「さやかちゃん……」
「美樹さん……」
まどかとマミさんは絶句しているようだ。無理もない、俺だって驚いているのだから。さやかもさやかでなんだか気まずげな表情を浮かべていた。仕方ないので俺が状況を変えることにした。
「と、とりあえずマミさん。工場にいる人はどうしましょうか?」
「え? そ、そうね。彼らは操っていた魔女が消滅したから、時間がたてば自然と目を覚ますはずよ」
「それなら俺達は移動しましょう。話し合いたいこともありますし」
「そうね。いつものように私の家へ行きましょう」
仁美には悪いが、ここで俺達と会っても説明がしにくいので、自然に起きて帰ってもらうことにしよう。
俺達はマミさんの家へ移動した。
「えーと、まあ、見ての通り、あたしも魔法少女になりました! これからよろしくね、裕一、マミさん!」
さやかはとりあえずいつもの調子を装って話す。だが、本人も気まずいのだろう。顔も声も若干ひきつっている。
「でも、さやかちゃん、願い事は……?」
「ああ、それね……」
さやかの願い事とは何だったのだろうか? 昨日あれだけ命の危険があることは説明されたはずなのに、それでも叶えたい願い事はさやかには…
『僕、さやかにはずいぶんひどいことを言ってしまったから、早く謝らないと……』
その時恭介の言葉を思い出した。今日はさやかも俺が来る前に恭介の見舞いに来ていた。もし、それがきっかけだったとしたら……
「ひょっとして、さやか。お前は恭介の手を……?」
「……やっぱり裕一には分かっちゃったか。そうだよ。あたしは恭介の手を治すことを願い事にしてキュゥべえと契約したんだ」
観念したようにさやかが自分の願い事について話した。やはり、そうだったのか……
「美樹さん、あなたはその願いで本当に後悔しないのね?」
「はい、あたしはこの見滝原の人達を守りたかった。それにあたしはもう一度恭介のバイオリンが聞きたかったんです。自分の願いを叶えるために、他の人達を守るために、あたしは命をかけてもいいと思えたんです。後悔なんて、あるわけない」
マミさんの問いにさやかは真剣に答える。その目には迷いはないように見える。だが、この言い表せない不安はなんなのだろうか? 恭介の手も治り、俺達には新たな味方が増えたというのに、俺は何か見落としているのだろうか? だが、そもそも俺の勘違いかもしれないし、答えは出なかった。
「それで、マミさん。あたしは知っての通りまだなりたてのひよっ子なんです。だから、裕一と同じようにあたしを鍛えてほしいんです」
「ええ、分かったわ。今日はもう遅いし、二人は魔女との闘いで疲れているだろうし、明日から始めましょう。早く一人前になってもらうためにビシビシ鍛えるからね?」
「はい!」
こうして俺とさやかは二人揃ってマミさんの弟子となった。ちなみに俺達はこの場で携帯の番号の登録を行った。さやかにはテレパシーが身に着いたが、俺とまどかにはないため、キュゥべえが近くにいないときのための連絡手段が欲しかったのだ。俺は携帯がなかったが。早いうちに俺も買い替えないとな。
マミさんの家から帰宅している途中、
「あ、あの、洲道君……」
「どうした?」
まどかがおずおずと俺に話かけてきた。その表情から後ろめたさがありありと伝わってきた。
「ご、ごめんなさい! 私、マミさんを連れてくるのが間に合わなかった……」
……ああ、そのことか。マミさんを見つけてきたのはよかったが、俺とさやかがすでに片づけていたから、さやかが来なければ間に合わなかったと思っているんだろう。
「いやいや、そんなことはないって。あのタイミングなら、さやかが助けに来なくてもギリギリ間に合っていたさ」
「なによそれー? あたしの助けはいらなかったってこと?」
さやかも俺の意図を察したのか、意地の悪そうな目つきで俺をにらむ。
「まあ、言っちゃうとそうかもな。もう少しだけなら俺も耐えられただろうし」
「うーわ、命の恩人に向かってその態度? 助けて損したかなー」
「そう言うなって。もちろん感謝はしているさ。お前が来てくれたおかげであの魔女は俺がしとめられたからな」
そう言って俺はさやかをなだめる。
「だから気にするなよ、まどか。お前は間に合ったんだ。俺の命を救ってくれてありがとな」
「うん……ありがとう、洲道君、さやかちゃん……」
