かつて『魔法少女』と呼ばれた少女達を中心とした一大決戦に勝利してから十年、人類は合間の日々を過ごしていた。

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一、二、三。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正に、破滅の大釜であった。

 

 

『総員、脱出!』

 

 

 通信と共に一隻の巨艦から槍の様な影が飛び出す。

 

 一瞬の後に巨艦はその雄大さに勝る巨大な火柱となって燃え尽きた。

 

 

「あぁっ、セント・ヒルが……」

 

「バカ!気を取られるな!」

 

 

 二年前に就役して以来多くの魔に抗い、超常の少女達と共に戦ってきた合衆国海軍正規空母セント・ヒルの最期であった。

 

 

「来るぞ!迎撃準備!」

 

「は、はい!迎撃準備!」

 

 

 そして巨艦の死は破滅の終わりとはならない。

 槍の如き飛翔型兵装で脱出出来た人員達に上空から無機質な影が襲い来る。

 

 

砲火(ファイア)!」

 

『……!』

 

 

 それに対し砲火が飛ぶ。

 大砲にさえ匹敵するそれは少女の手にする短杖(ワンド)から放たれ、無機質な殻を砕いて醜い体組織を飛び散らせ撃ち落とした。

 

 これこそが超常の少女達の力、()()()()()

 無機質な魔が()()()()()()ではより強大な力が振るわれ、魔を屠る。

 

 龍の如く組み上がった黒線が、搭乗者無き戦闘機の群れが、白き焔の網が、天空を駆け巡っては魔を消し去ってゆく。

 

 

「このまま後方まで逃げ切るぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

 閃光と、爆炎と、死骸降り注ぐ空の下を必死に駆ける元セント・ヒル配置員達はしかし━━、眼下の大海に目を向けていなかった。

 

 飛沫を上げ、怪物のような頭部が群れを成して姿を現す。

 

 

「なっ……」

 

「えっ?」

 

 

 そして飛翔兵装達を巻き込みながら海に戻ってゆく。

 

 こうしてセント・ヒル配置部隊は全滅した。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

「道が作られたぞー‼︎」

 

「アイツら海を割って……⁉︎」

 

 

 6000tの駆逐艦がバランスを崩したガラス瓶の様にあっけなく、割られた海に落ちてゆく所も。

 

 

「テメェら気合入れろォ!」

 

「行くぜ‼︎」

 

 

 大陸中央で控えていた予備兵力が割られた海の泥だらけの海底に現れた所も。

 

 

「えぇ、殲滅です」

 

 

 幾何学模様に組み上げられた黒線が恐るべき速さで魔を断片に変えていく所も。

 

 

「全員海から引き上げろ!『地獄』が来るぞォ!」

 

 

 赤い光を孕んだ嵐が戦場に現れた所も。

 

 やがて全てが暴風に巻き込まれてゆき━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい起きてるか?」

 

「……起きたわよ、相変わらず騒がしい声ね……」

 

 

 騒がしく、しかし優しい声に起こされる。

 

 振り向いた窓の向こうは強い雨。

 嵐の様な雨音があの大西洋の戦場を夢に見せたらしい。

 

 

 私の執務室には二人の来客。

 一人は目の前で傷だらけの顔に明るい表情を浮かべている。

 

 

「まぁ良いじゃないですか、(じょう)さんの声は聞いてて活力が湧きますでしょう?」

 

「否定するつもりは無いわよ」

 

 

 もう一人は来客用のソファセットに淑やかに腰を掛けている。

 

 『人類最強』と『未来の人類最強』が私の様子を見る為にわざわざ日本からここマイアミに来てくれたというのは文面だけ見れば心温まる嬉しい話かもしれないが━━、

 

 

「……けどねぇ、アンタら()()()()()()()()()()()()()()?まさかまた『回廊』開いてもらったんじゃないでしょうね?」

 

「あぁ、跳んで来た!」

 

 

 ━━世界超常対策機関・事務局長の役職に就く身としては確実に何がしかトラブルを起こしながらやって来る客に若干憂鬱な気持ちとなる。

 

 

()()()()()?どこぞの輸送機に迷惑掛けたんじゃないでしょうね?」

 

