強い砲弾がサニー号目掛けて飛んでくる。
「これは少し面倒な事になったな」
その様子を見ながら、ナツメは小さく呟く。
先程サンジは、向こうの港と言っていた。もし自身の船が見つかっておりここに居る事がバレると少々面倒くさい。さっさとこの場を離れようとすると、後ろの方からバタバタと1人の男が何かを叫びながら走ってくる。
「おーい!! 喜べ! 俺だぞー!! 朗報があるぜ! 俺が帰った暁には副船長になってもいいぜ!! どうだ?! おーい!! ルフィ! みんな!! 分かってるぞ! 嬉しくてそっちで泣いてんだろ?!!」
仮面はつけていないが、自身のそばを横切るウソップを、ナツメは直感的にそげキングだと理解した。
「お前まさかあの時のあのジョーク! 信じてねぇよな?! 長い付き合いだ! あんな事、本気で俺が言うはずねぇもんな!!」
しかしどんなに彼が叫んでも船が止まることは無い。
「なぁ、おい! 何とか言えよ!! いい加減にしろよお前ら!!!」
「……」
遂に沖まで着き、立ち止まる。そんなウソップの肩を、ポンとナツメは軽く叩いた。
「意地というのは難しいものだな。生きてる以上誰にだって譲れないものがある。譲れないものの為ならプライドも意地も張ってなんぼだ。ただ、張りどころは間違えないほうがいい。失ってからじゃ遅いんだ。これは私の単なる独り言だが、時には素直な気持ちを伝える事も大事さ」
その言葉にウソップはジワっと涙を浮かべる。そしてダムが決壊した様に泣きながら、地べたに這いつくばってでも叫ぶ。
「ごめ゛────ん!!! 意地張ってごべ──ん!! 俺が悪がったぁ!! 今更みっともねぇんだけども! 俺一味やめるって言ったけど!!」
涙で、鼻水で、つっかえながらも、自身の言葉を紡いでいく。
「あれ! 取り消すわけには、いかねぇがなぁ──!! ダメかなぁー! ……頼むからよ、お前らと一緒に居させてくれぇ!! もう一度……! 俺を仲間に入れてぐれぇ!!!」
最後の一言を言ったとき、船の方からニュっと伸びた1本の腕がウソップの前に現れる。
「バガ野郎──! 早く! 掴ばれ────!!」
「ルフィ……」
「よかったな、船に戻れて。お宅の船長にはやはりキミが必要らしい」
「あ゛あ゛! ありがどう!! 誰だか分かんないけど、アンタいいヤヅだなぁ!!」
「これくらいなんて事ないさ。まあ、そうだな、今度そのキミの譲れなかった意地の話を聞かせてくれ」
砲弾が飛び交う中、ルフィの手を掴んだウソップが仲間の元へと飛んでいく。彼の話もきっといい物語になる。そう思った時、ガープの戦艦から巨大な黒い鉄球が見える。
(おいおい、いくらなんでもやりすぎだろ。自分の孫だろ?)
