異なる楽器での演奏、そして合奏を終えた私たちは後日、休むことになった。
マスターは「色んなことを頑張ったから、たまには休日もいいよね」と言葉にしていた。
私もその要件を受け止めて、眠ることにした。
……そして、迎えた次の日の朝。
「お誕生日おめでとう、ミストルティン!」
パン、パンと響くクラッカーの音で目が覚めた。
「……誕生日?」
ふと、日付を確認してみる。
8月25日。そう、私の誕生日だった。
「よく気が付いていましたね」
「酒場で働くことになったときに書いた書類にあったからね。それで気が付いたの」
「それで、折角だから誕生日会やろうっていう流れになったの~」
「ミストルティンには内緒でね」
「お疲れ様とお誕生日会みたいな感じでっ」
「……そうでしたか」
誕生日を祝われることはそうそうなかったので、このようにサプライズが来るのは斬新だった。つい頬が緩む。
「あっ、ミストルティンが笑顔になってる」
「珍しい~」
「ま、まじまじと見つめられても困ります」
「照れてるのも可愛い」
「わかる」
「……着替えていいですか」
「大丈夫。別の部屋で待ってるからね」
騒々しく、マスターとピサールが去っていった。
寝室の部屋に用意してある自分の私服に着替えて、部屋を抜ける。
そこには、美味しそうな朝ご飯と小さなケーキ、そして葡萄のジュースが置かれていた。
「朝から豪華です」
「しっかりした誕生日パーティーは午後行うからね、朝はこれでも軽いよ?」
「そうなんですか」
「午後からは無礼講ってことでミストルティンもワインを味わってほしいの~」
「アルコールを入れると」
「そういうこと~」
「……酔ってしまいますよ?」
「そこまで弱いの?」
「いいえ、単純にそこまでお酒を嗜んだことはないので」
「大人びてるのに意外……」
「マスターまでそんな目で見てたのですか」
苦笑しながら、みんなで椅子に座る。
誕生日だからか、私が中心の席に座ることになっていた。
「昨日はお疲れ様」
「ありがとうございます」
「これからどうする? 一応、ミストルティンって雇われの身でしょ?」
「……そういえばそうでしたね」
スカウトされてやってきただけで、ずっとここで働くとは決めていなかった。
だからこうして質問されたのだろう。
マスターからの言葉に対しての返答は決まっていた。
「しばらく、酒場で音楽を奏でることを続けたいです」
「いいの?」
「得られるものも多いですから。お金だけでなく、経験も。頑張ってみたいです」
「ありがとうっ!」
嬉しそうに頷くマスター。
これで、改めてこの酒場で働くことが決まった。
「ただ、毎日ずっと動き続けるのは……疲れてしまうので、休暇はいくつかほしいかもしれません」
「そうね、休暇は大事~」
「……ピサールの怠惰に影響された?」
「そんなことはないです」
怠惰すぎるわけではない。
そう言いたいので、言葉を増やす。
「演奏を楽しみにしている人がいると思うので、そちらも休まないようにしたいだけです」
「あー、吟遊詩人っぽい生活してるもんね」
「そういうことです」
元々は音楽を演奏していた身。
酒場の音楽に専念しすぎるのもよくないだろう。いい感じに両立させていきたい。
「わかった、いい感じにシフトを組んでおくね」
「ありがとうございます」
「もしかして、そんなにわたしサボれない?」
「まぁね」
「うえ~、助けてミストルティン~」
「助けませんよ」
軽いフットワークのやり取りもなんだか心が暖まる。
この酒場に来て、色んなことを得られた。
友達も、新しい音楽の価値観も、そして健全に評価されることも。
全部が私の成長に繋がっているのかもしれない、と考えるとここにきて良かったと心から思える。
「誕生日プレゼントどうしようかなぁ」
「ふふん、マスターの私はいいものを用意できるから抜かりなし!」
「あ~、ずる~い。ねぇ、ミストルティン。今日はどこか買い物にいかない?」
「それも悪くはないですね」
「ミストルティンが好きそうなもの買ってあげる~」
「いいんですか?」
「高すぎなければね~」
「ありがとうございます」
プレゼントを買いに行く、なんていうのも初めてだ。
色々な体験がこれからも待っているのだろうということを考えると期待で胸が膨らんでいく。きっと、どの経験も私の糧になるはずだ。
「じゃあ、朝ご飯食べようか」
「いただきま~す」
「いただきます」
形に残る誕生日プレゼント。
経験として積みあがった思い出も、プレゼントなのだろう。
そう考えると、この酒場に来たことそれ自体が私への誕生日プレゼントだったんじゃないかなとも思える。
新しい見解を開いたことによって、見えた未来は明るい。
これからも友達と一緒に成長していけるだろう。
「今日のミストルティンは表情が朗らかよね~」
「そ、そんなことないです」
「そんなことあるって~」
私の音。
彼女の音。
どんな音も魅力的な音だ。
これからも奏でていきたい。
音楽を演奏する私は、心からそう思った。
これからの未来に幸がありますように、と。