「いや『飛び跳ねる』の方の『跳ぶ』だよ、ジャンプして落ちて来た!」

 

 

 …………訂正。

 気持ちの問題じゃなく、実際に頭が痛くなってきた。

 

 と、なると今降り注いでいるのはまさか雨水じゃなくて海水……

 

 

「あぁ、それは大丈夫ですよ?私達が来た時には既に雨でしたから」

 

「……大丈夫って言うなら止めてほしかったんですけどねぇ……?」

 

 

 いっそ軍艦で来てくれた方がまだ楽だった……。

 

 

「楽しかったですよ?(じょう)さんに抱き抱えられて地球と宇宙の端境まで跳んでゆくのは。とても綺麗でした……」

 

「……アタシ単体では真似出来ない方法で見た光景をそんな魅力的に語られても嫌味にしか聞こえないんですが?」

 

 

 とても羨ましいじゃないかこの最強。

 宇宙服借りてもそんな真似許されない私に対する嫌味かこの最強。

 

 

「まぁゴメンな?最近生気の無い顔で仕事してるって聞いて、いてもたってもいられなくってよ」

 

「実際着いてみたら机に突っ伏してたんですもの、心配しましたよ?」

 

「……バカ」

 

 

 ……十年以上の付き合いになるが、面倒起こしたかと思えばこうやって優しく接して来る極めて性質の悪い付き合いにすっかり慣らされてしまっている。

 

 私も面倒な縁を持ってしまったものだ。

 

 

 

 

 ともあれもう仕事は終わりだ。

 こいつら(一位と二位)のやらかした事への謝罪と後始末の準備だけ終えたら上がろう。

 ……どうせ明日は(可能ならば二人を連れて)更に頭下げなきゃいけないんだ、酒飲まずにやってられるかってんだ。

 

 

「そろそろ夕方だしなんか食いに行こうぜ!オレの奢りで良いぜ⁉︎ちゃーんとドル持って来たからな!」

 

「それ落としたり濡らしたりしてないでしょうね……?この前みたいに財布忘れて結局私の支払いになるなんてのは御免なんですけど?」

 

「その時は私が払いますよ?今日は貴方を労うつもりで来たんですから」

 

「……労うつもりであれば戦闘総隊隊長様に於かれましては一時の感情に身を任せず、然るべき手続きの後正規の交通手段でお越し願いたいのですが?」

 

「覚えておきますわ?」

 

 

 受け流しばかり上手くなりやがってこの京都(キョート)人め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらマイアミに海水が降り注ぐ事は無かったらしい。

 

 通り雨の過ぎ去った街並みには美しい赤の夕日が投げる光が満ちていた。

 ……着水時に最強様がわざわざ『線』を使ってまで海水を抑えてくれたという報告は受けていたものの、実際にこうして外に出るまで超常戦力の国際戦闘序列第一位の威名を恐れて嘘の報告をされている可能性を拭えずにいたのが正直な所だ。

 

 

「おや、終わりましたか?」

 

「おっ、来たか!じゃあこれで終わりだな!」

 

「……ハァ、……ハァ、……えっ、事務局長⁉︎」

 

 

 世界超常対策機関本部・マイアミビルの正面入り口前広場に出ると、すらりとスーツを着こなした国際戦闘序列第一位・(かんなぎ) 広美(ひろみ)と汗でスカジャンとズボンを湿らせた国際戦闘序列第二位・上恵(じょうけい) (ゆみ)と……、体力を使い果たして広場に転がる一週間前にマイアミビル警備部に転属して来た新人コールソン君と十重二十重に広場を取り囲む大勢の野次馬がいた……。

 

 

「事務局長⁉︎」「ホントだ事務局長⁉︎」「外に出たのいつぶりだ⁉︎「トップ3の集結⁉︎「大ニュースじゃねぇ⁉︎「いやそうでもないような……「マジかスゲー!「……!「!「⁉︎」

 

 

「……で?どうしてこうなってるの?」

 

「いやー、ソイツに見つかっちまってな?手合わせ頼まれたから乗ったらなんかこうなってた!」

 

「彼凄いですね?手合わせとは言え(じょう)さんとあそこまでやれるなんて……」

 

