くまは政府の人間兵器のため普通にこき使われてます。悲しいですね。
「……私達は何故こんな所にいるんだい、レイリー。いや、ここではレイさんだったかな?」
「ああ、レイさんで頼む」
「では改めて聞こう。レイさん、私達はこんな所で何をしているのだろうか」
隣に座る白髪の老人に、ナツメは自身の手首に繋がれた手錠を見ながら問いかける。彼は今、檻の中にいた。
スリラーバークよりモリアを連れ出した後、とある事情によりナツメは、いや、王下七武海は政府により招集が命じられた。
しかしこの男、それに対し「はい、そうですか」と真っ直ぐ向かう男ではない。いや、特に何も無ければ向かうのだが、道中、シャボンディ諸島での面白そうな噂を耳にしたナツメは、案の定、寄り道をする事にする。
シャボンディ諸島。
そんな中、現在シャボンディ諸島に億超えのルーキー達が集まっているという。新たな時代の海賊が1箇所に集まる。何も起きないわけがないのだ。そしてその場にナツメが居ないことも、また、ありえない事なのである。
さて、話を戻そう。何故ナツメが手錠をかけられ檻の中に幽閉されているのかと言うと、彼の隣に座る男、『冥王』シルバーズ・レイリーによるとばっちりである。
シャボンディ諸島に来たナツメは、久しぶりにレイリーに会いに行ったところ、何故かカジノに連れて行かれたうえ大金スった冥王は、身を売り出したのだが、老いぼれの身1つで足りないならこの若者も同伴しよう、という言葉1つで何故かナツメまでも人間オークションにかけられていた。
『冥王』に『文豪』、この2人が商品として売られようとしているなど誰が想像できるだろうか。
「金なら貸すと言ったろう? わざわざこんな仮面までつけさせて」
「ハッハッハ! お前さんはワシと違い、世間の1部では顔が割れてるからな。ワシからの配慮だ。それに金を借りると言うのは性にあわん!」
「その配慮をするぐらいなら、そもそも巻き込まないでもらいたいものだ」
ナツメはやや呆れ気味に、自身の実の能力で作り出した仮面に触れる。
「それに……、何か面白い事が起きる気がする」
「ほう、それは確信かね?」
「いいや、直感だ」
直感。しかし冥王の勘はよく当たる。この場から逃げ出すのは容易だ。ならばと、ナツメは、どうせならその勘が当たる事に期待する事にした。
「……会場の方が少々騒がしいな」
「大方、天竜人だろう」
先程、2人の横の席に座っていた人魚の少女がオークションに出されに行った辺りから、何やら会場がザワついている。
そんな疑問の中、レイリーから出たセリフに、ナツメは少々嫌な顔をする。
「この島は多くの物語が生まれるから好きだが、如何せん奴らの事は好かんな」
「おいおい、政府側の人間がそんな事言っていいのかね?」
「奴らから生まれる物語にろくなものはない。人魚、魚人の差別的言動、このオークションだってそうだ。オークションから生まれる美しい物語もある事にはあるが、そんなものは極まれだ」
「そうだな。ワシも天竜人は好かん。ただ、オークションのある1部に関しては気に入っている。こうして老人をほいほい受け入れ、金をくれるんだからな。ここなら金を盗っても何の罪悪感もわかん」
レイリーはそう言うと、金の入った袋をチラつかせる。その時、2人の手首には、既に手錠はなかった。
「さて、金も盗んだ事だし、我々も撤退するとするか! ……ん?」
「ほう……。レイさん、どうやらキミの直感は当たっていたようだ」
目の前では何やら暴動が起こっており、天竜人の女性が人魚の少女に銃口を向けているところであった。しかし次の瞬間、天竜人はガクンと突如気を失った様にその場に倒れ込む。
「覇王色とは便利だな。こういう時、自分は直接手を出していないですむ」
「お前さんにも出来るだろう。身につけようとしないだけで」
「買い被りすぎだ。私は作家だ。王なんて、そんな大層な存在にはなれんよ」
突然舞台裏から現れたかと思えば、何かを呑気に話し出す2人の男に、注目が集まる。
「……?! な、何だあのじいさんと仮面の男は?!!」
「ありゃ商品じゃないか! どうやって檻からぬけだした?!」
「そもそも錠はどうした!」
そんな中、タコの魚人の男がレイリーの存在に気づく。そしてその傍には、麦わらの一味の姿もあった。
「レ……レイリー」
「え! コーティング屋か?! どっちが?!」
「おお! ハチじゃないか!! 久しぶりだ! こんな所でなにを──! ……いや、何も言わんでいい」
武器を持った兵士、腹部から血を流すハチと呼ばれたタコの魚人、水槽に閉じ込められた人魚の少女、恐らく殴られたであろう頬を腫らした天竜人、そして、その目の前に立つ麦わらのルフィ。
それらを見て、何かを察したのか、レイリーは少し悲しそうな目をする。
「そうか……。まったく……酷い目にあったな、ハチ」
レイリーはそう言うと、その一瞬悲しそうにした瞳を、カッと見開く。
──?!
その次の瞬間、この場にいた兵士達が先程の天竜人の様に一斉に倒れ出す。覇王色の覇気。それは、レイリーが王の素質を持つという確たる証拠であった。
「まったく。かなり面倒な事になったな」
ナツメは仮面を外し、倒れた兵達、いや、ルフィに殴られたであろう天竜人、チャルロス聖を見ながら、そう呟く。
一連の流れを見ていたローとキッドは面白いものを見たと、不敵な笑みを浮かべる。
「……まさかこんな大物に、こんな所で出会うとはな」
「『文豪』ナツメ、『冥王』シルバーズ・レイリー。間違いねぇ、そもそもどういう組み合わせだ? なぜこの2人がこんな所に……」
レイリーと言う存在に気づいていないながらも、その疑問はルフィも同じだった様で、手を振りながら声をあげる。
「文豪じゃねーかぁ! こんな所で何やってんだー?」
「なに、ちょっと、この男の所用に巻き込まれてね。それにしても、随分と凄い事をやらかしたものだ。私としては、その現場に直接居合わせたかったものだがな」
ただ、この事件、政府が許すはずがない。聖地、マリージョアに暮らす天竜人は世界貴族であり、彼らに手を出すことは勿論、逆らうことなど許されない。天竜人に手を出すと言う事は、この島に海軍大将が来ると言うことに繋がる。
「レイさん、後のことは任せた。私はここでお暇させていただく」
現在、海軍はこの件にさく人員も時間も足りてない。となれば来るのはあの男であろう。ナツメの考えが間違っていなければ、文字通り、光の速さでこの島にやってくる。
去り際、ナツメはルフィの方を向く。
「キミ達とは何やら不思議と縁があるようだが、それもここまでかもしれない。可能性は低いだろうが、キミ達が見せてくれる物語に期待する者として、無事生きてこの島を出られる事を願っておこう」
ナツメはその言葉だけを残し、オークションハウスを後にした。
シャボンディ諸島27番GR港。海軍を乗せた一艦の軍艦が姿を表す。
その軍艦に、多くの海賊が慌てふためく。急いで船を出そうとする中、そんなものはお構い無しにと、大砲が港に向かい飛んでくる。すると、望遠鏡を覗いていた海賊の目に、妙な光景が映る。幾つか撃たれた大砲の内の1つに、人が乗っているのだ。そしてその人影がピカッと光った瞬間、その場所にいたはずの人影は無くなり、港は爆発する。
「オー……こちら黄猿ぅー! オー……到着したんでー、応答ぉ願います」
爆発を背に、海軍大将黄猿は、優雅に仁王立ちしていた。