ナツメは悩む。自身が助けなくとも彼らは何とか逃げ切れるかもしれない。それに逃げ切れなければ彼らの物語はそこまでだったということだ。そもそもナツメは王下七武海であり、海賊を逃がす為に海軍に楯突くなど許されるはずがないのだ。
「まぁ、その時はその時か」
ナツメはそう言うと、先程までとは違うガラスペンを取り出す。
【BLOCK】
ナツメがガラスペンを空にはしらせるとBLOCKという文字が浮かび上がり、人1人が上に立てる程の大きさの立方体へと変わる。
ナツメがBLOCKという文字を書く度、立方体が現れ、その上を歩きながら海を渡っていく。
「ガ、ガープ中将! 何者かが海の上を歩きながらこちらに向かって来ます!! ……あ、あれは! ナツメです!! 王下七武海のナツメです!!」
「なにぃ? ナツメじゃとお?!」
「あらら。ヤツ、また面白い話を嗅ぎつけてきたかぁ」
1人の海兵が双眼鏡を覗き込みながら叫ぶ言葉に、砲弾を投げるガープの手が止まり、たまたまこの船に乗り合わせていた青キジもアイマスクをあげる。
サニー号とガープの軍艦との間に入る様な形で立方体の上に立ったナツメに、ガープは声を上げる。
「何しに来よったナツメー!!」
「やあ、ガープ。その巨大な鉄球を投げるのを止めてくれないかな?」
「止めるわけがないじゃろ!! 何を言っておるんだ貴様は! ルフィ達を守るような事言いおって、貴様は王下七武海だろうが!!」
「アンタが気まぐれなのはいつもの事だが、介入してくる事は殆どなかったはずだが?」
「私も介入する気はなかったんだがね、つい先程とある男の話を聞く約束をしてしまったんだ」
青キジの言葉にナツメはそう答える。ナツメはあくまで作家であって、彼は登場人物では無い。彼は物語に介入しない。どんな結末を迎えようと、それが登場人物達の物語で、この時代の物語の1部なのだから。
しかし少々、彼らの今後が見てみたいと思った。きっとこの世代はこの時代を脅かす存在であり、モンキー・D・ルフィはその中心にいるのだから。
「しかしそうだな、青キジも居るというのなら少し力を出しても問題ないか。新たな世代の者達よ、餞別だ。今後キミ達に立ちはだかる者達の力を見ておくといい」
ナツメはそう言うと、1冊の本を取り出す。
「おいおい、まじか……! アイツ、ここでアレを使う気かぁ?」
「お前らぁ!! 早急に後ろに下がっておれ!!」
その、紋章の描かれた黒い書物を見た瞬間、ガープは自身の部下全員に指示を出す。
それを見たナツメは、その本をゆっくりと開く。
「カタラの書 第21話 0時のガラス姫」
ナツメがそう呟くと、本に記されていた文字達が浮かび上がり、鳥やネズミ、そして1人の女性へと変わっていく。
ナツメの背後に現れたその女性の金色の髪はくすみ、傷んでおり、肌は血が通っていないように白い。目の下にはクマが目立ち、青い瞳からは血が流れている。にも関わらず、美しいその女性は楽しそうに歌う。
──染めましょう♪ 染めましょう♪ ガラスの靴を染めましょう♪
──足を切り落とし、目を抉りとり、ガラスの靴に詰めましょう♪ ガラスの靴を綺麗な赤に染めましょう♪
歌と共に、鳥やネズミが軍艦に襲いかかる。
「アイスBALL」
それらを青キジが冷気を放ち氷の塊に閉じ込めていく。
「おいおい、なんだありゃあ……。あのルフィを氷漬けにした海軍大将と互角に渡りあがってやがる」
「アイツほんとに強かったんだなぁ!」
「おいボーっとしてんな! 文豪が海軍の相手してくれてる間に逃げるぞ!! これが巨大空砲と宝樹アダムの強度によって実現した脅威の緊急加速装置!」
フランキーはそう言うと、コーラ樽の前に立つ。
「む、ルフィの奴、逃げようとしておる。おいクザン! ナツメの相手、ちと任せるぞ」
「はいよ」
ガープはそう言うと、手にしていた特大鉄球に繋がれた鎖を振りかぶる。
「逃がさんぞルフィ! ワシを舐めとったら、怪我するぞー!!」
「おわー! 特大鉄球!! 死ぬー!!」
「フランキー急げ!!」
サニー号に向かい飛んでいく特大鉄球。しかしそれがサニー号へと辿り着く事はなかった。空中を舞う特大鉄球が突如ガラスのキューブに閉じ込められる。
その直後、特大鉄球はミシミシと音を立てながら、ガラスのキューブが靴の形に変わるように押しつぶされていく。キューブがガラスの靴に変わり終わると同時に、時計が現れ、針が0時を指した時、ゴーンゴーンという鐘の音と共に、特大鉄球もろともガラスの靴が割れる。
キラキラと舞うガラスの靴の破片を尻目に、
「ほう、こいつは凄い。麦わらのルフィ、キミは良い船大工を持ったな」
無事逃げ切った麦わら海賊団を見て、ナツメは満足そうに微笑む。しかし彼が本当に大変なのはここからである。
「さてさて、この場をどうやって収めようか」
目の前には、本来味方であるべきはずの海軍の英雄と海軍大将が立っていた。
【モジモジの実】
利用者:ナツメ
分類:超人系
能力:利用者が書いた単語を具現化できる
【カタラの書】
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