こちらの意図を知ってか知らずでか、まどかは若干涙ぐんで俺達に礼を言うのだった。
(礼を言ってるのはこっちなのに、逆に礼を言われるなんてな……変な話だね、本当)
「じゃあ、俺はこっちだから。また明日な……ああ、そうだ、さやか」
「ん? どうしたの?」
「今日は俺も恭介の見舞いに行ったんだけど、明日さやかにひどいことを言ったことを謝りたいって言ってたぜ。恭介も手が治らないことを聞かされてやけになっていたみたいだから、許してやってほしいんだ」
「……そっか。うん、大丈夫だよ。あたしも気にしてないからさ」
「そう……なのか?」
「当たり前だよ! そんなことでいちいち気にしてたら恭介の幼なじみなんてやれないって!」
気にしているからこそお前は恭介のために魔法少女になったんじゃないのか、と聞きたかったが、それはやぼというものだった。それなら、あと一つだけ伝えておこう。
「それならいいけどさ、あと一つだけ言わせてくれ。――――恭介の手、治してくれてありがとな」
さやかはその言葉に一瞬驚いていたが、
「うん、どういたしまして」
すぐに輝くような笑顔に変わったのだった。
次の日、いつものように俺達五人は集まっていたが、仁美がめずらしく欠伸をしだした。
「ふあ……あら、私ったらはしたない。ごめんあそばせ」
「なんだよ、志筑、寝不足か?めずらしいな」
中沢も気になったのか、仁美に聞いてくる。俺達はその理由を知っているのだが、当然話せるわけもなく、中沢と同じように振る舞うしかなかった。
「ええ、昨日は病院やら警察やらで夜遅くまで……」
「えー? 何かあったの?」
さやかはいつも通りのテンションで聞いてくる。その演劇力は大したものだったが、今は感心している場合ではなかった。
「なんだか私、夢遊病っていうのか、それも同じような症状の方が大勢いて、気が付いたら皆で同じ場所に倒れていたんですの」
「あはは、なにそれ?」
「お医者様が集団幻覚だとか、なんとか……今日も放課後に精密検査に行かなくてはなりませんの。はあ、めんどうくさいわぁ……」
「そんなことなら、学校休んじゃえばいいのに」
「駄目ですわ! それではまるで本当に病気みたいで家の者がますます心配してしまいますもの」
「さーっすが優等生! 偉いわぁ、あはは!」
「お前も見習わないとな、さやか」
「な!? なに言ってんのよ、裕一? あたしだって十分優等生じゃん?」
「成績は赤点スレスレ。たまに無断欠勤もする。そんなのが優等生だったなんて、俺は知らなかったなぁ」
「うぐ!? そ、それならあんただって昔は恭介達から勉強教わってたじゃん!?」
「確かにな。だけど俺はそのおかげで今の成績はそれなりになった。対してお前はどうだ? 俺と一緒に勉強を教わっていたけど、今は俺よりも成績ずっと下じゃん」
「うぐぐぐっ!?」
どうやらぐうの音も出ないようだ。さやかのおかげで俺もいつもの調子が出てきた。まあ、嘘は言ってはいないが。
「……ん?」
ふと視線を感じたので振り向いてみると、暁美がこっちを見ていた。まどかもその視線に気づいていたのか、複雑な表情をしていた。俺はこのまま見られるのもいやだったので、からかいの意味もこめて笑顔で手を振ってみた。
「っ……!!」
それが気に食わなかったのか、すぐに向こうを向いてしまった。暁美をやり込めたような気がして胸のすくような思いがした。
放課後になった。
「さて、あたしは恭介の所へ行こうかな」
「私も精密検査に行きませんと……」
「俺も今日は留守番だ」
ふむ、なら俺はマミさんのところへ行く前に杏子の所へ行くとするかな。この二日間あいつに会っていないし、久々に勝負といくか。
「まどか。マミさんに少し行くのが遅れるって連絡しておいてくれないか?」
「あ、うん。けど、どうして?」
「久々に風見野に行こうと思ってな。そんなに遅くはならないさ」
「また勝負しに行くんだね。分かった、マミさんに連絡しておくよ」
まどかも快く引き受けてくれた。さてと、明日も行くと言ったが、結果的に二日間すっぽかしてしまった。杏子が怒っていなければいいのだが。
(腹にパンチはできるだけ勘弁してほしいなぁ……)
そんなことを思って苦笑してしまうのだった。
次はそれぞれの視点で書かれると思います。