「……でなきゃ本部(ウチ)の警備部になんて入れないわよ……。……ユミ、後でレポート。三日以内に書き上げて私宛まで届けなさい」

 

「うえ〜、マジかよ……」

 

 

 また仕事が増えてしまったが仕方ない。

 こういうオフに近い状況でのユミとの対戦データは極めて有用なものだ。

 カチカチな状況で測定してもこいつのパフォーマンスは良くならない。

 

 

「ペレス事務局長!お疲れ様です!」

 

「「「「「お疲れ様です!」」」」」

 

 

 ……まぁともあれこうして大勢の見送りを受けて私達は街へと繰り出す事になるのだった。

 

 

「……なんかあれ日本的じゃねぇか?」

 

「アンタら自分の国籍をお忘れで?アンタら二人の活躍だけでも日本的なモノが入って来るのに十分なんですけれど?」

 

「あれは日本的と言うよりはむしろ体育会系と言いますか……、アウトロー的と言いますか……」

 

 

 とりとめの無い事を話しながら三人一纏まりに道を歩いてゆく。

 日本の夕日にだって負けないマイアミの夕焼けはどんどん淡くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、アイツらいつニューギニアに来るんだろうな」

 

 

 唐突にユミが零した言葉に私もヒロミも立ち止まらざるを得なかった。

 それは私達が聞き逃せない言葉。

 99%以上の確率で訪れるとされている未来。

 

 

「…………アタシの立場でも情報は変わらないわよ。『超常の魔、散発的に世界を脅かす。ニューギニア島に特異な兆候無し』ってね」

 

「『回避出来ない未来』……、いえ『動かすのがほぼ不可能な未来』でしたね。……貴方の周りには居ますか?『私達に代わる未来』」

 

「今の所無し……、……これでも南北アメリカの超常の少女達はみんなチェックしてるんだけど見つからない」

 

 

 十五年前、世界に超常が齎され。

 十四年前、世界に魔が現れた。

 

 超常は少女達のみに許されたものであった。

 故に十年前の大西洋決戦までに多くが戦場で死に、ここ十年で無視出来ない数が超常を失っている。

 

 デッドラインは三十歳前後。

 私が二十七でユミも二十七、ヒロミはもう二十九。

 

 かつて予知されたニューギニア島の戦火がいつ降り掛かってもおかしくないように、いつ私達が力を失ってもおかしくない。

 

 ……いや、ユミは例外か。

 

 

「……期待してるわよ、ユミ」

 

 

 思わず、絞り滓みたいな言葉が口を突いた。

 ユミもヒロミも目を見開いた。

 

 

 

 

「いや重くなんなって!きっと良い方に進めるさ!」

 

「そうですよ?大西洋だって乗り越えられましたもの、きっとなんとかなりますよ」

 

 

 そのすぐ後には私を励ます言葉が掛けられる。

 それは短調ながら優しくてキラキラしていた。

 

 

「そう、かもね」

 

 

 思わず笑ってしまうくらい優しくって眩しい言葉。

 そしてその言葉に負けないくらい私の戦友は眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃー肉でも食べようぜ、肉!オレバーベキューしたい!」

 

「肉は入りそうにないんだけど……。白粥食べたい」

 

「……本当大丈夫ですか?日本で養生しません?」

 

 

 灯りが点り闇は祓われて行く。

 夜が覆う空の下、私達はどうしようもなく合間の時間を生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 




※設定魔につき御免。(クソ長説明が書き記されてるので注意)


:超常
…魔と区別する為に『超常』と呼ばれるようになった異能。魔が現れるまでは『魔法』やら『魔術』やらと呼んだりもした。

:魔
…地球、あるいはこの宇宙に超常を齎した敵性生命体。及びその集団と社会・文明。『悪魔』(Devil)ではなくただ『魔』(Evil)。十四年前に出現してから十年前の北米東海岸での大規模戦闘、通称『大西洋決戦』で敗れるまで人類を大きく脅かした。

:超常の少女達
…十五年前から十代前半の女子を中心に現れた超常を持った人類。特に固有の異能を授かった者の事を指す。出現当初は各国が新たな力として皮算用を立てて集めていたが魔の出現により戦場に送られる事となった。三十歳前後で多くの者がその異能を失っている。かつて某国では『魔法少女』と呼ばれた事もあった。
 (『達』なので年上が混ざっていてもいい)

:飛翔型兵装
…『超常』の再現に成功した事で生まれた『超常兵装』の一つ。固有の異能を発現する程ではなくともある程度超常の素養さえあれば搭乗して飛行可能。戦闘機より運用コストが下でありながら同じ程度の性能を発揮できる。これらの『超常兵装』の完成によって、より多くの者が戦場に送られた。
 (イメージモデルはTPぼんのアレ)

:正規空母セント・ヒル
…十二年前に就役したアメリカ海軍の正規空母。戦闘攻撃機の航空団と超常の少女達の部隊を主力に北米と欧州・アフリカ間の大西洋航路での警戒・戦闘を主任務とした。十年前の『大西洋決戦』で航行不能に陥り、動力炉に仕掛けられた【完全燃焼】の発動により轟沈・消滅。脱出した配置部隊も全滅判定を受ける。いわゆる『通常兵装』は魔を相手取るにあたり損耗率が無視出来ず、魔に対し効率が良いとされた超常の少女達が戦場に送られる要因の一つになった。
(同型艦は他に二隻いるという所までは想像してる)

:大西洋決戦
…とある超常により予知された魔によるアメリカ合衆国への大攻勢を阻止すべく北米東海岸周辺で十年前に成起した大規模戦闘。人類側は今までとは桁違いの規模の魔の軍勢に多くの犠牲を出したが致命的な損害には至らず勝利。以後十年間、現在に至るまで魔による大攻勢は発生していない。

:世界超常対策機関
…国連旗下に設置された超常にまつわる全てに関わる機関。事務総長をトップにして事務局を筆頭とした各政治部局・戦闘総隊を頂点とした各戦闘部隊を指揮下に置く。本部ビルはマイアミ……だけではなく京都・カイロ・ベルリンなど各国に置かれている。とある超常がその仕組みの維持に貢献している。

:戦闘序列
…正式名称『世界超常対策機関認定国際戦闘序列』。戦闘能力の高い順に選別される強さランキング。どうにもならない事態になればなるほど上のメンバーに出動要請が掛かる。どうにもならない状況では上のメンバーが優先される。




○ペレス
…世界超常対策機関事務局長を務める『超常の少女達』の一人。二十七歳。国際戦闘序列第三位。スペイン→ブラジル→日本と移り歩き広美・弓と知り合う。なので日本の事は割と知ってる。やや疲れた顔にスーツを纏う。日本で戦っていた十四歳の頃はいかにも魔法少女な服装を纏っていた。
 (強い)
 (けど上がいる)

○巫 広美(かんなぎ ひろみ)
…世界超常対策機関戦闘総隊隊長を務める『超常の少女達』の一人。二十九歳。国際戦闘序列第一位にして現在世界最強の個人。黒々とした『線』を操って戦う。京都出身ではあるが親の代からの京都出身ではない。すらりとスーツを着こなす。日本で戦っていた十六歳の頃はクール系和風魔法少女な服装を纏っていた。
 (ずっと苗字に悩んでる)
 (サイレントで苗字変わるかもしれない)
 (ペレスちゃんにじゅうななさいでは勝てない)

○上恵 弓(じょうけい ゆみ)
…世界超常対策機関所属の『超常の少女達』の一人。二十七歳。国際戦闘序列第二位にして将来世界最強になるとされる個人。跳躍で大気圏と宇宙の狭間まで跳ぶ脚力とそこからマイアミ沖に着水して無事な耐久力を持つ。傷だらけの顔にスカジャンとズボンを纏う。日本で戦っていた十四歳の頃も今と似たような服装をしていた。そして十年前、十七歳で迎えた大西洋決戦から現在までほとんど容貌が変わっていない。
 (割といい歳して恐ろしく少年的)
 (きっと四十になっても五十になっても変わらない)
 (ペレスが勝つのはかなりキツい)



:ニューギニア島の戦い(仮称)
…かつて『大西洋決戦』を予知したのと同じ超常により予知された『いずれ訪れる戦い』。超常に携わる誰もがこの日の為に動いている。

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